PPM分析、と聞いてピンとこない方も多いと思います。
花形(Star) | 問題児(Problem Child) |
金のなる木(Cash Cow) | 負け犬(Dog) |
しかし、この組み合わせを見れば、何のことかわかる方もいるのではないでしょうか。
投資配分の判断に使われる分析手法です。
今回は、PPM分析について解説していきます。
具体的な手法として、経営判断に取り入れていただけると幸いです。
PPM分析とは投資配分の判断に適したフレームワーク
PPM分析は、アメリカのボストン・コンサルティング・グループによって提唱されました。
1966年には、ボストンの次の拠点として東京に日本法人が開設されている、マッキンゼー・アンド・カンパニーと並ぶ国際コンサルティングファームです。
これが提唱された1970年代は、事業の多角化を進める経営がアメリカの大企業で進みつつありました。
経営資源、すなわち「人」「物」「金」「情報」を最も効率的な自社事業に配分するための手法として有効です。
企業の経営戦略や意思決定において、この分析は投資配分の判断に適したフレームワークと言えます。
- P:Product
- P:Portfolio
- M:Management
プロダクトとはもちろん製品のことですが、ここでは「事業」というとらえ方で良いかもしれません。
ポートフォリオは、業界によってやや異なったものを意味しますが、ここでは金融業界で用いられているのと同様に、「組み合わせ」と捉えるのが自然でしょう。
PPM分析では、市場成長率と市場占有率によって、事業を4つの象限に分けるのが特徴です。
各象限を知ることで、経営資源の最適な配分が見えやすくなります。
続いて、4つの象限について説明していきます。
PPM分析で用いる4つの象限をわかりやすく説明
①花形(Star)⇒市場占有率:高い・市場成長率:高い
市場占有率が高く、市場成長率が高いこの象限では、積極的な設備投資や販売促進に関する活動への投資が必要となります。
市場占有率を保ち、あるいは拡大しながら、事業を成長させ売上や利益の増加が期待できます。
市場が成熟して市場成長率が低くなった時点では、安定した収益を得られる事業「金のなる木」へ移っていける戦略が望ましいです。
②金のなる木(Cash Cow)⇒市場占有率:高い・市場成長率:低い
市場占有率は高いが、市場成長率が低いこの象限では、市場は成熟しており、積極的な投資は必要ありません。新規参入や競合相手も少なくなってきます。
市場占有率を保ちながら、この市場から利益が得られている間に、ほかの事業への投資を検討するべきでしょう。
いずれ、市場占有率を保つのが難しくなったり、市場の縮小が顕著になったりする場合は、撤退も視野に入れておくべきです。
③問題児(Problem Child)⇒市場占有率:低い・市場成長率:高い
市場占有率は低いが、市場成長率が高いこの象限は、後発の新製品や新規事業がこれに分類されます。
最初は「問題児」である事を理解した上で、積極的な設備投資や販売促進に関する活動への投資を行うのは、将来の市場の成長を期待しているからです。
必ず「花形」に成長する事業であるとは限りません、投資した結果が「負け犬」になり撤退せざるを得ないこともあります。
④負け犬(Dog)⇒市場占有率:低い・市場成長率:低い
市場占有率が低く、市場成長率も低いこの象限では、現在の収益も縮小し将来も期待できないでしょう。
この事業で現在利益が出ていても、緩やかに撤退する時期を計ることになります。
市場占有率の高い企業等に、事業自体を売却することによって、資金を調達することも検討できます。
調達した資金は、積極的な設備投資や販売促進に関する活動への投資が必要な、「花形」や「問題児」の事業に配分することになります。
PPM分析を活用するメリット3つ
①各事業にどれだけ投資するかの指標になる
PPM分析では市場成長率と市場占有率によって、事業を4つの象限に分けて分析します。
象限によって、積極的な設備投資や販売促進に関する活動への投資が必要な事業と、投資は必要なくむしろ事業の縮小や撤退を行うべき事業を明確にします。
負け犬の象限だったとしても、長きにわたり展開してきた事業の撤退の判断は難しいです。
問題児の象限に当たる後発の新製品や新規事業なら、尚更難しいと思われます。
限られた経営資源の配分を最適化するためには、このような客観的な指標が必要です。
②事業の軌道修正や将来を考える材料になる
PPM分析は、事業への投資の価値を判断します。
