ニュースや新聞で目にする「粉飾決算」ですが、どのような行いをすると粉飾決算になるのでしょうか。
経営者であっても、経理の担当者であっても、会社のことを考えて行ったことが実は「粉飾決算だった」ということはありえます。
しかしながら、粉飾決算は犯罪です。
会社の信用問題にも繋がる重大な犯罪で「知らなかった」では済まされないことですので
- 粉飾決算とは何か
- どのような手口なのか
- 粉飾決算をするとどんなペナルティがあるのか
をわかりやすく解説します。
粉飾決算とはどういう意味か?
粉飾決算は会社の利益を過大・過少に計上すること
では「粉飾決算」とはどういう意味でしょうか。
「粉飾=粉を飾る」は女性が粉状のもので化粧をして、美しく装うことです。
すなわち「うわべを取り繕うことで、実際の状態よりも良く見せる」ということから、「粉飾決算」は、会社の利益を実際の状態よりも過大に計上して良く見せること等を意味します。
粉飾には「粉飾決算」と「逆粉飾決算」の2つの方法がありますので、それぞれ見ていきましょう。
利益を過大に計上する「粉飾決算」
よく耳にする「粉飾決算」ですが、これは「貸借対照表や損益計算書を偽装し、利益を過大に計上する」ことを言います。
手口等は、これから詳しく解説しますが、利益を過大に計上することによって「この会社は安心だ」という印象を与えることができます。
良い印象を与えることで、銀行からの融資が受けやすくなったり、多くの株主に出資をしてもらったりすることができるのです。
利益を過小に計上する「逆粉飾決算」
では、もうひとつの方法である「逆粉飾決算」とは何でしょうか。
「粉飾決算」が利益を過大に計上することですから、逆というのは「利益を過小に計上する」ことです。
- 売上があるのにも関わらず計上しない
- 費用を多く計上する
- 期末在庫を過少計上する
等が該当します。
これらは利益を減らすことにより、実際の業績よりも悪く見せるためのものです。
銀行や株主には悪い印象を与えますが、本来納めるべき金額よりも税金を少なく納めることになります。
粉飾決算は犯罪行為!ペナルティと粉飾決算事例を解説
粉飾決算のペナルティ
「粉飾決算」は犯罪行為です。
では「粉飾決算」を行うことで、どのようなペナルティが課せられるのでしょうか。
懲役・罰則の対象となる
「粉飾決算」はその内容や状況によって異なるものの、懲役や罰則の対象となります。
具体的な罪名は下記のとおりです。
- 詐欺罪
- 有印私文書偽造罪
- 違法配当罪
- 特別背任罪 等
また、それぞれの罰則として
刑法:詐欺罪は10年以下の懲役、有印私文書偽造罪は3か月以上5年以下の懲役
会社法:違法配当罪は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはその両方、特別背任罪は10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはその両方
が科せられるのです。
損害賠償を求められる
懲役や罰則は刑事責任ですが、民事責任はあるのでしょうか。
粉飾決算を行ったことにより会社の信用が失われますので、株主や銀行、取引先は大きな損失を受ける可能性があります。
そして、損失を受けた人達は会社の経営陣(経営に携わる役員)に対し、損害賠償を求める訴訟を起こす可能性があり、損失を受ける人が多くなればなるほど、集団訴訟となる可能性が高くなります。
加算税を支払う必要がある
「加算税」とは申告の義務が適正に行われなかった場合に 課されるもので
- 過少申告加算税
- 無申告加算税
- 不納付加算税
- 重加算税
があり、その中でも粉飾決算は「重加算税」にあたります。
「重加算税」は一番重いペナルティで、本来払うべき税額から申告した税金を引いた差額に35%の税率を上乗せして支払わなければなりません。
税金の差額をすぐに返還してもらえない
利益を過大に計上した場合は、本来払うべき税額よりも多く支払っていることになります。
そのため、粉飾決算が発覚したときに、本来払うべき税額との差額を返還してもらえるのですが、手続きをしてもすぐに返還されません。
差額は5年にわたって、毎年払うべき税額から順次控除され、5年後でも差額が残っている場合は、残額分が還付されます。
上場が廃止になる
