相手先との取引の際、請求書の発行は欠かせない業務の一つですね。
請求業務の中で源泉徴収の扱いにおいては、色々なルールが存在します。
そして、給与所得者だけではなく、個人事業主やフリーランスの方にも関係してくるものです。
そもそも、源泉徴収額を記載するべきなのか、どのように記載したらいいのかと悩む方も少なくないでしょう。
今回は、請求書の発行においての源泉徴収額記載の必要性を解説します。
請求書とは
請求書とは、商品やサービスの発生に対し、期日までの支払いを求める文書のことです。金額のほか、請求先の会社名や振込先等の必要事項を記載し、確定させて報酬を受け取る目的もあります。
請求日・請求金額・送付方法等、記載事項については取引先に確認しておきましょう。特に請求日は発送日と請求日は同日としなければならないので、事前に確認が必要です。
書式に関しては法的なルールが存在するわけではないので、それぞれの裁量に任せる形となります。
(1)源泉徴収がある請求書に記載する項目
源泉徴収ありの請求書に記載する項目は、一般的に下記の内容になります。
- 請求書作成者の氏名または会社等の名称
- 取引年月日
- 取引の内容
- 振込先の口座
- 小計
- 消費税
- 源泉徴収税
- 合計
- 請求額
- 請求書受け取り側の氏名または会社等の名称
状況に応じて、発行日・請求書番号・支払期限等を記載する場合もあります。
5〜8は、源泉徴収を行う際に記載する基本となります。
小計は取引内容で記載した金額の合計を、消費税は小計に税率をかけて記入し、消費税率も記載します。
そして、小計として源泉徴収税率をかけた金額をーや△で記載します。計算方法は、源泉徴収の項目で解説します。
合計金額は、小計+消費税ー源泉徴収税を記載します。請求額は、合計額と同じ金額を記載しましょう。
配慮して記載することで、差し引かれている金額がひと目でわかる見やすい請求書になります。
(2)請求書発行のタイミング
請求書は商品やサービスを提供した後、または納品と同時に発行します。
発行のタイミングには慣例が確立されており、一般的には「掛売方式」と「都度方式」の2種類の方法で行われます。
「掛売方式」は、毎月継続的に取引が行われている場合に1か月分の取引をまとめて請求する方法となり、「都度方式」は、単発の取引をした際、納品のたびに請求書を発行する方法です。
源泉徴収とは
「源泉徴収制度」とは、給与や報酬を支払う際に支払う側が所得税を差し引いて、受け取り側の代わりに国に納める制度です。
源泉徴収をすることは、会社等の給与支払者に義務付けられています。
源泉徴収の対象は、以下の通りです。
- 会社員やアルバイトの給与所得
- 報酬・原稿料・出演料・デザイン料等
- 利子所得
- 配当所得
- 退職所得
- 公的年金
請求書に源泉徴収の金額を記載しなくても、会社側には義務があるので源泉徴収をしての支払となりますが、会社が所得税の納付をする時に源泉徴収の計算をしなければならなくなり、請求書と振込通帳を比較しながら源泉徴収の計算をしなければなりません。
しかし、請求書に源泉徴収の金額が記載されていれば、計算の手間を省くことができ、作業の短縮に繋がります。請求される側の負担を考えると、源泉徴収額の記載をしておくことは、請求書を発行する上で一般的となっています。
(1)源泉徴収の計算方法
源泉徴収の計算方法は、請求額によって異なります。
【請求額が100万円以下の場合】
支払金額の10.21%が源泉徴収の税額となる
【請求額が100万円を超える場合】
支払金額から100万円を差し引いた金額の20.42%に10万2,100円を加算した金額となる
100万円を超えた金額については、税率が上げられているので注意しましょう。
(2)源泉徴収額の請求書への記載
法人相手の取引の場合は、源泉徴収義務が生じるため、取引先の利便性に配慮し請求書に記載するのが慣例となっています。
また、源泉徴収の対象となる報酬と、対象とならない報酬の両方を請求する場合は、両者を分けて計算し、記載するのが望ましいです。
(3)サラリーマンの場合
一般的にサラリーマンは、給与から所得税分を天引きして徴収されるため、基本的には税務署へ行って確定申告をする必要はありません。
※年収2,000万円を超える場合や、副業で20万円を超える所得がある場合は除きます
ただ、源泉徴収額はあくまで見込額なので、実際に負担する所得税額とは異なるケースもあります。そこで「年末調整」という仕組みを作り、自己申告と同額の所得税を徴収できるようにしています。
(4)個人事業主・フリーランスの場合
個人事業主やフリーランスの場合は、自分で確定申告を行う必要があります。
報酬を得た時点で源泉徴収されるのか・されないのかについて把握しておかないと、税金を余分に納めてしまう可能性が出てきます。
基本的な源泉徴収の仕組みは、サラリーマンとの違いはなく、あらかじめ総報酬額から所得税分を源泉徴収された額を報酬として受け取ります。
