聞き慣れない概念の多い会計の世界ですが、流動資産は比較的わかりやすいものが多く、一番身近なものと言えるでしょう。その一方で種類は多く、複雑な概念もあるため奥が深いものです。
この記事では、流動資産の定義から、ほかとの違いや具体的な勘定科目、経営状態の判断に役立つ指標等を解説します。流動資産を知ることで、資産全体や会計そのものへの理解が深まるでしょう。是非最後まで読んでお役立てください。
流動資産とは? 固定資産や繰延資産との違いも簡単に解説
流動資産とは現金化が1年以内に可能な「流動的な」資産
資産にはいろいろなものがありますが、1年以内に現金化できるものを「流動資産」と言います。反対に、現金に替えにくいものや現金化を想定しないもの等を、流動性の低さから「固定資産」と呼んで区別します。現金化しやすいかどうかという観点から資産を把握しておけば、経営状態を正しく掴むことに役立つでしょう。
貸借対照表で資産の部に分類
貸借対照表では、左側の「資産の部」に記載されます。資産には、実際に保有しているものだけではなく、将来の収入に繋がるものも含まれます。流動性の高いものが上から順に記載されるため、流動資産は「資産の部」の1番上の項目となり、多くを占めています。
貸借対照表は会社の財政状態を示す表
一般に決算書・財務諸表と呼ばれるものは、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書等で構成されています。
貸借対照表はこのうちのひとつで、決算日の財政状態を示すものです。年1回作成され、主に株主や金融機関、取引先等に対して財政状況に関する情報を開示するために用いられます。
「資産」「負債」「純資産」の3つの概念を用いて、所有している資産やそれに代わるものと、その調達方法を示しています。表は左右に分かれており、右側にはほかから調達した返済義務のある「負債」と、自己調達した返済義務のない「純資産」が記載されます。左右の合計額は一致するため、「バランスシート(B/L)」とも呼ばれることがあるでしょう。
固定資産との違い|保有期間の長さ
ともに「資産の部」の大部分を構成する固定資産との違いは、現金化するまでの期間の長さです。流動資産は1年以内の現金化を想定するのに対し、固定資産は1年を超えた先に現金となるものや、そもそも現金化を想定しないものを指します。具体的には、土地や車両等の有形固定資産、商標権や特許権等の無形固定資産、定期預金や長期保有目的の有価証券等の投資その他の資産があります。
繰延資産との違い|現金化できる資産かどうか
会計上の繰延資産とは、費用の及ぶ効果が1年以上継続すると見込まれるとき、一度に費用化せず数年かけて償却して費用化するために、一旦資産として計上されたもののことです。具体的には以下の5つで、会社法にて繰延資産として計上することが認められています。
- 創立費
- 開業費
- 株式交付費
- 社債発行費
- 開発費
例えば、開業時にかかった事務所設置費用は、その年だけでなく継続的に効果が続くものです。そのため、翌年以降にも経費として処理するために資産として計上しておき、減価償却のように費用化してその価値を減らす処理を行います。
これらはどれも実際に存在する資産ではなく、数年かけて償却する目的で、名目上資産に計上しているに過ぎないものです。そのため、流動資産や固定資産のように現金化することはできません。なお、税法上の繰延資産とは定義が異なるため、混同しないよう注意が必要です。
流動資産は「現金化のしやすさ」で3つの種類に分類される
①現金化しやすい「当座資産」
「当座資産」は流動資産の中でも、より現金化しやすいもののことです。具体的には以下のものが挙げられます。
- 現金
- 預金
- 売掛金
- 受取手形
- 有価証券
これらは、すぐに現金として使えるかどうかが判別の基準となっています。そのため、企業の短期間の支払能力を測る指標としても扱われます。なお、有価証券であっても満期までの期間が1年を超えるような、すぐに現金化できないものは含まれません。
②在庫を示す「棚卸資産」
「棚卸資産」は企業の持つ在庫のことで、具体的には以下のものが挙げられます。
- 商品
- 製品
- 仕掛品
- 原材料
これらは企業の持つ資産ではありますが、当座資産のように直接現金に替わるものではなく、販売しなければ現金にはなりません。資産自体の価値はあっても、現金化に時間のかかるものとして区別されます。
③当座資産・棚卸資産以外を示す「その他流動資産」
「その他流動資産」には、当座資産にも棚卸資産にも含まれない、以下のものが含まれます。
- 未収入金
- 前渡金
- 仮払金
- 前払費用
- 立替金
- 短期貸付金
これらは流動資産の中でも重要性の低いもので、通常は高額になることは少ないものです。貸借対照表では独立した科目として扱わず、すべてまとめて「その他」と表されます。1年以内に返済される見込みのあるものや、前払いすることでマイナスの負債、すなわち資産として扱われるものが含まれます。
流動資産の主な勘定科目
1.当座資産に当てはまる勘定科目
①現金
実際に手元に保有している、紙幣や硬貨等の現金そのもののことです。当座資産の中でも最もわかりやすいものでしょう。外貨を保有している場合は、決算時の為替レートで日本円に換算して計上します。
②預金
普通預金や当座預金、1年以内に満期となる預金等が含まれます。現金と並んでイメージしやすいものです。普通預金はいつでも自由に現金として引き出すことができ、当座預金は営業サイクル内の支払いに使われるものであるため、流動性の高いものとされています。定期預金等の満期のあるものでは、満期までの期間が1年を超える場合は固定資産、時間の経過とともに満期が1年以内に迫れば流動資産として計上されます。
③受取手形
営業活動により発生した債権を支払ってもらうために受け取った手形のことです。取引先が支払いのために直接発行したものもあれば、取引先にとっての取引先が発行した手形が支払いのために廻ってくる場合もあり、「裏書手形」「廻し手形」と呼ばれます。
