実地棚卸は、在庫と帳簿の差異を見つけ棚卸資産を確認する手段です。棚卸資産を確認することで利益の確認にもなります。
企業として義務なのはわかっていても面倒な作業のひとつではないでしょうか。
在庫を把握することは不正等の予防にも効果があります。その目的や注意すべき点をわかりやすく説明して、重要なポイントや注意点をお伝えします。しっかりと理解して実地棚卸を行っていきましょう。
実地棚卸とは?読み方や時期や回数・義務について解説
実地棚卸(じっちたなおろし)とは現物の在庫数を確認すること
実地棚卸とは、決まった時期に実際にある商品の在庫数を帳簿上の数字との差異をチェックする作業のことです。
具体的には、在庫数の確認と商品に傷や故障はないか、在庫に関するすべてを調べていく作業で、正確な利益を把握するためや不正の防止には必要な作業になります。
実地棚卸で、あらかじめ商品の状態を把握しておけば、いざ商品を使用するときに使えないということを未然に防ぐことができます。また、商品が紛失してしまっていることに気付くことも可能です。
【実地棚卸の時期や回数】基本的に年度期末
企業や業種によって違いはありますが、多くの企業では年度末に1回行うことが基本となっています。
時期は決算時期の3月や9月に行う企業が多いですが、扱う商品や会社の業種によっては年に2回もしくは四半期ごとに行う企業もあります。
実地棚卸を行うのは大がかりな作業で時間もかかりますが、毎回すべての棚卸を行うのではなく、エリアを分けて年に数回行う等、企業によって様々です。
【実地棚卸の義務】法律で定められた企業の義務
実地棚卸を行うのは、利益を確認させるために法律で定められた義務です。*1
在庫を正しく管理し、帳簿との差異を修正する作業が実地棚卸になります。
例えば、帳簿の数量を計上したあとに、実際の在庫数との差異が発覚した場合は、追加で納税することにもなりかねません。
企業の義務として、利益を確定させる決算の前には行うようにしましょう。
法人が、その業種、業態及び棚卸資産の性質等に応じ、その実地棚卸しに代えて部分計画棚卸しその他合理的な方法により当該事業年度終了の時における棚卸資産の在高等を算定することとしている場合には、継続適用を条件としてこれを認める。
*1棚卸資産については各事業年度終了の時において実地棚卸しをしなければならないのであるが、法人が、その業種、業態及び棚卸資産の性質等に応じ、その実地棚卸しに代えて部分計画棚卸しその他合理的な方法により当該事業年度終了の時における棚卸資産の在高等を算定することとしている場合には、継続適用を条件としてこれを認める。
実地棚卸の目的は大きく分けて4つある
実施棚卸の目的①資産を把握し利益を確認するため
実地棚卸の目的のひとつ目は利益を確認することです。
利益を確認するために、実地棚卸を行い在庫数と帳簿上の数字の差異を修正し、正確な売上原価を割り出すことからはじめます。
売上金額から売上原価を差し引いたものが売上総利益です。
売上総利益=売上金額ー売上原価
この売上原価は、仕入金額から期末の在庫を引くことで算出することができます。
売上原価=仕入金額ー期末在庫
期末の在庫は資産として計上されるので、期末には実地棚卸を行い正確な在庫数を把握しておきましょう。
実施棚卸の目的②在庫数・状態を確認するため
実地棚卸の目的のふたつ目は在庫数の確認と商品の状態を確認することです。
商品の状態(破損していないか、故障していないか等)を把握することや、在庫数と帳簿に差異がないかを確認することは、利益を確認する上で重要なことになります。
実地棚卸をしていない状態で利益を確定してしまうと、実際は帳簿と差異があったり使用できない商品もカウントしてしまったりということが発生します。正確な売上総利益を算出するためには、正確な在庫数の把握が必要です。
正確な在庫数を把握するために納品書の電子化についてはこちらの記事を参考にしてください。
実施棚卸の目的③不正の発見・予防のため
実地棚卸の目的の3つ目は不正の発見と予防です。
正確な在庫数量を把握していないと、水増し計上をして利益を多く見せることも可能ですし、不正の引き金となることがあります。
また、高額商品を扱っている企業であれば、商品を換金される等した場合は大きな損失となるでしょう。
実地棚卸を行って在庫と帳簿を一致させておくことで、不正の発見や予防にもなります。
