マクロ環境を対象とするPEST分析は、マーケティング戦略を構築する際に最初に行われるべきものです。
コロナ禍における、まさしくコントロールできない環境の変化に対して、技術的に前を進むIT企業だけでなく、コンビニエンスストア、飲食店、衣料大手のユニクロ、商社、保険会社に至るまで、実例が紹介されています。
この記事では、PEST分析とは何か、できることや、方法を紹介していきます。
PEST分析とは「マクロ環境」を分析するためのフレームワークのこと
PEST分析は企業を取り巻くマクロ(外部)環境が与える影響の、現在の状態を把握し、将来を予測するフレームワークです。
具体的には下記の4つの視点から分析するので、頭文字をとってPEST分析と呼びます。
- 政治(Politics)
- 経済(Economy)
- 社会(Society)
- 技術(Technology)
PEST分析を知る上で必要な知識|事業戦略を立てる対象となる「環境」を整理しよう
外部環境と内部環境の違い
外部環境 | 内部環境 |
---|---|
企業を取り巻く外部の状況 | 自社の情報 保有資産/技術/ノウハウ/強み |
コントロール不可能 | コントロール可能 |
政治、経済、社会、技術、競合、新顧客 | 人、物、金、情報、時間 |
外部環境は、企業の活動に様々な影響を与える可能性のある外的要素のことであり、法律や人口動態、競合他社、市場規模等を指します。
企業が新たに製品やサービスを開発する時には、変化する外部環境の分析が重要です。
内部環境とは、企業の資金力、マーケットポジション、マーケットシェア、強み等の自社に関する情報のことです。
マーケティングでは、内部環境分析と外部環境分析を実施して、最適な方向性を見出していくことが目的となります。
マクロ環境:自社には制御できない外部環境のこと
外部環境には「マクロ環境」と「ミクロ環境」のふたつが存在します。
マクロ環境とは、その企業にとって間接的ではありますが影響のある外部環境です。
マクロとは、大きな世界を考える視点で、自社では制御できない世の中に関することです。
例えば、経済環境、技術環境、政治環境、社会環境等が挙げられます。
ミクロ環境:準統制可能な外部環境のこと
ミクロ環境とは、直接的に影響を強く受ける環境のことで、企業が所属している市場、周辺環境のことです。
ミクロとは、より小さな世界を考える視点のことで、 企業が働きかけられるもの、ある程度は制御できるものです。
例えば、商品、人事、自社環境、顧客、市場規模、競合他社等です。
PEST分析の目的とは? コトラー氏が唱える環境分析の重要性
PEST分析は、フィリップ・コトラー教授が広く呼び掛けた理論です。
彼は、経営学者であり、マーケティング理論の第一人者でもあります。
『コトラーの戦略的マーケティング』中で彼は、調査をしないで市場参入することは、目が見えないのに市場参入するのと同じだと説明しています。
これは、環境分析がマーケティングにおいて、いかに重要かを説明しています。
PEST分析のやり方5ステップ
PEST分析では、自社では制御できない外部環境を具体的な情報に基づいて分析していきます。
それらを分析することによって、自社の事業への影響を理解し、情報の中からチャンスやリスクを見いだせるのです。
ここでは、PEST分析を5つのステップに分けて、順を追って解説します。
ステップ①分析の流れを理解し情報収集する
まずは、自社の事業に関連する情報を広い視野を持って集めます。
正確な情報を集めるためには、情報源を確認することが重要です。
公的機関の各種統計データ、シンクタンクの調査レポート、バイアス化されていない新聞報道や専門誌の記事等が望ましいでしょう。
情報収集が目的になってしまわないよう、分析の流れを理解しておくことが必要です。
ステップ②P・E・S・Tを洗い出す
集めた情報は政治、経済、社会、技術の4つの視点に分類します。
情報収集だけを先行して行うより、分類も同時に行う方が効率的です。
どの視点に関しても、自社事業の脅威となる面ばかりを見るのではなく、機会となりうる変化も注視して洗い出しを行いましょう。
