会社を経営していく上で、税の負担を軽減したいと考えている企業も少なくないでしょう。本来所得に応じて支払うべき「税金」。国が定めた方法で税負担を軽減できる“節税”は有名ですが、規制されていない方法で税対策を行う“租税回避”をご存じでしょうか。
今回は、租税回避の仕組みを具体例を交えてご紹介していきます。
租税回避とは? 仕組みをわかりやすく紹介
租税回避の意味・英語表記
租税回避(tax avoidance)とは、課税されるべき取引について税法で規制されていない方法を選択し、通常では行われない・あるいは取引が成立しないような取引を、課税対象になる取引を減らす為だけに行われる行為です。法律規制されていないため、法の抜け穴を突くことで、課税になるのを回避しています。しかし租税回避行為は、一般的には行われないような取引なので、経済的に効率的な手段とはいえません。
租税回避の仕組み・考え方
租税回避行為は、「課税になる要件を満たさないように、課税されるのを未然に防止する行為」になります。税法で禁止されていない手段で税の負担を減らす行為であるため、法律に違反するものではありません。しかし租税回避行為を行うにあたり、何かしらの事実を隠して租税回避行為を行った場合は、後から事実が発覚し租税回避行為の否認(適切な行為と認められず後から課税が発生する)となるケースも少なくありません。
日本における租税回避のルールについて
租税回避を違反とする否認規定はない
日本でどのような行為が租税回避行為の否認となるか、決まった定めはありません。そして以前に比べて、企業の形態を“組合”として装ったり、外国の企業を経由して取引を行ったりと、租税回避行為は複雑化してきています。複雑な回避行為が増加する中で、否認規定として一般的になりつつあるのは「同族会社の行為又は計算の否認規定」です。また、今までの事例を参考に、かなりの数の個別的な否認規定も存在しています。
憲法が定める「租税法律主義」とは
租税法律主義は原則として「国民は誰しも法律上の根拠がなければ、税金を負担させたり徴収されたりすることはない」とされています。主に2つの考え方から成り立っており、ひとつ目は「課税要件法定主義」。これは、どういった場合に課税されるのか・どのように徴収されるのかを具体的に法律に定めることを言います。2つ目は「課税要件明確主義」です。これは、課税手続きでどのように徴収していくかを決めるとき、様々な解釈にならないよう、一義的で明確にしなくてはならないというものになります。
【注意】規定によって認められず課税となる場合も
租税回避行為を規定する法律はありませんが、租税回避行為になりうる手段を防ぐための規定は存在しています。最も一般的なのが「同族会社の行為または計算の否認行為」。租税回避行為として行った場合は、かなりの悪質なケースととらえられ、否認されるケースが多々あります。その場合は、租税回避のための行為がなかったものとされ、高額な税金が発生することもあるのです。また、個別的否認規定には「役員給与のうち不相当な部分を損金不算入」とし、損金として認められず課税されるケースがあります。
租税回避と混同しやすい節税・脱税との違い
【節税との違いとは】
租税回避行為は、違法にならない法の抜け道を上手に利用して税の負担を少なくする方法です。一方で節税とは、法律に定められた内容を元に税負担を軽減する行為を指します。2つの違いを詳しくみていきましょう。
節税とは法律に則って賢く税を減少させる行為
節税は法律で認められている内容であり、課税当局も多くの企業が行うだろうと予定している行為のため、否認されることはありません。法律で規定されている節税の対策方法は、国等がその利用を推進している政策なのです。そのため企業では積極的に節税対策の権利を駆使して、会社の資産を守ることができます。適用基準を満たすようであれば、節税対策をフルに活用していきましょう。
具体的な節税の行為を紹介
節税には「支出を伴わないもの」と「支出を伴うもの」の2つがあります。お金をかけずに節税したい場合は、役員報酬を見直したり、社員の給与を見直したりという方法があります。また、飲食費から交際費を除外する・出張手当の支給等も節税対策に。将来を見越した投資も節税になる可能性があります。新しい設備投資に充てる・社員の士気を高めるために社員旅行の積み立てを行うのも投資型の節税になるのです。
【脱税との違いとは】
税金のトラブルでよく聞くのが“脱税”。脱税は租税回避や節税と違い、法律で認められていない方法で税負担を軽減する手法になります。罰則もあり、発覚した場合は会社のダメージは免れません。
脱税とは法律に逆らって不正に税を減少させる行為
脱税は、売上を隠す等して不当な行為で税負担を軽減する行為です。節税や租税回避と違い、行為そのものが禁止されており、認められません。脱税は税務調査や国税局査察部の調査により発覚するケースがほとんどです。違法が認められた場合は、本来収めるべき税金と、違法行為で軽減して収めた税金の差額を追納します。さらに悪質の度合いでペナルティが加算され、以下の付帯税が課せられます。
【付帯税の種類】
- 不納付加算税
- 過少申告加算税
- 無申告加算税
- 延滞税
- 利子税
具体的な脱税の行為を紹介
脱税にあたる行為として「売上自体を隠す・経費の架空計上・期末の棚卸在庫を少なくする・隠し口座にお金を貯めこむ」等が挙げられます。
税金を軽減させるには所得を低くする必要があります。そのため課税対象の取引を少なく申告したり、ありもしない経費を計上したりして、利益自体を下げる行為は脱税にあたります。また、仕入コストは経費として売上から引くことが可能ですが、期末に残ってしまった在庫は経費処理できません。そのため在庫が多ければ多いほど所得が上がってしまうのです。税金を少なくするため帳簿上の在庫を少なく計上するのも脱税になります。
