適正な利益を出していくことは、事業を継続していく上での前提になります。
会社は利益を原資として、財務基盤を維持し、将来に向けた投資を行っていく必要があるためです。
したがって、利益管理をしっかり行っていくことが会社にとっての最重要事項のひとつと言えるでしょう。
その利益管理の代表的な手法に、損益分岐点分析というものがあります。
この記事では、損益分岐点分析とは何かや、その計算方法、損益分岐点を下げる方法等を解説していきます。
まずは「損益分岐点」とは何かを押さえよう
損益分岐点とは、売上高(あるいは販売数量)と費用の差がゼロになる金額
利益の金額は以下の計算式で求められます。
売上高-費用=利益
そして、この利益がゼロになる点のことを損益分岐点と言います。
その名前の通り、利益が出るか損失が出るかの分岐点のことです。
売上高が損益分岐点を超えれば利益が出ますが、逆に損益分岐点に達しなければ損失が出てしまいます。
損益分岐点を分析する際に用いる指標は実は2種類ある
1.損益分岐点売上高
損益分岐点売上高とは、売上高と費用が等しくなる、つまり利益がゼロになる場合の売上高です。
2.損益分岐点販売数量
損益分岐点販売数量とは、利益がゼロになる時の販売数量のことを指します。
利益がゼロになる「売上高」なのか「販売数量」なのかによって用語が異なりますので、混同しないようにしましょう。
「損益分岐点」といえば一般的に損益分岐点売上高を指す
単に「損益分岐点」と言う場合は、一般的には「損益分岐点売上高」のことを指します。
したがって、「損益分岐点」と「損益分岐点売上高」は同じ意味と考えて差し支えありません。
「損益分岐点分析」(CVP分析)とは何か? 目的と共にわかりやすく説明
損益分岐点分析とは売上高・費用・利益の関係を明らかにする手法
損益分岐点分析とは、売上高(Volume)の変化に伴う利益(Profit)および費用(Cost)の変化に関する分析手法のことです。
これらの頭文字を取って「CVP分析」とも呼ばれます。
※以下、CVP分析といたします。
CVP分析を行うことによって、売上高・費用・利益の関係を明らかにし、経営判断に生かすことが可能です。
目的は赤字にならない、売上高の最低限度を知ること
CVP分析を行う目的は、まずは赤字にならないための最低限の売上高水準を把握することです。
そして次のステップとして、目標とする利益を出すにはどれくらいの売上が必要かを算出します。
損益分岐点分析(CVP分析)の計算準備|押さえたい用語を整理しよう
固定費|費用のうち売上高あるいは生産量の変動で増減しないもの
損益分岐点を計算するためには、すべての費用を変動費と固定費に分ける必要があります。
固定費とは、その名前の通り、売上高あるいは生産量(Volume)に関係なく固定的に発生する費用のことです。
代表的な固定費の例としては、以下のようなものがあります。
- 人件費
- 減価償却費
- 事務所の家賃
- 保険料
変動費|費用のうち売上高あるいは生産量の変動で増減するもの
一方、変動費とは、固定費とは反対に、売上高(Volume)の増減に比例して変動する費用のことを指します。
つまり、売上高が増えれば変動費も増えて、逆に売上高が減れば変動費も減ります。
変動費の例を挙げると下記の通りです。
- 材料費
- 買入部品費
- 商品仕入高
- 外注加工費
固定費と変動費の違いについてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>固定費と変動費を徹底解説|違い・分解する方法・重要指標・削減方法
限界利益|固定費を回収可能な最低限の売上高がわかる指標
売上高から変動費を差し引いた金額を、限界利益と言います。
売上高と変動費は比例して増減するため、結果的に限界利益もこれらに比例して増減します。
つまり、売上高が増えればそれに比例して増える利益が限界利益であると言えます。
そして限界利益で固定費を回収できる、つまり限界利益と固定費が等しくなる点が損益分岐点になります。
損益分岐点分析(CVP分析)に必要な数値や指標の計算方法|指標からわかること
数値|固定費・変動費の別を統計的に求める(固変分解・高低点法)
固定費と変動費に分けることを固変分解と言います。
固変分解には色々な方法がありますが、そのうち統計的手法の代表的なものに「高低点法」という手法があります。
高低点法とは、過去のデータのうち、操業度が最高時点と最低時点の総費用等を比べることで変動費率を計算し、固変分解する手法のことです。
具体的には、以下の計算式でまず変動費率を求めます。
変動費率=(操業度が最高時点の総費用-最低時点の総費用)÷(最高時点の売上高-最低時点の売上高)
例えば、以下のような数字の場合で計算してみましょう。
操業度が最高時点・・・・売上高500万円、総費用300万円
操業度が最低時点・・・・売上高300万円、総費用200万円
(300-200)÷(500-300)=0.5
このように変動費率が0.5と計算できます。
この変動費率を操業度が最高時点の数字にあてはめてみます。
売上高500万円×変動費率0.5=変動費250万円
すると、総費用300万円のうち250万円が変動費となり、残り50万円が固定費になります。
このように、異なる操業度で各項目の差額を算出し、そこから変動費率を計算するのがこの手法のポイントです。