※取引先もフリーランスの場合は、取引先に源泉徴収義務がないので源泉徴収は行われません
すべての個人事業主の報酬が源泉徴収の対象とはならず、以下のような場合が対象です。
- 原稿料・デザイン料・講演料・指導料等
- 弁護士・公認会計士・司法書士等への報酬や料金
- 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
- ホステス・コンパニオン等の報酬や料金
- 保険外交員・集金人・検針人・プロスポーツ選手や芸能人等に支払う報酬や料金
- 広告宣伝のための賞金や、馬主に支払う競馬の賞金
また、謝礼や取材費、車代等の名目で請求書が発行されていても、上記に該当すれば源泉徴収が必要です。
(5)源泉徴収分の税金は年末調整で精算
源泉徴収はあくまで「仮の納税」であり、年末に所得を再計算し、正確な所得税を算出します。
「年末調整」は、源泉徴収の対象者が年間の所得を確定させ、所得税の再計算をする手続きです。
仮で徴収された所得税を再計算し、徴収が多ければ返金、少なければ課税となります。
源泉徴収を記載するメリット
源泉徴収額を請求書に記載すると、どういうメリットがあるのか、順に解説します。
(1)金額計算の手間を省ける
源泉徴収額を記載すると、自身と取引先の源泉所得税の算出が楽になるというメリットがあります。
前述していますが、源泉徴収の金額が記載されていることにより、計算の手間を省き、時間の短縮に繋がります。さらに会計ソフトを導入して管理すると、一年分の源泉徴収税の総額もすぐに計算できるのです。
また、源泉徴収されていない場合は、自身で所得税を納税する手間がかかるため、請求書へあらかじめ源泉徴収額を記載しておくことで、納税手続きの簡略化になります。
(2)帳簿につけることにより、回収もれの防止になる
もともと、請求書の役割として「回収もれ」の防止という面があります。
送付した請求書の控えと入金済み・未払い案件を分けて管理することで、支払状況が一目で確認できます。
報酬が支払われていない等のトラブルにも対処でき、請求書を証拠とし未払い報酬の請求ができます。
(3)確定申告の時に、還付金が受け取れる場合がある
個人事業主やフリーランスが、自分で確定申告をしなければならないことは前述しました。
確定申告の際に「所得金額×税率ー源泉徴収額」の計算式で、最終的に納めるべき税額を算出します。この値がマイナスであれば、差額が還付される形になります。
請求書に源泉徴収を記載する時の注意点
ここでは、請求書に源泉徴収を記載する際に、注意するポイントを解説します。
(1)支払調書の取り扱い
源泉徴収額は、各店申告前に「支払調書」が送られてくるので、自分で控える必要がない?と疑問に思う方もいるかもしれませんが、支払調書は必ず送られてくるとは限らないので注意が必要です。
源泉徴収義務がある企業は税務署に対し、支払調書の提出が義務付けられています。しかし、その写しを個人事業主に交付する義務はありません。あくまで慣例として交付されるケースが多いのです。
取引については、各自で帳簿に記載しておく必要があるでしょう。
(2)消費税の計算方法を取引先に確認しておく
源泉所得税の計算にあたって、源泉徴収税率を消費税込みにする・抜きにするのか等、いくつかの方法があります。
取引先によって消費税の扱いが異なり、場合によっては取引先自身で計算することもあるので、源泉徴収税額自体を記載しないで欲しいというケースもあります。あらかじめ取引先に消費税の計算方法を確認しておけば、トラブルの予防に繋がります。
(3)源泉徴収についての取り決めをしておく
中小企業やフリーランスの個人事業主等と取引をする場合は、源泉所得税の扱いを事前に取り決めておくことが重要です。
できれば、契約書の段階で、報酬や料金を請求する際の源泉所得税の扱いについて、事前に合意しておくのが望ましいです。
請求書の管理と電子化
請求書には法的なルールが存在せず、会社内で取り決めをしなければならないので、作業にばらつきが生じたり確認に手間取ったりすることも少なくありません。
それぞれの会社だけではなく、部署ごとに異なるケースもあるでしょう。
また、紙で印刷するとコストがかかり、間違えた場合は再度印刷し直しになる等、非常に手間がかかる作業となります。
源泉徴収の記載では、直接納税に係わってくる部分の作業となるため、ミスやトラブルを防げるに越したことはありません。
そこで、請求書クラウドサービスを利用すると、データの連携が取れ、人件費や紙の保管コストの削減に繋がります。
請求書だけではなく、ほかの帳票類も電子化を進めれば、全体的な時間短縮と効率化が見込めます。
法整備も進んできた帳票類の電子化で、電子請求書を導入する企業も増えてきています。政府の後押しもあり、今後はますますペーパーレス化が進むことでしょう。