「決算時期なのに、立替金の残高が0になっていない」
「決算書に、立替金の残高が載ってしまう」
こんな心配をされている方は、少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。バランスシートの資産科目の残高は翌期に残ってしまいますから、気にされるのも無理はありません。
しかしながら、立替金は少額で正当なものであれば、決算時に残高として残っていても問題ありません。
そのような心配をしてしまう理由は、このような点にあるのではないでしょうか。
- 立替金という勘定科目のわかりにくさ
- 似た資産勘定である仮払金と混同している
勘定科目は200種類以上あり、一つひとつ役割が異なります。それが、上記のような会計にまつわる様々なお悩みに繋がっていると考えられます。
そこでこの記事では、立替金・仮払金がそれぞれどのようなものか、またその違いは何かについて解説しています。
それぞれの科目の注意しておきたい点についても触れていますので、是非最後までお付き合いください。
年度またぎ(年またぎ)の基礎知識
混同していませんか? 決算またぎと年度またぎの違い
決算をまたぐ経費精算等のことを、年度またぎ(年またぎ)と呼びます。決算をまたぐので、「決算またぎ」と言いたくなりますが、決算またぎは別の意味です。
決算またぎは、短期投資でよく耳にする言葉で、決算発表をまたいで株を保有することを指します。
一方、年度またぎとは、一般的に取引が年度をまたぐということです。
ニュアンスで話が通じてしまうことが大半ですが、両者を混同することで話が噛み合わなくなってしまう可能性も捨てきれません。会計について話をする際には、「年度またぎ(年またぎ)」を使うことをおすすめします。
では、立替金が年度をまたぐとはどのような状態でしょうか。以下で詳しく見ていきましょう。
立替金の年度またぎとは、回収ができていない状態
立替金の年度またぎとはどのような状態かというと、金銭(債権)の回収ができておらず、決算時に残高が残っている状態を言います。
要するに、バランスシートに残高が残り、翌期に繰り越しされてしまう状況です。
なお決算書において、立替金のような少額の資産勘定はその他流動資産に合算されてしまい、そこに立替金の残高が含まれているのかはわかりません。
とは言え、バランスシートや勘定科目内訳明細書等から立替金の存在を確認することができます。
年度またぎで注意したいのは、立替金より仮払金
年度またぎで注意すべきは立替金より仮払金ではないでしょうか。
混同しがちな立替金と仮払金。どちらも会社が一時的に支払った金銭であり、決算時の残高は0が望ましい科目であることは共通しています。
結論から言えば、立替金は少額ならば残高が残っていても、税務署や金融機関から危険視されることは、そうありません。
なぜなら、立替金は使途がはっきりしていて、精算しても経費化することがない科目だからです。
一方で、仮払金は使途がはっきりしておらず、精算することで費用になります。仮払金は粉飾決算の温床となりやすいため、そうだと捉えられないよう残高に注意しなければなりません。
決算時において、支払の使途が明確になった仮払金は経費等の勘定科目に振替えて、残高を減らすことが必要です。
そもそもの前提として、どちらの科目であっても暫定的に支払った金銭ですので、できるだけ速やかに精算することが望ましいものではあります。
高額でなければ、立替金は決算書に記載して問題ない科目
立替金という科目がどのようなものなのか、以下で詳しく見ていきましょう。
立替金は、会社が一時的に立替えたお金
立替金とは、役員・社員、取引先等が支払うべき金銭を、自社が暫定的に負担した時に使用する資産勘定です。
精算により費用として処理されるのではなく、通常は金銭によって回収されます。
通常は信頼関係によって立替えするので、契約書も担保もないのが一般的です。以下のようなものが、立替金の対象となります。
【役員・社員】 【取引先等】 |
【仕訳例1】
社員に、給料の前貸しとして2万円を現金で支給した。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
立替金 | 2万円 | 現金 | 2万円 |
給料(10万円)の支給時に、前貸しをしていた2万円を差し引き、残りの8万円を支給した。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
給料 | 10万円 | 立替金 | 2万円 |
現金 | 8万円 |
【仕訳例2】
自社の備品(7千円)の購入時に、従業員Aの個人的な備品(2千円)も購入した。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
消耗品費 | 5千円 | 現金 | 7千円 |
立替金 | 2千円 |
後日、従業員Aから、個人分の備品の代金を現金で回収した。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
現金 | 2千円 | 立替金 | 2千円 |
給料の前貸しや私物の購入費用は、会社で負担すべきコストではありません。精算しても金銭を回収しているだけだというのがわかっていただけると思います。
本来は自社が支払う費用ではない
先述したとおり、立替えた費用は、本来は役員・社員、取引先等が支払うべきものです。自社が負担すべき費用ではありません。
仕訳のように、精算しても経費科目に振替えず、金銭を回収するだけです。
立替金と立替経費は異なる
立替金と似た言葉に、立替経費というものがあります。
立替経費とは、本来は自社が支払う経費を社員等が一時的に立替えた場合の経費のことを言います。
立替金は科目であるのに対して、立替経費は経費の呼称です。似た言葉ですが、意味が異なりますので注意しましょう。
【立替経費の例】
- 従業員が会社に必要な備品を購入し、費用を立替えた。
- 出張に伴う諸費用を一旦従業員負担で支払い、後日精算した。
立替える金額があまりに高額になるようなら、仮払金として概算で仮払いしてあげた方がよいでしょう。
