赤字決算だと企業はどうなる? メリットデメリット・やり方を紹介

「赤字」の言葉の響きから、赤字決算とは企業にとって悪い状態をイメージする人も多いでしょう。しかし、赤字決算は悪いことばかりではありません。
この記事では、赤字決算とは企業にとってどのような状態を指すのか、また赤字決算を行うメリット・デメリットをわかりやすく解説します。

決算を赤字にする際の注意点を理解した上で、戦略的に赤字決算を行えるよう是非参考にしてください。

赤字決算ってどんな状態? 赤字決算企業の割合とは

赤字決算とは「支出>収入」という状態

赤字決算とは、支出が収入を上回り利益が出ていない状態です。
企業は利益を追求して経営を行っており、支出が収入を超えて利益が出ない状態が続くと、いずれは債務超過になり倒産の危機が予想されます。
特に事業内容に問題があるために赤字が続き、回復の目処が立たないとしたら問題です。

しかし、利益が十分に出ている状態で一時的に赤字になった場合や、戦略的に赤字決算を出している場合であれば特に問題はありません。戦略的に赤字にする場合があるのは、赤字によるメリットがあるからです。

国税庁が公表した赤字決算企業の割合

赤字決算は珍しいことではありません。
国税庁が2022年6月に公表した「統計年表」を見ると、2020年度の連結子法人を除いた普通法人の赤字法人率は62.3%に上ります。

過去6年間を一覧にすると次のようになり、毎年6割以上の企業が赤字決算を行っている計算です。

普通法人数(社)赤字法人数(社)赤字法人率(%)
2020年2,790,5601,739,77862.3
2019年2,745,4371,691,35761.6
2018年2,725,2931,692,62362.1
2017年2,693,9561,687,09962.6
2016年2,660,1251,689,42763.5
2015年2,630,4361,690,85964.3

出典:国税庁(統計年表 法人税表)

赤字決算には種類やパターンが複数ある

【種類】赤字決算の4つの表し方

赤字決算は、どの利益が赤字になるかによって4種類に分類されます。

1.営業赤字

営業損失とも呼ばれます。企業が本業の営業活動において赤字という意味です。

損益計算書の営業損益の部で損失が出ている状態を指します。営業損益は、売上高から売上原価と販管費を除いた値です。売上が伸びない・売上原価の高騰・販管費が増えた等、収支がマイナスになる原因を分析する必要があります。

本業をテコ入れし回復させないと、企業の衰退や取引先からの信用度が下がる危険があります。

2.経常赤字

経常損失とも呼ばれます。本業以外の収支がマイナスのため、営業損益・営業外損益全体として赤字の状態です。

経常損益が赤字になるのは、金利負担が大きい・為替相場の変動・不動産価値の下落等のケースが考えられます。本業で黒字を出していても、本業以外がマイナスになってしまうのであれば、その原因を取り除くことが必要です。

本業もマイナス経常損益も赤字だとしたら、危険な経営状態です。

3.当期純損失

当期純損失とは、経常損益に特別利益・特別損失の加減を行い、法人税等を納めた後の最終的な利益がマイナスな状態を指します。

固定資産の売却損や災害による損失が出た場合は当期純損失となるケースが多く、一時的な赤字です。ただし、経常損益が赤字で当期純損益も赤字の企業は倒産に至る可能性が高く、経営状態が苦しい状態と言えます。

4.キャッシュフローの赤字

赤字決算の4種類の中で特に危険な状態と言えるのが、キャッシュフローの赤字です。

キャッシュフロー計算書は、会社の現金収支を営業活動・投資活動・財務活動に分類して確認することができます。
投資活動・財務活動の赤字は大して心配する必要はありません。
しかし、営業活動で現金の支出が多く、収入が得られなかった場合は注意が必要です。
現金がなければ企業経営を継続することは困難で、倒産・経営破綻に至る状態と言えます。

【パターン】状況によって分類される赤字決算

赤字決算は、3つのパターンに分類できます。

1.創業時の赤字

創業時は、赤字になりやすい傾向があります。起業直後から順調に仕事を獲得し、売上が伸びるのが理想ですが、なかなか思うようにはいかないものです。

仕事がなくても業務に必要な設備や人件費等の費用はかかります。そのため、創業時の収支は赤字になりがちです。どのような企業でも、苦しい創業時は通る道であり、ある程度は割り切る必要があるでしょう。

2.臨時的な赤字

事業を行っていれば、計画通りに経営を行える時期ばかりではありません。予期せぬアクシデントはつきものです。その際、一時的に赤字になることもあるでしょう。
また、事業拡大のために大きな設備投資を行った場合の赤字も、臨時的な赤字です。

