現金主義・発生主義・実現主義|3つの違いとは? わかりやすく解説

企業会計上の、収益および費用の認識の基本的な考え方として、現金主義・発生主義・実現主義という3つの考え方が存在します。

今回はそれぞれの考え方の詳細、およびメリット・デメリットをご紹介します。

特に発生主義・実現主義の理解は、経理担当者にとって非常に重要ですので、是非最後までご覧ください。

目次

大きく違うのは現金主義と発生主義|3つの考え方の違いをわかりやすく解説

【違い】現金主義は「現金が実際に動いたとき」に計上する考え方

現金主義は、「現金が実際に動いたとき」、つまり現金収入および支出があった時にはじめて収益および費用を認識します。仕入であれば現金の支払いが発生したタイミング、売上であれば現金の入金を得たタイミングで記帳をするのが特徴です。

逆に言うと、掛取引で仕入や売上をした場合において、取引発生日には会計記帳が発生しません。企業で経理を担当している方にとっては馴染みのない考え方かもしれません。

現金主義は一部の個人事業主にしか認められていない

現金主義は一定の要件を満たした個人事業主にしかその適用が認められていません。
​​具体的には、小規模事業者の要件(※)に該当する青色申告者に対してのみ適用されます。

(※)小規模事業者:
その年の前々年分の不動産所得の金額及び事業所得の金額の合計額が300万円以下の個人事業主

この条件を満たした上で、適用を受けようとする年の3月15日までに届出書を提出する必要があります。企業で経理を担当していて、現金主義に馴染みがないのも当然と言えるでしょう。

現金主義での仕訳例を見てみよう

現金主義を理解するためには、実際の仕訳例を見ることが最もわかりやすいでしょう。

※例において、当社は3月31日を決算日として設定している。

①当社はX1年3月3日、商品100万円分を仕入れ、現金で支払った。

借方貸方
仕入 1,000,000現金 1,000,000

②当社はX1年3月10日、A社に対して商品30万円を掛けで売上げた。

借方貸方
仕訳なし

③当社はX1年4月30日、A社から売掛金30万円分の入金を得た。

借方貸方
現金 300,000売上 300,000

現金主義においては、現金収入および支出があってはじめて収益および費用を認識するため、現金支出を伴わない②のタイミングでは売上を計上しません。

【違い】発生主義は「費用」は「取引が発生したとき」に計上するという考え方

発生主義は、「現金が実際に動いた」という事実ではなく、「取引が発生した時」に費用および収益を計上します。固定資産が時間経過に伴って消費されることを考慮して行われる減価償却や、仕入れた商品のうち販売された分だけを売上原価とすることも、発生主義に則った処理です。

なお、日本における会計基準(発生主義会計)では、「費用」について発生主義が適用され、収益については後述する実現主義を適用します。

発生主義は企業会計規則に基づいた原則のひとつ

発生主義の原則は、企業会計原則の損益計算書原則に、下記のとおり記されています。

企業会計原則(第二・一・A)発生主義の原則
すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。

上記に則り、費用については発生主義の原則が適用されています。

発生主義での仕訳例を見てみよう

発生主義を用いた典型的な仕訳例として利息の支払いについてご紹介します。

※例において、当社は3月31日を決算日として設定している。

①当社はX1年1月31日、A銀行から年利率6%期間1年で100万円を借り入れた。
利息は元金返済時の後払いとする。

借方貸方
現金 1,000,000借入金 1,000,000

②X1年3月31日、決算を迎えた。

借方貸方
支払利息 10,000未払利息 10,000

※1,000,000*6%*2/12

現金での利息の支払いは、借入金の元金返済時(X2年1月31日)となりますが、X1年2月1日〜3月31日に対応する費用は、該当の期に割り当て、支払利息として計上する必要があります。

【違い】実現主義は「収益」が「実現したとき」に計上するという考え方

実現とは、企業が顧客へ財やサービスを提供し、その対価を獲得することです。日本の企業会計上、収益については発生主義ではなく実現主義が適用され、取引の実現(現金や売掛金の獲得)があってはじめて収益が認識されることとされています。

これは収益の計上は、費用以上に取引の確実性や客観性を確保する必要が求められるためです。収益は株主への配当へも直接的に関わってくる項目であり、不確実なまま計上するのは企業経営上も大きなリスクを伴います。

実現主義は企業会計規則に基づき、発生主義を支える意味合いを持つ原則

日本の企業会計は、発生主義会計を基本としており、その中での実現主義の役割は発生主義を”支える”ことです。

先ほどご紹介した企業会計原則の後半部分に「未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。」という記述があります。

売上等の収益まで発生主義を適用すると、販売が行われていないにも関わらず売上が計上され、損益計算書に未実現利益が計上されてしまうリスクがあるのです。

実現主義での仕訳例を見てみよう

得意先から発注を受けた時の仕訳を発生主義と実現主義それぞれでご紹介します。

なお、実現主義の売上認識基準は複数ありますが、今回の場合は「納品基準」を適用していることとします。(納品日に売上を計上)
※例において、当社は3月31日を決算日として設定している。