財務諸表からの判断でも、黒字であるか赤字であるかという結果はでてきますが、事業はそう単純なものではありません。
その事業が次にどの象限に向かっていくべきか考えることで、成長を期待する事業への積極的な設備投資や販売促進に関する活動への投資を行えます。
この分析では事業の市場成長率と市場占有率により、事業の象限を見える化して現状の把握だけではなく、軌道修正や将来を考える材料になります。
③コスト削減に繋がる
将来の成長戦略の見いだせない事業への投資は、企業の成長の妨げになります。
実務、ないしは損益に偏っての判断は、時には客観性を欠き経営資源の最適な配分の妨げになります。
PPM分析によって、成長が見込めない分野からの早期撤退はもちろんのこと、成熟した市場や、新規参入した市場での事業展開についても、戦略が立てやすくなります。
最終的に、成長が見込める事業に投資を集中できれば、無駄な投資を避けコストの削減に繋がります。
PPM分析を活用する際の注意点3つ
①限定的な側面からしか汲み取れない
PPM分析では、市場成長率と市場占有率を指標として取り上げています。
自社事業と競合他社とのポジションの違いを確認するには非常に有効です。
しかし、次のように限定的な側面からだけ判断することには注意が必要です。
- 市場占有率が低い=利益は生み出せない
- 市場成長率が低い=撤退を考慮する
継続した投資で得られる効果や、技術革新等は指標として組み込まれていません。
また、判断材料がない新規事業の立ち上げ等には不向きな手法です。
②イノベーションが起こりにくい
PPM分析は、現存する自社の事業の分析はできますが、イノベーションが生まれることを前提としていません。
この分析が有効な前提として、次のような理論があります。
- 規模の経済:ある一定の設備で、生産量や生産規模を増やすことで、1単位に対するに対するのコストが逓減すること
- 経験効果:生産量や作業量が増えるに従い、製造や思考に対する経験則が積上げられ、作業効率が高まり、生産コストが逓減する効果
- プロダクトライフサイクル:製品が市場に投入されてから、寿命を終え衰退するまでのサイクルを、導入期、成長期、成熟期、衰退期の4つに分類したもの
そのため、PPM分析だけに頼ると、新しい意見やアイディアが生まれづらい企業体質になります。
③事業間の相互作用は考慮されない
PPM分析では、各事業を単体としてとらえて分析します。
多方面に事業を展開している企業の全体を捉えるものではありません。
各事業がどの象限にあったとしても、ほかの事業に与えるシナジー効果を見落とすべきではありません。
負け犬の象限にある事業が、ほかの事業に間接的に貢献しているケースは少なくありません。
PPM分析の取り組み方・やり方3ステップ
①市場成長率を割り出す
市場成長率を計算するにはまず市場規模を確認する必要があります。
市場規模を確認するには次のような方法があります。
- 官公庁が発行する資料
- 業界団体が発行する資料
- 調査会社の購買データ
- 調査会社の市場動向資料
直接的に市場規模を調べる統計がない場合は、生産量や輸入量を入手して独自のデータを作る必要があります。
数式としては、下記のとおりです。
今年の市場規模÷前年の市場規模=市場成長率
②マーケットシェア(市場占有率)を割り出す
市場占有率には、絶対的市場占有率と相対的市場占有率があります。
絶対的市場占有率とは、名前が示す通り、自社の事業が市場全体に対して、どの程度の占有率があるかを示します。
数式としては、下記のとおりです。
自社の売上÷市場の売上=絶対的市場占有率
市場の売上を決めることによって、調査内容に合わせた占有率を割り出すことができます。
例えば、商品で細分化することもできますし、購買層(年齢やジェンダー)、地域等で細分化することもできます。
相対的市場占有率とは、競合他社の市場占有率を対象に計算される値で、自社の事業の比較をするために使います。
数式としては、下記のとおりです。
自社の事業の絶対的市場占有率 ÷ 競合他社の絶対的市場占有率=相対的市場占有率
例えば自社の絶対的市場占有率が10%、他社の絶対的市場占有率が40%である場合は、自社の相対的市場占有率は25%になります。
PPM分析には相対的市場占有率を使います。
③座標に立ち位置を表示して分析する
縦軸の市場成長率では、次をを分ける目安になります。
- 座標の上半分:「花形」「問題児」
- 座標の下半分:「金のなる木」「負け犬」
業界によって縦軸の上限・下限・境界は様々になります。
