「数字に強くなりたい!」
ビジネスパーソンであれば、誰しも一度は思ったことがあるのではないでしょうか。(かくいう私は数字に苦手意識をもっており、「決算書」に関するビジネス本を数冊手にとったものの挫折した経験があります)
この記事では、経常利益の意味やほかの利益との違い、計算方法、経常利益を使った分析方法等について初心者向けにわかりやすく解説します。
【経常利益とは】簡単にわかりやすく解説
経常利益とは? 企業全体の利益のうち経常的なものを指す
損益計算書には5つの利益が記載されています。経常利益は、その中の利益のひとつを示す勘定科目です。
ちなみに「経常」という言葉の意味は、「常に一定の状態で変わらないこと」です。したがって、一時的な利益や損失は経常利益には含まれません。一方で、一時的な利益ではなく、「経常」である場合は、本業以外の事業で得た収益や損失であっても、経常利益に含まれます。
例えば、クラウドサービスの販売を本業とする企業が、自社で所有する不動産から家賃収入を毎月得ているとします。その場合の利益は、経常利益に計上する必要があるのです。
経常利益から何がわかる?
先ほど述べたように、経常利益には「本業」と「本業以外」から得た収益と損失の両方が反映されています。
例え本業が順調だったとしても、銀行からの借入金の返済額や利息の支払い額が大きければ、経常利益は小さくなってしまいます。逆もまた然りで、本業がうまくいっていなくても、家賃収入や株式投資から得られる金額が大きければ、経常利益も大きくなるのです。
そのため、経常利益からは「企業全体としての稼ぐ力」を見て取ることができます。
わかりやすいイメージで例えてみましょう。
あなたは会社で自分の技能や能力を使って、毎月給料を稼ぎます(本業)。有能なあなたは本業だけではなく、自分のスキルを使って副業からも収入を得ることに成功しています(本業以外)。
つまり、あなたには会社内の能力だけではなく、社外でも通用する力を持っていると言えます。この場合は、あなたからは「あなた全体としての稼ぐ力≒経常利益」を見てとることができると言えます。
【経常利益とほかの利益との違い】損益計算書のその他の利益と比べてみよう
売上総利益(粗利):企業の大まかな利益
売上総利益(粗利)は、「売上高」から「売上原価」を引いた金額のことです。
損益計算書では一番上に記され、企業の大まかな利益を示しています。
ここで注意していただきたいことは、売上高から差し引くのは「原価」ではなく「売上原価」だということです。両者の違いも合わせて押さえておきましょう。
- 原価:商品の仕入や製造にかかった費用
- 売上原価:売れた商品の仕入や製造にかかった費用
営業利益:企業の本業による利益
営業利益は、「売上総利益」から「販売費」と「一般管理費」を引いた金額のことです。
損益計算書では2番目に記載され、企業が本業で稼いだ利益を表しています。
販売費と一般管理費については以下の通りです。
項目 | 内容 | 具体例 |
---|---|---|
販売費 | 商品・サービス等を販売するのにかかった費用 | 営業部門の人件費、広告宣伝費、営業部門の交通費等 |
一般管理費 | 企業が活動するために必要な費用 | 間接部門の人件費、水道光熱費、通信費等 |
税引前当期利益:臨時的な損益を加減した利益
税引前当期(純)利益は、「経常利益」に「特別利益」を足して「特別損失」を引いた金額のことです。損益計算書では4番目に記載され、税金を払う前の利益を意味しています。
特別利益と特別損失については、以下の表で確認しておきましょう。
項目 | 内容 | 具体例 |
---|---|---|
特別利益 | 臨時的な利益 | 土地や建物等、固定資産の売却で得た利益等 |
特別損失 | 臨時的な損失 | 自然災害や盗難による損失、役員の退職金等 |
純利益:企業の最終成績を表す利益
純利益は、「税引前当期(純)利益」から「法人税や住民税、事業税」等の税金を引いた金額のことです。損益計算書では5番目に記され、最終的に企業に残る利益を指します。
当期純利益、税引き後利益、最終利益と呼ばれることもありますが、同じ意味です。
