近年では日本企業もグローバル化が進む中で、国際会計基準の適用の要求が高まっています。
海外の動向次第では、将来日本でも国際会計基準が義務化される可能性があります。
この記事では、次のような内容を解説します。
- 国際会計基準が誕生した背景から現状まで
- 日本会計基準との違い
- メリットとデメリット
- 導入の手順
企業の担当者の参考になれば幸いです。
国際会計基準(IFRS)とは|歴史や現状を簡単に紹介
国際会計基準とは130超の国で適用している会計基準のこと
「国際財務報告基準」とは国際会計基準審議会が作成する会計基準です。
- 国際財務報告基準:International Financial Reporting Standards(IFRS)
- 国際会計基準審議会:International Accounting Standards Board(IASB)
経済のグローバル化で、国際的な資本活動が活発になることに伴って、各国で違う会計基準で作られた財務諸表では、比較しづらいという問題が生まれてきました。
これに対して、国際的な会計基準の統一が必要とされ、国際財務報告基準が中心的な役割を果たしています。
2005年には、EU域内の上場している企業の連結財務諸表に対して、国際財務報告基準が強制的に適用されました。
2008年には、G20が「統一されたで高品質な国際基準の方針を立て物事の処置を定めること」を目標としたのです。
これらを契機に、国際会計基準は世界的に急速に広がり、現在は130か国以上で採用しています。
採用の方法は、任意適用、強制適用、自国基準を国際財務報告基準に近づけていく「コンバージェンス」など色々な形態があります。
世界の会計制度は、国際会計基準の影響を強く受けているのです。
策定されるに至った背景と歴史
1973年に、各国の指導的な会計士団体の合意によって、国際会計基準委員会が設立されました。
※国際会計基準委員会:International Accounting Standards Committee(IASC)
当初の参加国は、オーストラリア、 フランス、 旧西ドイツ、 日本、メキシコ、 オランダ、 英国イギリス、アイルランド、アメリカでした。
国際会計基準委員会の設立の主な目的は、国際的に承認・理解できる財務諸表を作るために、国際会計基準を作ることです。
国際会計基準が求められる理由には次のような事が容易になるからです。
- 投資家の、外国企業の財務諸表への理解
- グローバル企業の、連結財務諸表の作成
- 在外子会社の財務諸表の作成や業績の評価、また子会社間の比較
- 買収・合併に際しての外国企業の評価
- グローバル企業の監査の負担
- 会計事務所のスタッフ、グローバル企業の会計スタッフの海外移動
国際会計基準委員会の作成した会計基準を「国際会計基準」と呼びます。
※国際会計基準:International Accounting Standards(IAS)
国際会計基準は2001年に国際会計基準審議会に引き継がれました。
国際財務報告基準と国際会計基準は、国際会計基準審議会による適正な手続きに基づいて順次改定されています。
日本における国際会計基準|導入の現状
日本では、連結財務諸表を日本基準に準拠して作成することが求められ、国際的な動向に合わせた、財務諸表の品質を高める取り組みが進められてきています。
2005年以降、国際会計基準の動向に合わせた会計基準のコンバージェンスの動きが進みました。
2007年、日本の企業会計基準委員会と国際会計基準審議会との間で国際財務報告基準とのコンバージェンスの取り組みに関する「東京合意」を発表しました。
企業会計基準委員会を中心として、東京合意に基づく計画に従ってコンバージェンスを積極的に進めることになったのです。
2008年、欧州委員会(EC)は、日本会計基準を国際会計基準と同等であると最終的に認めています。
2009年、「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書」が公表されました。
2012年、「国際会計基準への対応のあり方についてのこれまでの議論」が公表されました。
2014年、「『日本再興戦略』改訂 2014」にて、「国際会計基準 の任意適用企業の拡大促進」が閣議決定として初めて明記されたのです。
2016年、国際会計基準の任意適用企業120社
2020年、国際会計基準の任意適用企業242社
2021年、「収益認識に関する新しい会計基準」すなわち「新収益認識基準」の強制適用が開始されています。
売上計上における国際会計基準と日本会計基準の取り扱いの違い|4つのポイントから比較
まずは両者の違いを表でご確認ください。
国際会計基準 | 日本会計基準 | |
---|---|---|
会計処理 | 原則主義 | 細則主義 |
重要視する財務諸表 | 貸借対照表 | 損益計算書 |
親会社と子会社 | 経済的単一体説 | 親会社説 |