実施棚卸の目的④帳簿数量とすり合わせをするため
実地棚卸の目的の4つ目は帳簿の数量とのすり合わせをすることです。
多くの場合は、実際の在庫数と帳簿上の在庫数に差異が生じています。
その差異を調整する作業が実地棚卸の目的のひとつです。
現物の数量と帳簿上の数量に差異があった場合は、その原因を追及することも大切な作業です。
原因が判明したら、再発防止のために日々のルーティンを見直すことが必要かもしれません。必要な策を講じることで、企業の大切な資産である在庫数を正確に把握し、不正や盗難の防止にも繋がります。
実地棚卸のやり方を流れに沿って紹介
事前準備:実地棚卸の精度を上げるためにするべきこと
実地棚卸をする当日はかなりの作業量になるため、スムーズに行うためにも事前準備は大切です。
一日の大まかな作業配分や商品の分類等を行い、誰がどのような作業をするのか等、事前に決めておくことで速やかに作業が行えます。
- 何がどこの場所にあるか等の見取り図を作成する
- 当日仕切ることができる責任者を決めておく
- 棚卸作業のスケジュールを組む
- 事前に在庫の整理整頓をする
- 棚卸表を作成しておく
- 帳簿の記入漏れチェックをする
- 当日は2名1組で行うのでペアを決めておく
以上を参考に事前準備をしておきましょう。
実地棚卸の開始:2つのカウント方法
実地棚卸のカウントの仕方には2種類のカウントの方法があります。
「タグ方式」といわれる方法と「リスト方式」という方法です。
タグ方式は時間がかかる方法である一方、リスト方式は短時間で終わらせることができます。それぞれの違いを見ていきましょう。
1.カウント漏れを防ぐタグ方式
在庫の棚等に連番で管理しているタグを貼り付け、カウントした数を記入していくという方法です。
作業が終わった後にタグを回収するため、カウント漏れを発見しやすい点がメリットです。タグは連番になっているので、番号が抜けていればタグの回収漏れということになります。
カウント漏れが起きにくい反面、連番管理やタグの回収に手間がかかる方法です。
2.手間が少ないリスト方式
リストにある数量と在庫の数量を確認するという比較的手間のかからない方法です。
タグ方式と違い、現物にカウントをしたという目印がないため、カウントしたのかどうかわからなくなるという懸念があります。また、単純作業がゆえにカウントの重複や数え間違い等が起こりやすくなります。
勤務時間に実地棚卸をする企業が多いので、短時間で終わらせることができるリスト方式を採用する企業が多いです。
実地棚卸後:集計・差異チェック・分析
実地棚卸後は、集計を行います。差異をチェックして必要であれば帳簿を修正しましょう。
実際の数量の確認をすることはもちろんですが、在庫の数量と帳簿の数量にどれだけの差異があるのかを確認する意味もあります。
本来なら一致しているはずの在庫と帳簿に差異が生じているということは、在庫管理や帳簿記載に問題があるのか、実地棚卸の際のチェックミスなのか再度確認が必要です。
在庫側のミスの場合は、数え間違いや破損等のカウント外をカウントしてしまった、帳簿記載のミスは、0と6等間違いやすい数字の読み間違い等が考えられます。
いずれにしても、差異があるということは今後の在庫管理に大きな支障が生じるので、不正防止のためにも分析して原因を突き止めることが大切です。
在庫数の確定後:在庫単価の評価
棚卸資産の算定方法は「単価×数量」が基本ですが、「単価」は仕入れた時期や数量によって異なります。
都度単価を調べて計算するという方法を回避するためのルールが「原価法」と「低価法」です。
1.原価法
現在ある在庫の帳簿価額で評価していく方法です。
原価法には下記の6種類の評価方法があります。
- 総平均法‥‥期首の取得価額と新たな仕入れ時の価額を合算して平均した価格で評価する方法
- 個別法‥‥それぞれ仕入れた時の価格で評価する方法
- 先入先出法‥‥直近の仕入れ時の価格で評価する方法
- 移動平均法‥‥仕入れごとに都度平均単価を計算して評価する方法
- 最終仕入原価法‥‥期首の最後に仕入れた価格で評価する方法
- 売価還元法‥‥期末販売価額の総額に原価率を掛けた価格で評価する方法
申請をしない限りは原価法を使用し、原価法の中でも「最終仕入原価法」(期末の一番最後に購入した単価を使用)で評価して計算します。
