黒字倒産という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
黒字倒産は、商品・サービス等が売れていて帳簿上は利益が出ているにもかかわらず、支払いに必要な資金が足りずに倒産してしまうことを言います。
企業にとって、利益を創出するのは非常に重要です。しかし、もうひとつ重要な要素なのが資金繰り。資金繰りが上手くいかず資金が不足して支払いが滞れば、企業活動が立ち行かず黒字倒産しかねません。
資金繰りが難しくなるのは、営業上の取引が掛け(ツケ)で行われることが多いからです。掛けによる取引は、売上代金の回収や支払いが後日となります。
代金回収にかかる期間と支払いまでの期間にズレ(差)があり、後者の方が短ければどうなるでしょうか。売上が入金される前に、資金が流出することになります。そうなれば、資金が不足することも起こり得るでしょう。
そのズレや資金繰りの状況を判断するために用いるのが、買掛債務回転期間と売上債権回転期間です。
この記事では、このふたつの指標の意味や計算方法についてご紹介します。資金繰りの状況を把握していただけるようになる内容ですので、是非最後までお付き合いください。
買掛債務とは?意味と主な勘定科目について解説
買掛債務回転期間について説明する前に、まずは買掛債務がどのようなものかをお話しします。
買掛金について詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>買掛金とはどのような勘定科目? 売掛金との違いや仕訳例も紹介
買掛債務とは仕入により発生した支払義務
買掛債務とは、掛け(ツケ)で行った仕入取引により生じた代金を支払う義務です。言い換えれば、後払いで商品・サービス等を仕入れた際に、まだ支払っていない代金を支払う義務だと言えます。
仕入債務・支払勘定・買入債務とも呼ばれますので、これらは同じ意味の言葉であることを覚えておくとよいでしょう。反対概念としてあるのが、売上債権です。
買掛債務の主な勘定科目:買掛金と支払手形
買掛債務は、買掛金や支払手形で計上されるのが一般的です。よって、買掛金と支払手形の合計が買掛債務と考えて差し支えありません。
通常の営業活動において発生する債務ですので、通常は未払金を含めることはありません。
未払金は、営業活動以外の取引から生じる債務に使用します。混同しやすいので、留意してください。
さて、買掛金と支払手形はどのような勘定科目なのでしょうか。
- 買掛金:
仕入等の通常の営業取引により発生した買掛債務に使用する負債勘定。
負債であり、買掛金の残高があるということは借金をしていることと同義です。しかし、利息はありません。ですので、無利子の借金と考えてよいでしょう。 - 支払手形:
商品売買等の通常の営業取引による代金を、後日支払うために振出した約束手形や引き受けた為替手形等の手形債務に使用する負債勘定。
どちらも営業上の代金を支払う手段です。しかし、手形を振出しているかどうかが異なります。
加えて、以下のような違いもありますので押さえておきましょう。
【期日】
- 買掛金:なし。
- 支払手形:あり。
(期日は手形の振出人と受取人の双方の合意によって決定します。期日は、1か月~4か月が一般的です。)
【決済方法】
- 買掛金:仕入先へ送金したり、現金決済したりします。
- 支払手形:受取人が手形期日に金融機関に手形を取り立てに出し、現金化。その際に、手形の振出人の当座預金から引落しされます。
【ペナルティ】
- 買掛金:なし。
- 支払手形:あり。当座預金の残高不足等が原因で、6か月以内に手形の不渡り(決済ができない状況)を2回出してしまうと銀行取引停止処分になります。
支払いに猶予があるというメリットがある一方で、重たいペナルティというデメリットがあるのが支払手形です。
銀行取引停止処分になれば、事実上の倒産と言えるでしょう。当然のことながら、企業は倒産を回避しようとしますから、基本的に手形を不渡りにはしません。
