株価売上高倍率とは?特徴や目安・分析のポイントを解説

企業を評価するための指標には様々なものがあります。自社の株を発行して資金調達する場合は、メリットや費用対効果を投資家に感じてもらわなければなりません。また、他社へ投資をして資金運用する場合は、株価は切実な判断材料となります。

この記事では、株価に関する指標のひとつ「株価売上高倍率」について解説します。株式を売りたい場合も買いたい場合も使えますが、注意点もあります。計算方法や併せて使いたい別の指標も紹介しているため、是非最後まで読んでご活用ください。

株価売上高倍率とは?特徴・英語・略語を紹介

企業の株価がどのような水準にあるのかを評価するための指標のひとつ

株価売上高倍率は、「Price to Sales Ratio」を和訳した呼称で、その略から「PSR」とも呼ばれます。企業の株価が割高であるか、割安であるかを図るための指標で、株式の時価総額と年間の売上高から算出します。

似た指標に「PER」「PBR」があります。これらは利益が出ている場合は使えますが、利益が出ていない状態の企業には使うことができません。一方でPSR、つまり株価売上高倍率は売上高を計算に使うため、利益が出ていない赤字や債務超過の企業にも使えるという特徴があります。

この指標が開発された背景にはITバブル期の事情がある

1990年代、アメリカのIT企業の急速な発展による景気上昇が起こりました。日本でもWindows95が発売されたことで、パソコンやインターネットが急速に普及します。株価売上高倍率の開発の背景には、この「ITバブル」の発生があります。

この時期、IT企業への投資が盛んに行われ、株価は高騰します。この流れから、赤字の企業やまだ利益の出ていない新興企業についても、将来への期待から株価が高騰するという現象が起きました。この現象を説明するため、計算に利益を使わない新しい指標である株価売上高倍率が開発されたのです。

原価や経費が少なくて済むIT企業はほかの業種に比べて利益率が高く、株価が高くなりやすいものです。このような特徴を持つIT企業株を評価するために多く使われた指標でもあります。株価自体は高くても、株価売上高倍率を計算すると割高ではないという説明がなされました。

株価売上高倍率は売上に対する株価の割合によって求められる

株価売上高倍率の計算式

株価売上高倍率は、次の計算式で求められます。なお、どちらの計算式でも求められる数値は同じです。

  1. 株価売上高倍率 = 時価総額 ÷ 売上高
  2. 株価売上高倍率 = 株価 ÷ 1株当たりの売上高

この数値は「株式の総額は売上高の何倍か」を示し、株価が売上高に対して割安か割高かを表しています。例えば、数値が高ければ、株価に対して売上高が少ないということを示します。投資に対するリターンは少なくなると考えられるため、割高という判断ができます。

例題を用いて計算の流れを解説

具体例を用いて株価売上高倍率を見てみましょう。

【A社】株式時価総額:400万円、売上高:1000万円
【B社】株価時価総額:2000万円、売上高:1000万円

それぞれの数値を計算します。

【A社】 400万 ÷ 1000万 = 0.4倍
【B社】 2000万 ÷ 1000万 = 2倍

A社とB社を比較すると、売上高は同じでもA社の方が数値は低くなっています。両者を比較すると、B社株式の方が割高、A社株式の方が割安ということがわかります。

株価売上高倍率を評価するうえで参考にしたい「目安」とは

20倍以上:割高、0.5倍以下:割安|ただし注意したい点も

株価売上高倍率の数値の目安として、20倍以上は割高、0.5倍以下は割安とされています。しかし、数値だけを見て安易に判断することは避けましょう。なぜなら、業種や業態による利益率の違いがあるため、本当に割安・割高なのかという判断は慎重に行う必要があるからです。

株価売上高倍率の計算に用いられる売上高は、利益率を反映していません。売上は大きくても利益率が低ければ利益は少なくなり、投資へのリターンも少なくなる可能性が高いでしょう。逆に、売上は小さくても利益率が高ければ、今後売上を伸ばせば将来のリターンが期待できるという見方もできます。

また、利益率が高い場合は時価総額が高くなる傾向にあり、売上高に対して割高に見えるでしょう。逆に利益率が低いと時価総額も低くなり、売上高に対して割安に見えます。株価売上高倍率は一般的に、利益率の高いテクノロジー企業は割高に、利益率の低い小売業は割安に見えやすいものです。数値を見るときは、利益率についても考慮しましょう。

算出した数値をより適正に評価するために有効な比較方法

株価売上高倍率で企業を適正に評価するためには、以下の視点を持つことが大切です。

  • 同業種の企業を比較する
  • 業界や企業の成長性・将来性に注目する

利益率の近い同業種の企業と比較することで、業界でのその企業の評価がしやすくなるでしょう。条件の似ている同業他社より数値が低ければ、割安であるというひとつの根拠になります。

また、業界全体やその企業の成長率や将来性等もあわせて総合的に見ることで、より正確な評価ができます。さらに、後述する別の指標も併用すると実情に近い株式の価値がわかるでしょう。