のれん(純資産評価よりも高額で合併買収をした場合の買収差額) | 償却しない | 20年以内で定額償却 |
収益認識基準 (売上計上基準) | 義務を履行したときに売上として計上する(実現主義) | 現金等を受け取って、商品やサービスの受渡が実現したときに売上を計上する ※2021年から国際会計基準と同様の基準 |
非上場株式の貸借対照表計上額 | 時価評価 | 原則として取得原価 |
合併買収時に受け入れた無形資産の評価(買収側) | 日本基準より幅広い無形資産を時価評価 | 法律上の権利や売却可能な無形資産は時価評価 |
固定資産の耐用年数 | 企業が使用すると予定する期間 | 法人税の耐用年数 |
研究開発費 | 研究費:発生時に処理 開発費:要件を満たす場合は資産計上 | すべて発生時に費用処理 |
1. 会計処理の考え方の違い
国際会計基準では、会計処理の根拠として原理、原則を重視する、原則主義に基づきます。
対して、日本会計基準では、細かく決定された一定のルールに従うことを重視する、細則主義に基づくのです。
例えば、「正しく生きる」という原則だけを提示するのが原則主義です。
「嘘をつかない」「人の物を盗まない」「人と喧嘩をしない」等、原則を実行するための具体的な細かい規則を作るのが細則主義の考え方です。
原則主義のデメリットは、原則だけを基準としているので、企業ごとに細部で違ってくる可能性があります。
これに対しては、企業間の基準の認識の違い、ギャップを埋めるための作業が必要となるでしょう。
2. 重要視する財務諸表の違い
決算書において、国際会計基準と日本会計基準では重要視している財務諸表が違います。
国際会計基準では賃借対照表を重視し、日本会計基準では損益計算書を重視します。
国際会計基準で重視する賃借対照表は、ある特定の決算日の企業の資産、負債、純資産の金額と内訳を示し、企業の資金調達方法や財政状況がわかるので、企業価値を表す財務諸表と言えるでしょう。
これに対し、日本会計基準で重視する損益計算書は、決算期の企業の利益と支出を示し、該当する決算期の損益の原因や金額が分かるので、企業の業績を表す財務諸表です。
3. 親会社と子会社の関係の違い
国際会計基準は、親会社も子会社も経済的にひとつであるという考えの、経済的単一体説を採用しています。
ですから、連結財務諸表は親会社の株主のためにだけではなく、集団を構成する親会社と子会社のすべての株主のために作られるべきだとしています。
これに対し、日本会計基準では、連結財務諸表は親会社のために作られるべきであるという、親会社説を採用しています。
連結財務諸表は、親会社の財務諸表の延長線として、親会社の株主のみに報告する書類という考え方です。
4. のれんの償却方法の違い
会計上の「のれん」とは、合併買収によって会社を買収した際の価格とその子会社の純資産額との差額で、会社の個別財務諸表には表されない超過収益力です。
日本会計基準では、のれんを20年間定額法で償却するので、のれん償却の期間中は償却費分の利益が減少することになります。
国際会計基準では、定期的な償却は行わず、最低年に1回は減損テストをします。
のれんについての詳しい記事はこちらをご覧ください。
国際会計基準適用で得られる効果・メリットとは
国外に向けた取引が容易になる
日本企業も、世界的に事業を展開することを避けては通れません。
原料の調達から生産、販売に至るまで海外に拠点を持つ企業は、増加の一途です。
海外子会社等を含めた企業集団の経営管理が重要になってきます。
国際会計基準を適用することによって、世界の同業他社との比較ができるようになったり、海外の子会社等を含めた企業集団の管理に必要な情報が得られたりすることでしょう。
また、国際会計基準に対応することで、海外の子会社等を同じ基準で管理できます。
業績を正確に把握できるだけでなく、それぞれの子会社等の違いを確認できるのです。
資金を収集する手段が増える
日本会計基準で作られた財務諸表は、海外投資家は容易に理解できません。
国際会計基準を適用していれば、海外で資金を調達する場合でも、会計基準に違いがないためあらためて説明する必要はありません。
世界で共通の会計基準である国際会計基準を適用することで、企業が投資に値するかどうかの判断する材料を容易に提供できるのです。
企業価値を正確につかめる
国際会計基準は、貸借対照表を重視しているので、お金の流れを基準とした企業の将来価値を把握できます。
日本会計基準と国際会計基準の相違点では、のれんの評価方法や、非上場株式の価値の評価方法等が挙げられているのは前述の通りです。
これらの点においても、国際会計基準の方が実態に合った評価方法であり、企業の価値を正確に判断できます。
国際会計基準で企業がネックに感じる部分・デメリットとは
管理する帳簿が増える
国際会計基準を採用しても、日本国内ではそれが通用するわけではありません。
会社法上では日本会計基準での資料が必要であることに変わりはなく、複数の帳簿を国際会計基準用と日本会計基準用として作成する必要があります。
