損害の補償がプラスになったときの勘定科目「保険差益」とは?

損益計算書にある特別損益は、会社の経常的な事業活動とは関係なく、その期だけに例外的に生じた利益・損失です。

固定資産売却益・固定資産売却損が有名でしょうか。

事業活動では、災害や事故といった偶発的な損害を被ることがあります。そのようなときのために保険をかけていることでしょう。

今回は、企業の固定資産が損害を受け、保険金を受領したときに使用する保険差益という特別利益についてご紹介します。

万が一に備えて、保険差益やその反対概念がどのようなものか、仕訳の仕方、注意点について学びましょう。

損害時に覚えておきたい勘定科目「保険差益」とは?

保険による補償額が帳簿価格を上回った場合の差額をいう

保険差益とは、保険事故の損害額や補償額等が確定し、通知された金額が帳簿上の価額より高いときに、その差額を処理するための収益勘定のことを言います。

特別利益に該当する科目です。反対概念は保険差損ではなく、火災で負った損害なら火災損失となります(注)。法人税では益金となり、消費税では課税対象外の収益です。

【補足】
保険事故とは:保険契約において、保険会社がその事実の発生を条件として保険金の支払いを約束した偶然の事実のことです。
損害保険では、保険の支払いの対象となる事故が決められています。火災保険なら、一般的な補償範囲は「火災、落雷、破裂または爆発、風災・雹災・雪災、物体の落下や飛来・衝突、水濡れ、盗難、水災、破損・汚損」です。
保険会社や補償プラン、特約の有無により補償範囲や保険金額が異なります。

(注)災害一般による損失を一括して処理する勘定科目は、災害損失です。

本業以外からの収入というと雑収入という科目を使いたくなります。しかし、雑収入ではなく特別利益である保険差益を使うのはなぜなのでしょうか。

保険差益は雑収入ではなく「特別利益」に計上する

保険金による収益は、特別利益の扱いになります。なぜかと言えば、営業活動以外から臨時的・突発的に発生した収益だからです。

この説明だけですと、雑収入となにが違うのかわかりにくいですよね。もう少し深掘りします。

雑収入は営業外収益のうち、ほかのどの勘定科目にもあてはまらないもの。もしくは、独立した科目にするには金額的に重要でないものに使用する科目です。定期的に発生するというのが前提となっています。

それに対して、特別利益は数年に一度あるかないかの臨時的なものです。頻度が違います。

火災等は頻繁に起こるものではありませんので、それに付随する保険差益も臨時的な扱いです。ですから、雑収入ではなく保険差益を使います。

では、どのようなときにこの科目を計上するのでしょうか。

保険差益の計上時期は保険金の確定したとき

保険差益を計上するのは、保険事故の発生時ではありません(その際は、別の仕訳を行います)。この時点では保険金が確定しておらず、簿価に対して金額が多いか少ないかがわからないからです。

保険差益を計上するのは、保険金が確定してから。一般的に、保険会社から保険金の案内を受けたタイミングや保険金を受領したタイミングで行います。

保険事故発生から保険金受領までの一連の流れを、仕訳と共に見ていきましょう。

保険事由があった場合の仕訳例を順を追って解説

保険事由の発生時の仕訳例

固定資産にはそれぞれ耐用年数が設定されていますが、今回はそれを用いず簡単な数値を用いて説明します。

まずは、事故発生時の固定資産(今回は建物)の簿価を計算しましょう。実務においては、固定資産台帳があればそちらもご活用ください。

火災にあった建物(残存価格0・定額法・直接法)

  • 取得価額:1,000万円
  • 耐用年数:10年
  • 経年数:5年
  • 減価償却累計額:1,000万円×5年/10年=500万円
  • 期首の簿価:500万円(1,000万円-500万円)

減価償却についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

>>耐用年数とは? 法定耐用年数や減価償却について解説

期首の簿価と減価償却累計額がわかれば仕訳に移ります。

直接法と間接法で仕訳が異なりますので、それぞれの仕訳を見てみましょう。保険に加入していなかったときの仕訳についてもご紹介します。

【仕訳】

建物が焼失した。建物には保険金額1,000万円の火災保険をかけていたため、保険会社に保険金請求をした。

借方金額貸方金額
火災未決算500万円建物500万円
  1. 建物が滅失しましたので、帳簿上の簿価をゼロにします。直接法のため、取得価額ではなく期首の簿価である500万円を貸方に記入します。
  2. 保険金の金額や支払日が確定していないので、期首の簿価を火災未決済として借方に計上します。

