経過勘定とは、損益を正確に計算するために決算で調整を行う勘定科目です。
決算のタイミングで耳にしたことがあるものの、その使い方に不安のある方も多いでしょう。
この記事では、経過勘定についてその概要や決算時や期首の仕訳方法をわかりやすく解説しています。また混同されやすい未決済項目にも触れています。
苦手に感じる方もいますが、覚えてしまえば処理は単純です。
経過勘定を用いた決算整理のポイントを押さえておきましょう。
経過勘定とは? 意味や目的・計上時期を解説
経過勘定とは:正しい損益計算をするための勘定
経過勘定とは、継続してサービスを利用する場合や提供する場合の勘定科目です。
正しい損益計算をするために使用します。
現金が動いた時期と、計上するべき損益のタイミングがずれた場合は、調整が必要です。
来期に受ける1年間分のサービス料を、今期末にまとめて前払いしておくというケースはよくあるでしょう。
これが、現金が動いた時期と計上するべき損益のタイミングのずれです。
経過勘定はこのずれの調整に使います。
会計処理上、費用は「発生主義」・収益は「実現主義」で計上しなければなりません。
発生主義・実現主義とは何か、次で確認しておきましょう。
経過勘定の計上時期:発生主義の考え方
経過勘定の計上は、費用は「発生主義」・収益は「実現主義」と決められています。
発生主義は、取引を行ったタイミングで費用を計上します。
例えば、会社の文房具をまとめて1万円分購入し月末に支払った場合は、取引を発生(購入等)と処分(支払等)に分けて仕訳を行います。
これが発生主義の考え方です。
また、収益には実現主義という考え方があります。
20万円の商品を受注し、手付金が5万円振込まれたとしましょう。
残金の15万円は商品を納品してからの受け取り予定です。
このケースでは、受注のタイミングで売上20万円の仕訳は行いません。
未実現収益は、計上せず前受金として5万円を受け取った仕訳のみを行います。
これが実現主義の考え方です。
ここからは、経過勘定で規定されている4種類の勘定科目を確認していきましょう。
経過勘定の一覧|4種類の勘定科目の違い
未払費用:提供されたサービスの支払いをしていない
継続したサービスの提供を既に受けていながら、期末の時点で支払いがまだなものが未払費用です。
今期の損益計算書に計上・貸借対照表の負債の部に記載します。
サービスの提供を受けていても後払いになるものとして、家賃や手数料・利息等があります。
具体的には
- 従業員への給与
- 保険のサービス料
- 借入利息
- リース代
- 通信費
- 水道光熱費
- 賃貸借費用
等で未払いのものが未払費用になります。
家賃は前払いのイメージがありますが、民法では家賃は後払いと規定されており後払いの契約も可能です。
未払費用についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
未収収益:提供したサービスの支払いを受けていない
継続したサービスの提供を既に行っているものの、期末の時点でまだ支払いを受けていないものが未収収益です。
今期の損益計算書に計上・貸借対照表の資産の部に記載します。
サービスを提供した先の会社が未払費用として計上しているものが、自社では未収収益として計上するものだと考えるとイメージしやすいでしょう。
サービスを提供していて支払いを受けていない家賃や手数料・利息等が未収収益です。
売掛金と同じような性質がありますが、本業の商品を販売して回収していないものを売掛金とし、本業ではない貸付金の利息は未収入金として処理を行います。
未収収益についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>未収収益は資産|未収金や売掛金との違いと仕訳をおさえよう
前払費用:提供されていないサービスの支払いをしている
前払費用は、継続したサービスを受ける契約で、費用の支払いが前払いの場合に使用する勘定科目です。
今期の損益計算書から除外します。貸借対照表の記載は資産の部です。
翌期にサービスを受ける費用を、今期に支払うケースは、リース代や保険料があります。
具体的には、
- 賃貸借費用
- リース料
- 保険料
- 支払利息