誕生したての市場であれば、総じて高くなりますし、成熟した市場であれば下限はマイナスとなる可能性もあります。
どの程度の市場成長率が認められれば、花形や問題児が存在し得るのかは議論すべきところです。
横軸の市場占有率では、次を分ける目安になります。
- 座標の左半分:「花形」「金のなる木」
- 座標の右半分:「問題児」「負け犬」
縦軸と同じように横軸の上限・下限・境界は様々になりますが、1を境界と考える場合が多いようです。
境界が1と言うには、自社の事業と競合他社の絶対的市場占有率が同じということになります。
ここでは、少しでも2番手に位置する競合他社の市場占有率を上回っていれば、花形や金のなる木と判断ができるのかどうか、議論すべきところです。
PPM分析結果への対応方法
象限 | 新規参入/競争 | 対応 | 投資 | 結果 |
---|---|---|---|---|
金のなる木 | 小 | 現状維持 | 不要 | 多事業への投資 |
花形 | 大 | 市場占有率の向上 | 要 | 金のなる木 |
問題児 | 大 | 市場占有率の向上 | 要 | 花形/金のなる木 |
負け犬 | 小 | 撤退時の見極め | 不要 | 規模縮小/撤退 |
金のなる木の象限では、新規参入等もなく競争も激しくない成熟市場で、追加投資なしで現状を維持し、花形や問題児への投資のための利益の確保を目指します。
花形の象限では、新規参入を含めた競争の激しい成長市場で、積極的な設備投資や販売促進に関する活動への投資を行い、金のなる木への成長が目標となります。
問題児の象限では、市場占有率が低い成長市場で、積極的な投資を行い、花形、最終的には金のなる木に育てるのが理想です。
しかし、問題児のまま収益が見込めない場合は、撤退も視野に入れて考えるべきでしょう。
負け犬の象限では、基本的には撤退する戦略となりますが、市場占有率を落としても利益を確保できるのであれば、規模を縮小しての継続も選択肢となります。
PPM分析で見る2つの成長パターン
「花形」事業からスタートする先発企業
新規市場に対して、先行投資を行い先発企業として花形からスタートした場合は、市場占有率の維持・ 向上と、規模の経済や経験公課により生産効率の向上に努めます。
市場占有率と生産効率によって、市場が成熟した時に得られる収益が変わってくるのです。
花形には投資が必要となってきますが、この象限は同時に資金を生み出します。
市場が成熟した時には、金のなる木として次の事業への資金を生み出すようになります。
「問題児」を育てる後発企業
後発組は、市場成長性の高い既存市場に参入するためには、大きな投資が必要になります。
問題児を育てていくための資金は、次のように調達されます。
- 投資家等から
- 株式市場から
- 銀行等
- 自社の余剰資金
市場成長率よりも、自社事業の市場成長率の向上が早ければ、花形の象限に移行するでしょう。
中小企業ではPPM分析を応用して顧客の分析も可能
中小企業でPPM分析を行う場合は、いくつかの点で行き詰まることがあります。
- 市場規模のデータがない(市場が小さい、新しい)
- 市場占有率のデータがない(市場が新しい、自社のシェアが小さい)
- 自社事業の市場の定義が定まらない
十分な資料が揃わない中での分析は、あまり意味のない結果を招くことになります。
中小企業がこの手法を使う場合は、同じ市場成長率と市場占有率を使って、顧客を4つの象限に分けて分析する方法があります。
顧客のポートフォリオ分析としては、役立つ手法です。
また、外部環境を分析するPEST分析も、ご検討ください。
PEST分析についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>PEST分析の目的・やり方を解説|ITや飲食等、様々な業界で有用
まとめ
PPM分析は、アメリカの大企業が多角化を推し進めはじめた1970年代に提唱されたフレームワークで、経営資源を最も効率的な自社事業に配分するための手法として有効です。
市場占有率と市場成長率によって座標を作り、花形(Star)、問題児(Problem Child)、金のなる木(Cash Cow)、負け犬(Dog)の4つの象限に分けるのが特徴です。
当該事象については、ある程度の経営指針が決められているので、客観的に投資を配分できるのがメリットです。
ただし、当該事業についてだけの分析になること、マーケットシェアの拡大が必須であること等、多面性を欠くデメリットもあります。
半世紀にわたって、大企業で取り入れられている手法ですので、デメリットを認識した上での活用をおすすめします。