会社の財務状況等をジャッジする時に使われる経営指標には様々なものがあります。
そのうち安全性分析でよく使われる指標のひとつが、流動比率です。
この記事では、流動比率とはどのような指標なのかといった説明や、目安となる基準値、指標の計算の仕方、ジャッジする際に注意するポイント等について解説します。
流動比率とは何をジャッジする指標なのか
【流動比率とは】会社の短期的な安全性をジャッジする指標
流動比率とは、その会社が堅実な経営を行っているかどうかを数値によって短期的にジャッジするための指標です。
例えば、借入金を急に返済しなくてはいけなくなった場合に、すぐに問題なく対応できる財務状態にあるかどうか等、短期的な支払い能力をジャッジするための指標です。
流動比率を確認する際には、流動資産と流動負債を用います。詳しい計算の仕方を見ていきましょう。
【流動比率の公式】流動資産を流動負債で割って求める
流動比率は、流動資産と流動負債を使って求めることができます。
具体的には、以下の公式を使って求めます。
流動比率(%) = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
【流動資産とは】短期間(1年以内)に現金化可能な資産
流動資産とは、短期間(1年以内)に現金化が可能な資産のことです。
ただし、正常な営業取引で発生する棚卸資産(材料、仕掛品、製品等)等の資産は、現金化される期間が1年を超えるものであっても流動資産になります。
流動資産には以下のようなものがあります。
- 現金
- 普通預金
- 受取手形
- 売掛金
- 製品
【流動負債とは】短期間(1年以内)に支払期限を迎える負債
流動負債とは、短期間(1年以内)に支払期限を迎える負債のことです。
ただし、正常な営業取引で発生する買掛金や支払手形等は、支払期限が1年を超えるものであっても流動負債に分類されます。
流動負債には以下のようなものがあります。
- 買掛金
- 支払手形
- 短期借入金
- 未払金
流動比率の計算方法|例題を用いて解説
流動比率の計算の仕方を例題を用いて解説します。
例えば、流動資産が130万円、流動負債が100万円の場合は、流動比率は以下のように計算します。
流動資産130万円 ÷ 流動負債100万円× 100 = 流動比率130%
こうした流動比率を自動的に計算するサイトもあります。
流動比率の評価|適正水準と業種別から見る目安
適正水準から見る流動比率の目安
流動比率から企業の短期的な安全性をジャッジする場合は、その比率が適正水準かどうかを見ます。
具体的には、流動比率を具体的な目安によって、「優良水準」「安全水準」「危険水準」に分けてジャッジします。
【流動比率が200%以上】優良水準
流動比率が200%以上の場合は優良水準と考えられます。
なぜ200%以上、つまり流動負債の2倍以上の流動資産がないと優良水準と言えないのでしょうか?
それは、流動資産には換金性が低い資産も含まれるからです。
例えば、流動資産である棚卸資産は、すぐ現金に換えられるとは限りません。その商品を顧客が買ってくれないと現金が入ってこないためです。
流動資産にはこうした問題があるため、流動負債の2倍以上の流動資産があってはじめて優良水準と考えられています。
【流動比率が100%以上】安全水準
流動比率が100%以上、つまり流動資産が流動負債の金額以上であれば安全水準と言われています。
ただし、流動資産には換金性の低いものも含まれるため、流動比率が100%以上であっても安全とは言い切れず、改善の余地がある可能性はあります。
【流動比率が100%未満】危険水準
流動比率が100%未満の場合は危険水準と言われています。
流動資産で流動負債のすべてをまかなえないということですから、一般的には危険な財務状況と考えられるでしょう。
こうした場合は、実際に資金繰りに影響が出ている可能性もあります。
業種別で見る流動比率の目安
上記で説明した適正水準はあくまで基本的な目安です。
実際には、適正な流動比率はそれぞれの業種により違ってきます。
例えば、小売業や飲食業等、現金の回収サイクルが速い業種の場合は、流動比率が低くても大きな問題はありません。
顧客が一般消費者であるため現金取引が多い一方、仕入先とは企業間取引となり買掛金払いをするため、流動負債に対して多くの流動資産を持つ必要がないと言えます。
以下は、中小企業の業種別平均です。
全業種平均 | 185% |
建設業 | 200% |
製造業 | 199% |
情報通信業 | 245% |
運輸業,郵便業 | 181% |
卸売業 | 173% |
小売業 | 161% |
不動産業,物品賃貸業 | 177% |
学術研究,専門・技術サービス業 | 189% |
宿泊業,飲食サービス業 | 155% |
生活関連サービス業,娯楽業 | 172% |
※中小企業庁「中小企業実態基本調査 / 令和3年速報(令和2年度決算実績)」 より
流動比率の見方|分析する際のポイント
流動比率と一緒に当座比率も算出する
流動比率を見る場合は、当座比率も同時に算出するとよいとされています。
流動比率に比べ、よりシビアに会社の安全性をジャッジできる指標が当座比率です。
【当座比率と流動比率の比較】より細かく安全性がわかる
当座比率は当座資産と流動負債の比率になります。
当座資産とは、流動資産のうち棚卸資産等のすぐ現金に換えることができないものを除いた資産のことです。
具体的には、現金預金、売掛金、受取手形等のすぐに現金に換えることができる資産のことを指します。
当座比率はすぐに現金に換えることができる資産をもとに算出された指標であるため、流動比率よりも細かく企業の安全性を評価できます。
【当座比率の公式】当座資産と流動負債の比率
当座比率は以下の公式で求められます。
当座比率(%) = 当座資産 ÷ 流動負債
