IPO準備では、経理部門が特に重要であるといわれています。経理が重要視されているのは、IPOまでの審査基準が経理業務と密接に関係しているためです。
今回は、IPO準備期における経理の仕事内容と大切なポイントを解説していきます。これからIPOの準備を進める企業にとって役立つ情報を紹介するので、是非参考にしてください。
IPO準備と経理
IPO進める際に経理業務を行う担当者が重要な役割を担います。特にこれまでIPOの経験がない企業の場合は、これまでの通常業務をこなしながら、IPOの準備を進めることが求められます。そのため、事前にIPOの概要から流れを理解し、見通しを持って準備を進めましょう。
そもそもIPOとは
IPOとは、「Initial Public Offering」の頭文字をとったもので、日本語に訳すと「新規株式公開」を指します。株式会社がまだ外部に公開していない株式を証券取引所で公開し、誰でも自由に取引ができる状態にすることをIPOといいます。
つまり、IPO準備とは、株式会社がまだ公開していない株式を証券取引所に公開するまでの過程のことです。証券取引所で株式を公開するためには、上場審査を通過する必要があるので、IPOには多くの時間とコストをかける必要があります。
IPOを行うことで、数多くの投資家が取引を行うことになります。時に、株式が公開された直後は、株式だけでなく企業そのものも投資家から大きな注目を集めることになるので、必要な情報を準備しておくことが大切です。
IPO準備において大切なポイント
IPO準備において大切になるポイントは、以下の3点です。
・業績を上げること
・経理業務を内製化すること
・監査法人を選ぶこと
IPOの準備には最短でも3年の年月を必要とします。IPOを行う上で、避けては通れない上場審査は厳しいチェックが入るので、情報には正確性が求められます。
業績を上げること
ひとつめのポイントは「業績を上げること」です。
2022年4月4日に東京証券取引所の市場区分が見直され、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場の3区分に分類されました。この中で最も上場基準の緩いグロース市場であっても、中長期的な事業計画と合理性が求められているため、IPO達成には安定した業績を上げることが必要不可欠です。
また、仮に上場できたとしても、上場後には「上場維持基準」を守ることが求められます。上場維持基準を守れない場合は、上場廃止となってしまうので業績を上げ続けることを考えていきましょう。
経理業務を内製化すること
2つめのポイントは経理業務を内製化することです。
経理業務の内製化は上場の必須条件です。理由としては、会社関係者同士での不法な株式取引であるインサイダー取引の防止や、ディスクロージャーいわゆる情報開示体制を整えることが必要とされているからです。
また、上場企業であるならば、自社の経理業務をすべて自力で行える程度の企業力も求められます。経理業務を外部に委託している場合は内製化し、人事配置や業務内容を徹底的に見直していきましょう。
監査法人を選ぶこと
3つめのポイントは監査法人を選ぶことです。
現在、東京証券取引所にある市場すべてに「上場会社監査事務所による監査」という項目が上場の要件にあります。IPOを達成するには、外部による監査が必要となるのです。
IPOの監査に関する審査は、依頼をした監査法人に依存せざるを得ない項目です。また、IPO準備期だけでなく、その後も長く付き合いが続いていくことが予想されます。短期的にも、長期的にも監査をどこに依頼するかは極めて重要となるので、事前に下調べをして選んでいきましょう。
IPO準備における経理の役割
IPO準備では経理担当が重要になりますが、準備期における経理の役割は主に以下の4つです。
・財務諸表の作成・開示
・監査法人への対応
・証券会社からの審査対応
・取引所への対応
IPOを達成するためには、ただ経理部門に人員を配置するだけでは十分ではありません。審査基準をクリアするためには経理に関する正しい知識が求められます。
「どのようなスキルを持った経理担当がどの程度必要か」をイメージしながら、確認していきましょう。
財務諸表の作成・開示
ひとつめの役割は、財務諸表の作成・開示です。
プライム市場・スタンダード市場には上場審査の項目に「企業内容との開示の適合性」の項目があります。また、グロース市場には実質審査基準として、「企業内容、リスク情報との開示の適切性」という項目が設けられています。
どの市場に上場するとしても、求められたときに適切な情報を開示できる体制を整えておくことがIPO準備には必須になります。財務諸表の作成・管理を適切に行える人材を経理部門や財務部門に配置するようにしましょう。
監査法人への対応
2つめの役割は、監査法人への対応です。
IPO準備を進めていくうえで、始めの1年間は監査法人による「ショート・レビュー」を受ける必要があります。ショート・レビューとは、監査法人が企業の業務体制や、経営状態をチェックし、IPO達成に向けて何を改善していけばいいのかを明確にすることです。
ショート・レビューは実施調査や企業内担当者へのヒアリングも含めると、2日〜1週間程度の期間を必要とします。監査法人とのやりとりも経理の業務に含まれてきます。
証券会社からの審査対応
3つめの役割は証券会社からの審査対応です。
IPO準備期における証券会社が行う審査は、日本証券業協会が定めている「有価証券の引受け等に関する規則」に従って行われます。証券会社が行う審査は、書面による質問や担当者へのヒアリング・事業所の調査等、多岐にわたっており、調査期間は半年程度が一般的とされています。
証券会社は調査した内容を「上場適格性調査に関する報告書」にまとめ、取引所に報告すると、次に取引所からの審査が始まります。
取引所への対応
4つめの役割は取引所への対応です。
証券会社からの審査が終わり、「上場適格性調査に関する報告書」が無事取引所に提出されると、取引所からの審査が入ります。取引所からの審査内容は証券会社からの審査と同じようなものですが、特に「上場企業として適切かどうか」が重要視されます。
取引所からの審査はどの市場に上場するのかによって変わってきます。通常であれば、2〜3カ月の期間を必要とします。
IPO準備において経理は大切な役割を持つ
IPO準備には、単に企業内の経理・財務書類を処理するだけでなく、外部の組織とも適切なタイミングでその場に応じた資料を準備する能力も求められています。
IPO準備期の企業では、経理の仕事は数字を扱うだけでなく、資料作りや時にはスケジュール管理にまでおよびます。ここにはないイレギュラーにも対応しつつ、普段の業務もこなしていかなければならないので、重圧を感じることもあるでしょう。しかし、IPOの準備段階で経理は非常に大切な役割を担っているため、責任感をもって業務を遂行しましょう。
IPOを目指して経理を強化するには…
IPOを目指して経理を強化するには、以下の2つのポイントを押さえるようにしましょう。
・スキルや能力も含めて経理人事の採用・配置を行う
・報酬を担保する
まずは、IPO準備に適した人材を経理部門に配置することが重要になります。IPO準備の業務は通常の経理業務とは異なる点が数多くあるため、可能であればIPO準備を経験した人材を確保できると、スムーズに進んでいくでしょう。また、一口に経理といっても人によって得意としている分野と不得意としている分野があります。現状弱くなっている分野をカバーする人事もひとつの方法です。
また、経理の報酬を担保するのも重要です。新規採用の場合は、ほかのIPOを目指している企業と比較される点になるので、ある程度報酬を充実させる必要があります。
まとめ:IPO準備をするなら経理部門を強化しておこう
IPO準備を円滑かつ適切に進めていくには経理部門の強化が必要不可欠です。また、IPO準備には長い期間を必要とするため、企業として中長期的な戦略を立てることが求められます。
経理の内製化をはじめとした、企業としての体制を見直し、IPO準備を進めていきましょう。