上場会社が有価証券報告書に虚偽記載を行った場合は、直ちに上場を廃止しなければ市場の秩序を維持することが困難であると東京証券取引所が認めた場合は、上場が廃止になります。
では、上場廃止になると、株はどうなるのでしょうか。
上場廃止になると、証券取引所で売買ができなくなります。
そのため「少しでも資産を残そう」と株主は、上場廃止が決定した段階で株を売却しますので、株価暴落を招くのです。
社会的信用を失い資金調達・経営再建が難しい
「粉飾決算」が発覚すると、社会的信用を失います。
会社のことを思って行った行為であっても、大きな事態を招くことになります。
社会的信用を失うと、銀行に融資を申し込んでも断られる可能性が極めて高く、資金調達が困難になり、経営の再建も難しくなるでしょう。
粉飾決算でペナルティを受けた企業事例
粉飾決算でペナルティを受けた企業の中で有名なのが「東芝」「カネボウ」「ライブドア」です。
それぞれどのような粉飾決算が行われたのでしょうか。
損害賠償を求められた「東芝」
2015年1月に内部者が証券取引等監視委員会に通報をし、翌2月に証券取引等監視委員会が調査に着手、その結果不正会計が発覚しました。
東芝は4つの手口で総額1,500億円を超える粉飾決算を行いました。その手口とは
- バイセル取引
- 工事進行基準による売上計上
- 在庫評価損の未処理
- 経費計上の先送り
です。
そのうち、「バイセル取引」「工事進行基準による売上計上」について解説します。
「バイセル取引」は、製造を委託したメーカーに調達した部品を販売し、その部品で組立てた製品をメーカーから買い戻す取引のことで、この取引自体には問題はありません。
しかしながら、東芝は安く調達した部品の原価を隠し、メーカーにかなり高い価格で販売していました。
さらに、会計期末の月には通常よりも大量の部品を販売しています。
最終的には、高い価格の部品で組立てた製品を東芝が買い戻し、消費者に販売することになります。このとき、余分に販売した部品の代金(組立て前の部品代金)による利益で製造原価が引き下げられています。これは「見せかけの利益」となります。このようにバイセル取引を悪用し、「販売利益を過大に計上」していました。
「工事進行基準」とは、工事の進み具合に応じて売上と経費を計上する会計処理で、完成までの1年ごとの売上は「売上総額に対する進捗率(進み具合)」で算出されます。
進捗率は「その年にかかった原価を原価総額で割る」ことで算出されるのですが、東芝は原価総額を意図的に少なく見積もることにより進捗率を上げその年度の「売上を過大に計上」していたのです。
東芝の粉飾決算により、2022年時点で裁判を起こした原告数は450名を超え、損害賠償請求の総額は19億円にのぼります。
上場廃止、会計担当者逮捕となった「カネボウ」
2000年3月期から過去5年間にわたり2,000億円を超える粉飾決算を行っていたことが発覚したのが、カネボウです。
カネボウは2000年よりも、もっと前から粉飾決算を行っており、その手口は
- 子会社の連結外し
- 売上の過大計上
- 経費計上の先送り 等
様々です。
そのうち「子会社の連結外し」について解説します。
「連結外し」とは「連結決算の対象から外すこと」です。
連結決算は親会社だけでなく、国内外の子会社や関連する会社を含めた全体の決算のことで、カネボウは損失や負債が大きい子会社を連結から外していました。
そのような操作を行うことで、経営状態を良く見せていたのです。
その結果、カネボウは上場廃止となり、監査を担当していた公認会計士は逮捕される事態となりました。
上場廃止となった「ライブドア」
ライブドアは「有価証券報告書」の虚偽記載を行ったことにより、上場廃止となりました。
これは「粉飾決算のペナルティ」にあたるものです。
では、どのような粉飾決算を行ったのでしょうか。
ライブドアは2004年9月期の決算で、約3億円の赤字にもかかわらず、売上計上が認められない株式を売却したことによる利益と架空売上を計上し、約50億円の黒字として報告したのです。
粉飾決算はなぜ起こる?その理由をわかりやすく解説
より条件の良い融資を受けるため
粉飾決算を行う理由のひとつは「より条件の良い融資を受けるため」で、中小企業に多い理由です。
金融機関から融資を受けるためには、財務諸表上「経営状態が良い」という印象を与えなければなりません。
「経営状態が悪い」という印象を与えてしまうと、融資条件が厳しくなったり、融資を受けられなくなったりするため粉飾決算が行われるのです。
