企業経営において、業務改善を行うことは非常に重要です。昨今のビジネス環境の変化が激しい状況下において、そのフレームワークとして注目されている「OODA(ウーダ)」をご存知でしょうか。
「PDCAとの違いがわからない」「そもそもOODAがどのようなものなのか知らない」という方も多いかと思います。
そこで本記事では、OODAループの特徴やPDCAサイクルとの違い、メリット・デメリットについてご解説します。是非、最後までお付き合いください。
OODAとは何? 意味・注目を集める理由を簡単に解説
OODA(ウーダ)とは、アメリカ空軍の戦闘機パイロットでもあり軍事戦略家でもあるジョン・ボイド氏により考案された意思決定のフレームワークです。この手法は、先が読めない状況下でも、現況に則した判断を現場レベルで下すことで目的の達成を目指します。
同氏は、戦闘において不利な状況からでも40秒あれば形勢を逆転できました。それを支えたのは、彼の「迅速な意思決定とそれを実行に移す早さ」です。同氏は退軍後に意思決定に関する研究を行い、この手法を考案しました。
元々は空戦に臨む戦闘機パイロットの意思決定のための手法でしたが、効果と汎用性の高さから作戦・戦略の策定にも応用されました。そして、現在ではビジネス・政治等の分野でも採用されています。
では、まずはフレームワークの概要と企業に採用される背景について学んでいきましょう。
OODA(ウーダ)とは迅速な意思決定を行う考え方の枠組み
OODA(ウーダ)とは、以下の4ステップを指します。そして、これらのステップを繰り返し行う手法がOODAループです。
- Observe:観察・情報を集める
- Orient:状況判断・方向性を決める
- Decide:意思決定
- Act:実行
この手法を用いて戦略を立案すれば、不確実な事象が多い状況下でも迅速に意思決定を行い、状況に即応することで成果を上げることが可能です。また、トップダウンの指示を受けずとも、「自ら考え、判断して行動する」ことに役立ちます。
OODAに企業が注目する理由
近年、技術の進化等によって世の中の変化の流れは早くなり、それに伴ってビジネス環境の変化も激しくなっています。そのような常に状況が変化する中で、有用性のあるフレームワークだと考えられるのがこの手法です。
IT・AI・インターネット等の情報技術の発達と普及により、市場や消費者のニーズが激しく変化するようになりました。それに加えて、政治や経済といった社会の状況も常に変化しています。ビジネス環境は、今までよりも変化に晒されている状況だと言えるでしょう。
そのような状況下において事業を存続させるためには、速やかに環境に対応するための施策を行うことが必要です。それには、迅速な意思決定が欠かせません。そのような背景により、OODAが注目されています。
業務改善の代表的な手法であるPDCAとは、どのような違いがあるのでしょうか。
OODAと比較されやすいフレームワークPDCAとの違い
もう古い? PDCAサイクルは「改善を目的とした考え方の枠組み」
PDCAサイクルは、以下のステップを繰り返すことで継続的な業務改善を促すフレームワークです。
- Plan:計画
- Do:実行
- Check:評価
- Action:改善
この手法には、以下の特徴があります。
- 組織や個人の目標・アクションプランが明確になる
- 目標に対する行動に集中しやすい
- 行動の結果に対して、課題等が把握しやすい
この手法は、達成すべき目標が明確になっていて、前もって細密な計画を立てることが前提となっています。そのため、目標が不明確だったり、不確定要素が多く計画の変更が必要な状況だったり、迅速な対応が必要だったりすると活用しづらいのが特徴です。
業務改善に役立つフレームワークでも、OODAループとは適した場面が異なるのがわかっていただけると思います。
OODAとPDCAの理想的な使い分け
双方とも業務改善に役立つフレームワークですが、OODAループは常に環境が変化するような状況において有効です。現状把握をして、ひとまずやってみるという流れになります。一方で、PDCAサイクルは目標を伴った継続的な改善が求められる状況において有効です。こちらは、計画を立ててから行動します。