直接法は減価償却費を固定資産から直接減少させますから、当該資産の期首の残存簿価を取り消します。

間接法の場合は、下記のような仕訳をします。

借方金額貸方金額
減価償却累計額500万円建物1,000万円
火災未決算500万円
  1. 建物が滅失しましたので、帳簿上の資産と減価償却累計額の簿価をゼロにします。間接法のため、取得価額である1,000万円を貸方に記入。減価償却累計額500万円を借方に記入します。
  2. 保険金の金額や支払日が確定していないので、差額を火災未決済として借方に計上します。

間接法は減価償却費を固定資産から直接減少させず、減価償却累計額という負債勘定に集計することで間接的に記帳しています。固定資産の簿価は、取得価額のままです。

よって、簿価をゼロにする際には取得価額である資産の簿価と減価償却累計額の簿価の双方をゼロにする必要があります。

もしも火災保険に加入していなかったときには、どうなるのでしょうか。減価償却を直接法で行っている場合は、このような仕訳になります。

借方金額貸方金額
火災損失500万円建物500万円
  1. 建物が滅失しましたので、帳簿上の簿価をゼロにします。直接法ですので、取得価額ではなく期首の簿価である500万円を貸方に記入。
  2. 保険をかけていない資産が滅失したので、期首の帳簿価額の全額を火災損失として計上します。

減価償却の方法が直接法・間接法のどちらであるかによって仕訳が異なります。自社がどちらの方法を用いているかご確認ください。

仕訳に登場した火災未決算。見たことがない方も多いと思います。どのような科目か確認しましょう。

勘定科目「保険未決算」は未決算勘定という一時的な勘定

火災未決算は、一時的に使用する仮の資産勘定です。ほかの仮勘定とは異なり、金銭の収支が伴わない場合に使用される未決算勘定でもあります。

仮勘定である仮払金や仮受金は実際に収支を伴いますから、混同しないようにしてください。

火災保険の保険事故が発生し、保険金の金額が確定するまでの間にのみ使用される科目だと理解しておきましょう。

【補足】
未決算勘定には、未決算や現金過不足等があります。未決算の科目を使用する際は、未決算である理由がわかるように、科目名を調整します。
火災保険金の受領待ちの状態であれば火災未決算。その他の保険金の受領待ちの状態であれば保険未決算とします。

保険金額が確定したときの仕訳例(保険差益が生じる場合)

【仕訳】

保険会社から、焼失した建物について保険金600万円を支払うと連絡があった。

借方金額貸方金額
未収入金600万円火災未決算500万円
保険差益100万円
  1. 火災未決算を取り崩します。貸方に滅失時に計上した500万円を記入。
  2. まだ保険金を受け取っていないため、借方に確定した保険金の金額600万円を未収入金として記入します。
  3. 差額が貸方に発生しているため、保険差益として100万円を記入。

保険金額が確定したときの仕訳例(保険損失が生じる場合)

【仕訳】

保険会社から、焼失した建物について保険金400万円を支払うと連絡があった。

借方金額貸方金額
未収入金400万円火災未決算500万円
火災損失100万円
  1. 火災未決算を取り崩します。貸方に滅失時に計上した500万円を記入。
  2. まだ保険金を受け取っていないため、借方に確定した保険金の金額400万円を未収入金として記入します。
  3. 差額が借方に発生しているため、火災損失として100万円を記入します。

