財務分析のひとつ|生産性分析とは? 生産性の定義と指標の概要・計算式

「企業の生産性をあげたい」と考える経営者様は少なくないでしょう。しかし、生産性をあげたいと考えるのであれば、まずは現状を把握する必要があります。
そんなときに役立つのが、生産性分析です。

本記事では、生産性分析とはどのようなものか、関連する用語やその手法について解説。生産性の向上が求められる背景と、その向上の手段についてもご紹介しています。
是非、最後までお付き合いください。

生産性分析を知る上で欠かせない「生産性」とは? 生産性に関わる用語も解説

生産性分析とは投入した資源がどれだけ成果をあげているかを示す指標

企業経営に不可欠な要素である「ヒト・モノ・カネ・情報」を活用して、企業がいかに付加価値を生み出したのかを示す指標です。

言い換えれば、投じた経営資源からどれだけの利益を創出したかを表します。インプットに対してアウトプットが多いほど、高い生産性だと言えるでしょう。

生産性 = 成果物(産出量) ÷ 投入量

生産性を高めることと業務を効率化することは度々同義的に語られますが、少し意味合いが異なります。

業務効率化は業務の「無理・無駄・ムラ」を取り除いて、インプットを削減した上で同程度のアウトプットを創出するという意味です。コストパフォーマンスを改善する活動のことを指します。他方で、生産性向上は、よりわずかなリソースで成果を生み出すための取り組みです。
つまり、手段(コスト)と成果のどちらに比重を置いているかに違いがあります。

業務効率化は生産性を高める手段のひとつではありますが、両者の違いを区別しておきましょう。

生産性分析に関わる用語|「インプット(投入量)」「アウトプット(産出量)」「付加価値」

「インプット(投入量)」:利益をあげるために投入した経営資源の量

企業活動において、利益を生み出すために必要な経営資源である、「ヒト、モノ、カネ、情報」の総量がこれにあたります。

メーカーを例に考えてみましょう。製品を生産し販売するためには、工場や土地、機械、従業員、原材料、部品、燃料等、人件費等の各種費用、企業独自のノウハウ、それらの購入に必要となる資金等といったあらゆるものが必要になります。
これらの企業活動に必要な経営資源のすべての量が、インプットです。

「アウトプット(産出量)」:インプットにより生まれた商品等の量

インプットに対して生み出された商品やサービスの量(アウトプット)のことです。成果物とも言えます。

例えば、機械を導入(インプット)したことで生み出された製品、採用した専門職の社員(インプット)によって提供できるようになったサービス等、あらゆるものが含まれます。

「付加価値」:企業が原材料に付加した独自の価値

企業で新たに創出された価値や追加された価値のことです。言い換えると、企業固有の努力により生み出された価値のことを言います。

例えば、仕入れたものに企業独自の生産技術や加工技術を施す等して付与された価値です。なお、技術だけではなく、ノウハウや独自の仕入ルート等も付加価値となります。

その算出には、2つの方法があります。 

  • 中小企業庁方式(控除法):
    「付加価値額=売上高-外部購入価値(注)」
    自社の売上には他社の付加価値額が含まれているという考えの下で、それを控除して自社分の付加価値額を算出します。
  • 日銀方式(加算法または積上法):
    「付加価値額=人件費+経常利益+賃借料+営業外費用+租税公課」
    付加価値は製造過程で積み上げられていくものであるという考えの下で、このように算出します。

(注)材料費、買入部品費、外注加工費等。

一般的には、算出が容易な「中小企業庁方式(控除法)」が用いられます。

財務分析の5つの分析方法のひとつ「生産性分析」とは?

