売掛金の入金チェックは行っていても、未入金のリスクや回収不能になった場合の対策まで考えている方は少ないのではないでしょうか。
今回の記事では、下記内容についてお伝えします。
- 回収できないことのリスクとは?
- 入金が遅れている時にやるべきこと
- 回収するまでの4つのステップ
- 回収が難しい場合の5つの法的手段
- トラブル回避のために取っておくべき対策
本記事を参考に売掛金の回収不能リスクや、遅延時の対応方法などを理解するようにしましょう。予め知識を入れることで万が一の際にも、迅速な対処ができるでしょう。
売掛金の基礎知識と回収できないリスク
売掛金とは、商品・サービスを販売してから一定期間後にお金を受け取ることのできる権利を意味します。取引先との信頼関係を前提に、まとまった金額の「後払い」を了承することです。
もちろん入金してもらうことを前提にしていますが、「支払い忘れていた」「経営状況が厳しく支払いが困難」等の理由により回収できないケースも出てくるでしょう。この章では「回収できない場合にどんな影響があるのか」等、企業の抱えるリスクについて紹介します。
売掛金が回収できないことは企業にとって悪影響
売掛金の未回収は、企業にとって主に3つの悪影響を及ぼします。
・資金繰りの悪化
仕入先への支払いや給与等、毎月お金は出ていきます。売掛金の回収ができないということは、その支払いにあてる資金が不足してしまうかもしれません。支払不能は倒産の可能性を高めてしまいますし、支払遅延は取引先からの信用を失い、今後の取引に影響を及ぼしてしまうでしょう。
・金融機関の評価ダウン
回収できていない売掛金が多いと、金融機関からの評価が下がってしまいます。「お金の管理ができていない」と判断され、もし融資をしても「返済できないかもしれない」と評価されてしまう可能性が高いでしょう。
・本来の業務ができない
回収するために社員が動かなければいけません。その結果、本来やるべき業務を行うことができないので生産性が低下してしまいます。
売掛金には時効がある
実は「お金を受け取る権利」には時効があり、民法166条で下記のように定められています。
- 受け取る権利を行使できると知ってから5年
- なんらかの事情により権利行使できることを知らなかった場合は10年
しかし、時間の経過を「停止」または「更新」することもでき、それぞれ下記内容が該当します。
- 停止
・訴訟を起こしたり、支払督促等の裁判上の請求を起こした場合。
・取引先に対して、強制執行が行われた場合。
- 更新
・取引先が、まだ支払っていないことを認める。または総額の一部を支払った場合。
・裁判上の請求を起こし、その権利が認められた場合。
・強制執行が行われても、全額回収ができなかった場合。
まずは遅滞させないことが大切
何より大切なのは、期日を守って入金してもらうことです。
そのために会社としてできることを、下記に挙げます。
- 入金がない場合にすぐ気づけるように、売掛金の管理体制を整える。
- 営業担当者は常に取引先の経営状況を気にかけておく。
また、新規で取引先ができた場合には、下記を行うようにしましょう。
- 取引を行っても大丈夫な会社なのか、経営状況の確認をする。
- 取引開始後しばらくは「支払期日」「金額」を伝える。
それまで支払いが滞ったことがないのに、期日を守らないことが増えてきた場合も要注意です。小さな予兆も見逃さないように、しっかり管理していきましょう。
売掛金の回収が遅滞したときにやるべきこと
出荷を停止する
社内で管理体制を整えていても、先方の経営状況に気をかけていたとしても、それでも支払いに遅延が生じてしまう可能性がゼロになることはありません。
もし支払いに遅れが出た場合は、まず新しい出荷の停止を行いましょう。追加で未入金分を増やさないためにも大切な処置となります。また、取引先に対しては「未払分の支払いを行うまで(もしくは、支払いの目処が立つまで)は取引の停止とする」旨を、しっかり伝えることも重要です。
相殺可能な債務がないか確認する
支払いをしてこない取引先に対して、相殺可能な買掛金があるか確認しましょう。未入金額以上の買掛金があるのが一番理想ではありますが、もしそれ以下でも回収不能な金額を減らすことができるので、効果的な方策です。
そして、相殺を行うと決めた場合は、速やかにその旨を記載した書類を作成して先方に送付しましょう。なぜなら、相殺は債権者からの一方的な意思表示によって認められるからです。また、取引先が倒産手続きを始めてしまうと、相殺という手法が取れなくなる可能性が出てきます。スピード感を持って対応しましょう。
該当する売掛金の契約内容を確認する
支払いの遅延が起きたら、その取引に関する契約内容を確認しましょう。
取引先が捺印してある書類であれば、契約書、注文請書等の決まりはありません。先方が支払い金額について了承していることを証明する重要な書類となります。もしない場合は、金額についてお互いの合意が得たことを証明できる資料を準備しておきましょう。
また、契約書がある場合は、下記2点についても確認します。
・期限の利益喪失条項の有無
条項があるのであれば、もし複数回の支払いで設定されていても、初回の支払いが遅延した時点で全額請求を行えます。
・所有権の移転時期の記載
もし代金支払い時に所有権が移転すると記載があれば、商品の回収が可能となります。
売掛金の順を追った回収方法
①内容証明郵便で支払の催促をする
内容証明郵便を送り、支払いの催促を行いましょう。今後法的な対応を取る場合は、取引先に対して「いつ支払いの催促をしたか」が重要になります。この証明書類となるのが、「いつ・誰が・誰に対して・どのようなことを伝えたか」を証明してくれる内容証明郵便です。
ちなみに、もし顧問弁護士がいるのであれば、差出人は弁護士名で送付するのが効果的でしょう。今後法的な手続きに進む予定があることを、先方に警告することができるからです。