保険金の受領時の仕訳例

【仕訳】

保険会社から、保険金として600万円が当座預金に振り込まれた。

借方金額貸方金額
当座預金600万円未収入金600万円

保険金が着金したので、未収入金を取り崩します。

未収入金についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

>>未収金と売掛金との違いをわかりやすく紹介|仕訳方法や内訳書について

保険差益を会計処理する際に気をつけたい注意点

保険差益は消費税の不課税取引に該当する

保険差益は消費税の対象とはなりません。

保険金は保険事故の発生によって受領するものです。資産の譲渡等の対価に該当しないため、消費税法上は不課税取引として消費税の課税対象外となります。

「不課税取引」とは消費税の課税要件を満たさない取引のこと

不課税取引とは、消費税の課税対象となる要件を満たさない取引のことです。消費税の課税対象外のものといって差し支えありません。

国内取引の場合は、消費税の課税対象となる要件は次のとおりです。

  • 国内で取引を行う
  • 事業者が事業として行う
  • 対価を得て行う
  • 商品や製品等の販売・資産の貸付け・サービスの提供である

具体的には、下記のものが不課税取引の対象です。

  1. 給与や賃金
  2. 寄附金・祝金・見舞金
  3. 国または地方公共団体からの補助金や助成金等
  4. 無償の試供品や見本品の提供
  5. 保険金や共済金
  6. 株式の配当金やその他の出資分配金
  7. 資産を廃棄したり、盗難・滅失したりした場合
  8. 損害の発生に伴って受領した損害賠償金

保険差益は法人税上の「益金」として算入する=課税対象である

益金とは、法人税法上の課税所得を算出するために、会計上の収益をベースにして所定の調整を加えたものです。

調整には、益金として算入するもの・算入しないものや、損金として参入するもの・算入しないものがあります。保険差益は、益金算入するものです。

法人税法では、資本等取引以外の純資産増加の原因となるすべての収益が益金に算入されますので、保険差益も益金として課税対象となります。

ただし、保険金で代替資産を購入した場合は、保険差益相当額を一定の条件で損金に算入することが可能です。

「益金」には企業会計上の収益と若干異なる目的がある

法人税上の儲けと会計上の儲けの計算方法は、下記のとおりです。

  • 所得(税務上の儲け)=益金 – 損金
  • 利益(会計上の儲け)=収益 – 費用 

利益と所得は似ていますが、異なるものです。

利益は、会計的な考え方に基づいて企業の経営成績や財務状態を正確に表示する目的で計算。一方で、所得は税務的な考え方に基づき、課税の公平に配慮することを目的として計算されます。若干目的が違うものです。

保険差益で損害の代替として有形固形資産を取得した場合の「圧縮記帳」とは?

損害のあった年に資産を再取得して生じる税負担を減らすための制度

保険差益が発生した場合は、条件を満たせば圧縮記帳という課税の繰り延べ措置を受けられます。

固定資産は取得価格で評価するのが原則ですが、例外として固定資産の取得価格から一定の金額を差し引いて帳簿価格とすることが認められています。それが圧縮記帳です。

圧縮記帳には適用できる要件が定められている

保険金等で取得した固定資産等の圧縮記帳の条件は以下の通りです。

  • 固定資産を滅失・損壊し、事由発生から3年以内に保険金等を受領
  • 保険金の支払いを受けた事業年度に、保険金等を使って代替資産を取得するか、損壊を受けた固定資産や代替資産となる資産を改良

条件を満たすと、圧縮限度額の範囲内で代替資産の帳簿価額を滅失した資産の帳簿価額まで圧縮できます。

なお、保険金等の支払いに代えて代替資産の交付を受けた場合でも、その代替資産に圧縮記帳の適用が可能です。

圧縮記帳は保険差益のほか国庫補助金や工事負担金が対象になる

国庫補助金に相当する金額や工事負担金に相当する金額を圧縮損として計上し、固定資産の取得価格から差し引いて帳簿価格とすることで課税の繰り延べをすることもできます。

要するに、圧縮記帳は助成金を使って機械等を購入したときに税金がかからないようにする処理です。

圧縮記帳は税金が免除されるわけではありません。あくまで、課税を翌年度以降に繰り延べているにすぎません。

まとめ

保険差益は、保険事故の保険金が確定し、通知された金額が帳簿上の価額より高いときに、その差額を処理するための収益勘定です。

経常的な事業活動とは関係なく、その期だけに例外的に生じた利益のため、特別利益となります。

保険差益は、消費税法上で不課税取引として取り扱われますが、法人税法上では課税対象です。条件を満たすことで、免税はできないものの課税の繰り延べ措置を受けることができます。

災害や事故は、必ず防げるものではありせん。ですから、そのような事態に陥ったときに本記事のことを思い出して、活用していただければいただければ幸いです。

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oneplus編集部

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