自社のDXがどれくらい進んでいるか、客観的なデータが欲しい時は経済産業省が策定した「DX推進指標」を使いましょう。「DX推進指標」はDXの進捗状況を自己診断するツールで、DXに取り組む上で様々な課題に気付けるメリットがあります。この記事ではツールの概要や使うメリット、利用する際の注意点などを解説いたします。
そもそも「DX推進指標」とは何か
「DX推進指標」とは2019年7月に経済産業省が公表したもので、自社のDX推進状況や課題を自己診断するための無料のツールです。経営幹部や各部門の関係者の間で自社のDXの現状や課題に対する認識の共有をし、次へのアクションの足掛かりとなることを目的に策定されました。診断結果を独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のポータルサイトにアップロードすることで全体との比較が可能になるベンチマークを入手できます。
企業が自社のDX推進度合いを自己診断できるツール
自己診断は、「DX推進指標」の表にある質問項目に一つ一つ回答していきます。DXがどれくらい進んでいるか6段階で評価し、レベル別に評価できないものは、算定方法に基づいて数値化します。いくつもの質問項目があるので、具体的なDXの取組みがわかり、自社がどの項目でどれくらいの段階までDXが進んでいるのか可視化されます。
参考:経済産業省「DX推進指標」https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003-3.pdf
「DX推進指標」の構成や項目は?
「DX推進指標」には、経営の在り方や仕組みに関する質問、基盤となるITシステムの構築に関する質問など、9つのキークエスチョンと26つのサブクエスチョンが設定されています。
各項目に対し、どれくらい達成しているかを6段階で回答します。段階別に回答できないものは算定方法にしたがって数値を入れていきます。回答は経営幹部、事業部門、DX部門、IT部門などが議論をしながら回答するようになっています。
参考:2019年7月 経済産業省プレスリリース
https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003.html
大きくわけて2つの項目で構成されている
指標は大きく分けて、2つの項目で構成されています。一つは「経営のあり方、仕組みに関する指標」です。さらにこの指標は、「DX推進の枠組み」、「DX推進の取組状況」の2つに分けられています。もう一つは、「基盤となるITシステムの構築に関する指標」で、同じように「ITシステム構築の枠組み」、「ITシステム構築の取組状況」の2つに分けられています。定性指標に関する質問項目には、レベル0からレベル5の達成具合で回答し、定量指標は項目ごとに定められている算出方法で回答します。
所定の機関に結果を提出するとベンチマークの策定も
自己診断をした後は、IPAが提供している自己診断フォーマットに入力していきます。入力した自己診断結果をDX推進ポータルに提出(アップロード)すると、分析、ベンチマークの策定や提供を受けられます。業種や規模別の平均値などもわかるので、他社と比べどれだけ進んでいたり遅れていたりしているかがわかります
参考:「DX推進ポータル」https://dx-portal.ipa.go.jp/i/signin/top?d=%2Fu
ベンチマークとは?
