慎重に進めたい人件費削減|メリットとリスク、取り組み方

経営状況の改善を図る際に、まず思い浮かぶのが人件費の削減ではないでしょうか。

確かに人件費を削減すれば利益を増やすことができます。

しかし、取り組み方次第で経営状況が改善することもあれば、悪化することもあるのです。

 

今回の記事では、人件費を削減することで得られるメリットや生じるリスク、取り組み方について解説しますので、是非参考にしてください。

目次

企業経営における人件費とは?内訳と計算方法を解説

人件費とは人を雇用することで発生する費用全般を指す

人件費とは、従業員に直接支払われる給与や賞与のほかにも、社会保険料や福利厚生費等、人を雇用することで発生する様々な費用全般を指します。

ほかの経費に比べて毎月の費用が多額になることから、人件費は経費の中で大きな割合を占めています。

そのため、人件費を正確に把握することは、企業経営を左右する大きな鍵となるでしょう。

意外と範囲が広い・人件費の内訳

人件費には、一般的な人件費とされる「狭義」のものと、人に関わる費用全般を人件費とする「広義」のものがあり、下記のように分類されます。

「狭義」の人件費

  • 給与全般・・・基本給・時間外手当・通勤手当・賞与・雑給等
  • 福利厚生費・・社員旅行・健康診断費用・慶弔金等
  • 法定福利費・・社会保険料・労働保険料

「広義」の人件費

  • 労務費・・・・製造に関わる従業員の人件費
  • 外注費・・・・業務を外部委託した際の費用
  • 旅費交通費・・業務上の交通費・宿泊費・タクシー代等
  • 採用教育費・・従業員の採用や教育にかかる費用等

狭義の「人件費」のおおまかな計算方法

人件費のおおまかな計算方法は、給与と法定福利費を合計することです。

   人件費=給与+法定福利費

法定福利費には、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、子ども・子育て拠出金、雇用保険料、労災保険料があります。

これらの保険料の料率の合計を給与にかけることで、法定福利費を算出できるのです。

それぞれの保険料の料率は、年度・都道府県・業種によって異なりますので確認しましょう。

給与が35万円で法定福利費の料率の合計が20%とした場合は、下記のように人件費を計算することができます。

350,000円(給与) × 20%(法定福利費の合計料率)= 70,000円(法定福利費)

350,000円(給与) + 70,000(法定福利費)= 420,000円(人件費)