あくまで一時的に使用する勘定科目
立替金は、あくまで一時的に支払って立替えたお金です。立替金は翌月中の回収、遅くても期中の回収が望ましいでしょう。
もし、長期にわたるのであれば、貸付金として仕訳した方がよいかもしれません。
正当な理由で残高がある立替金は決算書へそのまま記載
残高が0になるのが望ましいのは言うまでもありません。ですが、正当な理由があり、事由の解消が年度をまたいでしまうのであれば、決算書に記載して問題はありません。
立替金は、通常は高額になりません。高額になった場合は、実質的には役員や社員への貸付金であったり、業務に関係のない立替金が混じっている可能性があったりするので内容を精査しましょう。
立替金の決算書における位置づけは「その他流動資産」が一般的
流動資産のなかで、当座資産(短期間で簡単に現金化できる資産)でも棚卸資産(商品・製品・原材料・仕掛品等)でもないものがその他流動資産と呼ばれます。立替金は、その他流動資産にあたります。
立替金は通常の取引では金額が少ないため、決算書ではほかの少額の流動資産と併せてその他流動資産とまとめられます。
では、続いて仮払金がどのようなものかを見ていきましょう。
立替金と混同しやすい仮払金
未確定の金額を概算の金額で支払う
仮払金とは、勘定科目(取引の内容)や金額が未確定な金銭を仮払いした時に、それらが確定するまで一時的に使用する仮勘定科目です。
立替金と同じく、一般的にはその他の流動資産で表示されます。
【仮払金を支払う例】
- 備品等の買出にかかった費用
- 出張費の概算払い(旅費交通費・交際費等)
例のように備品代も出張費も高額になりやすいですから、会社が前もって概算で経費を支給するというのが、仮払いの主なパターンです。
仮払金は精算すると、費用に振替えられます。
仮払金の精算が遅れると、費用が期間損益計算に正しく反映されないことがあります。そのため、できる限り精算は日頃から速やかに行い、決算時には期中の費用を漏れなく計上できるよう残高をなくすことが必要です。
【仕訳例】
社員に、出張費として10万円を現金で仮払いした。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
仮払金 | 10万円 | 現金 | 10万円 |
後日、出張費を精算した。交通費が5万円・取引先との飲食代が2万円だったため、残りの3万円を会社に返金してもらった。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
旅費交通費 | 5万円 | 仮払金 | 10万円 |
交際費 | 2万円 | ||
現金 | 3万円 |
仮払いしたお金は精算することで、経費となります。経費とならなかった分は、金銭として回収しましょう。また、仮払いした金額よりも実際にかかった経費の方が多い場合は、差額を相手に支払います。
本来は自社が支払う費用である
立替金とは異なり、仮払金は将来的に自社が支払う費用となるものです。
社員が高額な出張費や交際費等の経費を立替え負担をかけずに済むように、自社が前もって支給しているにすぎません。立替経費とは逆ですね。
あくまでも仮の勘定なので、使い道が決まり次第、正しい科目(費用)に振替えます。放置していると、内容がわからなくなり曖昧な処理をせざるを得なくなります。
決算書に高額な仮払金の残高があると、税務署や金融機関からマイナス評価
決算書に高額な仮払金の残高があると、税務署・金融機関からはマイナス材料と見なされます。仮払金は、粉飾決算の温床となりやすいからです。
そもそも、使途不明金が多いということは経理体制が杜撰だと言わざるを得ません。会計に関する正確性が疑われます。
また、使途が明らかな支出であっても、仮払金として処理されている場合があります。例えば、既に支払った経費(使途が決まっている)を仮払金に振り替えて経費に振替えれば、経費を過少に見せることができます。赤字決算を避けることだってできるでしょう。
そういった事情もあって、多額の仮払金残高は税務署・金融機関からは良い印象を持たれません。
ただし、立替金と同じく内容が判明していて、事由の解消が年度をまたいでしまうことが理由である仮払金については、その状態が正しいものであればそのまま決算書に記載して問題はありません。
仮払金は内容を精査する
仮払金も一時的に使用する科目にほかなりません。仮払金残高の内容を確認してみて、取扱いが既に確定しているのであれば適切な科目に修正しましょう。
精査しても内容が不明だった場合は、雑損失等への振替処理を検討します。
立替金と仮払金の違い
ここまで、立替金と仮払金について、それぞれ説明してきました。この混同しやすいふたつの科目について、より理解していただけるよう共通点と相違点についてまとめました。
立替金・仮払金の共通点と相違点
立替金と仮払金の共通点は、以下の通りです。
- どちらも会社が支払う「一時的な出金」
- どちらも「その他流動資産」
一時的な資産勘定であるのが共通していると言えます。逆に、以下の点が異なります。
立替金 | 仮払金 | |
使途 | 明確 | 不明確 |
費用の負担者 | 役員・社員、取引先等 | 会社 |
振替による経費化 | しない | する |
金額 | 確定 | 概算 |
債権 | あり(金銭債権) | なし |
相違点の方が多いのが、わかっていただけるでしょうか。もし使用する科目について迷われた際には、参考になさってください。
まとめ:立替金は年度をまたいで決算書に記載があってもOK
決算時に立替金の残高が残っていても、正当なものであれば問題ありません。事由の解消には、年度をまたぐ必要があることは少なくありません。
とは言っても、本来であれば立替金は少額なものです。残高が多ければ、実質的には貸付金となるものや業務に関係のない立替金が混じっている可能性があります。
立替金は精算により経費になることはありませんから、経費の会計期間がずれてしまうようなこともありません。ただし、立替金は本来であれば自社が負担すべきものではありませんから、きちんと回収できるようにしておきましょう。