経理担当者の中には事務の手間を削減して未収のリスクを減らすために相殺での処理をしたいと思いつつ、やり方が分からず都度領収書を複数発行している担当者も多いのではないでしょうか。
今回は、相殺領収書の書き方や取引先から受け取った場合の処理方法について詳しくご説明しますので、参考にしてください。
そもそも相殺処理は可能なのか?
相殺処理は取引先と自社の双方が合意していれば可能です。
本来領収書は取引があった際に都度発行するものですが、複数の取引がある場合に両社間での売り買いによる代金を一定期間でまとめて清算することができます。
相殺することで両社ともに事務の手間が減るメリットがあるため、事前に内容を説明すれば取引先の理解を得られる可能性も高いでしょう。相殺する場合は記載方法や精算期間について事前にすり合わせておくとより安心です。
概要と処理方法〜相殺処理の領収書の書き方から
ここでは相殺処理の概要とその処理方法について詳しく説明していきます。内容が複雑ですので、ミスを起こさぬよう基礎知識からしっかりと学んでおきましょう。
掛け払いの基礎知識
掛け金の代表的なものとして売掛金と買掛金があります。
売掛金とは物やサービスを売った際に請求した金額について、将来お金を受け取る権利が発生している金額を示します。逆に買掛金とは、物やサービスを買った際に請求を受けた金額について、将来支払う義務が発生している金額です。
売掛金・買掛金共に証書は発行されず、信用を元に成り立つ仕組みで、商売では様々な業界で広く使われています。どちらの掛け金も金額や取引先ごとにそれぞれ期日が定められており、決められた期日に沿って入金・出金をする必要があります。
相殺とは差し引きして帳消しにすること
相殺とは売掛金と買掛金について差し引きして帳消しにすることを指します。
例えば ある取引を通してO社が P社に対して3万円の支払い義務を持つ一方、別の取引としてP社がO社に対して3万円の支払い義務を持っているとします。
もちろんそれぞれ3万円ずつ支払っても良いですが、両社話し合いのもと合意があれば3万円と3万円を相殺して0円とすることもできます。
相殺して金額や取引の回数を減らすことで、多額の現金をやり取りするリスクや、入金や請求書のやりとりにかかる手間が削減でき、 取引が多い企業間ほどメリットが大きくなります。
相殺処理する場合の仕訳方法
実際の仕訳を例にとってご説明します。
X社がY社に対して50万円の売上を掛け金にて計上し、一方でY社から30万円で掛け金で仕入れをした場合のX社側での仕訳は次のとおりです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
売掛金 | 500,000 | 売上 | 500,000 | Y社 |
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
仕入 | 300,000 | 買掛金 | 300,000 | Y社 |
この2つの取引について相殺して残りの金額を現金として受け取る場合は、X社で受け取る現金は50万円から30万円を引いた20万円となります。
このときX社側では次のような仕訳となります。摘要欄に相殺したことがわかるようにしておくと親切です。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
現金 | 200,000 | 売掛金 | 200,000 | Y社より受取 |
買掛金 | 300,000 | 売掛金 | 300,000 | Y社取引相殺分 |
相殺領収書は相殺処理の事実の証明
相殺領収書と通常の領収書の違い
通常の領収書では、内容・金額・支払期日・取引当事者双方の情報を明記する必要がありますが、それに加えて相殺の場合はどの取引に対してどの取引で相殺を行っているのかも記入する必要があり、情報量が多いのが特徴です。
業務の効率化に便利ですが、一方で内容が不透明になりやすいというリスクがあるため、元の取引についても相殺する取引についても内容や金額を丁寧に記入することが求められます。企業によってはフォーマットが決まっているため事前に確認しましょう。
一方が相殺領収書を発行すると相手側も発行が必要
相殺する場合は双方の取引先が相手に対して債権債務を持っている状態になるため、一方が発行したら相手方も発行する必要があります。もし片方しか発行していない場合は、債務が減額していることを示せず、後からトラブルにもなりかねません。
発行の際には、どの取引について発行するかやそのフォーマットについて取引先と予め合意し、発行する際には双方で発行
収入印紙は基本的に不要
収入印紙は、領収書に対しては金銭のやり取りがあったものについて納める税金のため、 相殺領収書については原則不要です。収入印紙は5万円以上の取引について必要ですが、もし5万円以上の取引があった場合にも相殺した結果5万円以下となった場合は金銭のやりとりがないため不要となります。
ただし相殺の結果も5万円を超えており、5万円以上の入金や出金をする際には、収入印紙を貼付する必要があるため注意が必要です。
するよう心がけ、もし受け取っていない場合はリマインドしていくと良いでしょう。
相殺処理のメリット2つ
振込の工数等会計上の負担を減らせる
相殺処理は、まず振込にかかる手間を削減できるのが大きなメリットです。
売り買いがあった場合は、もし相殺しないと振り込みをしつつ入金の確認も必要となりますが、相殺すれば振込か入金確認のどちらか一方で済みます。入出金はお金の動きに関わる重要な業務で集中力が必要なため、相殺することで経理担当者の手間や取引先の手間を大きく削減できるでしょう。
また、相殺で振込金額を減らすことで場合によっては振込にかかる手数料も削減できます。
未収のリスクを回避できる
企業は請求書を発行した後に取引先からその金額が支払われたかを確認する必要があり、請求書が多ければ多いほど未収のリスクも増えていきます。