税金を減額するため
法人税は利益に対して支払う税金ですので、利益が多いと法人税は多くなります。
「法人税を少なく納めたい」と考える経営者は、実際の利益を過小にするために、逆粉飾決算を行います。
報酬をアップさせるため
「報酬をアップさせる」というのは、役員報酬のことです。
役員報酬が業績によって決まる場合は、会社のためではなく「役員報酬を上げたい」という個人の理由から、粉飾決算が行われる場合があります。
上場を維持するため
上場企業は、業績と企業価値の向上に努めなければならず、上場を維持することで株主に対し、多くの配当金を支払うことができます。
しかし、業績が悪化すると企業価値が下がり、経営責任を問われることになりかねないため、粉飾決算を行うことで上場を維持するのです。
利害関係者からの信用を維持するため
「利害関係者」とは銀行等の金融機関や株主だけではなく、取引先等も含まれます。
取引先の場合は、信用がなければ「掛での取引」は行いません。
なぜなら「貸倒れ」になる危険があるからです。
安心して取引をしてもらえるよう、取引先からの信用を維持するために粉飾決算が行われる場合があります。
粉飾決算の手口をわかりやすく解説
売上を過大・架空に計上する
「売上を過大・架空に計上する」とは、どのような手口が該当するのでしょうか。
- 架空の売上を上げる
- 売掛金を過大計上する
- 循環取引
が該当します。
「架空の売上を上げる」「売掛金を過大計上する」はわかりやすいですが「循環取引」とは何でしょうか。
循環取引は「帳簿上、複数の企業間で販売を繰り返す」という手口です。
主にグループ間(親会社から子会社)で実際に商品を販売するわけではなく、帳簿上で行われます。
商品を販売した企業が回りまわって買主にもなることから「循環取引」となるのです。
在庫を過大・架空に計上する
では「在庫を過大・架空に計上する」とは、どのような手口が該当するのでしょうか。
在庫を過大、または架空計上する…利益とは反対のイメージを持ちますが、帳簿上では「仕入金額から在庫金額を引いたものを売上金額から引く」と利益になります。
わかりやすく言えば「売上金額と在庫金額を合わせたものから仕入金額を引いた数字」が利益となるのです。
そのため、帳簿上では「在庫を過大に計上する」ことで利益が増え、業績を良く見せることができるため、粉飾決算の手口として使われます。
費用や経費を操作する
「費用や経費を操作する」とは、粉飾決算でペナルティを受けた「東芝」や「カネボウ」が行った手口で、経費計上の先送りです。
本来、当期に計上しなければいけない費用や経費を計上せず、翌期に計上することで利益を増やす方法です。
複数の決算書を作成する
「複数の決算書を作成する」とは、税務署に提出している決算書以外に「銀行提出用」や「調査会社提出用」等、提出先によって分けて作成する方法です。
税務署と銀行へ提出する決算書を別々に作成する理由は「融資を受けるため」です。
これは「二重帳簿」にあたり、粉飾決算の手口のひとつで、犯罪です。
粉飾決算を起こさないための対策3選
1.社内でのチェック体制を強化する
「売上の計上漏れ」や「費用を多く計上」等は粉飾決算をするためではなく、人為的なミスによることもあります。
その意味も含めて、社内でのチェック体制を強化することが重要です。
複数人でチェックするだけでも意図的な操作やミスは減らせますので、粉飾決算が起こるのを防ぐことができます。
2.会計士や税理士に相談できる環境を整える
会計士や税理士は専門家です。
会計処理に関して分からないことがあれば、相談できるよう環境を整えることも必要です。会計士や税理士に間違った処理をしていないかチェックしてもらうことも、粉飾決算を起こさないためには重要なポイントです。
3.クラウドサービスを利用する
粉飾決算を起こさないために、会計ソフトの導入も対策のひとつでしょう。
会計ソフトには自動計算や自動仕訳等の機能があり、様々な機能を使用することにより、作業効率が上がり会計処理のミスも防ぐことができます。
まとめ
粉飾決算は犯罪行為ですので「会社のため」と思っても、行ってはいけません。
発覚したときの会社の損失の方が大きいのです。
「会社が倒産、全従業員解雇」という事態にもなりますので、粉飾決算を起こさないように、しっかりと対策をしていくことが大切です。