ですから、支払手形は買掛金に比べて、期日に代金を回収できる可能性が高い買掛債務だと言えます。
【補足】
会計上の負債とは、一般的に支払義務・返済義務のあるもののことを表します。
ふたつの勘定科目について、実際の仕訳例を見てみましょう。
買掛債務を行う際の仕訳例:買掛金
商品等を掛け(ツケ)で購入した場合は、以下の方法で決済をするのが一般的です。
- 買掛金の金額をそのまま支払う方法
- 買掛金と売掛金(注)を相殺する方法
【仕入時】
4月1日:商品(20万円)を仕入れ、支払は翌月末日とした。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
仕入 | 20万円 | 買掛金 | 20万円 |
【決済方法①・買掛金の金額分を支払う】
5月31日:商品の代金20万円を、当座預金から支払った。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
買掛金 | 20万円 | 当座預金 | 20万円 |
【決済方法②・売掛金と買掛金を相殺】
5月31日:商品代金20万円のうち、取引先に対する10万円の売掛金と買掛金を相殺し、残りを現金決済した。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
買掛金 | 20万円 | 売掛金 | 10万円 |
現金 | 10万円 |
(注)売掛金は、買掛債務の反対概念である売掛債権のひとつ。買掛金とは反対に、商品等を掛けで販売した場合に代金を受け取る権利に用いる資産勘定です。
買掛債務を行う際の仕訳例:支払手形
手形期日が到来した支払手形は、受取人が取引銀行に取立委任をすることで現金化されます。その際、手形の振出人の当座預金から手形金額が回収されます。
【仕入時】
4月1日:商品(20万円)を仕入れ、手形を振出した(期日6/30)。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
仕入 | 20万円 | 支払手形 | 20万円 |
【決済】
6月30日:手形期日が到来し、手形金額が当座預金から回収された。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
支払手形 | 20万円 | 当座預金 | 20万円 |
資金繰りを評価できる「買掛債務回転期間」とは?計算式と数値の考え方
買掛債務回転期間とは買掛金の発生から支払いまでの期間
買掛債務回転期間とは、通常の営業活動に必要な商品・材料等を仕入れてから、それらの代金を決済するまでの平均期間のことを言います。冒頭でもお話したとおり、資金繰りの状況を確認する上で重要な数値です。
数値が低ければ代金の支払いが早く、数値が高ければ代金の支払いが遅いと読み取ることができます。
なぜ資金繰りの状況を判断する上でこの数値が重要なのでしょうか。なぜなら、この数値から支払いの面で資金繰りが楽かどうかを判断できるからです。
資金繰りは、基本的に売上の回収が遅いと苦しくなり、支払いが遅ければ資金繰りは楽になります。つまり、買掛債務回転期間が短ければ資金繰りは厳しくなりやすく、長ければ資金繰りに余裕を持たせやすいということです。
買掛債務回転期間と売上債権回転期間を組み合わせれば、売上の回収が支払いに追い付いているかを知ることも可能です。
計算式はどのようなものでしょうか。
計算式:買掛債務回転期間=買掛債務を売上原価で割った数
買掛債務回転期間は、以下の計算式で算出されます。
買掛債務回転期間(年) = 買掛債務 ÷ 売上原価(または仕入高)
一般的に、この数値が高ければ支払いに時間をかけていると考えられます。資金繰りには有利な状況です。
目安とされるのは40日以下。しかし、業種業態によって適正水準に差が生じやすいものですので、業界平均と比較して数値が高いか低いかを考えましょう。
