会社にとって社員の存在は最も大事です。
いくら経営者が立派な人物でも、どれだけ資金が潤沢にあっても、どんなに素晴らしい設備が整っていても、社員がいなければ事業は回りません。
また、社員がいたとしても、例えば頻繁に人が入れ替わったりして、その会社のことをよく知らない社員ばかりという場合も、やはり仕事はうまくいかないでしょう。
そこで重要になってくる指標のひとつが、社員定着率です。
この記事では、社員定着率の意味や計算方法、社員定着率を改善するための方法等を解説していきます。
企業が今着目したい「社員定着率」とは? 「離職率」との違い
「社員定着率」とは入社した社員が在籍する割合を表す
社員定着率とは、その会社に社員がどれだけ定着しているかを示す指標です。
具体的には、入社した社員がその会社にどれだけの割合で現在も在籍しているかという意味です。
社員定着率が高い会社ほど社員の満足度が高く、働きやすい職場であると考えられます。
反対に、社員定着率が低い会社は、それだけ働きにくい環境であるということが言えるでしょう。
「離職率」は社員定着率の反対・退職した割合を表す
社員定着率とともによく使われる指標として、離職率という言葉があります。
離職率とは、その会社に入社した社員がどれだけの割合で退職したかをあらわす指標です。
つまり、社員定着率の反対の意味であり、裏表の関係にあることから、社員定着率と離職率を足すと必ず100%になります。
したがって、例えば離職率が高いということは、社員定着率が低いということでもあり、つまり会社に不満がある社員がそれだけ多いと推測できます。
逆に、離職率が低い場合は、社員定着率が高いことを意味しますので、それだけ社員は会社に満足しており、働きやすい会社である可能性が高いでしょう。
社員定着率や離職率の法的な定義はあるのか?
社員定着率や離職率には、実は法的な定義がないことに注意が必要です。
これらの指標は会社の運営状態や社員の会社に対する満足度等を知る上では有用なデータには違いありませんが、法的に定義されていないため、あくまでひとつの参考値として見るべきものと言えます。
例えば公的な機関をはじめ様々な調査機関が発表しているデータがありますが、必ずしも実態を正確に表しているとは限りませんので、データの取り扱いには気を付けた方が良いでしょう。
社員定着率や離職率はどのように求めるのか? 計算方法と具体例
社員定着率を計算するには、計算期間を決めた上で、以下の計算式を使います。
社員定着率(%)=計算期間の始点で入社した社員のうち、同期間の終点で残っている人数
÷ 計算期間の始点で入社した社員数 × 100
具体的な数字を使って計算すると、以下の通りです。
計算期間の始点で10名入社し、そのうち計算期間の終点で残っているのが8名だった場合
社員定着率=8 ÷ 10 × 100
=80(%)
社員定着率を使えば、離職率は次の計算式で簡単に計算できます。
離職率(%)=100%-社員定着率(%)
目安はどのくらい? 離職率の平均値からわかる社員定着率
新卒採用者の社員定着率|平均値はおよそ7割
厚生労働省の調査によると、平成29年3月に大学を卒業した新卒者において、就職後3年以内の離職率は32.8%でした。
入社後3年以内に離職することを「早期離職」と言いますので、上記の数字は新規大卒就職者の3割以上が早期離職していることを意味します。
これを社員定着率に置き換えれば7割弱です。
平成29年以前の大卒者においても同じような数字で推移していることから、依然として高い離職率が続いていると言えます。
参考:厚生労働省
業界別の離職率平均値|高い業種・低い業種
業界が異なれば離職率も違ってきます。
例えば、宿泊業・飲食サービス業の離職率は他の業種と比べて高い傾向にあります。
主な原因としては、労働時間の長さが挙げられるでしょう。実際に、休日数や有給休暇取得率といったデータを他業界と比べても、その平均は最低水準です。
反対に離職率が低い業種として挙げられるのが、電気・ガス・熱供給・水道業といった業種です。
これらは生活インフラを支えている業界のため、業績が安定しており、社員も安定した生活が期待できるということで、離職を考える人が少ないと言えるでしょう。
社員定着率が低いとき|社員の抱えるマイナス要素は主に4つ
1.人間関係の摩擦からストレスが蓄積している
社員定着率が低い原因は様々なケースが考えられますが、大きく4つの原因に分けることができます。
まずひとつめは、職場環境があまり良くないというケースが考えられます。
特に最も大きな原因になるのは、人間関係に問題がある場合です。
例えば、上司や同僚とのコミュニケーションが少なかったりうまくいかなかったりして、職場の雰囲気が良くない場合は、社員にとって大きなストレスになります。
人間関係の問題は毎日の業務に影響することも多く、そうしたストレスが日々積み重なっていくと、離職に繋がってしまうことも考えられます。
2.給与・待遇に対する不満がある
2つめは、給与や待遇に不満があるケースです。
例えば、年功序列の人事制度であったり、業績の低迷等により昇給がなかったりする場合に、不満が増加することが挙げられます。
やはり社員にとって給与や待遇というのは最も関心の高いことのひとつですから、それらに納得できない場合は、社員のモチベーションに与える影響は当然大きいでしょう。
特に給与の問題は社員自身の生活にも関わる切実な問題でもありますので、社員定着率にダイレクトに反映されやすいと言えます。
3.業務内容に不満や達成感の不足がある