また、原則主義に基づく国際会計基準では、注記するべき事項が多くなるので、事務作業も多くなり、担当者への負担が重くなるでしょう。
システム・監査などに大きな費用が発生する
会計基準を変えると、まずはシステムの変更に大きな費用が発生します。
新しいシステムの運用のためには、担当する社員等への教育にも費用が必要です。
監査においても、管理する帳簿が増えるわけですから日本会計基準だけのときよりも、余分に費用が発生すると言えます。
複雑な会計基準の理解の難しさと慣れるまでの苦労がある
日本会計基準と国際会計基準では考え方が違うことが多いだけでなく、原則主義の基準には難解な部分も多いので、簡単に適用できないのが現状です。
国際会計基準は改正されることが多いので、そこにも注意を払っていかなければなりません。
まだまだ日本での適用例が少なく、参考となる情報も限られていますので、慣れるまでは自社でノウハウを構築していく必要があります。
国際会計基準・適用判断|どのような企業が取り入れているか
最も前から適用している5社 | 業種分類 |
---|---|
日本電波工業 | 電気機器 |
HOYA | 精密機器 |
住友商事 | 卸売業 |
日本板硝子 | ガラス・土石製品 |
日本たばこ産業 | 食料品 |
最も最近適用した5社 | 業種分類 |
---|---|
資生堂 | 化学 |
ペプチドリーム | 医薬品 |
TDK | 電気機器 |
愛知製鋼 | 鉄鋼 |
日本新薬 | 医薬品 |
実際に国際会計基準を適用するべき企業としては、次のような条件が挙げられます。
- 時価総額が大きく外国人株主比率が高いこと
- 海外売上比率が高いこと
- 国際会計基準適用のコストを吸収できること
国際会計基準の導入を検討すべき企業としては、次のようなことが考えられます。
- 海外売上比率に限らず海外との取引が多い
- 海外に向けた事業展開を考えている
- 海外での合併買収の計画がある
国際会計基準を自社に導入する手順と要点
企業で導入する流れを見てみよう
まずは、国際会計基準と日本会計基準との違いを理解した上で、適用する時期を決めて計画を立てます。
会計基準を変えることは、単純に経理・会計の担当部署だけのことではありません。
関連があるすべての部門に、その趣旨を周知させた上で、必要な教育を行い、国際会計基準への理解を浸透させましょう。
導入にあたって予算や、業務の流れの変化を明確化させておきます。
最後に、新しい会計システムを導入し、運用を進めながら修正、改善を並行して行いましょう。
初年度は過去2期分の財務諸表を作らなければならないので、担当者は準備が必要です。
導入によって企業に与える影響を幅広い範囲で把握しよう
国際会計基準の導入には、それが企業に与える影響を把握することが重要です。
売上計上基準 | 重要なリスクおよび経済価値が買い手に移転している場合に売上計上 |
固定資産会計 | 自ら耐用年数を設定して償却計算 法人税法と国際会計基準と2通りの計算を行う |
決算(財務諸表) | •元帳を現地会計基準と国際会計基準の2つを用意する •勘定科目を現地会計基準と国際会計基準に分けて運用する •現地会計基準で作った元帳を、連結パッケージシステムを使用して国際会計基準に変換する |
システム | •国際基準に対応したものに変更する •単体会計システムから連結会計システムに連携する際にETL「Extract (抽出)」「Transform (変換)」「Load (書き出し)」等を使う |
国際会計基準の資格|知識を測ることができる2つの検定
①IFRS検定(国際会計基準検定)
運営 | イングランド・ウェールズ勅許会計士協会 |
目的 | 国際会計基準の広範囲な知識と理解力を測る |
受験資格 | 無 |
合格基準 | 正答率60% |
出題言語 | 日本語 |
②BATIC(国際会計検定)
主催 | 東京商工会議所 |
目的 | 英文簿記と国際会計理論の基礎知識を測る さらに、基礎知識を理解したうえでの応力を測る |
受験資格 | 無 |
合格基準 | 1,000点満点のスコア性 |
出題言語 | 英語 |
まとめ
経済がグローバル化する中で、国際的な会計基準の統一の必要性が提言されてから50年近くを経て、130ヶ国以上で「国際会計基準」が適用されるようになりました。
日本では2010年以降、これを適用する企業が出はじめ、現在では200社を超える企業が適用しています。
国際会計基準と日本会計基準の違いはいくつもありますが、重要になってくるのは、4つです。
- 会計処理の考え方
- 重要視する財務諸表
- 親会社と子会社の関係
- 「のれん」の取り扱い
海外の企業と取引する、ないしは海外から資金を調達することにおいて、国際会計基準の導入には大きなメリットがあります。
しかし、実務の煩雑さ、導入の際の費用、実務量の増大など、ネックになる部分も多く有ります。
導入の際の影響を十分に把握して、御検討されてはいかがでしょうか。