コンセプトが異なるだけで双方に優劣はなく、双方とも万能というわけでもありません。状況に合わせて、適したものを使い分けましょう。
OODAに取り組むプロセスを4つの段階に分けて説明
OODAは以下のステップを繰り返します。それぞれのステップについて、どのようなことを実施するのか解説します。
- Observe:観察・情報を集める
- Orient:状況判断・方向性を決める
- Decide:意思決定
- Act:実行
1. Observe(情報を集める)
情報収集により、自社が置かれている状況や他社が置かれている状況、環境、市場の動向等の事実を幅広く収集します。
近年のビジネス環境において、急激な変化が起こることは少なくありません。変化にいち早く気づくためには、この「Observe」のステップが重要となります。
2. Orient(方向性を決める)
OODAループの肝となるステップです。「Observe」によって手に入れた事実を分析して、仮説を立てます。この仮説次第で最終的な行動が大きく変わってしまうため、非常に重要な過程です。仮説とは、行動すべき順序や成功に繋がる手段のことを言います。
PDCAサイクルと同様に、1回のサイクルで成功を得られるものではありません。何度も繰り返すことで達成に近づきます。ですから、仮説を立てる段階で以前の判断の誤りに気付き、それを反映した新たな仮説を構築して次の行動を起こしましょう。
3. Decide(意思決定を行う)
「Orient」で決定した方向性を基に、「Act」で何を実行するかを決定します。
自分または組織の目的を確認し、それに対する選択肢を列挙し、最も効果的だと考えるものを仮説に沿って選びます。
4. Act(実施する)
「Decide」のステップで選択した行動を実行します。「Act」のステップが終われば、また次のOODAへ繋げることが大切です。
結果に一喜一憂せず、成功や失敗もひとつの情報だと捉えて次へと活かします。何度も繰り返すことで、目的の達成を実現しましょう。
では、この手法はどのような場面で有用なのでしょうか。
OODAが活躍する場面とは? 具体例を紹介
起業(スタートアップ)・新規事業の立ち上げの場面
起業や新規事業の立ち上げは、どれだけ想定していても、予期しない課題にぶつかるものです。PDCAサイクルは細密な計画を前提としているため、不確定要素が多い状況下では計画の練り直しが必要となるでしょう。そうなれば、計画の練り直しに時間を取られている間にビジネスチャンスを逃してしまいかねません。
起業や新規事業の立ち上げをする際には、競合他社に対して資金力や実績等で劣る分、状況に対して迅速な対応が求められます。
OODAループなら、直面した課題に対して即座に意思決定を行い、対応策を実施することが可能です。この「迅速な意思決定とそれを実行に移す早さ」こそが、競合他社に対する優位性となります。
商品やサービス・顧客ターゲットの変更の場面
商品・サービスの売れ行き等の情報から、販売戦略を練り直すことにも有効です。
例えば、20代をターゲットとしていた商品が、20代よりも40代に売れていることが判明したとしましょう。その原因が年代による購買力の差だと仮説を立て、ターゲットを40代に変更して、広告の内容もその年代に合わせたものに変更したとします。そして、その結果を基にまたループを回して売上を向上させたという事例があります。
「Obsereve」の結果を基に、迅速かつ柔軟に戦略を変更することが可能です。
【事例】日常業務におけるOODAの活用
美容院を例にして、OODAループの活用を考えてみましょう。
【Observe】
- 前年に比べ、前髪カットやカラーリングをする顧客が全体として10%減少した。
- 若年層ほど、その傾向が見られる。
- 500m圏内に前髪カットのみでも利用可能な格安美容室やカラーリング専門店がオープンした。
【Orient】
- 前髪カット・カラーリングは、1回あたりの料金が低額で多頻度でできる方が需要がありそうだ。
- 今のところ新しい情報に詳しい若年層がそういった店を利用していると考えられるが、今後は年配層にも需要がでそうだ。