株価売上高倍率のメリット・デメリット

メリット:PER・PBRの弱点を補える

先にも上げた「PER」「PBR」は、赤字や債務超過の状態で利益が出ていない場合は数値がマイナスとなってしまい、対象の企業を正しく評価することができません。株価売上高倍率は、こうした弱点を補うことができます。

投資家から見れば、債務超過の企業に投資をすることは考えにくいものです。しかし、赤字であるだけなら来期に持ち直すことも十分考えられ、場合によっては株価の上昇も期待できます。こうした企業を評価できる点が、株価売上高倍率を用いるメリットです。

デメリット:現在の情勢では正確性に欠ける部分がある

株価売上高倍率は、PERやPBR等の従来の指標で測れないものを評価するために、ITバブル期に開発されました。つまり、元々あったわけではなく、実際に起こった現象から、実情に沿うように無理やりひねり出した指標と言えます。また、株価売上高倍率の数値が高くても利益率によって評価は大きく変わるため、使用には注意しなければならないのが現状です。

そのため、「株価売上高倍率は必要ない」「不適切である」といった意見もあります。ただし単体ではなく、以下に紹介する一般的な指標と合わせて使うことで、株価の水準の正しい評価を行うのに役立てられるでしょう。

株価売上高倍率と一緒に活用する「判断のものさし」

株価売上高倍率に似た指標に、PER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)があります。これらは株価売上高倍率が開発される以前から用いられてきた、株式の価値を測る指標です。より正確に株価を評価するために有効ですので、是非概要と計算方法を理解しておきましょう。

企業の純利益と株価による「PER(株価収益率)」

PERは「Price Earnings to Ratio」の略で、「株価収益率」とも呼ばれます。企業の株価と当期純利益から求められます。売上高等の収益から費用や法人税等を差し引いたものが当期純利益ですが、赤字や債務超過の場合はこの数値がマイナスとなります。そのため、この指標を使って評価することはできません。

PERの求め方・具体的な計算方法

PERは以下の計算式で求められます。

PER = 株価 ÷ 1株当たりの当期純利益

算出される数値は、株式の時価が当期純利益の何倍にあたるかを示しています。なお、1株当たりの当期純利益には予測値を使うことが一般的です。

PERから分かることとは

数値の見方は株価売上高倍率と同様で、PERの数値が大きいほど割高であり、低いほど割安ということがわかります。この数値を、その企業の成長性や将来性、過去のPERの推移等を加味して考えましょう。

一般的に、業績が良くなれば株価も上昇します。PERの数値上では株価が割高に見えても、今後の成長が見込まれる場合は、株価がさらに上がることも考えられます。このように、PERは割高でも今後の成長に期待して、今株を買っておくことが結果として割安となるという判断もできます。

また、過去のPERの推移を経済状況に照らし合わせることも判断材料となります。経済全体や業界が好調なときや、伸び悩んでいたときと比べて、現在の株価はどうであるかに注目しましょう。現在のPERは低くても、その要因を考えることで今後どのように動くか予想することができます。

企業の純資産と株価による「PBR(株価純資産倍率)」

PBRは「Price Book-Value Ratio」の略で、「株価純資産倍率」とも呼ばれます。企業の株価と純資産から求められます。純資産は企業の持っている返済不要の自己資本のことです。負債が資産を超えている債務超過の状態では、この数値はマイナスとなります。そのため、PBRを指標として使うことはできません。

PBRの求め方・具体的な計算方法

PBR配下の計算式で求められます。

PBR = 株価 ÷ 1株当たりの純資産

株式の時価が純資産の何倍にあたるかを示しています。なお、1株当たりの純資産は決算時の純資産額を発行済み株式数で割って計算します。直近の決算時の金額を基準とするため、そのときの純資産額をリアルタイムに表すものではないことに注意しましょう。

PBRから分かることとは

株価売上高倍率やPERと同様に、株価が割高であるか割安であるかを示す指標です。売上高や当期純利益は比較的短期間で変動しやすいのに対し、PBRは短期的に大きく変動しにくい純資産を計算に使います。そのため、長期的な投資を考える際に有効と言えるでしょう。

PBRのひとつの目安は「1倍」です。つまり、純資産の額と株式の時価総額が同額の状態を表します。仮に企業が解散したとすると、必要な会計処理をした後の残りの資産は株主に分配されます。このときにPBRが1倍であるということは、理論上は株式購入金額と同等の金額が株主に分配されることを示しているのです。あくまで理論上の話であるため、実際に株主への分配金額は異なる場合もありますが、経営が安定していれば分配金の確実性も高まるでしょう。

まとめ

株価売上高倍率は、株式の価値水準を測る指標のひとつです。ただし単体で判断するのではなく、ほかの指標や経営状況、業界や経済の状況等から総合的に判断しましょう。

買い物や経費と同様に、どうせ買うなら良いものを安く買いたいと思うのが人間の心理です。指標を用いて数値上の価値水準を把握しつつ、状況の推移を注視することで、自社の資金調達や他社への投資に活かすことができるでしょう。

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oneplus編集部

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