3つめは、自分の業務内容に不満がある場合です。
多くの社員にとって、仕事はお金を稼ぐ手段であるだけでなく、おそらく自己実現の場でもあるのではないでしょうか。
どんな仕事でもいいという人もいるとは思いますが、やはり仕事にやりがいを求めて、達成感を味わったり、自分の成長を実感したいという人は多いでしょう。
仕事に費やす時間は人生の多くを占めますから、仕事の内容に満足できなければ、定着も難しいと考えられます。
4.事業の将来性に不安を感じている
4つめは、自分の務める会社あるいは会社の事業自体の将来性に不安がある場合です。
人間は基本的に安定を求めるため、将来に不安を覚えるとモチベーションは下がる傾向にあります。
社員が自社の未来に希望が持てない状態になってしまうと、そのまま働き続けることへの不安が生まれて、他の会社や他の業界への転職を考えるようになっても不思議ではありません。
多くの社員が会社の将来性を危ぶむようになると、当然離職率が高くなると予想できます。
社員定着率が高いことが企業にもたらすメリット3つ
採用・教育コストが削減できる
社員定着率が高いことによる主なメリットは大きく分けて3つあります。
ひとつめは、採用や教育にかかるコストを下げられることです。
例えば、採用にかかる費用としては、就職サイトへの掲載料やセミナー運営費のほか、採用担当者や面接者の人件費が挙げられます。
また、教育にかかるコストとしては、研修費用や教育担当者の人件費が挙げられますが、教育期間中に支払う新入社員への給料等も、まだ貢献度に見合わないものと考えると、教育コストと言えるでしょう。
社員定着率が高ければ、こうしたコストを最小限に抑えることができます。
業績効率が高まる
2つめは、社員定着率の上昇によって業績が向上することです。
社員定着率が高いということは業務に習熟した社員が多いということでもあるため、労働生産性を高めることができます。
一方、社外に目を向けると、例えば顧客にとってその会社の担当者が頻繁に変わるようだと不安を覚えますが、逆に同じ担当者だと安心感を覚える場合が多いでしょう。それが結果的に顧客満足度に繋がり、業績向上に寄与します。
優秀な人材を確保できる
3つめは、優秀な人材獲得という面から見てプラス要素であることです。
求職者が会社を選ぶ際は、社員定着率も判断材料になります。
社員定着率が高いと、働きやすい職場であるというイメージに繋がり、求職者にとっては大きな魅力のひとつとなるでしょう。
逆に社員定着率が低いと、社員を大切にしない会社あるいは激務を課される会社 等の印象を求職者に与えることも考えられるため、採用面でマイナス要素になる場合があります。
社員定着率が高いことで企業に生じるデメリット2つ
社員定着率が高いと良いことばかりのようにも思えますが、実はデメリットもあります。
主なデメリットは2つあります。
役職に空きがなく昇進しづらい体制になる
ひとつめのデメリットは、昇進しづらいということです。
離職率が低いということは人が辞めないということですから、役職(ポスト)を新しく作ったり降格がない限り、役職に空きがないため昇進できません。
いわゆる「上が詰まっている」状態になり、特に向上心の強い社員にとってはモチベーションを下げる要因のひとつになってしまうことも考えられます。
自己研鑽のモチベーションが上がらない
離職率が低いと同じ人が同じ業務を長い間担当するケースも多いため、マンネリの状態に陥ってしまいがちです。
そして、マンネリ状態になった社員が多くを占めるようになると、お互いに視野がだんだん狭くなり、現状維持さえできれば良いというような空気が生まれやすくなります。その結果、自己研鑽をしようというモチベーションを保ちづらくなります。
人の入れ替わりが激しすぎるのも問題ですが、あまりに人が固定化されてしまうのも問題と言えるでしょう。
社員定着率を改善するには?3つの方法を紹介
採用の評価軸を明確化する
社員定着率を改善させるための方法を3つ紹介します。
ひとつめは、採用におけるミスマッチを極力なくすことです。
ミスマッチをなくすためには、採用において入社後に評価するポイントを明確にしなければなりません。
評価軸が明確化できていると、会社側も社員も、採用後に「こんなはずじゃなかった」というような不満を持つことがなくなり、結果的に社員が定着しやすくなります。
ワークライフバランスの改善をサポートする
2つめは、社員のワークライフバランスに配慮することです。
残業や休日出勤をさせないような取り組みをしたり、フレックス制度やリモートワーク等の柔軟な働き方を認めていくことも有効でしょう。
ワークライフバランスが整うことで、社員が働きやすい職場と実感するようになります。
社内の風通しを良くする
3つめは、社内のコミュニケーションを円滑にすることです。
風通しの悪い会社では、どうしても社員の不満がたまり、ストレスの原因になります。
適切なコミュニケーションをとることができないと、仕事にも支障が出るほか、そもそも精神衛生上も良くありません。
社員同士のコミュニケーションを促進するような環境作りも、会社の重要な役割です。
社員のモチベーションアップについてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>社員のモチベーションを上げる5つの方法|事例や重要な考え方も紹介
まとめ
社員定着率は社員の会社に対する満足度を表す重要な指標です。
会社にとって社員は最も大事な存在のひとつであるということを認識し、社員満足度を高めていくことが会社の務めと言えます。