検品レスという言葉は新しく、広く認知されているとは言い難いのが現状です。そのため物流に携わる人々の間でも、具体的な施策にまで至らないケースが多いようです。
本記事では、検品レスの概要と導入のポイントについて、わかりやすく解説いたします。
検品レスとは何か?
「検品レス」という言葉は「入荷の際に検品しないこと」を指しています。現時点での検品レスとは、サプライチェーンの全体で一度も検品しないという意味ではありません。
従来は「入荷時」と「出荷時」の両方で行っていた検品作業ですが、検品レスでは入荷時の全数検品(ひとつ残らず検品すること)をしないことが特徴です。
入荷時にすべての品物を検査しないということが成り立つためには、出荷時の検品が極めて正確に実施される必要があります。さらに商品運搬中の汚損・破損を発生させないことが条件です。
企業間のデータ連携や輸送中のトラブルをはじめとして、検品レスの浸透には課題が数多く存在します。
しかしサプライチェーンにおけるムリ・ムダ・ムラを解消するために、検品レスの実施は大きな効果を発揮するでしょう。特にサプライチェーンマネジメント(SCM)を導入している企業にとって、検品レス実施のハードルはそれほど高くないはずです。
なぜ「検品レス」が必要になった時代背景
日本には、サプライチェーン全般にわたり大小無数の企業が存在し、それぞれを繋ぐ流通網も非常に発達しています。企業間のネットワークを効率的に運用し、今後も維持・発達させていくためには、非効率なシステムを随時刷新していかなくてはなりません。
非効率なシステムの代表格と言えるのが、入荷・出荷の両方で実施している従来の検品です。メーカーから出荷する際と卸売業に入荷する際の二度にわたり細かく検品作業を実施することで、ダブルコストが生じてしまっています。さらに卸売業から小売業への商品移動の際にも、同様の仕組みで検品が実施されるため、流通経路全体を通して見た場合のムダが非常に大きいのです。
そこで、メーカー・卸売業の間や、卸売業・小売業の間での情報連携をシステム化し、検品の代替とする可能性が示唆されました。
また入荷時の検品のために、商品を運搬してきたドライバーに手待ち時間が発生してしまうといった問題もあり、検品作業の効率化を求める風潮が高まってきているのです。
検品レスを導入するメリットとは?
検品レスの最大のメリットは、検品に必要な多くのコストを抑制し、人手不足の解消に繋がる点です。検品に必要な時間も削減できるため、作業員の負担を減らし人為的ミスの発生も最小限に抑えられます。
入荷時の検品に必要な時間を削減することで、ドライバーの納品時間を短縮できる点もメリットです。入荷する際の検品がないだけで、入荷作業や輸送に関する時間と労力を著しく減らせます。
また、サプライチェーンマネジメントを効率良く回せる点も、検品レス導入の大きなメリットです。関わる業者の数が多いほど、大きな恩恵を受けられるでしょう。
商品の製造から物流・販売に至る経路が複雑になるほど、検品が介在する回数が増えるます。しかし検品レスを導入することで、それぞれの中継地点で入荷時の検品にかかる労力を大きく省けるため、サプライチェーン総体としてのムダを減らし効率化を図ることに繋がるのです。
検品レスの導入に必要な4つのポイント
SCMを活用した物流業界の変革は、今後さらなる発達を遂げることが予測されており、その中で検品レスが担う役割も大きなものになります。
人手不足が加速する中で、非効率な業務をなくす目的で、検品レスに着手したいという企業も増加していくでしょう。しかし、検品レス実現のために、何からはじめれば良いのでしょうか。
本項では、検品レスを導入するための条件や環境について、4つのポイントにわけて解説いたします。
ASNデータの活用
ASN(Advanced Shipping Notice)とは、出荷前の商品に関する詳細情報を提供するための文書のことを指します。ASN発行の目的は、受け取り準備を円滑にするために、事前に貨物の詳細データを送っておくことです。
一般的にASNデータはインターネット経由で送信され、商品の発送日時や品名、数量、重量、梱包方法といった情報を提供します。また、出荷に用いられる輸送手段や運輸業者に関する情報が記載されることもあります。
出荷側が入荷側に対してASNデータを送ることで、入荷側でもう一度検品するというムダを省くことになるのです。
ASNデータの活用により、すべての商品のバーコードを読み取る必要がなくなり、抜き取りによるサンプリング検査に変更することが可能となります。これにより、作業の大幅な省力化が実現します。
ASNデータの活用は、出荷・入荷の作業効率化に繋がりますが、ASNの作成という新たな負荷をいかに軽減するかという課題も残っています。
データの電子化なら、Oneplatがおすすめです。以下のURLから製品詳細をご確認いただけます。https://www.oneplat.co.jp/
検品システムのある物流センター
検品レスの仕組みが成立するためには、出荷の段階で検品漏れや仕分けの錯誤が起こらないことが条件です。
入荷時に検品する手間を省くために、出荷側での検品を徹底することが検品レスの要となります。したがって、精度の高い検品システムを有する物流センターの存在が、検品レスというシステムを維持するために不可欠と言えるのです。
また、品物の輸送中に事故を発生させない体制を作ることも重要です。いくら出荷側が高度な検品システムを用いても、輸送中の事故はどうすることもできません。
後になって商品の破損に気づいた場合に、入荷側と出荷側の責任割合をどうするかといったルールの誠意も必要になるでしょう。
出荷側はASNデータ作成のための時間を確保しなくてはなりません。そのため、受注締切の時間を従来よりも早めに設定する必要があるでしょう。受注締切時間の繰り上げは、配車効率化や検品精度の安定化に効果を発揮します。
事業間のデータ交換環境の整備
物流には、メーカーや卸売業・小売業・運送業といった様々な事業者が介在します。それらの業者間でデータをやり取りするために、ASNデータを同一規格で送受信するための環境整備が必須となるでしょう。
事業者ごとに情報システム自体は異なりますが、企業間EDIと呼ばれるデータ交換方法により、標準化された情報交換が可能となります。検品レスを含むSCMの進む物流業界では、データ規格の統一にも積極的で「流通BMS」という新たなEDIを導入しています。
流通BMSはメーカー、卸売業、小売業が統一的に利用可能なEDIで、物流に関するあらゆる情報のやり取りを円滑に行うことが可能になるでしょう。サプライチェーンのすべてにおいてデータ交換環境を整備することで、一切のムダを省いた事業間連携が実現します。事業間のシームレスな連携は、検品レスだけでなく様々なレベルでの信頼構築にも力を発揮するはずです。
まとめ:検品レスの導入は物流業界の課題を解決し、効率化する
物流業界における労働力不足が継続するなか、事業者間連携による業務効率化は喫緊の課題と言えます。その中でも、現状で非効率な仕組みになってしまっている「検品」の手間を省くことには大きな意味があるでしょう。
検品レスはまだ一般的に浸透しているとは言えませんが、各事業者が共通した目的意識を持つことで、物流業界の課題をクリアすることが可能になるはずです。サプライチェーン全体での効率化を実現させるために、検品レスの導入を検討してみてはいかがでしょうか。