固定資産の資産売却の目的は、売却することで得る売却代金で資金調達をし、資金繰り問題の改善を目指すことにあります。
固定資産を売却するメリットは、次のようなことが考えられます。
- 資金調達をすることができる
- 資産の維持費が軽減される
- 自己資本比率や総資本経常利益率の改善が期待できる
- 節税効果が見られる
この記事では、固定資産売却時の仕訳の例を具体例を挙げて解説します。
固定資産売却の仕訳について、利益や損失が出た場合は、期中の仕訳について紹介していきます。
固定資産の売却における仕訳に必要な勘定科目について解説
売却価額が帳簿価額より高いと「固定資産売却益」
固定資産売却益とは、土地や建物等の固定資産を帳簿価額より高く売却した場合に発生した売却益のことです。
帳簿価額とは、「簿価」という略語で記されます。
帳簿に記載されている評価額のことを言い、下記の式で算出することができます。
取得原価ー減価償却累計額 = 帳簿価額
毎決算ごとに決算資料に記録されていますので、固定資産を売却したら確認しましょう。
具体的には、土地売却益、建物売却益、機械設備売却益、車両運搬具売却益等がありますが、独立した科目にするか「固定資産売却益」という科目にするかは企業の重要性判断となります。
売却に際しては手数料等の経費が発生しますが、これらは売却益から差し引いて計上しましょう。
固定資産についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>固定資産とは? 種類や減価償却資産との区別、租税優遇措置を解説
売却価額が帳簿価額より低いと「固定資産売却損」
固定資産売却損とは、固定資産を帳簿価額より低く売却した時の損失のことです。
具体的には、土地売却損、建物売却損、機械設備売却損、車両運搬具売却損等があります。
売却に際しては手数料等の経費が発生しますが、これらは売却損に含めて計上しましょう。
固定資産売却損益の決算書における位置付けは「特別損益」
決算書上では固定資産売却損益は、企業会計原則の規定により一般的には「特別損益」に位置付けられます。
「特別損益」とは、特別に起こった損益や固定資産の売却損益等のことです。
よく混同される言葉に営業外損益がありますが、これは本業以外で常に起こる損益で、特別、ないしは臨時的な損益ではありません。
営業外利益には、受取利息、受取配当金、仕入割引、為替差益、雑収入等が、
営業外損失には、支払利息、売上割引、支払手数料、手形売却損、電子記録債権売却損、債権売却損、為替差損、貸倒損失等が挙げられます。
特別損益は、特別利益と特別損失に区分しなければなりません。
営業利益に営業外損益を加減算することで、経常損益になります。
経常損益に特別利益と特別損失を加減算することで、税引前当期純利益となるのです。
固定資産の売却における仕訳では3つポイントに注意する
①固定資産の売却で発生した手数料は計上の必要がない
前述通り、固定資産売却損益は、固定資産を売却する時の帳簿上の価額と売却価格の差額です。
固定資産を売却する際に発生する、売却手数料や印紙代等の経費は、売却で得た収入から差し引いて計算します。
ですから、手数料は別途計上する必要はありません。
②固定資産についても消費税は利益の有無に関係なく発生する
まず、土地の売却は非課税売上ですので、消費税は発生しません。
その他の固定資産の売却では、消費税は売却金額に対して発生します。
法人税や所得税の場合は、売却益に対して課税されますが、消費税は損益と係わりなく売却金額に課税されるのです。
固定資産の売却で利益が出ていても、損失が出ていても、消費税が発生することには違いがありません。
③期中に自己株式を売却したときの減価償却費の取り扱いは原則処理と按分の2パターン
税務上は固定資産に対する減価償却費は期末に保有しているものに対して算出するので、基本的には期中に売却した場合は計算を行いません。
期中に売却した際は、売却をした期首の帳簿価額を用いることで固定資産売却損を計算することが多いようです。
月割で按分すれば、期中であっても算出することができますので、厳密に減価償却費を算出したいのであればこの方法で行いましょう。
会計処理上は減価償却費として計算した数字は、固定資産売却損益で調整することになるので、期中で計算を行っても行わなくても、最終的な利益や税金は変わりません。
そのため、期中の固定資産を売却した際に、厳密に計算を行わずに期首の簿価を使って計算を行っても問題ないことになります。
減価償却や耐用年数についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
固定資産の売却に関わる損益の求め方を紹介
固定資産売却損益の計算方法|売却価格と帳簿価額の差
先述のとおり、固定資産売却損益を計算するには、当該固定資産の売却価格から、その固定資産の帳簿価額と売却手数料や印紙代等の経費を差し引いて算出します。
固定資産の売却価格-(固定資産の簿価+固定資産売却経費)=固定資産売却損益
帳簿価額の計算方法|取得原価と減価償却累計額の差
帳簿価額を計算するには、当該固定資産の取得原価から、決算書上の減価償却累計額を差し引きます。
固定資産の取得原価-減価償却累計額=固定資産の帳簿価額
固定資産の売却における仕訳例を直接法・間接法それぞれで解説
減価償却を表示する方法「直接法」「間接法」についておさらいしよう
減価償却の記帳方法には、「直接法」と「間接法」の2種類があります。
直接法では、減価償却費勘定を借方、当該固定資産勘定を貸方に記入し、その帳簿価額を直接減らす方法で、借方残高はその固定資産の未償却残高を表します。
間接法では、固定資産勘定は取得時のままにしておき、別に減価償却累計額勘定を作ってその借方へ償却額を記帳する方法です。
減価償却累計額勘定は評価勘定で、当該固定資産勘定は取得原価を、減価償却累計額勘定は償却累計額を示します。
両勘定の差額が当該固定資産の未償却残高を表すので、直接法より情報量が多く、優れた方法と言えるでしょう。