財務分析には、以下の5つのものがあります。本記事でご紹介する生産性分析以外は、それぞれリンクを張っていますので、内容が気になる方は併せてお読みください。

  1. 安全性分析
  2. 収益性分析
  3. 成長性分析
  4. 生産性分析
  5. 活動性分析

また以下の記事では、財務分析と経営分析の概要や違いについてご紹介しています。
>>経営分析・財務分析とは? やり方や経営分析の限界も紹介

生産性分析は経営資源と成果の関係をより詳細に分析する手法

前述したように、生産性分析は企業経営に不可欠な要素である「ヒト・モノ・カネ・情報」を活用して、企業がいかに成果をあげたのかを示す指標です。

具体的な手法としては、物的生産性と付加価値生産性の2種類があります。
それが、前章でご紹介した式にあたる物的生産性と、そこにどれだけの付加価値がついたかを表す付加価値生産性です。
これら2つの側面から分析を行います。

これらの分析により現状をビジュアル化できるため、生産性の到達目標を掲げやすくなります。例えば、「従業員1人あたりの売上高は現状○○だから、△△を目標にしよう」という具合ですね。

インプットとアウトプットの能率性の分析が、なぜ重要視されるのでしょうか。

生産性分析が今重要視されている理由

日本企業の生産性の低さと労働力不足が懸念されていることが、この分析が重要視されている理由と言えます。

経済協力開発機構の「労働生産性の国際比較2021」によると、日本では1時間あたりの労働生産性は$49.5(5,086円)です。加盟国の中で38か国中23位と、下から数えた方が早い状態にあります。また、就業者1人あたりの労働生産性は$78,655(809万円)です。さらに順位が悪く、28位となっています。

1時間あたりの労働生産性は、アメリカの6割強程度。就業者1人あたりの労働生産性は、アメリカの6割弱程度となっています。欧米に比べて、かなり低い水準です。
これには終身雇用を前提とした雇用形態や生活残業等により、長時間労働が定着していることが原因として考えられます。

今後、少子高齢化により労働力が減少することは間違いありません。ですから、生産性を向上させることにより、労働力不足を補うことが期待されています。だからこそ、生産性分析が重要視されるのです。

では、分析の主な指標と目安について紹介します。

生産性分析に用いる主な指標と評価する目安

1.労働生産性|概要・計算式・目安

労働生産性は2種類に分けて考えます。それぞれの内容について確認しましょう。

  • 物的労働生産性=生産量(販売金額)÷労働者数:
    1人の従業員がどの程度の能率で商品・サービスを生産・販売しているのかを示します。労働量に対する売上額を計算したものです。品質管理・設備投資に関連した判断に活用できます。
    客観的に理解がしやすく、社外用の資料等ではこちらを用いるのが一般的です。

例えば、とある工場で生産された商品が1万個で労働者が200人であれば、1人あたりの物的労働生産性は50個分です。

もうひとつの内容についても確認しましょう。

  • 付加価値労働生産性=付加価値÷労働量:
    付加価値(粗利)とは、企業総生産額から原材料費等の原価を除去した純粋な付加価値を示すものです。この公式では、労働者1人あたりがどれほどの付加価値の高い仕事をしているか(付加価値を創出する能率)を表しています。利益最大化に役立つ指標です。
    1時間あたりの数値を計算する場合は、労働者の人数と労働時間を乗算した値で除します。

先ほどの商品の原価が200円で、販売価格が500円だとしましょう。このとき、差額の300円が付加価値です。これを1万個販売した場合は、300円×1万個÷200人で1人あたりの付加価値労働生産性は15,000円となります。