当期純利益についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>当期純利益とは? 計算式やその他利益の求め方等わかりやすく解説
【経常利益に関連する項目】営業外収益と営業外費用
経常利益とは企業全体の利益のうち、経常的なものを指しています。違った表現で言うと、経常利益は、「営業利益」に「営業外収益」を足して「営業外費用」を引いた金額とも言えます。
では「営業外収益」と「営業外費用」とはどんなものなのか確かめていきましょう。
営業外収益:本業以外の収益のこと
営業外収益とは、本来の営業活動以外で経常的に稼いでいる収益のことです。具体的には以下のようなものがあります。
具体例 | 内容 |
---|---|
受取利息 | 金融機関等にお金を貸したり、預けたりすることで受け取れる利息 |
受取配当金 | 株式投資で入ってくる配当金 |
有価証券利息 | 社債や国債、地方債等から得られる受取利息 |
不動産賃貸料 | 土地や建物、機械等を貸すことで手に入る収益 |
雑収入 | 上記の収益のようにはっきりとは分類できない雑多な収入 |
混同しがちなのが、営業外収益と売上の違いです。営業外収益は「本業以外」から得た収益であることに対して、売上は「本業」から得た収益となります。
営業外収益についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>営業外収益とは?含まれる勘定科目と営業外収益を評価するヒント
営業外費用:本業以外の費用のこと
営業外費用とは、本来の営業活動以外で経常的に支払う費用のことです。具体的には以下のようなものがあります。
具体例 | 内容 |
---|---|
支払利息 | お金を借りたりすることで金融機関等に支払う利息 |
社債利息 | 社債を持っている人に毎年支払う利息 |
売上債権売却損 | 売上債権の譲渡等により、回収した金額よりも債権の金額が大きくなり損失が発生すること |
貸倒損失 | 取引先が倒産して、売掛金の回収が見込めない場合の損失費用 |
雑損失 | 上記の費用のようにはっきりとは分類できない雑多な損失 |
【経常利益の求め方】計算式を紹介
ここで実際に、経常利益を算出してみましょう。経常利益の計算式は以下です。
経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 − 営業外費用 |
(例)
A社の営業利益は5,000万円。
A社は不動産からの年間収益が360万円あり、株式からの配当金が140万円あります。
しかし、銀行へ支払う年間の利息が100万円あり、B社が倒産してしまったことで回収できなくなってしまった売掛金が 900万円発生してしまいました。
このときのA社の経常利益は、以下の計算で求めることができます。
【営業利益】 5,000万円
【営業外収益】 360万円(不動産賃貸料)+ 140万円(受取配当金) = 500万円
【営業外費用】 100万円(支払利息)+ 900万円(貸倒損失)
【経常利益】= 5,000万円 + 500万円 − 1,000万円 = 4,500万円
【経常利益の活用】経常利益から2つの財務指標を分析できる
売上高経常利益率:企業がどのくらいの収益性を持つか
「売上高経常利益率」という用語をはじめて聞いた方もいるのではないでしょうか? 売上高経常利益率は、売上高に対しての経常利益の割合です。企業がどのくらいの収益性を持っているかを測る指標のひとつであり、以下の式で求めることができます。
売上高経常利益率 = 経常利益 ÷ 売上高 × 100 |
経常利益は本業で稼いだ利益に、本業以外の収益と費用を含めて計算した利益です。それゆえ、売上高経常利益率が高ければ、本業も本業以外の財務活動による収益の獲得もうまくいっており、企業としての稼ぐ力があると推測することができます。
経常利益成長率:企業の成長を予測できる
経常利益成長率とは、経常利益が過去と比べてどれだけ成長しているのかを示す指標のことです。
例えば、当期と前期を比較した場合の経常利益成長率は、以下の式で求められます。