車両の売却によって利益が出たケースの仕訳例
車両(取得原価100万円、減価償却累計額40万円)を70万円で売却して、現金で代金を受け取った場合の仕訳を見ていきましょう。
直接法の場合
- 売却する車両の簿価60万円を貸方に記帳します。
- 売却で受け取った現金の70万円を計上します。
- 利益が出た場合は貸方に利益を計上します。今回は車両売却益10万円を計上します。
借方 | 貸方 |
---|---|
現金 700,000 | 車両 600,000 |
車両売却益 100,000 |
間接法の場合
- 売却する車両の取得原価100万円を貸方に、車両減価償却累計額の40万円を借方に記帳します。
- 売却で受け取った現金70万円を計上します。
- 利益が出た場合は貸方に利益を計上します。今回は車両売却益10万円を計上します。
借方 | 貸方 |
---|---|
車両減価償却累計額 400,000 | 車両 1,000,000 |
現金 700,000 | 車両売却益 100,000 |
建物の売却によって損失が出たケースの仕訳例
建物(取得原価500万円、減価償却累計額200万円)を200万円で売却して、現金で代金を受け取った場合の仕訳を見ていきましょう。
直接法の場合
- 売却する建物の簿価300万円を貸方に記帳します。
- 売却で受け取った現金の200万円を計上します。
- 損失が出た場合は借方に損失を計上します。今回は建物売却損の100万円を計上します。
借方 | 貸方 |
---|---|
現金 2,000,000 | 建物 3,000,000 |
建物売却損 1,000,000 |
間接法の場合
- 売却する建物の取得原価の500万円を貸方に、建物減価償却累計額の200万円を借方に記帳します。
- 売却で受け取った現金の200万円を計上します。
- 損失が出た場合は借方に損失を計上します。今回は建物売却損の100万円を計上します。
借方 | 貸方 |
---|---|
建物減価償却累計額 2,000,000 | 建物 5,000,000 |
現金 2,000,000 | |
建物売却損 1,000,000 |
機械の売却を期中に行ったケースの仕訳例
基本的には、期中に売却を行った場合は減価償却費の計算をしませんが、流れを確認してみましょう。
当該会社は(年1回3月31日決算)は令和1年4月1日に購入した機械設備(取得原価30万円)を令和3年9月30日に売却して、代金15万円は現金で受け取ったとしましょう。
この機械設備は、定率法(償却率20%)により償却しています。
この仕訳を見ていきましょう。
直接法の場合
- 機械設備の減価償却累計額を計算し、その簿価を算出します。
1回目:300,000×20%=60,000
2回目:(300,000-60,000)×20%=48,000
当期:(300,000-108,000)×20%÷12ヶ月×6ヶ月=19,200 - 売却する機械設備の簿価172,800円(300,000-60,000-48,000-19,200)を貸方に記帳します。
- 売却で受け取った現金の15万円を計上します。
- 損失が出た場合は借方に損失を計上します。今回は機械設備売却損の22,800円を計上します。
借方 | 貸方 |
---|---|
現金 150,000 | 機械設備 172,800 |
機械設備売却損 22,800 |
間接法の場合
- 機械設備の減価償却累計額を計算し、その簿価を算出し機械設備減価償却累計額の108,000円を借方に記帳します。
1回目:300,000×20%=60,000
2回目:(300,000-60,000)×20%=48,000 - 当期の減価償却費を計算し借方に記帳します。
当期:(300,000-108,000)×20%÷12ヶ月×6ヶ月=19,200 - 売却で受け取った現金の15万円を計上します。
- 損失が出た場合は借方に損失を計上します。今回は機械設備売却損の22,800円を計上します。
借方 | 貸方 |
---|---|
機械設備減価償却累計額 108,000 | 機械設備 300,000 |
減価償却費 19,200 | |
現金 150,000 | |
機械設備売却損 22,800 |
固定資産の除却を行ったケースの仕訳例
事業のために使用できなくなった固定資産を、帳簿上取り除くことを除却すると言います。
当該期首に、5年間使用してきた備品を除却した仕訳を見ていきましょう。
- 耐用年数10年
- 定額法:備品減価償却累計額は10万円
- 取得原価:20万円
直接法の場合
貸方に備品の10万円を、借方に備品品除却損の10万円を記帳します。
借方 | 貸方 |
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備品品除却損 100,000 | 備品 100,000 |
間接法の場合
貸方に備品の20万円を、借方には備品減価償却累計額の10万円と、備品除却損の10万円を記帳します。
借方 | 貸方 |
---|---|
備品減価償却累計額 100,000 | 備品 200,000 |
備品除却損 100,000 |
まとめ
固定資産の売却の際に必要な勘定科目、「固定資産売却益」「固定資産売却損」を紹介しました。
固定資産の売却における仕訳で注意するべき点は、3点あります。
- 手数料の計上の必要がない
- 消費税は利益の有無にかかわらず発生する
- 減価償却には原則処理と按分がある
固定資産売却損益は、ふたつの計算式で求められます。
- 固定資産の取得原価-減価償却累計額=固定資産の帳簿価額
- 固定資産の売却価格-(固定資産の簿価+固定資産売却経費)=固定資産売却損益
最後に固定資産売却での仕訳の例を、直接法と間接法それぞれで紹介しました。
車両、建物、機械、備品を例にとって説明しました。
固定資産の中でも土地は減価償却や除却の対象にはなりません。
固定資産売却の際の参考にしてください。