②口頭や書面で交渉する
次に、口頭または書面によって支払いを行うように交渉します。
ここで先方が支払いの意志を示したら、是非「合意書」の作成をしましょう。
もし裁判を行うことになった場合に、証拠書類として有効であるからです。
交渉しても支払いに応じてもらえない場合は、次のステップに進みます。
③同意のうえ商品の回収を行う
支払いについて交渉しても同意を得られない場合は、商品の回収を行います。もし先方が商品をそのまま保管していれば、同意を得た上で回収することが可能です。同意を得ずに強制的に行うと、罪を問われてしまう可能性があるので注意しましょう。
回収できた商品については、他の取引先に販売する等して、費用の回収を目指すことができます。
④相手先が持っている債権を譲り受ける(債権譲渡)
支払いに応じてもらうことも、回収できる商品もなかった場合の方法として、債権譲渡があります。債権譲渡とは、支払いに応じない取引先が保有している売掛金を譲ってもらうことです。
支払いに応じない会社をX社、X社が売掛金を保有している会社をZ社と仮定します。
今回のケースでは、Z社に対して「X社ではなく自社の口座に入金すること」を依頼しましょう。譲渡債権は、取引先に現金や商品がなくても現金回収できる有効な方法です。
どうしても回収ができない場合の法的手段の方法・5つ
①公正証書で合意書を作成する
公正証書とは、公証人によって作成される公文書のことです。
取引先も一緒に公証人役場に行かなくてはいけませんが、公正証書の中に「強制執行」についての文言を記載することで、訴訟を起こさなくても財産を差し押さえることができるようになります。
②裁判所から支払督促してもらう
自社からではなく、裁判所から支払いを催促する書類を先方に送付してもらう制度です。
下記のような特徴があります。
- こちら側の一方的な手続きで行える
- 裁判所書記官によって行われる書類審査を通れば、文書が発行される
- 証拠の提出は不要
- 一度裁判所に出向くだけで行える
- 最短1か月半で結果が確定する
- 裁判での判決と同等の効力を持ち、かつ時効の経過もリセットされる
- 訴訟と比較して、費用負担が小さく済む
もし取引先が支払督促に対して異議申し立てをした場合は、民事訴訟となってしまいます。よって、売掛金の内容について、双方で同意している場合に向いている方法です。
③民事調停を行う
民事調停とは、第三者である調停委員が間に入って簡易裁判所で行われる話し合いのことです。調停委員が話し合いで解決できるように、打開策の提案等を行ってくれるでしょう。
和解に至った場合は、確定判決と同等の効力を持つ調停調書が作成されることになります。よって、ほかに手続きを行うことなく強制執行まで行うことが可能です。
④訴訟を起こす
簡易裁判所で1日の期日で判決まで終えることが原則になりますが、少額訴訟という特別な裁判手続きを行うこともできます。ただし注意点があり、売掛金の金額が60万円以下の場合しか利用できません。
しかし、判決には仮執行の宣言が付いているため、確定判決が出る前であっても強制執行を行うことができるのが特徴です。
⑤強制執行で債務者の財産を差し押さえる
ここまで紹介した方法で、取引先から支払いに応じてもらえる可能性はあるのではないでしょうか。しかし、それでも応じない場合の手段として、強制執行があります。
下記に強制執行で行える例を、いくつか挙げます。
- 銀行口座の差し押さえを行い、口座残高から売掛金の回収をする
- 債務者が商品を既に転売していた場合は、その代金を自社に支払ってもらう
- 不動産の差し押さえを行い競売にかけて、売却代金を受け取る
売掛金回収トラブルを避けるための対策
売上債権回転率を把握しておく
資金不足に陥って倒産してしまうことを防ぐためにも、売上債権回転率(=売上高÷売上債権)を把握しておくことは重要です。
回転率が高いほど、売掛金を回収するまでの期間が短いことを意味します。業種による違いはありますが、一般的に「6回以上」であれば回収状況は良く、逆に「3回以下」は問題があることが多いです。「回収できていない売掛金は存在していないか」「支払いが滞っている取引先はないか」等を、あらためて確認しましょう。
与信管理を徹底する
与信管理とは取引先の経営状況を確認し、「安全に掛取引を行えるか」「支払い能力はあるか」等を判断することです。
新規で取引先を考えている時、行っている企業は多いのではないでしょうか。しかし、経営状態は日々移り変わります。既存の取引先であっても、定期的に実施することが大切です。もし経営状態が悪化している取引先が見つかった場合は、現金取引等にすることで未然にトラブルを防ぐことができるでしょう。
顧問弁護士がいなければ相談できる弁護士を探しておく
いざという時のために、すぐに相談できる弁護士を探しておきましょう。回収不能になっている場合の対応はもちろん、新しい契約を結ぶ際に記載内容に問題はないか確認してもらうこともできます。
アドバイスをいつでも受けられる状況にしておくことで、売掛金のトラブルが起こりづらい社内体制に整えていけます。
まとめ
今回の記事では、売掛金の回収についてお伝えしてきました。
- 資金不足で支払不能にならないためにも、売掛金の回収は経営上とても重要である。
- 時効もあるので、まずは遅延がないよう入金してもらうことが大切。
- 出荷停止や内容証明郵便の送付等、もしもの時にできることを押さえておく。
- どうしても回収できない場合には、法的手段を取ることも可能。いざという時に備えて、相談できる弁護士を探しておく。
売掛金が回収できないトラブルは他人事ではありません。売掛金には、どのようなリスクがあるのか、回収できない際はどのように対応したらよいのかしっかりと頭に入れておきましょう。