P(Politics:政治)の動向
- 政治、政権
- 法律、法改正(規制の強化と緩和)
- 税制(増税と減税)
- 業界構造
- 裁判制度
- 政情(政治団体やデモ等)
E(Economy:経済)の動向
- 景気(景気動向指数、日銀短観、鉱工業指数等)
- 経済成長率(影響する外国を含む)
- 物価(消費者物価指数等)
- 為替(円ドルはもちろん、影響する通貨とドルの為替も)
- 株価(必要であるなら海外の株価も)
- 金利(必要であるなら海外の金利も)
- 消費(消費動向指数等)
- 純金・原油価格
- 賃金(民間給与実態統計、賃金構造基本統計等)
- 労働(労働力統計、就業構造基本統計、毎月勤労統計等)
S(Society:社会)の動向
- 人口(人口動態統計、人口密度、人口構成、人口推計等)
- 世帯属性(世帯、世帯の家族類型、単身世帯、共働きか否かの別、住居の種類、居住室数、自家用車の有無、世帯の年間収入、介護支援の利用の状況等)
- 流行(メルカリ物価・数量指数等)
- 世論・社会の意識
- 教育(教育指数、大学進学率等)
- 消費(消費動向指数等)
- 移民(移民統合政策指数、在留外国人統計等)
- 犯罪(犯罪統計、犯罪白書等)
- 環境(環境統計等)
- 健康(衛生統計、保健統計等)
- 文化(文化施設・文化財、出版・マスコミュニケーション、スポーツ・娯楽・公園、宗教、生活時間・生活行動等)
T(Technology)の動向
- 社会インフラの進展・革新(道路、港湾、空港、上下水道や電気・ガス、医療、消防・警察、行政サービス等)
- IT活用の普及
- イノベーション(モノ、サービス、組織、ビジネスモデル等の社会に大きく影響を与えるような革新)
- 特許(「物」の発明、「方法」の発明、「物の生産方法」の発明)
- その他、技術進展・革新
ステップ③4つをさらに「事実」と「解釈」で分類する
ステップ②では、なるべく公的に公開されている資料や統計を紹介しました。
PEST分析で使用するべき情報は「事実」であるべきだからです。
日本国内に限らず、こういった情報をネット上で入手することは、現在ではそう困難なことではありません。
一般的な新聞や業界紙、その他の出版物についても、意図しなくてもその筆者の「解釈」が入っている場合があります。
解釈を含む情報を分析に組み込むと、思うような結果が出ない可能性があるので、十分注意してください。
ステップ④「事実」をさらに「機会」と「脅威」に分類する
次に、解釈を除外した事実の情報を「機会」と「脅威」に分類していきましょう。
機会とは、自社の事業にとってチャンスになる可能性のある情報です。
逆に脅威とは、自社の事業にとってリスクとなる可能性がある情報です。
一般的にその業界に対しては脅威と思われる事象が、自社にとってはチャンスであることもありますし、その逆も考えられます。
今回のコロナ禍のように、全ての業種に脅威と映った事象を、チャンスとした企業もありましたね。
分類は視野を広く持ち、多角的に行うことが重要です。
あくまでも、一般的な影響ではなく、自社の事業にとっての影響を考えてください。
ステップ⑤短期的な影響か長期的な影響かを見極める
最後に、その事象の影響が短期的なものか長期的なものかを見極めます。
事業戦略に落とし込む際には、それぞれの事象の影響する期間を分析に参加したメンバー全員が共有しておくことが不可欠です。
同じ事象でも、影響すると思われる期間の長さをどう想定するかによって、影響する内容も変わってしまう恐れがあります。
注意点はあくまでマクロ環境の分析結果であること
PEST分析の対象である、マクロ環境は長期にわたって影響し続けるものが多く、短期的な分析にはあまり向いていません。
具体的に言えば、来月度ではなく、少なくとも来年度、もしくは3~5年の中期的影響の分析に適しています。
また、PEST分析の対象は、外部環境です。
4つのマクロ環境を分析して、中長期の仮説を立てることで、事業戦略を打ち立てていくのを目的としています。