人件費削減を行うか否かは経営判断のかなめ

人件費削減を行うか判断するために有用な指標

人件費削減を行うにあたっては、自社の人件費が適切かどうかを分析する必要があります。

経営判断をする上で有用な指標となるのが「人件費率」と「労働分配率」です。

ここでは、2つの指標について説明します。

人件費率:売上に対する人件費の負担割合

人件費率とは、売上に対して人件費の負担がどれくらいあるのかを表す指標です。

人件費率は、以下の計算式で算出できます。

人件費率(%)= 人件費 ÷ 売上 × 100

人件費率が高いほど、人件費が経営を圧迫していると言えます。

しかし、人件費率を下げすぎると従業員の負担が大きくなりますので、適切な人件費率を保つことが重要です。

人件費率の平均値は、業種によって大きく異なりますので、自社の業種の平均値を参考にしましょう。

人件費率に関して、詳しくは以下をご覧ください。
>>人件費率と労働分配率の違いは? 企業の大きなコスト・人件費を見直そう

労働分配率:人件費が現状適切かどうかを判断するのに有用

労働分配率とは、付加価値に対して人件費がどれくらい占めているのかを表す指標です。

付加価値とは、売上から売上原価を差し引いた金額のことを指しており、売上総利益(粗利益)ともいえるでしょう。

労働分配率は、以下の計算式で算出できます。

労働分配率(%)= 人件費 ÷ 付加価値 × 100

労働分配率は、高すぎても低すぎても経営に悪影響を与える可能性があります。

企業の規模や業種によって、労働分配率の平均値が異なりますので、自社に適した労働分配率を参考にして、現状の人件費が適切かどうか判断しましょう。

人件費削減には大きなリスクが伴う

人件費率や労働分配率が高くなっている場合は、人件費が経営を圧迫している状況と言えますので、早急に人件費の削減に取り掛からなければなりません。

また、利益をさらに増やすために、経費の中でも大きな割合を占める人件費を削減しようと考えている企業も多いのではないでしょうか。

しかし、従業員のリストラや給与の削減等の安易な人件費の削減は、経営において大きなリスクを伴う可能性がありますので注意が必要です。

人件費削減を行うことで企業が得るメリット5つ

1.関係するほかの経費の削減にも効果がある

人件費削減を行うことによって、関係するほかの経費の削減にも効果が表れるでしょう。

残業代を減らすことができれば、水道光熱費も削減することができます。

また、リストラで従業員が減ると、水道光熱費や日用品・消耗品費の削減が可能になり、場合によってはオフィスの縮小等による大幅な経費削減にも繋がるかもしれません。

2.人件費に充てていた資金をほかの目的に充てられる

人件費削減を行うことによって資金に余裕ができれば、ほかの目的に資金を充てることができます。

設備投資や新しいシステムの導入等の目的に資金を使えば、会社の利益増加や、従業員の業務負担の削減が見込めるでしょう。

従業員にもメリットのある人件費削減であれば、従業員の納得も得やすいのではないでしょうか。

3.決算書の内容が良くなる

決算書とは、企業の経営成績や財務状態を報告するための書類のことです。

費用が収入を上回っている場合は、赤字決算となり経営が悪い状態にあるとみなされます。

しかし、人件費削減を行うことによって大幅な費用の削減をした結果、黒字化することができれば、決算書の内容を改善することが可能です。

4.金融機関からの評価が上がり資金繰りが楽になる

人件費削減によって赤字決算を黒字化できれば、金融機関からの評価が上がり融資を受けやすくなるため、資金繰りが楽になります

融資を受けるにあたっては、黒字であることが重要です。

赤字決算の場合は、融資に対する返済能力がない企業と判断され、融資を受けられないことがあります。

金融機関からの評価が低いと融資審査で不利になってしまうので、赤字決算は避けたいところです。

5.株価の上昇が見込める

人件費削減を行うと、費用を削減できるので営業利益を増やすことができます。

業績が上がれば投資家からの評価がよくなりますので、株式が購入されやすくなり、結果的に株価の上昇が見込めるでしょう。

人件費削減で企業に生じうるデメリット・リスク

人件費削減は企業にとって取り組むべき重要な問題ですが、従業員の給与・賞与の削減やリストラは、人件費削減にダイレクトに効果が出る反面、デメリットやリスクも生じてしまいます。

まず、従業員のモチベーションの低下を避けることはできません。

また、従業員が辞めてしまう可能性があり、必要な人材が流出して人材不足になるリスクがあります。

その結果、業務効率の低下によって業績が悪化することも考えられるでしょう。

そして、「従業員を大切にしない企業」「経営難に陥っている企業」と判断され、企業のイメージが低下する恐れがあります。

リストラには不当解雇等の法的なリスクもあるので注意が必要です。

人件費削減に関して、詳しくはこちらをご覧ください。

人件費削減の方法はリスクの低いものから取り組もう

生産性向上により人件費削減を目指す

まずは、業務を効率化して残業代を減らすことで人件費の削減を目指しましょう。

「会議時間は長くないか」「出張の必要はあるのか」「同じような報告書を作成していないか」等、業務フローを徹底的に見直すことで、無駄な労働時間を減らすことが可能です。

また、従業員のスキルアップを図ることで、一時的に研修等に費用がかかったとしても、生産性の向上により残業代を減らすことができるでしょう。

業務効率化を図る施策を取る

業務効率化のためにシステムを導入すれば、少ない人数でスムーズに業務を行うことが可能になり、長期的に人件費を削減できます。

また、アウトソーシングを活用することで業務を効率化し、人件費を削減することも可能です。

作業時間のかかる業務は、外注した方が人件費を抑えられる場合があります。

また、従業員に負担がかかる専門性の高い業務はアウトソーシングしたほうがよいでしょう。

残業代カットや給与削減を行う

従業員の給与を削減すれば、ダイレクトに人件費を削減することができます。

しかし、従業員のモチベーションの低下や、人材流出の恐れもあるので、従業員の理解が得られる形で進める必要があるでしょう。

残業代は通常1.25倍の割増料金となることや、法律で時間外労働に上限が定められていることからも、残業時間を減らす必要があります。

ただし、業務量が変わらずサービス残業をすると違法になりますので、業務量を減らしたり、作業効率を上げたりする対策が必要です。

希望退職者を募集する

希望退職者を募集することで、人件費を削減する方法もあります。

希望退職はリストラを回避することが目的であり、リストラの前段階と捉えることができます。

希望退職は、従業員の意思が最優先されるので強要することはできません。

退職金の割増等、従業員に有利な条件を提示することから穏便な退職が可能になります。

リストラに着手する

どうしても必要な場合は、リストラに着手することで、人件費の削減を行います。

リストラを実行するためには以下の4つの条件を満たさなければなりません。

  • 人員整理の合理的な必要性
  • リストラ回避の努力を尽くしたこと
  • 解雇対象者の選定方法の合理性
  • 手続きの正当性

リストラにあたっては、不当解雇となるリスクもありますので、十分な注意が必要です。

人件費削減をするうえで押さえたいポイント2つ

なぜ人件費を削減するのか目的を持って取り組む

人件費を削減する目的を明確にすることは、重要なポイントのひとつです。

目的によってアプローチの方法が異なりますので、中途半端に人件費削減を進めると、従業員の理解を得られず、人材不足や業績悪化等に陥る可能性があります。

目的を明確にして、従業員の協力を仰ぎながら人件費削減に取り組みましょう。

いきなり大きく変えずに段階的に施策を進める

人件費削減はリスクを伴う恐れがあるので、給与の削減やリストラ等、いきなり大きく変えたりせずに段階的に計画を立てて進めていきましょう。

従業員のスキルアップによる生産性の向上や、システム導入による業務効率化等、リスクの低い方法から進めるとよいのではないしょうか。

まとめ

経費のなかで大きな割合を占める人件費を削減できれば、間違いなく営業利益は増加します。

しかし、給与の削減やリストラといった安易な人件費削減は、従業員の信頼を失い、逆に経営を悪化させることにもなりかねません。

人件費削減は、メリットがある反面、デメリットやリスクを伴う恐れがあるので、慎重に取り組む必要があります。

人件費削減の目的を明確にして、従業員の理解と協力が得られる形で計画的に進めていきましょう。

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oneplus編集部

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