従来は売上の回収は早急に行い、支払いは遅延させることが有利とされてきました。しかし、現在は掛代金の支払いを早々に行うことで、仕入値引きをしてもらうこと(仕入割引)を重視する企業が増えています。
1か月分の仕入高を分母とすることで月単位の数値が出せる
買掛債務回転期間は、月数で表示されることもあります。その場合は、計算式は以下の通りです。
買掛債務回転期間(月) = 買掛債務 ÷ 売上原価(または仕入高) ÷ 12か月
年単位と月単位のどちらで計算しても問題ありません。しかし、支払いや売上の入金サイクルが一定ではない企業や業種であれば、月単位の方が資金繰りの状況を掴みやすいでしょう。
買掛債務回転期間は仕入に関する資金繰りの状況を判断する指標
買掛債務回転期間は、資金繰りの状況を判断する指標です。目安は40日以下とされていますが、業界によって差があります。ですので、基本的には業界平均と比べることをおすすめします。
業界平均と比べて買掛債務回転期間が長すぎても短すぎても、なんらかのトラブルが発生しやすいため、適正値を保っておきましょう。
数値が高ければ、売上の回収よりも支払いが多くなり資金が不足する可能性があります。売上債権回転期間とのバランスを考慮しましょう。
買掛債務回転期間の平均値は1.37月
財務省が発表している全産業・全規模の買掛債務回転期間は1.37月です。業種別・資本金別に見ると、以下のようになります。参考になさってください。
業種 \資本金 | 1千万円未満 | 1千万円~1億円未満 | 1 億円~10 億円未満 | 10 億円以上 |
---|---|---|---|---|
製造業 | 0.76 月 | 1.43 月 | 1.78 月 | 1.70 月 |
非製造業 | 0.62 月 | 1.22 月 | 1.55 月 | 1.37 月 |
買掛債務の反対概念として売掛債権があるとお話ししました。買掛債務回転期間にも対照的なものがあります。
買掛債務回転期間と関係の深い指標について
売上債権回転期間とは:計算式と買掛債務回転期間との関係性
買掛債務回転期間と関係が深いものに、売上債権回転期間というものがあります。両者のバランスを取ることが、資金繰りに重要となります。どのようなものか見ていきましょう。
売上債権回転期間とは売上の発生から決済までの期間
売上債権回転期間とは、通常の営業取引によって生じた金銭債権(売掛金・受取手形)を回収するまでの平均期間のことを言います。売上債権は、売掛債権と同義です。この指標も、資金繰りの状況を確認する上で重要な数値となります。
数値が大きければ売上の回収が遅く、数値が低ければ売上の回収が早いです。
資金繰りは売上の回収が遅いと苦しくなりますから、一般的に売上債権回転期間が短いことが望ましいです。また、売上債権回転期間が短いということは健全的かつ効率的な状況だと言えます。
目安は30日以下とされていますが、こちらも業種業態によって適正水準に差がありますので、業界平均と比較しましょう。
計算式:売上債権回転期間=売上債権を売上高で割った数
売上債権回転期間は、以下の計算式で算出されます。
売上債権回転期間 = 売上債権 ÷ 売上高
年単位で計算すると、期間が長いことが原因で代金の回収状況がわかりにくいでしょう。資金繰りに活かすのであれば、月単位や日単位で捉えることをおすすめします。
・売上債権回転月数 = 売上債権 ÷ 売上高 ÷ 12か月
・売上債権回転日数 = 売上債権 ÷ 売上高 ÷ 365日
目安は30日以下です。業種によって違いはあるものの、売上債権回転月数が2か月を超えると企業にとって負担が大きくなり経営が難しくなると言われています。
中小企業には資金面で体力がありませんので、業界平均並みかそれより短い状況が好ましいでしょう。
買掛債務回転期間と売上債権回転期間はどちらも資金繰りの判断指標
買掛債務回転期間と売上債権回転期間はどちらも、資金繰りの判断指標です。今までの内容をまとめると、こうなります。
- 買掛債務回転期間:
掛仕入の支払いが早いか遅いかがわかります。数値が低ければ支払いが早く行われていて、数値が高れば支払いが遅い状態です。資金繰りには、買掛債務回転期間が高い状態の方が有利となります。