未収の状態では売上に対する入金ができず、自社に損が生じている状況になるだけではなく、未収がトラブルに発展した場合は、今後の取引にも影響が出てしまいます。
相殺をすることで振込確認が必要な書類の数を減らすことができ、金銭の移動の金額も小さくなるため、未収のリスクを削減できます。
相殺処理のデメリット2つ
お金の流れが不透明になりやすい
相殺処理はメリットもある一方で、双方が内容をきちんと理解していないとお金の流れが不透明になりやすく、トラブルになりかねないというデメリットがあります。
双方が元々の売掛金・買掛金の内容を理解していれば問題ありませんが、もし相殺した金額しかわかっていないと正確に帳簿をつけることができません。
相殺領収書を 受領する担当者だけでなく、帳簿の記入や入金に関わる担当者含め全員が内容を理解している必要があります。
事務作業の負担が増える
相殺領収書を使うことで逆に事務作業が増えてしまう可能性もあります。
特に普段使っていない企業では、記入の仕方や連絡の仕方に戸惑ってしまい、やり方を調べる時間や取引先と確認する時間が大きくかかります。また、もし記入の仕方を間違えてしまった場合はやり直しが生じ、むしろ手間が増えてしまうこともあります。
相殺領収書を発行する場合は経理担当者の方で事前に事務の流れや記入の仕方を確認しておくことで、負担を減らせるでしょう。
相殺領収書の記載事項と書き方
①日付
記載する日付は極力取引先の発行するものと合わせておいた方が、後から資料同士を突き合わせて確認する際に混乱せず便利です。
領収書を発行する前に取引先と日付や記載の内容について再度すり合わせておくと良いでしょう。また、取引の内容を明確にし、記帳を容易にするため、売掛金と買掛金のそれぞれの取引について日付を記載するようにします。
②-1 金額:全額相殺の場合
売掛の金額と買掛の金額が同じで、全額を相殺する場合は領収書に記入するのは相殺する金額のみとなります。相手側から先に領収書を受け取った場合は、同じ金額を記載してこちら側からも発行します。
例えば相手方から70万円の物を買い、70万円の物を販売して相殺する場合は、70万円と記載の領収書を受け取ると同時に70万円と記載の領収書を発行します。
自社で書類の発行を忘れないのはもちろんのこと、相手側からも受け取るようにしましょう。
②-2 金額:一部だけ相殺の場合
一部だけ相殺する場合は、二つのやり方があります。今回、相手方から50万円のサービスを買った一方で70万円のサービスを売り、2つを相殺する場合を例にご説明します。
ひとつめは、 相殺金額と領収金額を別々に発行するやり方です。
この場合は、相殺領収書の金額は50万円で発行し、領収書の記載金額は差額の20万円です。
2つめは、領収額をまとめて記載する方法です。
この場合は、領収書の記載額は70万円で、但し書きに”買掛金50万円と相殺”と記入します。
③但し書き
但し書きは単なるメモ以上の重要な役割を持ち、フォーマットに従って確実に記入をすることが重要です。相殺があったことを但し書きで記入する場合は、但し書きの欄に明確に相殺する内容や金額を記入しないと正式な書類として認められません。
特に5万円以上の取引を相殺する場合は、相殺領収書として認められないと、5万円以上の金銭のやりとりがあったと認められて収入印紙の貼付が義務となってしまうため注意が必要です。
相殺処理をするときの請求書作成のポイント
本来の請求金額と相殺する金額を記載する
相殺する際の請求書作成では、本来の請求額と相殺する金額の双方を記入しておくのが重要です。その金額や内容を記入しておくことで帳簿がつけやすくなり、もし金額がわからなくなった場合やトラブルに発展した場合にも容易に内容を確認できます。
また、将来もし税務調査が入った際にも明確に記入しておくことで、自信を持って書類を提出できるでしょう。取引先に発行してもらう書類についても請求金額と相殺金額を記入してもらうよう徹底しましょう。
相殺する金額はマイナス表記する
一般的に相殺する金額にはマイナス表記をします。相殺する前の金額と相殺する金額で区別がつくよう、行を分けることに加えマイナス表記をするのが親切です。
企業によってはマイナスの代わりに”△”や”▲”を使用する企業もあるため、自社で使うフォーマットを担当者の間であらかじめ定めておくと便利です。もし、相手側から受領した領収書にマイナス表記がない場合は、より一層注意して金額を確認しましょう。
相殺する金額が消費税込みなのか税抜きなのかに注意する
記入されている金額が税込みか税抜きかでも大きく金額が変わります。もし相殺元の金額が税込の場合は、相殺する金額も税込でないと計算が合わなくなってしまいます。
記入するそれぞれの金額が税込かどうかに注意をし、表記を揃えると分かりやすくなります。金額を記入する際には、都度税込か税抜きかが相手側にも一目でわかるようにしましょう。また、相手側から受け取った領収書も税込かどうか注意して確認します。
相殺通知書は債務者の支払いが滞っている場合の法的手段
相殺通知書とは、債務者が支払いを行わない場合に支払いの相殺を行うために債権者が債務者に対して一方的に送る書類です。
一般的には銀行が借金の返済を行わない債務者に対して預金からの支払いを通知する際に使うことが多いですが、企業間でも使われることがあります。
相殺通知書は債務者の支払いが滞った場合の最終手段ともいえるため、極力この通知書を使わなくて済むよう双方で密に連絡を取り、もし通知書を受け取ったら必ずすぐに内容を確認します。
まとめ:両者間でルール設定をし取引を明確にしよう
相殺領収書は入出金の金額を抑えることができ、効率化や手数料の削減に効果がある一方で、うまくやりとりできないと、逆に手間が増えたりミスが起きやすくなります。
記入や送付にあたって注意するべきポイントが多いため、相殺をする際には、相殺の仕方や相殺をする際の記入方法について両社で予めルールを設定しておくことが重要です。