指標1|損益分岐点(売上高)
固定費と変動費が計算できたら、損益分岐点売上高を以下の計算式で求めることができます。
損益分岐点売上高=固定費÷{1-(変動費÷売上高)}
なぜこのような計算式になるのかと言うと、以下のように計算式を変形できるからです。
売上高-費用=利益
売上高-変動費-固定費=利益
売上高-変動費-固定費=0(損益分岐点売上=利益0)
売上高-(売上高×変動費率)-固定費=0
売上高(1-変動費率)-固定費=0
売上高(1-変動費率)=固定費
売上高=固定費÷(1-変動費率)
損益分岐点の計算式を理解するためには、このように計算式の成り立ちも理解しておくことが重要です。各計算要素を理解しておくと、固変分解の必要性も理解することができます。
では実際に具体的な数字をあてはめて計算してみましょう。
(前提)
変動費率0.5、固定費50万円
(計算式)
損益分岐点売上高=固定費50万円÷(1-変動費率0.5)
=100万円
売上高が100万円の場合は、変動費が50万円(100×0.5)、固定費が50万円で総費用が100万円になりますので、利益が0となり、計算が正しいことが確認できます。
指標2|損益分岐点比率
損益分岐点比率とは、実際の売上高に対する損益分岐点売上高の割合を指します。
計算式で表すと以下の通りです。
損益分岐点比率(%)=損益分岐点売上高÷実際の売上高×100
例えば、損益分岐点売上高が70万円で実際の売上高が100万円の場合は、損益分岐点比率は70%になります。
この場合は、実際の売上高が7割まで下がっても赤字にならないという意味になります。
どこまで売上減少に耐えられるかということですから、損益分岐点比率は低いほど良いと言えます。
指標3|安全余裕率
安全余裕率は、損益分岐点比率を反対から見た指標です。
安全余裕率は以下の計算式で求められます。
安全余裕率(%)=(実際の売上高-損益分岐点売上高)÷実際の売上高×100
例えば、前項の数字を使うと、安全余裕率は以下のように計算できます。
(実際の売上高100万円-損益分岐点売上高70万円)÷100万円×100=安全余裕率30%
つまり、実際の売上高が30%減少しても赤字にならないということを示しています。
したがって、安全余裕率は高いほど良い指標と言えます。
安全余裕率についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
損益分岐点分析(CVP分析)で求めた指標や数値を自社の問題点把握に役立てよう
CVP分析には色々な活用方法があります。
例えば、目標とする利益から、その利益を達成するために必要な売上高を算出することができます。
その場合は、損益分岐点を求める計算式を少し変形します。
損益分岐点売上高=(固定費+目標利益)÷(1-変動費率)
これは、限界利益で固定費を回収すればいいだけでなく、それに加えて目標とする利益も稼がないといけないためです。
実際に数字を使って計算してみましょう。
(前提)
目標利益1,000万円、固定費300万円、変動費率50%
(計算式)
目標売上高=(300万円+1,000万円)÷(1-0.5)
=2,600万円
この計算結果を確認すると、目標売上高2,600万円を達成すると変動費は1,300万円になり、固定費は300万円ですので、すべて差引くと利益は1,000万円になり、正しいことが確認できました。
損益分岐点分析(CVP分析)に取り組む際に気をつけたい注意点
CVP分析を行う際に気をつけたいポイントがあります。
それは、分析するだけで満足してしまわないことです。
CVP分析を行うと有用な情報を得ることはできますが、その情報を活用して実際の行動に結びつけないと意味がありません。
損益分岐点比率が〇〇%だから安心、または不安ということだけで終わらず、どうすれば損益分岐点をもっと下げられるのかを常に考えていく必要があります。
損益分岐点を現状より低くするためにできること
固定費を低減するための取り組み
損益分岐点を求める計算式は固定費と変動費(率)で構成されていますので、損益分岐点を下げるためには固定費か変動費(率)を下げるしか方法がありません。
固定費の削減方法には以下のようなものがあります。
- 広告宣伝費等の経費を見直す
- 人件費を見直し、外注化することで変動費にできないか検討する
変動費を低減するための取り組み
固定費の削減に比べて変動費(率)を下げることは難しいケースもありますが、変動費(率)は売上規模に比例しますので、売上の規模が大きいほどその削減効果も大きくすることができます。
変動費を低減するためには以下の対策が考えられます。
- 材料の値下げ交渉を行う(相見積もり、まとめ購入等)
- 外注加工費を見直す
その他、変動費率を下げるためには、以下のような方法も考えられます。
- 顧客に対して値上げを行う(相対的に変動費率を下げる)
固定費の低減と効率化に活用しよう|oneplatなら納品書・請求書の受け取り業務を低コストで自動化可能
固定費の中でも多くを占めるのが、やはり人件費です。
固定費を削減するには、生産性を上げて人件費を抑えることが重要です。
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