【Decide】
- 固定客には、前髪カット・カラーリングの割引をする。
- 新規客には、前髪カット・カラーリングをサブスクリプションで提供する。
【Act】
- 固定客の割引利用が増えた。
- 固定客のサブスクリプション利用も一定数ある。
- 新規客のサブスクリプションの利用は、若年層に多い。
⇒この結果を踏まえて、Observeへ戻る。
売上の傾向や客層・利用行動に関する変化、競合の情報、顧客との会話によって得た情報等の事実を整理し、仮説を立てて行動し、行動の結果をまた観察して修正して次に繋げていきます。
企業でのOODA活用によるメリットとは
状況に合った柔軟な対応ができる
状況に応じて柔軟かつ迅速に意思決定ができるフレームワークのため、これを活用すれば、従業員の「状況を観察し集めた情報を基に何をすべきか判断するスキル」を磨くことができます。
そうすれば、些細な情報からニーズの変化を読み取ったり、トラブルの芽を事前に摘み取ったりする等の状況に合った柔軟な行動をとれるようになるでしょう。
従業員ひとりひとりの裁量が大きくなり対応力があがる
OODAループは、PDCAサイクルのように計画や実行したことに対して評価・改善を行うことはありません。そのため、個人または少人数での意思決定に適したフレームワークです。
現場に裁量を与えておくことで、トップダウンの指示を待たずに現場が状況に合わせて主体的に判断・行動ができ、対応力が上がります。
課題解決に向けてスピーディに取り組める
迅速な意思決定に役立ちます。トップの計画の策定や承認を待たずして、現場で状況を観察して仮説を構築し実行に移すため、スピーディーな対応が可能です。
「迅速に意思決定ができるか」という部分に力点が置かれているため、緊急事態やトラブル対応に有用なフレームワークと言えます。
OODAを活用したデータ分析に潜む欠点2つ
活用に向かない業務・場面がある
汎用性の高いフレームワークですが、万能ではないため適さない場面があります。迅速な意思決定と対策の実施には適していますが、中長期的な改善やルーティーン業務の改善には不向きです。
フレームワークは目的に応じて適切なものを使用しましょう。
失敗してしまうリスクが多くある
迅速に意思決定をすることに力点が置かれており、計画の策定や実行したことに対する評価や改善というステップがありません。よって、判断が必ずしも最善策とはならず、失敗する可能性も高いです。
上手くこの手法を機能させるには、どのような点に注意すればよいのでしょうか。
OODAをきちんと機能させるためのポイント
今後の動向や情報の共有を努めて行う
観察により集めた情報は、その後のステップの土台となります。ですから、自社が置かれている状況や競合の状況、環境、市場の動向等について網羅的に情報を収集した上で、そこで得た情報を組織内で共有することを徹底しましょう。
組織の目的を明確に持ち、共通認識とする
個人の裁量が大きいフレームワークのため、組織の目的が不明確であれば組織内でズレが生じると考えられます。そのため、明確なビジョンを設定して一定の判断の基準を設け、組織全体が同じ方向を向けるよう共通の認識としておく必要があります。
管理職は現場の状況判断に一旦委ね、見守る
この手法では、現場の状況に基づいて判断を行うため、権限を現場に委譲しておくことが大切です。権限を移す際は、組織の目的や戦略を理解できる従業員を対象にしましょう。
権限を委ねた後は任せきりにするのではなく、適時適切に報告等から現場の状況を評価し、問題が生じていれば指導を行います。
まとめ
OODAループとは、常に変化するビジネス環境において成果を出すために採用されているフレームワークです。「Observe」「Orient」「Decide」「Act」の4つのステップを繰り返します。
「現状把握をして、ひとまずやってみる」というのがコンセプトです。不確実性が高く、迅速で柔軟な対応が必要とされる場面に適したフレームワークだと言えます。
「計画を立ててから実行する」PDCAサイクルとは得意とする場面が異なりますから、状況に応じて使い分けましょう。