等で支払済みかつ、サービスの提供を受けていないものが前払費用です。
前払費用についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>前払費用とは? 前払金との違いや仕訳例をわかりやすく解説
前受収益:提供していないサービスの支払いを受けている
前受収益は、継続したサービスを提供する契約で、事前に支払いを受けている場合に使用する勘定科目です。
実際には提供前のサービス費用を、期末の時点で受け取っている時に前受収益として計上します。
今期の損益計算書から除外し、貸借対照表の記載は負債の部です。
サービスを提供する予定の会社が前払費用として計上しているものが、自社では前受収益として計上するものだと考えるとイメージしやすいでしょう。
支払いを受けているものの、まだサービス提供前の家賃やリース料・利息等が前受収益です。
【簿記3級】経過勘定の仕訳例|計上・決算整理・再振替
未払費用の仕訳|計上・決算整理・再振替
家賃が月10万円の事務所を1月1日から1年間借り、12月31日に1年分の賃料を後払いで支払う契約を例に考えていきましょう。
決算日は3月31日です。
【決算処理】
決算日には、まだ支払いを行っておりませんが、今期の賃料30万円を費用として計上する必要があります。
借方 | 貸方 | ||
支払家賃 | 300,000 | 未払費用 | 300,000 |
注)毎月10万円ずつ未払費用を計上する場合もあります。月ごとの正確な利益が確認できます。
【翌期首の再振替】
翌期の4月1日に、再振替仕訳を行います。
借方 | 貸方 | ||
未払費用 | 300,000 | 支払家賃 | 300,000 |
【支払時の仕訳】
支払日である12月31日に、普通預金から家賃を振込む仕訳となります。
借方 | 貸方 | ||
支払家賃 | 1,200,000 | 普通預金 | 1,200,000 |
未収収益の仕訳 |計上・決算整理・再振替
貸付金の利息年額12,000円が、返済日に一括で支払われると仮定します。
貸付期間は7月1日から1年間。来期の6月30日まで決算日は3月31日です。
【決算処理】
決算日には未回収ですが、今期分の利息9,000円を収益として計上する必要があります。
借方 | 貸方 | ||
未収収益 | 9,000 | 受取利息 | 9,000 |
注)毎月1,000円ずつ未収収益を計上する場合もあります。月ごとの正確な利益が確認できます。
【翌期首の再振替】
翌期の4月1日に、再振替仕訳を行います。
借方 | 貸方 | ||
受取利息 | 9,000 | 未収収益 | 9,000 |
【受領時の仕訳】
6月30日に、普通預金に利息が振込まれた場合の仕訳です。
借方 | 貸方 | ||
普通預金 | 12,000 | 受取利息 | 12,000 |
前払費用の仕訳 |計上・決算整理・再振替
1月1日から1年間の保険契約(月1万円)で、保険料を1月1日に1年分の先払いで支払う契約を例に考えていきましょう。
決算日は3月31日です。
【支払時の仕訳】
支払日である1月1日に、普通預金から保険料を振込んだ場合の仕訳となります。
借方 | 貸方 | ||
支払保険料 | 120,000 | 普通預金 | 120,000 |
【決算処理】
決算日には、支払保険料のうち来期の分9万円を前払費用として繰延べる必要があります。
借方 | 貸方 | ||
前払費用 | 90,000 | 支払保険料 | 90,000 |
【翌期首の再振替】
翌期の4月1日に、再振替仕訳を行います。
借方 | 貸方 | ||
支払保険料 | 90,000 | 前払費用 | 90,000 |
前受収益の仕訳 |計上・決算整理・再振替
家賃が月10万円の駐車場を1月1日から1年間貸出し、1月1日に1年分の賃料を先払いで受け取る契約を例に考えていきましょう。
決算日は3月31日です。
【受領時の仕訳】
受領日である1月1日に、普通預金に賃料が振込まれた場合の仕訳となります。
借方 | 貸方 | ||
普通預金 | 1,200,000 | 受取家賃 | 1,200,000 |
【決算処理】
決算日には、受取家賃のうち来期の分90万円を前受収益として繰延べる必要があります。
借方 | 貸方 | ||