手形には期日や支払金額が記載されており、取り立てに出すことで期日に指定の口座に入金されます。期日までに取り立てに出さなければ入金されないため、忘れないようにしましょう。また、債務者の倒産によって回収不能となる場合もあるため、注意が必要です。
④売掛金
営業活動によって債権を得たもののうち、まだ回収されていない、受取手形以外のもののことです。会社の取引では、商品の販売のたびに支払いを受けるのではなく、月末等の区切りを決めて、一定期間分の支払いをまとめて受けることが一般的です。
この取引の仕方を「掛取引」と言い、掛取引での売上は「売掛金」と呼ばれます。便利な仕組みですが、受取手形同様、取引先の倒産等によって債権を回収できなくなる場合もあるため、取引先の経営状態を見て掛取引の可否を判断する必要があります。
⑤有価証券
売買目的や満期保有目的の有価証券のうち、1年以内に満期が到来するもののことです。具体的なものには、株式や国債、地方債、社債等があります。これには手形や小切手は含まれません。それぞれ受取手形や現金、当座預金として扱われます。
なお、子会社の株式や資本参加を目的とした株式等は「投資その他の資産」という別の項目となります。
2.棚卸資産に当てはまる勘定科目
⑥商品
会社の事業内容に関わるもので、取引先から仕入れたのち、加工をすることなくそのまま販売できるもののことです。卸売業や小売業等、仕入れたものをそのまま販売することが多い場合は、棚卸資産に使われる主な科目は「商品」となります。
⑦製品
販売するために加工・製造を行い、実際に販売できる状態にできあがっているもののことです。「商品」との違いは、加工されているかどうかで判断します。食品や車等の形のあるもののほかに、サービスや情報等の形のないものも「製品」に含まれます。
⑧原材料
製品を作る目的で所有するもののうち、まだ使われていないものを指します。素材の原形をとどめている「材料」、原形をとどめていない「原料」、製品に取り付ける等してそのまま使うことのできる「買入部品」等です。なお、製造途中でまだ販売できないものは「仕掛品」、製造途中でも販売できるものは「半製品」として区別する場合もあります。
3.その他流動資産に当てはまる勘定科目
⑨前渡金
原材料や商品を購入するために、納品前に支払いを行った場合は前渡金を計上します。会社によっては「前払金」を使う場合もありますが、意味は同じです。具体的には、手付金として一部を支払ったり、納品や作業等の前に支払いを行ったりする場合が挙げられます。
⑩未収入金
売掛金以外の未回収の金額のことで、営業活動以外において発生する場合や、継続的でない特別な取引の際に発生する場合があります。具体的には、不動産の貸し付けや機械や車両等の固定資産の売却を行う際に計上されます。
⑪仮払金
最終的な金額がはっきりしない場合に一時的に処理する科目で、後日確定した金額で振替処理を行います。出張旅費や接待交際費に充てるものとして概算で支払う場合に使われることが多いです。資産としてイメージしにくい科目ですが、「あとから戻ってくる金額」として、資産に計上されます。
⑫前払費用
決算時において、継続してサービスの提供を受けており、将来の分まで一括して支払っている場合に計上されます。翌期に受けるサービスの対価を支払っているため、当期末には前払分として計上し、翌期首には費用の科目で振替えを行う必要があります。
流動資産の評価|多いと経営に余裕がある会社
流動比率を活用した支払能力の数値化
流動資産は1年以内に現金化できるものでしたが、負債にも同様に1年以内に支払わなければならない「流動負債」があります。両者のバランスを見ることで、1年以内の短期間における支払能力を測ることができます。
また、両者を利用した指標に「流動比率」があり、以下のように算出します。
流動比率(%)= 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
この数値が高いほど流動資産が多く、経営に余裕があり短期的な支払能力に優れていると判断できます。
業界別の流動比率の目安
流動比率は、企業の規模や業界によって異なります。少し古いデータですが、平成10年の経済産業省の「商工業実態基本調査」を見てみましょう。
製造業の平均は大企業で131.4%、中小企業で125.5%ですが、中小企業に比べて大企業の方が、業種による流動比率の差が大きいことがわかります。大企業の中でも、衣類や精密機械、家具に関する業種の流動比率は平均値を大きく上回っているのです。
次に卸売業の平均は、大企業で114.7%、中小企業で118.4%と、中小企業の方が高い平均値を出しています。業種による差は製造業ほど大きくはありませんが、比較的流動比率が高いのは、大企業では機械器具卸売業、中小企業では繊維衣服卸売業でした。
最後に小売業の平均は、大企業で81.2%、中小企業で151.0%と、企業の規模で大きく差が開いています。大企業では家庭器具小売業、中小企業ではその他の小売業が比較的高い流動比率になっています。
(参考:経済産業省 商工業実態基本調査 https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syokozi/result-2/h2c5kgaj.html)
固定資産・固定負債と比較して財務状況をチェック
流動資産は短期的な支払いに使うことができる一方で、1年以上先の支払時には残っているかわからないものです。流動資産と固定資産を比較することで、自社の持つ資産を短期的・長期的な支払いそれぞれにどのくらい充てることができるか見積もることができます。極端にどちらかが多い状態は好ましくありません。
また、固定負債が多いのにもかかわらず流動資産が多い場合は、将来の支払いに不安が残ります。資産と負債のバランスを取ることが大切です。
まとめ
流動資産にも様々な種類があり、現金化のしやすさや扱いが異なります。「資産」のイメージと違うものもあったのではないでしょうか。
流動資産について正しく理解しておくことで、自社の現在の財政状態を把握し、短期的・長期的な経営戦略にも繋げることができます。また、固定資産や負債等、別の項目についても理解を深めることができるでしょう。