2.低価法
棚卸資産の原価法の帳簿の価格と、期末時価の価格を比較して低い方の単価で評価していくという方法です。
棚卸資産に含み損がでたときは、強制的に低価法で評価をしていきます。
また損失を計上できるので節税効果がある反面、原価法の帳簿の価格計算のほかに、期末時価を計算しないといけない等手間がかかる方法です。
実地棚卸は人数・責任者・監査に注意する
実地棚卸の実施人数は2名1組
実地棚卸をする時は2名1組で作業を行います。
2名1組で行う理由は一人がカウント、もう一人が記録とカウントミスがないかチェックするという役割をしているからです。
一人で棚卸ができないわけではありませんが、普段の在庫管理者が一人で作業をすると在庫と帳簿が合わない場合でも、帳簿のごまかしができてしまいます。
そのことを未然に防ぐためにも、実地棚卸は必ず2名1組で行うようにしましょう。
知識や経験のある責任者を配置する
実地棚卸の当日は、作業がスムーズに進められるように、作業説明等を含めたサポートができる責任者を配置しましょう。
実地棚卸を行う責任者には、在庫商品の知識や商品の置かれている場所の把握、商品が破損していないかの判断等ができる人物が望まれます。
また、人をまとめることのできる信用や、在庫を正しくチェックできる目等、責任者選びも重要なポイントです。
責任者には、事前の準備やスケジュールの作成等も行ってもらいましょう。
監査手続の棚卸立会がある
実地棚卸をする際に、監査人が同席する棚卸立会を行うことがあります。
棚卸立会とは、作業の様子を視察したり監査人自らが在庫のカウントを行ったりすることです。
その際に、監査人から書類の提出を求められることがあるでしょう。
求められることが多い書類は「在庫リスト」ですが、実地棚卸が終わった後日に、「棚卸実施要領」や「入庫伝票」等の提出を求められることもあります。
実地棚卸と帳簿棚卸の違いは?差異が生じた場合の対処法を紹介
実施棚卸は「現物の値」帳簿棚卸は「理論値」
「帳簿棚卸」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。両者の違いはどのような点でしょうか。
実地棚卸が、実際に品物を数えて出した現物の在庫数であるのに対し、帳簿棚卸は品物の入出庫の際に都度記入する帳簿上の在庫数を指します。
実際の在庫数と帳簿上の在庫数は合致することが理想ですが、多くの商品を扱っている以上必ずしも合致するとは限りません。
では、実地棚卸と帳簿棚卸の数値に差異が発生している場合はどのように処理をしたらよいでしょうか。次でご紹介しましょう。
差異がある場合は帳簿を修正・棚卸誤差率を算出する
実地棚卸と帳簿棚卸は一致するのが本来の姿ですが、何らかの理由で一致しない場合は、帳簿の修正を行いましょう。
このとき、帳簿の修正だけを行うのではなく、不一致となった原因を追及する必要があります。
- 仕入れた商品がまだ届いていない
- 帳簿に記載するときの数字を間違えてしまった(6を0等)
- 紛失や破損等
こうして原因を探り対策を講じることが差異をなくすことに繋がります。また、差異が発生した場合は棚卸誤差率も算出しておきましょう。
算出方法は以下です。
棚卸誤差率=在庫差異数量÷棚卸後の数量×100
数量ではなく金額で出す場合やアイテムごとに出す場合は在庫差異数量の部分を金額やアイテム数に置換えて計算します。
事前に、この棚卸誤差率の目標値を定めておきましょう。一般的には、目標値を【0.1%】としている企業が多いようです。
まとめ
実地棚卸をする理由は、在庫数の把握と利益を確認することです。
基本的には、年度末に1回、決算前には必ず行う作業ですが、年に数回行うことで、年度末の負担を減らすことができるため、複数回行う企業もあります。
実地棚卸の目的は下記の4点です。
- 利益を確認するため
- 商品の在庫数や状態を確認するため
- 不正の発見や防止のため
- 帳簿数量とすり合わせるため
実地棚卸をスムーズに行うために、責任者を決めスケジュールを設定する等、事前に準備をしておきましょう。
また、実際の在庫数と帳簿上の在庫数が合わなかった場合は、その原因を探り対策を講じることも大切です。
年に1度、必ず行うべき作業なので、ポイントを押さえてしっかりと準備をしておきましょう。