「建設仮勘定」は、経理担当者でもあまり馴染みのない勘定科目ではないでしょうか。建設仮勘定をどのような時に使うのかを知らずに間違った仕訳をしていることもあるかもしれません。
そこで今回の記事では、建設仮勘定に含まれるものや、仕訳例・注意点について解説します。是非参考にしてください。
建設仮勘定に含まれるものは?なぜ必要か解説
【建設仮勘定とは】未完成資産の費用を計上する勘定科目
建設仮勘定とは、建築中の建物や製作中の機械等「未完成」の固定資産の費用を一時的に計上する勘定科目です。
完成して事業に使える状態にある場合に限り、固定資産として計上できるからです。そのため、未完成の期間に支払った着手金等の支出は建設仮勘定で計上しておいて、完成したら固定資産への振替えを行います。
建設仮勘定は、有形固定資産に分類されることから、減価償却の対象になると思われるかもしれません。しかし、固定資産に振替えてはじめて、減価償却費を計上することができ、費用化が可能になります。
【建設仮勘定はなぜ必要か】支払代金を適切に把握するため
建設仮勘定は、支払代金を適切に把握するために必要です。
建物等を建てるためには、長い時間と多額の費用がかかります。完成までに発生した費用を建設業者がすべて負担することは難しいので、工事がはじまる前に着手金や、途中に追加費用等を支払うことが一般的です。
また、固定資産を自社で作ってしまう自家建設においては、完成までに様々な費用の支出が考えられます。現金や預金の支出があったにも関わらず、会計処理を行っていない場合は、帳簿上と実際の現預金の残高が合わなくなってしまうでしょう。
そこで、支払った金額をその度に建設仮勘定で計上すれば、残高が合わなくなることもなく、支払済みの建設費用を正確に把握することができるのです。
【建設仮勘定に含まれるもの】固定資産の建設に関わる費用
建設仮勘定に含まれるものは、有形固定資産の建設が完成するまでにかかった費用です。
有形固定資産に該当するものは、建物、建物付属設備、機械装置、工具器具備品、船舶、車両運搬具、土地等が挙げられます。
具体的には、下記の支出があった際に建設仮勘定を使って処理します。
- 建設前に支払済みの手付金や着手金
- 建設に必要な資材等の材料費
- 建設に必要な資材等の購入に充てるための前渡金
- 建設に必要な機械や備品等
- 建設作業員の労務費
建設仮勘定の仕訳例を紹介!計上タイミングと振替時期
計上:固定資産の建設中に支払いが発生したタイミング
固定資産の建設中において、支払いが発生した際の2つの仕訳例について解説します。
(例1)自社の工場建設のため、建設業者に着手金を1,000万円支払った。
借方 | 貸方 | ||
建設仮勘定 | 1,000 | 現金・預金 | 1,000 |
(例2)建設途中に追加費用を1,000万円支払った。
借方 | 貸方 | ||
建設仮勘定 | 1,000 | 現金・預金 | 1,000 |
建設の途中で支払った金額は、すべて建設仮勘定を用いてその都度仕訳を行いますので、ほかの勘定科目と間違えないようにしましょう。
また、建設中の固定資産が複数ある場合は、どの固定資産にかかった支出なのかを把握して、帳簿上でも区別する必要があります。
振替:固定資産が完成して引き渡しを受けたタイミング
次に、固定資産が完成した際の仕訳例について解説します。
(例)工場が完成したので、残りの1,000万円を支払って、これまでに計上していた2,000万円の建設仮勘定を固定資産に振替えた。
借方 | 貸方 | ||
建物 | 3,000 | 建設仮勘定 | 2,000 |
現金・預金 | 1,000 |
建設中の固定資産が完成して事業のために利用できる状態になると、有形固定資産である「建物」として計上できます。その結果、建設仮勘定は相殺されて帳簿上から残高がなくなるのです。
例外1:建設中の固定資産を一部使用した場合の仕訳
最後に、特殊なケースになりますが、建設中の固定資産を一部使用した場合の仕訳例について解説します。例えば、ホテルや大型商業施設等の建物の一部が完成していない状態で営業をはじめるケースです。
(例)一部未完成のまま大型商業施設の使用を開始したので、固定資産として5,000万円を計上した。これまでに3,000万円を支払済みで、残りは完成時に支払う。
借方 | 貸方 | ||
建物 | 5,000 | 建設仮勘定 | 3,000 |
未払金 | 2,000 |
固定資産は、使用開始のタイミングで計上する必要があります。完成前のため最終的な精算金額が確定していない場合は、概算金額で固定資産への振替えを行い、完成後に確定した金額に修正しなければなりません。
残りの金額を、使用開始の際に支払う場合は現金か預金で計上し、完成した際に支払う場合は未払金で計上します。
建設仮勘定について知っておくべき点・注意点
建設仮勘定の減価償却は計上できない
減価償却の対象となるのは、固定資産が事業用に使えるようになってからなので、建設仮勘定で減価償却費を計上することはできません。
建設仮勘定は、有形固定資産に振替える前の一時的な科目である上に、完成していない状態では事業用に使うことができないので、収益性もありません。
企業会計原則において、費用は対応する収益と同じ時期に計上するという原則があります(費用収益対応の原則)。建設仮勘定は、収益を計上できない状態にあり、対応する費用が計上できないことからも、減価償却の対象とならないのです。
消費税(仕入税額控除)の計上は2パターンある
ここでは、建設仮勘定で支払った消費税(仕入税額控除)の二通りの計上方法について解説します。
