M&Aや財務分析の内容は知っていてもどのような目的のために使われているか詳しくは知らないという人も多いのではないでしょうか。本記事では、M&Aにおいて財務分析が欠かせない理由や、必要な分析方法、財務諸表の役割について紹介していきます。
M&Aにおける財務分析の目的
財務分析はM&Aで重要な役割を果たしていますが、具体的にどのような目的で行われているのでしょうか。ここでは、M&Aと財務分析とは何かと、目的について紹介していきます。
そもそもM&Aとは
M&Aとは「Mergers and Acquisitions」の略で、企業の合併や買収等の取引のことです。合併は2つ以上の企業が一つにまとまることで、買収は企業がほかの企業を買い取ることを指します。このような企業やその事業の一部や全部の移転を伴う取引のことをM&Aと呼びます。
また、広義の意味では提携まで含めることもあります。一昔前までは企業を乗っ取るための手段というイメージがありましたが、近年では企業の成長戦略の手段としての意味合いが強くなってきました。
そもそも財務分析とは
貸借対照表、損益計算書等の財務諸表の数字を基に、企業の収益性や成長性、安全性、効率性、生産性等を分析し、比較することです。これには経営者や取引先、投資家が企業の経営状況についての現状と問題点を把握する目的があります。
そして、目的によって主に以下の5つの分析に分けられます。
・収益性分析
・成長性分析
・安全性分析
・効率性分析
・生産性分析
企業価値やリスクを把握するため
M&Aに財務分析が必要な理由は、売り手企業の企業価値やリスクを把握するためです。財務分析を行わずに売り手企業の経営状況に関する情報が不足していると、後に簿外債務が発覚したり、適正水準以上の買収価格で契約してしまったり等の不利益を被ってしまうこともあるかもしれません。
そのため、売り手企業の財務リスクや収益力等、経営状態を正確に把握するための財務分析が必要不可欠です。
M&Aに必要な5種類の財務分析
M&Aのために行われる財務分析には様々な種類があります。ここでは特に重要となる5つの分析方法について紹介していきます。
1.収益性分析(稼ぐ能力)
企業の稼ぐ力を分析する方法です。どれだけ安全性が高く、効率が良かったとしても、最終的に利益を上げられなければ事業の継続は難しいでしょう。そのため欠かせない分析と言えます。
代表的な指標には、売上高利益率、自己資本利益率、総資本利益率、財務レバレッジ効果等があります。これら値の良し悪しを図るためには、年度ごとの業績推移を確認する等の時系列での変化を見る方法や同業他社や業界平均と比較する方法等があります。
2.成長性分析(将来性)
将来の成長性を把握するために、一定期間の企業の成長性を分析する方法です。企業の売上高や総資産等の規模が、どの程度変化しているかで成長性を測ります。
また、企業内での変化だけではなく、市場全体の伸びと比較することも大切です。自社の売上が30%成長していても、市場全体が40%成長していたらシェアは低下していると考えられるでしょう。このように、業界全体の成長を考えた上で分析する必要があります。
3.安全性分析(支払い能力)
企業の支払い能力を分析する方法です。企業の経営が安定しているか、継続可能な状況か、等の安定性を決算書の内容から分析します。
企業によっては、利益が出ていても資金繰りが上手くいかずに倒産してしまうこともあります。それを防ぐためにもこの分析は欠かせません。
4.効率性分析(少ない資産で利益を生む能力)
資産や負債からどのくらい効率的に売上や利益を生み出しているか分析する方法です。小さい資産や負債から大きな売上や利益を生む事業ほど効率性が高いと言えます。
代表的な指標としては、以下の5つが挙げられます。
・総資本回転率
・仕入債務回転率
・売上債権回転率
・有形固定資産回転率
・棚卸資産回転率
5.生産性分析(資源の活用能力)
企業が導入した従業員や設備等の経営資源を、どのくらい効率的に活用できているか分析する方法です。
代表的な指標としては、以下の5つが挙げられます。
・物的生産性
・付加価値生産性
・全要素生産性
この分析により生産性の現状を可視化することができ、目標設定や施策の提案が行いやすくなります。
財務分析に必要不可欠な財務諸表とは
財務分析を行うためには財務諸表が必要不可欠です。ではこの書類はどのような目的で利用されているのでしょうか。ここでは、財務諸表の役割と主に利用される3つの書類について紹介していきます。
企業の経営状態の把握に必要
財務諸表は、決算という形で企業の経営状況を公開するために必要な書類です。経営に関する事項を数値で表すことで客観的に把握できます。この書類により公開された情報は、銀行等の金融機関から融資を受ける時や、取引先との決済方法や期間を決める時の判断材料になります。
また、M&Aでは買い手企業が売り手企業の経営状況を把握するために必要不可欠です。財務諸表から過去の経営状況の推移を分析することが欠かせません。このように自社だけでなく相手企業の経営状態を把握するためにも利用されています。
企業価値を測るために必要
M&Aにおいて、企業価値を測り買収価格を決定するために欠かせない判断材料です。企業価値を算定するためには、主に時価純資産法、DCF法、類似会社比較法の3つが利用されます。
現在は、時価純資産法とDCF法の2つの方法で評価を行い、中間の数値を評価額として反映するやり方が一般的です。この評価を行うために財務諸表は欠かせません。
必要となる主な書類(財務三表)
財務分析において必要となる主な書類は3つです。
・貸借対照表:バランスシートとも呼ばれ、企業が所有している財産が把握できる書類です。借入金がどれくらいあるのかを分析することで倒産のリスクを明らかにすることもできます。
・損益計算書:事業年度の売上や利益がわかる書類です。収益力や収益構造を分析するために欠かせません。
・キャッシュフロー計算書:企業のお金の流れを知るために必要な書類です。損益計算書上では利益が上がっているが資金繰りが悪化してしまう、という事態を防ぐためにも欠かせません。
M&Aにおける財務分析の注意点
M&Aで財務分析を行う場合は、結果をどのように判断するかを知っておく必要があります。ポイントとしては結果を比較することが大切です。ここでは他社との比較と、自社における比較について紹介していきます。
業界内での価値把握のため競合他社と比較する
他社との比較により、市場における自社の立ち位置を把握することができます。それにより自社に足りていない課題点を発見することができるため、改善のための対策が立てやすくなるでしょう。
将来性や課題把握のため過去から現在で比較する
自社の現在の経営状況と過去の経営状況を比較することで、どのように成長してきたか、どこでつまずいたのか把握することができます。それにより課題の発見や改善状況を把握することができますし、今後の成長性を測ることも可能となるでしょう。
まとめ:M&Aにおける財務分析はリスク回避のためにも必要不可欠
本記事では、M&Aにおける財務分析についての基礎知識を紹介しました。これらは買い手企業が売り手企業の経営状況を把握し、リスクを回避するためにも欠かせない分析です。今後、M&Aを検討・実施するためにも目的や役割等への理解を深めておきましょう。