経常利益成長率 =(当期経常利益 - 前期経常利益)÷ 前期経常利益 × 100 |
経常利益成長率が高ければ高いほど、企業の売上が順調であり、成長している企業と言うことができます。
【経常利益の分析ポイント】比較が重要
経常利益を求めること自体も重要なのですが、それ以上に大切なことがあります。それは、経常利益を分析して企業経営に活かすことです。ここでは、経常利益を分析するときの2つのポイントを紹介します。
複数年で比較し傾向を分析すること
ひとつ目の分析ポイントは、経常利益を単年ではなく複数年で比較して分析することです。なぜなら、単年の経常利益を読み込んだだけでは、企業の将来性や成長性、強み、弱みが十分に把握しきれないからです。
例えば、新しい事業を立ち上げたばかりの場合は、収益化に至るまでには5年、場合によっては10年等複数年かかることもあるでしょう。そうした将来性のある事業を、わずか1年という経常利益の数値のみで判断してしまうことは、経営上のリスクに繋がりかねません。
そのため、複数年の経常利益の数値を比較分析することで、自社の経営状況を適切に評価することができるようになると言えます。
同業他社で比較し立ち位置を把握すること
2つ目の分析ポイントは、自社の経常利益を同業他社の経常利益と比較して、自社の立ち位置を把握することです。
自社の経常利益の良し悪しは、同業他社の経常利益と比較して初めて、客観的な目で自社を捉えることができるようになり適正な判断をくだすことができるようになります。
では、どのようにして同業他社の経常利益を調べたらいいのか? 上場企業であれば、有価証券報告書や決算説明会資料等の資料をHPやインターネットから調べることが可能です。
また、非上場企業の場合は、有料にはなりますが東京商工リサーチや帝国データバンク等のサービスを利用するとよいでしょう。
【経営状態を推測する】経常利益と営業利益・純利益を比較してわかること
経常利益と営業利益を比較してわかること
経常利益と営業利益を見比べることでわかることがあります。具体例で説明します。
【営業利益がマイナス・経常利益がプラスの場合】
・本業の経営が不調、本業以外の経営は好調であることが予想されます。
全体として黒字になっている要因としては、資産運用等の財務活動がうまくいっていたり、預金からの受取利息が生じていたり、本業とは別の新規事業が収益を上げている可能性があります。
【営業利益がプラス・経常利益がマイナスの場合】
・本業の経営が好調、本業以外の経営は不調であることが予測されます。
全体として赤字に転じている要因としては、資産運用等の財務活動に問題があったり、借入金からの支払利息が生じていたり、本業とは別の新規事業で損失を出している可能性があります。
経常利益と純利益を比較してわかること
営業利益の比較の場合と同様に、経常利益と純利益を比較することでもわかることがあります。
【純利益がマイナス・経常利益がプラスの場合】
・本業の経営体質は好調、臨時的な損失が発生したことが予想されます。
純利益がマイナスになってしまった要因としては、自然災害や役員の退職金等で突発的な支出が生じたことが考えられます。ただ、経常利益がプラスであることから、企業の稼ぐ力はあると言えるでしょう。
【純利益がプラス・経常利益がマイナスの場合】
・本業の経営体質は不調、臨時的な収益が発生したことが予測されます。
純利益がプラスになった要因としては、土地や建物等の売却で突発的な収益が生じたことが考えられます。ただ、経常利益がマイナスであることから、企業の稼ぐ力は弱いと言えるでしょう。
経常利益についてまとめ
以上、経常利益の概要やほかの利益との違い、計算方法、経常利益を使った分析方法等について詳しく解説してきました。
経常利益の定義や求め方、損益計算書での5つの利益の違い等について理解することは、ビジネスパーソンとしての力量を高めることに繋がるでしょう。また、経常利益を分析することで自社の経営状況を把握したり、今後どこにテコ入れをするべきなのかが見えてくるはずです。
是非、今回の学びを通じて、明日からの企業経営に活かしていきましょう。