二通りのうち、どちらのパターンで処理しても良いですが計上方法は統一しましょう。
例えば「前年度はAのパターンだったけど今年度はBのパターンにしよう」や「ビルはAのパターンで工場はBのパターンにしよう」等はできません。
①仕入を行う都度
ひとつめの方法は、仕入を行う都度、消費税を計上することです。仕入税額控除は、原則として仕入等を行った日が属する課税期間に行うことが求められるので、基本的な処理方法と言えます。
ただし、仕入税額控除が認められているのは、資材の購入等の「課税仕入」のみです。工事前の着手金や手付金等は「不課税」となりますので、この時点で消費税を計上することはできません。
着手金等は、完成して固定資産への振替えをする際に、課税仕入として消費税を計上する必要があります。
②固定資産の完成後
ふたつめの方法は、固定資産の完成後にすべての消費税を計上することです。仕入を行う度に消費税を計上する必要がないので、会計処理の負担を減らせるかもしれません。
とは言え、完成時期が会計年度をまたいでしまうと、逆に消費税の計算が面倒になってしまうことも考えられます。
また、会計年度をまたいで完成後に消費税を計上する場合は、実際に仕入を行った会計期間で仕入税額控除ができません。そのため、消費税の納付額が一時的に多くなるので、資金繰り等の面でも注意が必要になるでしょう。
建設仮勘定(未完成資産)に固定資産税はかからない
建設仮勘定(未完成資産)に固定資産税はかかりません。固定資産税(償却資産税)は、1月1日に所有している固定資産(償却資産)に課税される仕組みになっているからです。
ただし、建設仮勘定にしていたとしても、既に完成しており、事業のために使うことができる状態と判断されるケースがあります。その場合は、まだ使用を開始していなくても、固定資産税の対象となることが考えられます。
建設仮勘定は減損の対象となる
建設仮勘定は減損の対象となります。減損とは、固定資産や株式の価値が想定よりも著しく下落した場合に、実際の価値に合わせるために帳簿上の価格を減額することです。
建設中の工場から生み出す予定の収益が望めない場合や、建設中にも関わらず計画の中止や延期によって事業に使用できる目途が立たない場合等が対象となる可能性があります。
経営環境の悪化や市場価格の大幅な下落、営業活動による損益またはキャッシュフローが継続してマイナスになっているか等、減損の兆候があるかチェックしましょう。
また、建設仮勘定が減損の対象かどうかの判定は、慎重に行わなければなりません。
建設仮勘定を含め仕訳ミスは取得費用の減少につながる
勘定科目を間違える等の仕訳ミスは、固定資産の取得費用の減少に繋がるので注意が必要です。
着手金や資材の購入等、建設のための支出はすべて「建設仮勘定」を用いて仕訳します。間違いやすい「仮払金」「前払金」「仕入」「消耗品費」等の科目で処理しないように、建設にかかった支出かどうかを確認しましょう。
費用で計上してしまうと、その分の金額を固定資産へ振替えができないので、取得費用の減少につながってしまうのです。
また、固定資産への振替えのタイミングを間違えると、償却期間は同じですが、実際の固定資産取得と同時に減価償却がはじめられないので、費用の計上時期にズレが生じます。
建設仮勘定と間違いやすい項目を解説
前払金(前渡金):流動資産の勘定科目
前払金(前渡金)とは、商品やサービスを受け取る前に支払った着手金等を計上する際に使用する、流動資産の勘定科目です。
流動資産に該当するものは、現金、預金、売掛金、受取手形、商品、製品等です。
建物等の有形固定資産を作るために、着手金等を前払いした場合は、流動資産に該当しないので、前払金ではなく建設仮勘定を使わなければなりません。
建設業者へ前もって支払う着手金を「前払金」と呼ぶこともあるので、混乱しがちですが、科目を間違えないように気を付けましょう。
未成工事支出金:売上原価に計上していない工事費用
未成工事支出金とは、建設業会計で使われる特殊な勘定科目で、売上原価に未計上の工事費用のことです。未完成の工事に支払った費用を指し、製造業・工業簿記における「仕掛品」と同じ意味を持ちます。
建設仮勘定は「自社の事業に使う固定資産が完成するまでに支出したお金」で、未成工事支出金は「工事が完成して売上を計上するまでに支出したお金」です。
「自社で使用」するものと「販売」するもので、完成後の用途が異なりますので、似ている項目ですが区別しやすいのではないでしょうか。
ソフトウェア仮勘定:無形固定資産の仮勘定
ソフトウェア仮勘定とは、無形固定資産の仮勘定で、ソフトウェアの制作途中にかかる費用を計上できます。建設仮勘定(有形固定資産の仮勘定)と似ている科目と言えますので、間違えないようにしましょう。
ソフトウェア仮勘定もソフトウェアが完成することで、無形固定資産(ソフトウェア)に振替えて、減価償却がはじまります。
下記の場合は、どちらも完成後に「ソフトウェア」に振替えて減価償却を行うことが可能です。
- 販売目的で制作中のソフトウェアの原版に関わる費用
- 自社で利用するために開発中のソフトウェア関わる費用
建設仮勘定の仕訳や注意点まとめ
今回の記事では、建設仮勘定の概要や仕訳例、知っておくべきこと等について見てきました。
建設仮勘定は、普段からよく使うというわけではないので、難しく感じてしまうかもしれませんが、仕訳のタイミングを理解すれば、問題なく処理できるでしょう。
また、消費税の計上方法や「前払金」との違い等、建設仮勘定の知っておくべき点や注意点を抑えておくことが大切です。