①X1年3月30日取引先から商品30万円分の発注を受けた。

■発生主義の場合

借方貸方
売掛金 300,000売上 300,000

■実現主義の場合
仕訳なし

②X1年4月1日取引先へ商品30万円を納品した。

■発生主義の場合
仕訳なし

■実現主義の場合

借方貸方
売掛金 300,000売上 300,000

発生主義を適用すると、取引の確実性が担保されないまま、X1年度中に売上が計上されてしまいます。

一方実現主義の場合であれば、納品という事実をもって確実性のある収益計上がなされています。

「現金主義」と「発生主義・実現主義」|メリット・デメリットを比較しよう

「現金主義」のメリット・デメリット

発生主義会計が原則とされている企業会計において、実務で現金主義が登場する機会はないと言って良いかもしれません。

ただし、発生主義との違いを理解することは良い勉強にもなりますので、ここでメリットとデメリットをご紹介します。

「現金主義」のメリットは簡単な会計処理が可能なこと

現金主義のメリットは何と言っても日々の会計処理が簡単であることです。現金での入金があった時に収益を記帳し、現金での支払いをした時に費用の記帳をするだけでよく、極端に考えると預金通帳だけを見ていれば間違いなく処理が可能です。

また、処理が簡単である分ミスが発生しにくく、現金が実際に動いた事実をもって記帳するため、会計処理の確実性も高いと言えるでしょう。

「現金主義」のデメリットは見てすぐに利益を把握できない

一方、現金主義のデメリットは当期中の利益をまったく把握できないことです。

発生主義・実現主義であれば、商品を販売したタイミングおよびサービスを提供したタイミングで売上を計上します。

現金主義の場合は、売上による現金入金があってはじめて売上が計上されます。

年度をまたいで入金があった場合は、正しい利益が損益計算書に反映されないため、経営者や株主等関係者の経営判断を損ねるリスクがあるでしょう。

「発生主義・実現主義」のメリット・デメリット

企業で経理を担当していて、「なぜ発生主義で記帳する必要があるのだろう」と疑問に思った方もいらっしゃるでしょう。

もちろん発生主義・実現主義にはメリットがあるからこそ採用されています。
デメリットと共にご紹介します。

「発生主義・実現主義」のメリットは利益がすぐわかること

発生主義・実現主義を利用することで、費用は取引の発生に応じて、収益は取引の実現に応じて記帳されます。これによって、会計期間ごとに費用と収益が正しく対応し、会計期間に応じた正確な利益を確認することができるようになります。

正確な利益を把握することによって、適切な予算計画や資金繰り計画を立てることができるでしょう。また、未回収の売掛金や未払いの買掛金等も正しく管理できるので、事業の財務状況の把握においても有効です。

「発生主義・実現主義」のデメリットは会計処理が複雑で知識が必要

発生主義・実現主義のデメリットは、理解するのに会計知識が必要なことです。複式簿記で記帳する必要があるのはもちろん、実際の現金の動きと記帳する金額や計上される利益が一致しないので、特に初心者にとっては混乱を招くことがあるかもしれません。

また、売上は実現主義によって計上されるため、確実に現金化されるという保証がなく、会計処理に不確実性が生まれるというのもひとつのデメリットと言えます。

発生主義・実現主義のデメリットを補うには会計システム等がおすすめ

会計システム等の使用で得られるメリット

前述のとおり、発生主義・実現処理をとおしての処理が求められる企業会計においては、正しい簿記および会計知識が必要不可欠です。

しかし、担当者ごとに会計知識は様々であるため、現場でのミスを減らすための手段として会計システムの導入は非常に有効と言えます。

仕訳ミスが減って楽になり、決算書の作成も簡単になる

多様な機能を有する会計システムの中でも「伝票入力機能」と「決算機能」は経理担当者にとって大きな助けになります。

伝票入力機能を利用することで、仕訳伝票から売掛帳、買掛帳、現金出納帳等に連動して記帳されます。よく使う仕訳を保存して再利用したり、勘定科目を自動で選択してくれたりといった機能もあるので、仕訳ミスを大幅に減らせるでしょう。

また決算機能によって、仕訳入力した内容から自動で損益計算書や貸借対照表等が作成されるため、決算書の作成がとても簡単になります。

ペーパーレス化やテレワーク推進の一助になる

また昨今の社会の変化に伴い、経理業務にもペーパーレス化やテレワークの推進が求められるようになりました。時間や場所を問わず会計処理を進めることができる環境を整えることは、現代企業の急務と言えます。

紙中心での運用をしていると、テレワーク等での紛失リスクもありますし、そもそもテレワーク自体が困難でしょう。未来の働き方に対応し、優秀な人材を獲得するためにも、会計システムの導入は現代企業にとっての必須事項と言えます。

会計システム等との連携でさらなるメリットが得られる|oneplat

会計システム等の導入を検討している方、そして既に会計システム導入済の方にも大きなメリットになるのが、oneplatとの連携です。
oneplatはリアルタイムかつ精度100%で受け取る納品書・請求書を電子化できるサービスです。
会計システム等とoneplatを連携することで、請求書の受け取り業務も自動化することが可能となるため、ペーパーレス化およびテレワーク導入に大きく役立つでしょう。

【まとめ】発生主義・実現主義のデメリットを補うために、会計システムの導入を検討しよう

以上、現金主義と発生主義・実現主義についてご紹介しました。正しく利益を計算するために、発生主義・実現主義が有効であることがおわかりいただけたのではないでしょうか。

経理担当者は、発生主義・実現主義の概念をきちんと理解した上で業務を行う必要があるでしょう。しかし、発生主義・実現主義の理解は初心者には難しい面もあります。

思わぬ会計ミスを防ぐためにも会計システムを導入して、リスクに備えておくことをおすすめします。

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oneplus編集部

この記事の執筆者

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