受取家賃 | 900,000 | 前受収益 | 900,000 |
【翌期首の再振替】
翌期の4月1日に、再振替仕訳を行います。
借方 | 貸方 | ||
前受収益 | 900,000 | 受取家賃 | 900,000 |
経過勘定がわからない方へ|覚え方のコツ
①語呂合わせ「くまのみみ」で覚える
経過勘定では、「繰延べ」「見越し」という言葉がよく使われます。
それぞれがどのような意味だったのか、混乱してしまうという方も多いでしょう。
経過勘定の覚え方のひとつに「くまのみみ」という語呂合わせがあります。
く・・・繰延べ
ま・・・前払費用・前受収益
み・・・見越し
み・・・未収収益・未払費用
これらを合わせて「くまのみみ」と覚えましょう。
繰延べの「く」は「くま」の「く」なので、「ま」から前払費用・前受収益を使用します。
見越しの「み」は「みみ」の「み」なので、「み」から未収収益・未払費用です。
もし、「期末に1万円の営業費用を繰延べた」と言われた場合は、繰延べ(く)なので、前(ま)がつく費用の勘定科目として前払費用を使います。
②お金の出入りの状態から覚える
経過勘定は、お金の出入り状態から覚える方法もあります。
繰延べは、お金の出入りがあると覚えてください。
既にお金が動いていることをイメージすれば、「前払」や「前受」が出てくるでしょう。
前払費用・・・支払済みで来期分を資産計上
前受収益・・・受領済みで来期分を負債計上
見越しは、お金の出入りがありません。
まだお金が動いていないので、「まだそのことが実現し終わらない」意味を持つ「未」の付く勘定科目が使われます。
未収収益・・・当期分の収益のうち未収分を資産計上
未払費用・・・当期分の費用のうち未払分を負債計上
経過勘定と似ている4つの未決済項目
経過勘定と未決済項目の違いをおさえよう
経過勘定と間違いやすい勘定科目に、未決済項目があります。
混同されがちな両者の違いを押さえておきましょう。
主な未決済項目は次の4つです。
- 前払金
- 前受金
- 未払金
- 未収金
いずれの勘定科目も、代金の未払い・代金の未回収の時に使います。
両者の違いは次の点にあります。
- 継続して提供されているかどうか
- サービスの提供があるかどうか
未決済項目は、単発契約で使用します。
また、サービス以外からも発生します。
例えば消耗品を後払いで購入した場合の勘定科目は、継続するものではなくサービスでもないため、未決済項目(未払金)です。
押さえておきたい未決済項目の主な4つ
前払金:一時的なサービスの支払い
前払金とは、事業に必要な商品やサービスを前払いで購入した時に用いる勘定科目です。
社用車を購入し代金を先に支払った場合や出張で使用するホテルの予約料金を払った時等に使用します。
前払金は、後日サービスや商品を受け取る権利となる「資産」です。
前受金:サービス提供をもって収益計上する
前受金とは、商品やサービスの代金の一部または全部を受け取った時に用いる勘定科目です。
商品の予約金として現金を受け取った場合やコンサルティングサービスの着手金等も該当します。
前受金は、後日サービスや商品を引き渡す義務がある「負債」です。
未払金:既に確定している負債
未払金とは、商品やサービスを購入したものの、費用をまだ支払っていない場合に用いる勘定科目です。
クレジットカードで支払った場合や、車のローン等が未払金に分類されます。
未払費用と異なり、未払金は単発の契約に用いられます。
未払金は、支払義務のある「負債」です。
未収金:一時的なサービズの利益
未収金とは、自社商品以外の物を売却し、代金を受け取っていない時に使用する勘定科目です。
社用車や備品等の固定資産を売却し、代金が後払いの場合に未収金を計上します。
未収金は、代金受け取りの権利がある「資産」です。
まとめ
経過勘定は主に4つの勘定科目があるとご紹介しました。
現金の収支があった期と、計上しなければならない期にずれがある場合は、経過勘定で調整します。
期末や期首に登場する勘定科目のため、利用方法を忘れてしまいがちですが、正しい損益計算を行うための大切な勘定科目です。
正しく利益を求めることは、正確な税額の計算や今後の経営判断に役立ちます。
この機会に決算整理や再振替仕訳方法をしっかり覚えておきましょう。