減価償却費を算出する際に、固定資産を使用した分に比例して計算する方法を「生産高比例法」といいます。
定額法や定率法よりもなじみが薄いのは、生産高比例法は使用した量が明確に計算できる固定資産だけが対象となるからです。
今回は、生産高比例法について分かりやすく解説していきます。
生産高比例法とは?混同しやすい減耗償却との違いも解説
生産高比例法とは:固定資産の利用量に合わせた償却方法
生産高比例法は、固定資産の総利用量と当該年度に実際使用した量の割合で減価償却費を算出する方法です。
該当する固定資産の使用する量に合わせて、減価償却費を計上するという考え方で、配分する基準に「生産高」を使う減価償却の方法です。
生産高に合わせて固定資産を費用化していくのですから、企業会計としては非常に理想的な方法ですが、対象は生産高が明確に計算できる固定資産に限られます。
なお、法人税法上、生産高比例法を適用できる資産は、鉱業用に限られています。その他の資産で適用した場合は、税額計算時において調整が必要ですので注意しましょう。
【生産高比例法とその他の減価償却方法の違い】
生産高比例法と、その他の減価償却方法の大きな違いは、その基準にあります。
生産高比例法以外は、時間の経過等によってその固定資産の価値が減っていくものとして、その使用期間(耐用年数)で費用を案分します。
一方で、生産高比例法は、総量に対して使用した量の割合に対応した分を費用として認識する方法ですので、基準が異なるのです。
減価償却費を求める際には、一定数値を用いた計算式を使用するのが特徴です。
減価償却方法 | 計算式 |
---|---|
定額法 | 取得価額÷耐用年数 |
定率法 | (取得価額―減価償却累計額)×一定の償却率 |
定率法(償却保証額を下回った場合) | 改定取得価額×改定償却率 |
リース期間定額法 | (リース資産の取得金額- 残価保証額)÷リース期間(総月数)×当該年度のリース月数 |
取替法 | 部分的取替に要する費用を修繕費等として処理 |
生産高比例法 | 取得価額÷総利用可能量×実際利用量 |
定額法:毎年同額の償却費を計上する償却方法
定額法は、毎年同じ金額を減価償却費とする償却方法です。
定額なので、分かりやすく将来の予定が立てやすい方法です。
毎年の減価償却費は、該当する固定資産の取得価額と、定額法の償却資産の評価に用いる耐用年数によって計算します。
耐用年数によって、償却率が決められていますので、国税庁のサイトなどで確認できます。
現在、建物は定額法によって減価償却されることになっています。
- 平成28年3月31日までに、取得した建物は、定額法又は定率法のどちらかを選択
- 平成28年4月1日以後に、取得した建物は、定額法
定率法:年数経過で額が変化する償却方法
定率法は年の経過に合わせて、減価償却費を低減させる方法です。
初年度の償却費が最も多く、「償却保証額」より償却費が少なくなると、毎年同じ金額を計上します。
償却保証額は取得価額×耐用年数に応じた保証率で計算されます。
改定取得価額とは、償却保証額を下回る前年度の、当該固定資産の期首簿価です。
リース期間定額法:期間内一定の額計上する償却方法
まず、リース取引には2種類の取引があります。
- 所有権移転外リース:リース期間が過ぎたら所有者に返すべきもの
- 所有権移転リース:リース後(ないしは途中で)に所有権が譲渡されるもの
ここでは、前者のみが該当します。
リース期間が1年以内、リース料が300万円以下の取引については、リース料自体を費用として処理します。
取替法:修繕費などとして費用計上する方法
取替資産とは、固定資産の一種で、鉄道のレール・枕木、高速道路のガードレール、道路標識など、同じ種類の物がたくさん集まってひとつの資産となるもののことです。
取替法とは、そういった固定資産の劣化した部分を取替える事を繰り返す際の、部分的取替えの費用を、修繕費等として処理する方法です。
個別に処理したのでは、減価償却に手間がかかりすぎるのが理由です。
【減耗償却との違い】減耗償却は、減価償却とは異なる費用配分方法
天然資源や埋蔵資源のある、油田、山林、炭鉱、鉱山等は、伐採や採掘されてしまうと、もとの状態に戻ることは困難です。
量に限界があって、伐採や採掘で減耗して、最後にはなくなってしまう天然資源のことを減耗性資産といいます。
減耗償却とは、そのような固定資産を、その取得価額を期間に応じ費用とすることを言います。
手続き上は生産高比例法と同じで、減価償却と似ていますが、以下の点で全く違います。
- 減価償却は事業用に使われているものの償却
- 減耗償却は、資源が減耗してなくなっていくこと
生産高比例法の対象となる資産は?代表的なものは鉱業権
前述通り、生産高に合わせて固定資産を使った分だけ費用化していくのですから、企業会計としては理想的な方法ですが対象は生産高が明確に計算できる固定資産に限られます。
具体的には、自動車等の車両運搬具や航空機、鉱山用の資産等です。
生産高比例法が適用可能な資産には、次のふたつの条件を満たす必要があります。
- 総生産高を物理的に正確に予想できること
- 生産高に合わせて資産の減価が実際に起こること
鉱業権は、生産高比例法対象の代表例として挙げられます。
鉱業法に基づき、一定の区域において、鉱物を採掘し、取得する権利ですから、前述の条件を満たしやすいのでしょう。
償却限度額も、鉱業権については1鉱区ごと、坑道ごと、1鉱業所ごとと、細かく分けられています。
例えば、普通自動車の耐用年数は新車を購入した場合6年ですが、運用状況がはっきりしない中で、
- 6年間での総生産量(走行距離等)を見積
- 年間の生産量を把握
- 生産に応じて車が消耗し減価
ということを、明確に計算するのは困難を極める作業です。
生産高比例法の計算方法:例題から計算式と仕訳を解説
