自己株式の取得・消却・処分とは?メリットや仕訳をわかりやすく解説

自己株式の取得とは、自社が発行した株式を買い戻すことです。

敵対的買収を避けることや、株価の向上に効果があります。また、事業承継やストックオプションの活用に向けて使われることもあり、様々な用途で使われるのが特徴です。

今回は、取得時の注意点や手順・仕訳の入力方法をご説明しています。

是非、参考にしていただければ嬉しいです。

目次

自己株式とは? 取得・消却・処分それぞれについて解説!

自己株式:自社が発行し自社で保有している株式   

自社が発行して自らが買い取っている株式を示します。

発行後に市場で流通する自社の株式を、自社にて買い戻すという流れで進みます。

かつてはインサイダー取引を含む不祥事を防ぐため、原則禁止されていました。1938年の商法改正をきっかけに緩和がはじまり、さらに2001年に商法が改正され、無制限に保有できるようになりました。

2006年に会社法が制定されてからは、原則自由となっています。

普通株式との違い:議決権の有無

普通株式には議決権が与えられる一方、自己株式には議決権が与えられていません。

議決権とは、株主総会に参加し企業の経営に関して意思決定に関与する権利です。

自己株式を持っている企業に議決権を与えてしまうと、自社自身が自社に対する議決権を持っているという状態になり、公平性が担保できません。そのため、議決権は普通株式のみに与えられています。

一方で株式から利益を受けられる権利である自益権は、普通株式でも自己株式でも認められています。

自己株式の取得:自社が発行した株式を取得すること    

「自己株式の取得」とは、自社が発行した株式を自社で買い戻すことを示します。

一般的に、上場企業の株は市場の不特定多数の第三者から購入され、非上場企業の株は特定の第三者から購入されることが多いです。しかし、自己株式の場合は発行した株式が自社にて取得されます。

自社の株式を取得することで、流通する株式の発行数を削減することができ、敵対的買収の防止に繋がったり、株価向上に繋げたりできます。

自己株式の消却:自己株式を内部で消滅させること

株主総会での決定に基づいて、市場に流通している自社の株式を自社で購入し、株式の流通を内部で消滅させることを示します。買い取った株式は、資本準備金や剰余金を取り崩す形で消却するケースが多いです。

上場企業の場合は、発行済み株式総数が減少し、一株あたりの利益や株主資本比率が向上することから、既存株主の好感を得やすいです。また、企業の経営から見た視点では、株主の配当の負担を下げられるというメリットもあります。

自己株式の処分:第三者に売却・譲渡すること

処分とは、会社法の決まりに従って、第三者に売却したり譲渡したりすることです。

既存の株主に影響を与えるため、処分の方法に関しては細かな制限があります。合併や分割といった企業再編にて用いられることの多い方法です。進め方も比較的難しく、時間をかけて慎重に手続きしていくことが求められます。

「消却」では発行済みの株式数が減少するのに対して、「処分」では発行済みの株式数は変化しないのが特徴です。

自己株式を取得する目的は?4つの理由を紹介

①持ち株比率をあげて敵対的買収を避けるため

敵対的買収とは、買収対象の企業の同意を得ずに買収が仕掛けられることを示します。

合意なく買収が進められた結果、買収後の経営も乗っ取られてしまう可能性が高いため、敵対的買収は避けたい企業が多いです。

敵対買収を避けるための手段として、自己株式の取得が挙げられます。

自己株式の取得により、流通する株式数を削減して持株比率を向上させ、買収者が持つ可能性のある株式の割合を下げられるためです。

②M&Aを行う際に自己株式を用いるため

M&Aとは、企業の合併・買収のことで、合併は2つ以上の企業がひとつになること・買収はある企業がほかの企業を購入することを示します。近年は、企業の成長戦略のひとつとしてM&Aが行われることも多いです。

M&Aで他社の株式を取得するにあたっては、対価として現金だけでなく自己株式を使用できます。M&Aの前に事前に取得しておいた自社の株式を使うことで、資金を現金で用意しなくてもM&Aを進めることができるでしょう。

③自己株式の取得などにより流通量が減ることになり株価対策になるため 

株価は基本的に株式に対する需要と供給のバランスで決まります。

自社で取得することで、市場に流通する株式の量の削減に繋がります。市場における株式の供給が減ったことで、株価が上がる可能性が高いでしょう。

株価が上がることで、既存の株主から好感を得やすくなるでしょう。また、株価が上がることで株価を取得するにあたってかかるコストが大きくなり、敵対的買収を防ぎやすくなります。

④事業を承継する時の税金負担を軽減するため

事業承継をする際、株式を多く保有していると手間やコストが発生しやすいです。

承継先は、株式の買い取りにあてる資金だけでなく、相続や贈与にあたって税金もかかってきます。

そのため、取得によって株式を削減していくことで、事業承継をするときの税金負担を削減できます。事業承継を考えている企業では、何年かかけて段階的に取得しながら事業承継への準備を進めていく企業も多いです。

自己株式取得のメリット・デメリット

メリット:配当金の節約・ストックオプションの活用

メリットのひとつめとしては、配当金の節約になるということが挙げられます。

配当の支払いとは企業が得た利益の一部を株主に還元する行為で、配当金の総額は株数によって異なってきます。取得によって流通する株数を減らすことで、配当額を削減できる可能性があるでしょう。