中小企業庁の2019年の報告によると、中小企業の従業員1人あたりの付加価値労働生産性は550万円程度です。

また同庁が公表した2021年に公表した業種別の平均値は以下の通りです。

製造業525万円
小売業381万円
宿泊業442万円
飲食店232万円

参考:中小企業庁

この指標に限らず、アベレージは業種によって差がありますので留意してください。

2.労働分配率|概要・計算式・目安

付加価値に対する人件費の割合を表す指標です。つまり、利益をどれだけ従業員に分配(還元)したか、を測る指標ということ。

労働集約型の企業や創業間もない企業は、この率が高い傾向です。以下の公式で算出します。

労働分配率=人件費÷付加価値×100

中小企業庁の2020年の報告における、2018年の企業規模別の労働分配率は以下の通りです。

大企業(資本金10億以上)51.3パーセント
中規模企業(資本金1千万円以上1億円未満)76.0パーセント
小規模企業(資本金1千万円未満)78.5パーセント

参考:中小企業庁

経済産業省の企業活動基本調査速報によると、2018年の大企業を含めた主要産業の労働分配率は以下の通りです。

製造業47.8パーセント
卸売業48.6パーセント
小売業49.3パーセント
飲食業64.9パーセント
情報通信業55.8パーセント

参考:経済産業省

この数値が高いほど、人件費が収益を圧迫していると考えられます。

3.売上高付加価値率|概要・計算式・目安

売上高に占める付加価値の割合を示す指標です。付加価値率とも言います。

新たに創出した付加価値に着目して、収益性を評価したものです。要するに、自社の加工度(サービスの付加を含む)の高低の評価となります。以下の公式で算出が可能です。

売上高付加価値率=付加価値÷売上高×100

この率は一概に企業の収益性と比例しないものの、これを高めることは収益性を向上させる手段のひとつです。
財務省の発表によると、2018年の大企業を含めた全産業の付加価値率は20パーセント程度となっています。

4.有形固定資産回転率|概要・計算式・目安

有形固定資産を能率的に運用しているか、稼働状況の良し悪しを判断する指標です。工場等への設備投資が、売上に対してどれだけ寄与しているか評価します。以下の公式で算出が可能です。

有形固定資産回転率=売上高÷有形固定資産×100

有形固定資産・無形固定資産・投資資産を一括りにした、「固定資産」回転率と言う指標もあります。
通常はこの数値が高い方が良いとされています。回転率が高いということは、少額の固定資産で能率的に利益を生み出しているということです。

5.労働装備率|概要・計算式 ・目安

土地や建物等の有形固定資産が従業員1人あたりにどれだけ配分されているかを示す指標です。1人当たりの設備投資額と言えます。

労働装備率=有形固定資産÷従業員数×100

財務省の発表によると、2018年の大企業を含めた全産業の労働装備率は1,100万円弱となっています。
大規模な工場・設備を保有する製造業等はこの率が高くなり、設備投資が比較的少ないIT業等ではこの率は低くなる傾向にあります。

自社の生産性を向上させるヒント

生産性を高めるには、業務効率化だけではなく企業の付加価値を高めなければなりません。よって、幅広い対策が必要となります。

  1. 業務の可視化:
    業務の流れやコスト等を可視化します。そうすることで、業務の「無理・無駄・ムラ」を把握することが可能です。
  2. 業務の平準化:
    業務をルール化・マニュアル化しましょう。個々人に任せていると、品質のムラや非効率が生じます。また業務が属人化されていている状態は、突然の退職等が起こる可能性を考えるとリスキーです。
  3. 業務効率化・自動化:
    業務の「無理・無駄・ムラ」を減らしたり適切なシステムやツールを導入したりすることで、業務の効率化・自動化をすることも必要です。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)が代表的なものです。
  4. 業務のペーパーレス化を推進:
    業務に必要な書類をペーパーレス化することで、資料作成・管理にかかる負担を軽減できます。紙代や印刷代等のコストを削減することも可能です。
    ペーパーレス化により、稟議や決済等の業務フローが円滑になり業務時間を圧縮することにも繋がります。
  5. アウトソーシングの活用:
    ノンコア業務の間接部門の業務等をアウトソーシングしましょう。コスト削減や従業員の負担軽減に繋がります。

これ以外にも、従業員のスキルアップやモチベーションアップ、適切な人員配置等も対策として考えられます。

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まとめ

日本は、そもそも生産性が低い傾向にある国です。そこに、人口減少の局面を迎えています。労働力の確保が難しい以上、現状維持もしくは成長をしていくためには企業の生産性を向上させることは不可欠です。

生産性分析により自社の状況を把握し、業務の可視化を行った上で平準化や効率化・自動化等の対策を講じていく必要があります。

是非、実際に分析を行って自社のどの部分に弱みがあるのかを理解し、それを踏まえた上で自社に合った対策を打つことで生産性の向上を叶えましょう。

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oneplus編集部

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