当座比率を見る時の目安として、120%以上あれば優良水準と言われています。
一方、当座比率が70%未満の場合は危険水準です。この水準になると、実際の資金繰りにも影響が出ている可能性があり、早急な対策が必要になってきます。
流動資産の内容も確認する
当座比率は流動比率より厳密な安全性分析指標であるため、もし流動比率が優良水準だった場合でも、同時に当座比率も見てその内容の確認が必要です。もし流動比率が優良水準でも当座比率が危険水準である場合は、当座資産には含まれない棚卸資産等の割合が高いということになります。
例えば棚卸資産はすぐには現金に換えることができない資産です。さらに棚卸資産に不良在庫を含んでいる可能性もあります。
したがって、流動比率が高いから良いと考えるのではなく、流動資産の内容も確認することが大切です。
買掛(買入)債務回転期間や売上債権回転期間も確認する
例えば、当座資産に含まれる売掛金については、その内容を確認することも大切です。
売掛金をチェックする時の指標として挙げられるのが、「売上債権回転期間」です。
これは、売上債権(売掛金・受取手形)を回収するのにどれくらいの期間がかかっているのかを表したものです。売上債権を売上高で割ることで計算できます。
この期間が短かければ回収が早いということであり、逆に長ければ回収までに時間がかかるということです。
一方、支払い面では、「買入債務回転期間」という指標があります。これは、買入債務(買掛金や支払手形)を支払うのにどれくらいの期間がかかるのかをあらわしたものです。買入債務を売上高で割ることで計算できます。
この期間が短ければ早く支払わなければならないということであり、長ければ支払いにその分余裕があるという意味になります。
したがって、売上債権回転期間が買入債務回転期間より長ければ、支払いまでの期間より回収期間の方が長いことになりますので注意が必要です。
買入債務回転期間についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>買掛金が関係する買掛債務回転期間とは? 計算式をわかりやすく紹介
流動比率の注意点|高すぎる場合の懸念事項
流動比率は企業が堅実な経営を行っているかどうかをはかるための指標ですが、高ければそれで良いというわけではありません。流動比率があまりに高すぎる場合にも、懸念事項があります。
このようなケースとして考えられるのは、流動資産が多すぎる場合と、流動負債が少なすぎる場合です。
例えば、流動資産のうち現金預金が多すぎる場合は、資金の有効活用という面では不十分な可能性があります。また売掛金が多すぎる場合も回収リスクの面から懸念があります。
一方、流動負債のうち短期借入金が少ない、または借入金がない場合は、返済リスクや利息支払いがないという面から考えれば確かに安全です。しかし、会社を成長させるための投資という面で考えると、適切なリスクをとっていない可能性もあります。
流動比率の改善|100%未満の場合にすべき対策
【流動資産を増やす】具体的な方法
もし流動比率が100%未満の危険水準にある時は、早急な対策が必要です。
流動比率を高くするためできることは下記の2点。
- 流動資産を増やすこと
- 流動負債を減らすこと
それぞれについて具体的に見ていきましょう。
流動資産を増やすために行うべき方法は、まず何よりも利益を増やすことです。
企業の安全性指標を向上させるには、やはり業績の向上が基本になります。
ただし、利益を増やすというのは簡単ではありませんし、すぐに実現できるものでもありません。
したがって、早急な対策が必要な場合は、例えば不要な固定資産を売却して現金化する対策等が考えられます。
【流動負債を減らす】具体的な方法
一方、流動負債を減らすために行うべき方法としては、まず「短期借入金の返済」が挙げられます。ただし、この方法はある程度の資金がないと難しい方法です。
それ以外には、短期借入金を長期借入金に借り換える方法があります。
その他、資金調達方法を変えるという方法もあります。つまり、借入をするのではなく、増資等をおこなって株主から資金を調達するということです。
安全性をジャッジできる、流動比率以外の指標|固定比率と自己資本比率
【固定比率】長期的な安全性をジャッジする指標
企業の長期的な安全性をジャッジする指標として、固定比率があります。
固定比率とは、固定資産に対する自己資本(返済不要の資金)の比率のことです。自己資本によって固定資産がどれだけ捻出できているかという指標です。
具体的には、以下の公式で求めます。
固定比率(%) = 固定資産 ÷ 自己資本 × 100
固定比率は100%以下になっていると安全と考えられます。つまり、自己資本によって固定資産が捻出できているということです。
【自己資本比率】企業の財務の安全性をジャッジする指標
会社の安全性をジャッジするほかの指標として、自己資本比率があります。
自己資本比率とは、総資本に占める自己資本の比率のことです。つまり、資金調達のうち、返済が必要ない自己資本の割合がどれだけあるかということです。
自己資本比率は、高いほど安全と考えられています。
具体的には、以下の公式で求めます。
自己資本比率(%) = 自己資本 ÷ 総資本 × 100
自己資本比率について詳しく知りたい場合はこちらの記事を参考にしてください。
>>自己資本比率とは? 計算式や高すぎる場合のデメリットを解説!
まとめ
流動比率は、会社の短期的な財務状況がどのような安全水準にあるかをジャッジするために使う指標です。
ただし、業種によって適正基準は異なります。
また、流動資産や流動負債の内容についてよく確認することも大切です。その際は、当座比率や売上債権回転期間、買入債務回転期間等の指標も一緒に見てジャッジします。
その他、短期的ではなく長期的な安全性をジャッジする時は、固定比率や自己資本比率等の指標も使います。