- 売上債権回転期間:
掛売上の代金回収が早いか遅いかがわかります。数値が高ければ代金の回収に時間がかかる状況にあり、数値が低ければ代金の回収が早い状況です。資金繰りには売上債権回転期間が低い状態が有利となります。
そして、上記のことから以下のような判断ができます。
- 【売上債権回転期間>買掛債務回転期間となる場合】
売上を回収する前に仕入の支払いが生じるため、資金繰りの調整が必要です。 - 【売上債権回転期間<買掛債務回転期間となる場合】
売上を回収した後に仕入の支払いが生じるため、資金繰りに余裕があります。
是非、一度企業の売上債権回転期間と買掛債務回転期間のバランスをご確認ください。
買掛債務回転率とは:計算式と数値の目安
最後に、買掛債務回転期間と関連性の高い買掛債務回転率についても学んでおきましょう。買掛債務回転期間と買掛債務回転率を組み合わせることで、より深い分析が可能です。
買掛債務回転率とは:支払効率を把握するための指標
買掛債務回転率とは、代金の支払いをどのくらい効率的に行っているかを示す比率です。以下の計算式で算出します。
買掛債務回転率 = 売上原価 ÷ 買掛債務 × 100
この数値が高いほど支払いが早く行われています。逆に、この数値が低いほど支払いに時間かかっている状況です。
資金繰りの観点から言えば、この数値が低い方が資金繰りに余裕があります。ただし、支払状況が悪化していて、資金不足により支払いを先延ばしにしている可能性もありますので注意しましょう。
計算式を見て、買掛債務回転期間と似ているなと思った方もいらっしゃると思います。実は、分子と分母が逆です。
計算式:買掛債務回転率=買掛債務回転期間の分子と分母を逆にした指標
計算式から読み取れるように、買掛債務回転率は買掛債務回転期間の分子と分母を逆にした指標です。ですから、関係性は以下のようになります。
- 買掛債務回転期間が長い=買掛債務回転率は低い
- 買掛債務回転期間が短い=買掛債務回転率は高い
対照的な関係だと覚えておきましょう。買掛債務回転率にも目安がありますので、ご紹介します。
買掛債務回転率の目安は1,200%以上
買掛債務回転率が低い方が資金繰りに有利ではありますが、限度があります。買掛債務回転率の目安は1,200%以上です。
1,200%より低すぎる場合は、資金繰りが厳しく支払条件が悪化していたり、資金不足から支払いを延期させたりしていることが予想されます。
もし売上原価が1億円で買掛債務が0.1億円であるなら、買掛債務回転率は1,000%です。
この指標も、業界業種によって適正水準に差があります。業界平均を基準に考えるようにしてください。自社の過年度と比較するのもよいでしょう。
買掛債務回転期間に関するQ&A
買掛債務と仕入債務、買入債務の違いは?
冒頭でお話しした通り、買掛債務は、仕入債務・支払勘定・買入債務とも呼ばれます。同義語です。ですから、買掛債務回転期間は仕入債務回転期間とも言います。
買掛債務はどのように管理したらよいのか?
買掛債務は売掛債権とのバランスを取りましょう。このふたつは、資金繰りを左右する両極となります。
買掛債務が過剰なら、個々の営業取引が赤字になっていないかを確認。売掛債権が過剰なら、売上代金の回収状況の点検をします。
また、支払いの前に売上代金を回収できるよう、売上債権回転期間<買掛債務回転期間となるように取引の条件を調整しておくのもよいでしょう。
まとめ
営業上の取引は掛けで行われることが多く、売上代金の回収や仕入の支払いが後日となるのが一般的です。もし売上代金回収にかかる期間が支払いまでの期間より長ければ、資金が不足しやすくなるでしょう。
ですから売上債権回転期間・買掛債務回転期間といった指標を用いて、資金繰りの状況を掴むことが重要です。業界平均に比べて代金の回収に時間がかかりすぎているのならば改善し、資金に余裕がないのなら支払を遅延させる等の対策を行いましょう。