臨時的な赤字は、その影響がなくなれば黒字に戻る可能性が高いので、過度な心配は不要と言えます。

3.恒常的な赤字

恒常的な赤字は、企業経営がかなり危険な状態であることが考えられます。
ターゲット市場の縮小や競合他社の存在、商品やサービスの価値が下がる等、業界の環境や経営方針に問題がある場合が多いです。

事業回復に向けた抜本的な対策を練らなければ、経営状態が健全化することはありません。
人員削減を行ったとしても一時的なもので、資金が不足すればいずれ倒産に追い込まれてしまいます。
また、恒常的な赤字は金融機関の信用度が下がり、新たな融資を希望しても審査は厳しいものになるでしょう。

わざと赤字決算にする意味は? 企業が得る3つのメリット

法人税を最小限にできる

わざと赤字決算にすることで、法人税を最小限にできるメリットがあります。

法人は通常、所得を基に法人税を計算し、法人税を納めなければなりません。
法人税は、課税所得×法人税率で計算され、決算日の翌日から2か月後までに申告・納税する義務があります。課税所得とは、益金から損金を差し引いた金額です。赤字であれば、法人税の支払いがありません。

注意点として、損益計算書で赤字になったとしてもそれは会計上の話で、必ずしも税務上で赤字とは限らないことです。計上する収益や経費に違いがあるためです。
例えば、会計上で費用計上した交際費が、税務上では損金と認められない場合があります。
そのため、税務調整を行った後の課税所得金額が赤字である必要があります。

法人住民税は支払う必要がありますが、法人税の支払いを最小限にすることは可能です。
特に中小法人は、法人税の節税対策で赤字決算を行うケースがあります。

「繰越欠損金控除」が活用できる

赤字決算になると、赤字部分を翌期以降に繰り越して将来の黒字と相殺することが可能です。これを繰越欠損金控除と呼びます。

制度を活用するには条件があり、繰り越せる年数に上限もありますが、繰越欠損金控除を行えば将来にわたって法人税を抑えられるのがメリットです。
繰越欠損金控除の適用条件は、該当年度に青色申告書を提出し、以降も確定申告書を提出していることや、帳簿書類を保存していることが挙げられます。

また、資本金1億円以下の中小企業では全額控除できますが、大企業では控除限度額が設定されているので注意が必要です。

「欠損金の繰戻しによる還付」を受けられる

赤字決算は、前期に支払った法人税の一部の還付を受けられるメリットがあります。
資本金1億円以下の中小企業が対象です。還付できるのは前期に支払った法人税が上限となります。前期より前の法人税は還付対象外です。

還付を受けるには、赤字決算を行った事業年度と前年度について連続して青色申告書を提出している必要があります。
また、「欠損金の繰り戻しによる還付請求書」を提出することで還付が認められる制度です。

請求額は次の式で計算できます。

還付所得事業年度の法人税額 × 欠損事業年度の欠損金額 / 還付所得事業年度の所得金額

赤字決算はリスクも伴う|企業経営におけるデメリット

企業の評価が下がる=融資が受けづらい

赤字決算は税金に関するメリットがあり、わざと赤字決算を行う企業もあることは前述した通りです。
しかし、赤字決算はメリットばかりではなく、デメリットもあります。
企業の評価が下がるリスクがあるということです。

注意したいのが、金融機関に対しての信用度が下がることです。
銀行は、融資判断の際に、会社の決算書を利用します。そのため、赤字が続いている企業であれば、新規融資の判断に不利に働くでしょう。
既に融資を受けている場合でも、2期以上連続して赤字決算を出すと融資の中止や一括返済を求められる可能性があります。

創業時や臨時的な赤字等、問題にならない赤字もありますが、連続した赤字を出すことで債務返済能力がないと判断されないよう注意が必要です。

税務調査の確率が上がる

赤字決算の2つ目のデメリットは、税務署の調査の目が厳しくなることです。

税務署は、申告書をきちんとチェックし、赤字企業が不正を行っていないか・本当に赤字経営なのかを確認しています。

税務署は、節税効果を狙って虚偽や不正を行う企業を見過ごすわけにはいきません。
赤字企業であっても、税務調査を行うことがあります。
故意に数字を改ざんする等して赤字決算を出している場合は、脱税容疑で逮捕されることもあるので注意が必要です。

債務超過による倒産の可能性がある

赤字経営は長く続けられるものではありません。
繰越欠損金控除の制度も、翌年度以降に黒字が出せなければメリットにもならないでしょう。

赤字が続いた先に待っているのは、債務超過による倒産です。

企業の6割超は赤字決算を行っていると説明しましたが、赤字決算を行う企業の中には節税が目的の会社も多いです。また、設備投資や新規事業の展開等で一時的な赤字決算を行った会社も少なくありません。