【公式】生産高比例法の計算式
当該年度の減価償却費は、今後の総使用量1単位当たりの 総償却額を計算した後に、当該年の消費量を算出します。
- 取得価額:購入価格に付随費用を加えた合計金額
- 要償却額:償却しなければならない金額
- 要償却額÷総使用量:使用量1単位に対する減価償却費
- 1単位に対する減価償却費×当期消費量=当期の減価償却費
公式にすると、次のようになります。
減価償却費=要償却額÷総使用量×当期消費量
【例題】生産高比例法の計算方法と仕訳
20X2年10月1日に掘削設備(機械装置)を¥5,000,000で購入しました。
償却方法は生産高比例法で、この掘削設備の見積総掘削量は100,000tです。
会計期間は3月31日を決算日とする1年間です。
直接法で記帳します。
直接法とは、減価償却額を直後に当該固定資産の貸方に記入し、その帳簿額を減少させる方法です。
貸方残高はその資産の未償却残高を表します。
問1:20X3年3月31日の仕訳(×1年度の掘削量:4,000t)
¥5,000,000×100,000t=¥50(使用量1単位に対する減価償却費)
¥50×4,000t=¥200,000
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
減価償却費 | 200,000 | 機械装置 | 200,000 |
問2:×3年3月31日の仕訳(×2年度の掘削量:20,000t)
¥50×20,000t=¥1,000,000
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
減価償却費 | 1,000,000 | 機械装置 | 1,000,000 |
ちなみに、問2を間接法で記帳すると次のようになります。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
減価償却費 | 1,000,000 | 減価償却累計額 | 1,000,000 |
固定資産勘定は取得時のままにしておき、別に減価償却累計勘定を設けてその貸方へ償却額を記入する方法で、減価償却累計額 は評価勘定となります。
当該固定資産勘定は取得価額を、減価償却累計額勘定は償却累計額を示し、両勘定の差額が固定資産の未償却残高を表すので直接法より情報が多い分、優れた方法と言えます。
生産高比例法を用いて減価償却費を計算する際の注意点
①税制改正による生産高比例法の減価償却限度額
平成19年4月1日以後に取得した減価償却資産について、税法上下記のように改正されました。
- 取得価額の95%相当額であった、 償却可能限度額と残存価額が廃止されました。
- 耐用年数が経過した時点で、「残存簿価1円」まで償却できるようになりました。
前述通り、減価償却費=要償却額÷総使用量×当期消費量です。
旧生産高比較法(平成19年3月31日以前) | 現在の産高比較法(平成19年4月1日以降) | |
要償却額 | 取得価額 - 残存価額 | 取得価額 |
残存価額 | 耐用年数省令別表第十一に規定されている残存割合をを用いて算出した金額 | なし |
総使用量 | 耐用年数の期間内におけるその資産の属する鉱区の採掘予定数量 | 耐用年数の期間内におけるその資産の属する鉱区の採掘予定数量 |
耐用年数に関する注釈 | 採掘予定年数が耐用年数より短い場合、その採掘予定年数 | 採掘予定年数が耐用年数より短い場合、その採掘予定年数 |
当期の減価償却費 | 事業年度におけるその鉱区の採掘数量 | 事業年度におけるその鉱区の採掘数量 |
②生産高比例法は月割計算しない
生産高比例法では、固定資産を取得して、年の途中から使用した場合であっても減価償却費を月割計算しません。
それは、固定資産は使用した量だけ減価するという考えに基づき、使用した量だけの金額を計算するからです。
期中に固定資産を売却したときにも、同じように月割計算しません。
それに対し、定額法と定率法の計算式では、時間の経過等によってその固定資産の価値が減っていくものという考えに基づくため、月割計算をします。
生産高比例法のメリット・デメリットを紹介
メリット:生産高に比例して減価償却費を計上できる
生産高比例法の最大のメリットは、費用と収益が同時に発生する点です。
定額法はその名の通り売上げや利益に関わらず償却を行いますし、定率法は取得時に最大の減価償却を発生させる仕組みになっています。
固定資産を使用して発生する売上や利益と、減価償却の費用が個別対応していません。
生産高比例法は、名前が示す通り生産高(≒売上高)に比例して減価償却費を計上していけるのです。
ですから、企業会計の原則である、「費用と収益は同じ事業年度に対応させて計上する」という目標に最も合った償却方法と言えます。
デメリット:管理の手間・難易度が高い
生産高比例法のデメリットは実際に運用できる固定資産が限られていることです。
前述しましたが、適応が認められている固定資産でも、いざ生産高比例法を採用するとなると、準備すべき事項は多いです。
総生産高を明確に計算することや、それを各年度に割り振るのは容易ではありません。
生産高と、該当する資産の使用量を毎期正確に管理する必要もあります。
収益と費用を合致させるには優れた償却方法ですが、難易度は高いと言えるでしょう。
まとめ
生産高比例法について、対象や計算方法を解説しました。
生産高比例法とは、固定資産の利用量に合わせた償却方法です。
それ以外の償却方法を4つ紹介しました。
減耗償却とは、手続き上は似ていますが、考え方が違っています。
生産高比例法の対象と、計算方法、注意点を解説しました。
最後に、生産高比例法のメリットとデメリットを解説しました。
企業会計としては優れている方法ですが、運用は煩雑で難易度が高いと言えるでしょう。