ここでいうベンチマークとは、基準点を設けて自社の経営を評価することを言います。「DX推進指標」で出されるベンチマークは、ポータルサイトに登録した企業全体との比較です。2019年には248社、2021年には486社がポータルサイトを利用し、DX推進の戦略に活用しています。
DX推進指標が必要になった背景
「DX推進指標」を策定した背景に、日本企業のDXがなかなか進まないという状況を打破したいという政府の意図があります。「2025年の壁」と呼ばれる問題があり、このまま日本企業のDXが進まないと、人材不足などの課題が深刻になり2025年以降には最大12兆円の経済損失がうまれるとされています。
デジタル技術を使ったあらたなビジネスの誕生、人口減少による働き方の見直しが必要とされている状況からDXの推進は火急の課題となっています。
これまでにないビジネスモデルが登場したため
AIやIoTなどのデジタル技術を活用したビジネスが拡大している一方で、伝統的な日本企業は競争力を失いつつあります。かつての経営モデルでは企業は今後衰退していく運命にあり、生き残っていくには、伝統的な企業体質を見直し、企業文化の変革が求められています。新しいビジネスモデルを構築し、価値を創出していくためにはDXが必須で、そのために「DX推進指標」を使うことがメリットになります。「DX推進指標」ではビジョンや仕組み、事業への落とし込みなどの細かい評価があり、企業全体の変革がどこまで進んでいるかがわかります。
「働き方」の見直しが進みDXを導入する必要性が高まった
2019年に働き方改革関連法が施行、2020年には新型コロナウイルスが流行し、企業は働き方の見直しが求められています。多様化する社会、迫りくる人口減少の中でも生産性を上げ、ワークフローを改善していくためにはDXが必要です。AIなどのデジタル技術を導入して時間外労働の削減、リモートワークなどを実現し、働き方改革を押し進めていくことが重要です。「DX推進指標」のなかでITシステムの構築の取り組み状況について詳しく評価する項目があり、進捗状況がよくわかるように作られています。
「DX推進指標」のメリット
「DX推進指標」を利用することでどのようなメリットがあるのでしょうか。経済産業省のガイダンスでは、活用の仕方として、①認識共有・啓発②アクションにつなげる③進捗管理の3つを紹介しています。これを利用のメリットとして考えると、①状況の把握②弱みを知り次の課題がわかる③他社との比較による自社の強みがわかる、となります。詳しく見ていきましょう。
①社内全体で状態を把握できる
「DX推進指標」は、経営幹部や各部門の関係者が議論をし、認識の共有のもとに回答していくよう推奨されています。担当者だけで理解しているだけでなく社内全体で共有することで部門間の齟齬の修正ができ、今後の方向性への議論に進めるからです。
特に9つのキークエスチョンは経営者が回答することが推奨されていて、トップの意識や認識が推進する上で非常に重要である、ということを意味しています。社内全体で取り組むべきものとして認識を共有し戦略を考えるためのツールにしてほしい狙いがあります。
②弱みを知り「次の課題」がわかる
現状や課題の認識が共有できると、次に取り組むべき課題が見えてきます。ベンチマークを入手することでどの分野のDXが遅れているかがわかり、弱みが見えてきます。また、経年変化から進捗管理もでき、評価がしやすくなります。それらを基に次に何をするべきか、具体的なアクションについての議論が可能になります。
③他社と比較できる
自己診断したシートを「DX推進ポータル」に提出すると、ベンチマークが手に入ります。このベンチマークは全体と比べてどれだけ自社のDXが進んでいるか明らかにするもので、他社と比較ができ、弱みがわかる反面、得意分野や強みを知ることができます。自社のよい点を延ばし、足りていない部分はどんなところか、その点に関して他社はどのような取り組みをしているのか、より具体的に戦略を立てられます。
「DX推進指標」活用の注意点
DXの推進状況を知る上で、「DX推進指標」はメリットの高いツールです。しかし、利用にあたっては、いくつか注意点があります。経済産業省でも注意点があげているのでここで確認しておきましょう。
①獲得点数だけに注目しない
「DX推進指標」はあくまでも自社のDXの現状や課題を適切に認識し、共有することが重点に置かれているものなので、よい点数を取ることを目的にしないことが重要です。ベンチマークも企業の評価として使うのではなく、あくまで現状分析の資料としてつかうよう促されています。
②判定がゴールではない
良い判定をもらうことがゴールではないということも大切です。あくまでもゴールは、経営目標を達成させ、競争力の高い企業に変化成長させることです。ベンチマークは公表して企業のブランドを示すためのものではなく、DXを進める上での手段として活用されるものです。経営陣が自分事としてアクションが行えるような客観的なデータとして活用していくことが重要になってきます。
まとめ:「DX推進指標」を活用して自社に生かそう
自社のDX推進度を計測したり、社内の共通認識を確認したりするツールとして「DX推進指標」はとても有効なツールと言えます。「DXをどのように進めたらよいかわからない」という企業や、経営トップの意識が変わらずにDXが進まないという企業もあります。こういった企業にとっては気づきや足掛かりとなるツールになるのでしょう。
ただし、注意点として、良いスコアを取ることを目的にしたり、公表して企業の評価につなげようとしたりすることは避けるべきです。あくまでもDX推進のためのツールとして社内で活用をしていきましょう。