一方で、本業が赤字・経常損益もマイナス、当期純損失が続きキャッシュフローも赤字という危険な経営状態であれば、早急に赤字を立て直す対策が必要です。

戦略的な赤字決算のやり方とは? 様々な手法を紹介

中小企業が受けられる共済制度を活用する

中小企業を対象とした共済制度の中には、掛金を全額損金に算入できるものがあります。
積極的な赤字決算を行うために、次のような共済制度を利用するのもひとつの方法です。

中小企業倒産防止共済は、取引先の倒産という不測の事態に、事業資金を借入れできる共済です。取引先が倒産した場合は、掛金総額の10倍の範囲(最高8,000万円)まで共済金の貸付けが受けられます。

掛金を全額損金として扱うことが可能です。
もともと、中小企業の倒産により取引先が連鎖して倒産することを防ぐための制度なので、利率が低く無担保で借入れができるメリットがあります。

また、中小企業退職金共済を利用している会社も多いです。
会社の退職金制度では、積立金を損金として計上することができません。
しかし、中小企業退職金共済は、掛金を全額損金に算入できるのです。

役員報酬や決算賞与を給付(増額)する

役員報酬の増額は、損金算入額が増えるため、赤字決算に向けた戦略的な対応と言えます。

毎月一定額を支給する役員報酬は、損金として算入可能です。
しかし、役員賞与は認められていません。

想定以上に業績が良く、大きな利益が出た場合は、法人税の額も大きくなってしまいます。役員報酬を増額しておけば、法人税額を抑えることが可能です。

また、社員への決算賞与の支給も、戦略的な赤字決算に役立ちます。
決算期末までに決算賞与の支給額を通知すれば、決算賞与の額が損金に算入できるのです。
期末から1か月以内の支給が条件ではありますが、ギリギリの通知で良いため利用するメリットが大きく、社員のやる気にも繋がります。

損金算入できるものを計上する

今期の損金に算入できるものがあれば、積極的に計上することで節税対策として役立ちます。

例えば、将来必要になることが明確な減価償却資産を購入することで、費用を増やす方法があるでしょう。
減価償却資産は通常、何年かに分けて損金に算入されますが、少額減価償却資産の特例を利用できれば、購入年度の損金として全額を計上することが可能です。

また、不要な固定資産の廃棄・売却・除却も、損金として計上できる可能性があります。帳簿価額より安く売却すれば売却損として、廃棄すれば除却損として費用計上できます。

さらに、期をまたいで支払う予定のある未払費用を、今期に支払ってしまうことでその年度の損金として扱うことが可能です。

いずれの方法も、期末ギリギリに慌てて行うのではなく、決算対策として計画を立てて進めておくことが大切です。

赤字決算でも必ず課せられる税金に注意しよう

戦略的な赤字決算は、主に節税対策で行います。
しかし、法人が納める税金等には、次のように赤字でも必ず課せられるものがあるので注意してください。

  • 消費税
    企業が回収したお金の中には、消費税も含まれています。これは消費者を代行して企業が納税するもので、企業の黒字・赤字は関係がありません。
    売上額1,000万円以内や設立後2年以内で免除されるケースはあるものの、原則として納税義務のある税金です。
  • 源泉所得税
    会社には給与から天引きした源泉所得税を納付する義務があります。
    会社は所得税を預かっているだけの状態であり、赤字決算であるかどうかにかかわらず納付が必要です。
  • 法人住民税の均等割
    法人住民税は、均等割と法人税割で構成されています。
    赤字決算の場合は法人税割の部分は「0」になりますが、均等割の部分は納税が必要です。
    法人の資本金や従業員数で確定する税金で、赤字かどうかは関係ありません。
  • 自動車税
    会社が自動車を保有している場合は、車種や用途、排気量等によって納税額が決まります。
    赤字決算の場合でも、納税額は変わりません。
  • 印紙税
    契約書や領収書等の課税文書に課される税金で、会社が赤字でも納税が必要です。

まとめ

赤字決算が企業にとってどのような状態なのか、また赤字決算を行うメリット・デメリットをご紹介しました。

赤字決算にはいくつかの種類・パターンがあります。
キャッシュフローの赤字や恒常的な赤字は、経営の危険度が高く赤字を立て直す対策が必要です。

節税対策になる戦略的な赤字決算ですが、慎重に行わなければ企業の信用度を下げる可能性があります。

赤字が即倒産にはならないとしても、企業は本来利益を追求して経営を行うものです。
連続した赤字を出さないように注意しましょう。

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