内部環境やミクロ環境については、他に有効な分析方法があります。
PEST分析の他にもある|環境分析に用いるフレームワークの例
【SWOT分析】内部環境と外部環境を分析する
「SWOT分析」は内部環境と外部環境を分析する手法として知られています。
S、W、O、Tを頭文字とする4つの要素を合わせて分析することによって、事業機会化、事業課題を見出します。
内部環境 | 強み・Strength | 弱み・Weakness |
外部環境 | 機会・Opportunity | 脅威・Threat |
縮小しつつあるマーケットの優良老舗企業を例にとってみましょう。
Strengthにあたる内部環境の強みには、財務内容、製品の競争力、ブランド力等が挙げられます。
Weaknessには、新規事業への人材不足、後継者不在、従業員の高齢化等が考えられます。
Opportunityには、マーケットシェア、海外の生産拠点、仕入先との良好な関係等があります。
Treatは、マーケットの縮小、競合他社の存在、海外への販売展開の難しさ等です。
SWOT分析についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>SWOT分析とは? やり方・書き方やポイントを詳しく説明します
【5フォース分析】5つの脅威を分析する
ファイブフォース分析とは、業界内の競争状況を分析する方法です。
SWOT分析と同様、縮小しつつあるマーケットの優良老舗企業を例にとってみましょう。
- 売り手:交渉力が強いか(同じ商品を扱う業者があるため、売り手の交渉力は強い)
- 買い手:交渉力が強いか(一定の取扱量があるので、買い手の交渉力は弱い)
- 業界内:競争企業間の敵対関係(圧倒する企業はないが一定数ある)
- 新規参入:脅威となる可能性があるか(ない)
- 代替品:脅威となる具体的のものはあるか(すでに可能性のあったものは代替品に置き換わっており、これ以上進む可能性は少ない)
このように、自社の属する業界のことを分析することで、今後の戦略策定に使います。
5フォース分析の概要やメリット・やり方についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>5force分析の概要やメリット・やり方をわかりやすく解説
新型コロナウイルスの影響が続く2022年秋冬のPEST分析
例えば、2022年秋冬の消費者動向について分析します。
政治的要因:変異株の脅威の中、感染者数は世界最多を更新しつつあるものの、日本でも生産活動・社会活動を止めずに、コロナとの共生を模索しています。
経済的要因:石油を代表とするエネルギー資源、ウクライナ情勢も含む食糧問題、そして急激な円安、欧米ほど極端ではないものの、日本でもインフレによる影響が、消費者心理を冷やす事になりそうです。
社会的要因:コロナが収束していくという前提ではありますが、外出しての活動による消費意欲は引き続き高まっていくことが予想されます。
技術的要因:政策としては何回も変更された外出に対する需要拡大への対応でしたが、当該業界では、コロナ対策と経済効果を合わせたサービスが普及してきています。
2022年秋冬は、コロナと共生しながら引き続き緩やかに回復に向かうでしょう。
インフレの影響等も想定されますが、特に外出して活動することに対する価値は継続して求められます。
まとめ
PEST分析とは、マクロ環境を分析するフレームワークのことです。
環境には内部環境と外部環境があり、外部環境にはマクロ環境とミクロ環境があります。
手法としては、下記の様になります。
- 情報収集
- 政治、経済、社会、テクノロジーの4つの視点を洗い出す
- 事実と解釈を分ける
- 事実をさらに機会と脅威に分ける
- 短期的な影響か長期的な影響か見極める
環境分析のフレームワークとして、内部環境と外部環境を分析するSWOT分析、5つの脅威を分析する5フォース分析を紹介しました。
最後に、新型コロナの影響が続く2022年秋冬のPEST分析を加えましたので、参考にして頂けると幸いです。