「租税回避」にあたる行為とは? 具体例を紹介
①タックスヘイブンの利用による事例
租税回避の具体例として まずは“タックスヘイブン”をご紹介しましょう。タックスヘイブン(Tax Haven)とは日本語にすると「租税回避地」を表します。租税回避地とは、税の利率が極めて低い地域のことです。
子会社をタックスヘイブンに設立し「法人税」を免れる行為
租税回避地はタックスヘイブン独自の税対策制度を利用して外国からの資金集め、外貨獲得に尽力している地域のため、会社の立ち上げや口座の開設のハードルが低くなっています。そして租税回避に役立つ税対策は次のようなものがあります。
- 税金がかからない
- 一定の業種への税の好待遇
- 国外の所得に課税しない
上記のような内容の税対策が行えるタックスヘイブンの地域に子会社を設立し、税優遇を利用して法人税を免れる等して租税回避が行われているのです。
タックスヘイブンの利用によるメリットとは
租税回避地で税対策を行う企業目線での最も大きなメリットは、「税金を安く抑えることができる」という点です。ほかにも、会社立ち上げのハードルが低く簡単に設立できるので、新規事業をスピーディーに進めることができます。また、規制の整備がされていない場合が多いので、資産や個人の情報がわかりにくいといったメリットも挙げられます。企業目線だけでなく世界規模でみた場合は、「小さな国の経済を発展させることが可能になる」というメリットもあるのです。
タックスヘイブンの利用によるデメリットとは
税対策を行える一方で、行為自体がグレーゾーンであるというデメリットもあります。合法とはいえ、規制が整備されていないだけなので企業として信頼性を失う可能性もあります。さらにタックスヘイブンでの会社設立は、マネーロンダリングに利用されるといったリスクもあります。犯罪に巻き込まれてしまっては会社としての信頼を失いかねません。世界規模でみた場合は、収められるはずの税金が徴収できないことで、資金が自国に入ってこなくなります。それによって消費税が増税され、国民の生活に影響がでる可能性もあるのです。
②会社の新設の利用による事例
租税回避の具体的な方法として「会社を新設する」という手段があります。租税回避地を利用するのと違い、国外でも可能な方法です。会社を新しく立ち上げると、なぜ税の負担を軽減できるのか詳しくみていきましょう。
会社の新設を繰り返し行うことで「消費税」を免れる行為
「法人の新設」とは、租税回避のために企業の新設を繰り返す行為のことです。企業を立ち上げてから最初の2期間は、消費税の納税の義務があるかどうかの判断準備期間とされています。そのため会社を新設してから1期目および2期目は、消費税の免税事業者の要件を満たしていれば消費税を納税する義務が発生しないのです。この消費税の納税免除制度をして、課税を回避することができます。
会社の新設は節税になるのか?
会社新設後、要件を満たせば最初の2期間に納税義務が発生しないのは、国が定めた法律です。よって「法人の新設」は合法的に租税回避を行える行為と言えます。さらに新しく会社を立ち上げるメリットは税対策だけではありません。企業によっては、新規開拓に向けて新事業に特化した新会社を立ち上げることで、企業全体の成長が見込める場合もあります。事業規模を拡大するために新設会社を立ち上げることで、同時に税対策にも繋がるということです。
会社の新設で留意したい点とは
消費税納税義務の免除制度は、法律的に認められてきたものなので、合法的な租税回避行為としてよく利用されてきました。そのため、国でも対策を練ろうといくつかの税制改正が行われています。例えば、合併や分割で新しく設立された会社は消費税の免除対象にはなりません。このように、法改正の内容を知らないまま安易に会社を新設してしまうと、納税免除対象者とはみなされない場合もあるので注意しましょう。
企業が租税回避を行ったことによる裁判例
裁判例①国税局が負けるケース
租税回避行為について、これまでも多くの問題があり裁判も行われています。過去には国が負けるといった判例もありました。その事例のひとつが「武富士事件」です。武富士の当時の会長が国外にある会社の株式を香港に居住していた長男に贈与したが、その資産に贈与税が課税されるのか争われた事件です。
当時の税法では海外にある財産を国内に住所のないものに贈与した場合は、課税の対象にはならない、とされていました。裁判の結果、生活の拠点が香港である長男に贈与しても課税の対象とはならないと判決が下され、国が負ける結果となりました。その事件以降、同じような方法では納税額を減額できないように、税法が改正されています。
裁判例②会社が負けるケース
租税回避行為はグレーゾーンな基準なため、認められない場合は課税処分を受ける場合があります。日本で有名な租税回避事件のひとつ「ヤフー事件」。ヤフーが赤字会社を買収して所得を少なくし過少に申告したが、認められずに課税処分を受け、さらに買収した会社は事業継続が条件となった事件です。税負担対策のつもりが、租税回避の境界線はあいまいであるため、リスクも大きくなる可能性があり注意が必要となります。
【まとめ】租税回避の仕組みやルールを押さえよう
税対策のひとつ「租税回避」。租税回避行為とはイレギュラーな方法を使い、法の抜け穴により課税の対象とならないようにする手段です。節税は法律で定められたことを基に税対策しているのに対し、租税回避は違法ではないものの、リスクも高くなるので注意が必要になります。過去には事件になったケースもあるので、ルールをしっかりと把握する必要があると言えるでしょう。