メリットの2つめとして、ストックオプションの活用が挙げられます。

取得した自己株式を従業員や経営陣が保有することで、その後株価が上がった際に売却をして利益を得ることができます。

デメリット:純資産のマイナスになる  

デメリットとしては、株式を購入することで手持ちの資金が減り、純資産が減ってしまうことが挙げられます。その結果、自己資本比率も低くなり、外部からみた企業の安全性の評価にも影響を与えかねません。

取得にあたっては、経営に大きなマイナスの影響がでないよう、自己資金が十分にある状態で行うことが大切です。また、メリットとデメリットを比較し、自社株買いを行える状態にあるのか総合的に判断すると良いでしょう。

自己株式の取得は「特定」「不特定」の株主から買い取ることでできる                

「特定」の株主から買い取る手続き

特定の株主から買い取る際には、特別決議が必要で、出席議決権のうち3分の2以上が賛成することで手続きが可能です。さらに、取締役会決議も行い、取得する株式数・種類・総額等を決めて株主に通知する必要があります。

特定の株主から買い取る場合は、市場外でやりとりをする形となります。ほかの株主に不平等感を与えないよう注意を払うことが重要です。

「不特定」の株主から買い取る手続き

不特定の株主から買い取る場合は、株主総会で普通決議を行い、出席議決権のうち過半数の賛同を得られれば議決されます。株主総会の後、さらに取締役会で申し込み期間や金額について最終確認をして、株主に通知します。

譲渡する株式の数と種類をみて不特定の株主が申し込むことで取引が成立するという流れです。非上場企業でも実施できる方法になっています。

自己株式の取得は財源規制による制限がある

会社法上では、自己株式の取得には財源規制による制限がされており、一定の金額までしか取得できないようになっています。

制限がかけられている理由は、自己株式の取得により会社の資金が流出するため、会社の安全性が下がるリスクや配当に回すべき金額が損なわれるリスクがあるからです。

範囲金額としては、「剰余金の総額」と定められており、純資産の部から分配が禁じられている資本金・資本準備金を除いた金額です。「その他資本剰余金」と「その他利益剰余金」を足したものとも表現できます。

ただし、無償取得や吸収合併による承継の場合等、財源規制がない場合もあるため、都度目的や手段に応じて確認することが重要です。

自己株式の取得・消却・処分の仕訳方法

自己株式を取得したときの仕訳方法

自己株式を取得したときの仕訳は有償か無償かによって異なります。また、払い出し元を現金とするか普通預金とするかでも仕訳が異なるため、注意が必要です。

それぞれについて仕訳を実際に確認してみましょう。

自己株式を有償で取得した場合 

自己株式を有償で取得した場合は、自己株式は「自己株式」の勘定科目で処理をします。株主資本の控除項目として表示されます。

例えば、自己株式100万円を取得し、手数料が1万円で、普通預金から支払ったケースを考えます。この場合は、仕訳は次のとおりです。

借方勘定科目借方金額貸方勘定科目貸方金額
自己株式100万円普通預金101万円
支払手数料 1万円

もし支払いを現金で行った場合は、貸方の勘定科目は「現金」となります。

自己株式を無償で取得した場合 

自己株式を無償で取得した場合は、金額面では動きがないため仕訳の入力は不要です。無償での取得にあたっては、株価の評価を正式にしなおす必要もありません。

ただし株数の内訳には変化があるため、自己株式数の増加として処理し、内容に応じて書類や決算書に残します。

無償で取得する場合でも、株式の取得にあたっては株主総会・取締役会といった所定の手続きを踏んで取得する必要があります。

自己株式を消却したときの仕訳方法  

自己株式を消却した場合は、「自己株式消却損」の勘定科目を使います。

「自己株式消却損」は、「その他資本剰余金」あるいは「その他利益剰余金」をマイナスする形です。

例えば自社の自己株式を50万円消却した場合を考えると、仕訳は次の通りです。

借方勘定科目借方金額貸方勘定科目貸方金額
自己株式消却損50万円自己株式50万円

用いる勘定科目は「自己株式消却損」ですが、処理する項目は「その他資本剰余金」です。残高が不足する場合は「その他利益剰余金」を減額します。

自己株式を処分したときの仕訳方法  

処分の場合は、帳簿価額と売却価格との間で差額が生じます。その差額を自己株式処分差損・自己株式処分差益で処理します。

例えば、帳簿価額100万円の自己株式を130万円で処分し、手数料に2万円かかった場合の仕訳は次のとおりです。

借方勘定科目借方金額貸方勘定科目貸方金額
普通預金128万円自己株式100万円
支払手数料    2万円自己株式処分差益30万円

借方については普通預金・当座預金・現金等、対価を受け取る手段によって勘定科目を変えます。

自己株式の取得・消却・処分についてのまとめ

自己株式を取得することで、敵対的買収からの防衛・株価の向上・事業承継やM&Aに向けた準備といった大きなメリットが見込めます。

一方で、取得にあたっては一部制限がかけられていたり、手順のルールが設定されていたりするため、事前に確認しておくことが重要です。また、資金が一時的に減るため、デメリットも踏まえて慎重に判断する必要があります。

自己株式の取得を考えている方は是非、参考にしていただけたら幸いです。

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