期首棚卸高・期末棚卸高は、主に決算処理で使用する勘定科目です。あまり使用頻度の高くない科目ですので、理解が曖昧なままになっている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、両者がどのようなものかを図を用いて解説します。売上原価との関係やその計算方法についても例題を交えてご紹介しています。是非、内容のご理解にお役立てください。
期首棚卸高・期末棚卸高とは?意味や読み方
期首棚卸高|期首に所有している在庫
期首棚卸高は、「きしゅたなおろしだか」と読みます。
まずは、棚卸というものが、どのようなものか解説しましょう。
商品を販売している企業の多くは、特定の時点(月末・決算日等)で商品・製品・原材料等といった棚卸資産の保有総量(在庫有高)を確認します。この作業が実地棚卸です。
実際に棚卸資産の種類・数量・品質(状態)を調査して、それらの会計上の資産価額を決定することを目的としています。事業年度は前事業年度末日の翌日から1年以内の期間ですから、少なくとも年に1回、決算時に棚卸が必要となります。
実地棚卸についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>実地棚卸とは?実施時期や目的・やり方を流れに沿って紹介!
期首棚卸高は、前期の期末に行った棚卸により決定され、期首に振替えた棚卸資産の期首在庫を処理する費用勘定です。前期末の在庫と考えて良いでしょう。
- 前期の期末棚卸高=当期の期首棚卸高
商品については「期首商品棚卸高」という勘定科目を、製品等については「期首製品棚卸高」という勘定科目を使うこともあります。
期末棚卸高|期末に所有している在庫
期末棚卸高は、「きまつたなおろしだか」と読みます。
棚卸によって決定された棚卸資産の期末在庫を処理する費用勘定です。
- 当期の期末棚卸高=翌期の期首棚卸高
商品については「期末商品棚卸高」という勘定科目を、製品等については「期末製品棚卸高」という勘定科目を使うこともあります。
期首棚卸高・期末棚卸高・売上原価、3つの項目の関係とは?
「前期」の期末棚卸高と「当期」の期首棚卸高はイコールの関係
前述したように、期首棚卸高は、前期末の棚卸資産を当期の期首に繰り越したものです。ですから、この2つの価額はイコールとなります。
期末棚卸資産の計算方法は、企業の評価方法によって異なります。先入先出法・総平均法・移動平均法等の評価方法についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>商品有高帳の移動平均法の書き方|割り切れない時や返品方法も解説!
売上原価を算出するために期首棚卸高・期末棚卸高の値が必要
期首棚卸高・期末棚卸高の価額は、売上原価を計算するのに必要です。売上原価は、以下の計算式で算出します。
- 売上原価=期首棚卸高+当期仕入高-期末棚卸高
売上原価は、当期に販売した商品等にかかった費用です。売上原価は、売上総利益を計算するために必要な値です。
- 売上総利益(粗利)=売上-売上原価
企業は利益を生み出せなければ、経営を継続・拡大していくことはできません。ですから、その計算に必要な売上原価・期首棚卸高・期末棚卸高を算出できるようになっておく必要があります。
期首棚卸高・期末棚卸高の計算は、企業の評価方法によって異なります。今回は、先入先出法と移動平均法を2つのパターンで練習してみましょう。
【例題】先入先出法を使って、売上原価を計算
先入先出法は、先立って調達した商品から先んじて売り渡したと仮定して、単価を評価する方法です。取得日が早い商品から順に払い出していきます。
- 前期:1個200円で仕入れた商品が、5個売れ残った。
- 当期:1個250円で商品を20個仕入れ、3個売れ残った。
先に取得した商品から払いだしていくため、期末には250円で仕入れた商品が3つ残っていることになります。
期首商品棚卸高:200円×5個=1,000円
(※前期の期末商品棚卸高が、当期の期首商品棚卸高です。)
仕入高:250円×20個=5,000円
期末棚卸高:250円×3個=750円
売上原価の公式に当てはめると、以下の通りです。
1,000円+5,000円-750円=5,250円
売上原価は5,250円となります。
【例題】移動平均法を使って、売上原価を計算
移動平均法は、在庫に変動が発生する度に平均単価を計算する方法です。今回は、決算時の平均単価を商品有高帳を使って計算します。(事業年度は1月から1年間とします。)
- 前期:平均単価200円の商品が、5個売れ残った。
- 当期:2/1に1個250円の商品を20個仕入れた。
4/1に商品が20個売れた。
6/1に1個180円で商品を25個仕入れた。
8/1に商品が20個売れた。
商品有高帳
日付 | 摘要 | 受入 | 払出 | 残高 | ||||||
数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | 数量 | 単価 | 金額 | ||
1/1 | 前期繰越 | 5 | 200 | 1,000 | 5 | 200 | 1,000 | |||
2/1 | 仕入 | 20 | 250 | 5,000 | 25 | 240 | 6,000 | |||
4/1 | 売上 | 20 | 240 | 4,800 | 5 | 240 | 1,200 | |||
6/1 | 仕入 | 25 | 180 | 4,500 | 30 | 190 | 5,700 | |||
8/1 | 売上 | 20 | 190 | 3,800 | 10 | 190 | 1,900 | |||
決算 | 翌期繰越 | 10 | 190 | 1,900 | ||||||
50 | – | 10,500 | 50 | – | 10,500 |
仕入の度に、平均単価が変動することに注意しましょう。
2/1:(200円×5個+250円×20個)÷(5個+20個)=6,000円÷25個=240円
6/1:(240円×5個+180円×25個)÷(5個+25個)=5,700円÷30個=190円
期首商品棚卸高:200円×5個=1,000円
(※前期の期末商品棚卸高が、当期の期首商品棚卸高です。)
仕入高:10,500円(商品有高帳より)
期末商品棚卸高:190円×10個=1,900円
売上原価の公式に当てはめると、以下の通りです。
1,000円+10,500円-1,900円=9,600円
売上原価は9,600円となります。
期首棚卸高・期末棚卸高は決算書でどこに位置付けられるのか
貸借対照表:「商品」等の項目
棚卸を行い算出された期末の在庫は、貸借対照表の流動資産の部に商品等の勘定科目として表示されます。
期末棚卸高は費用勘定であり、費用勘定であるならば本来は損益計算書に表示されます。しかし、後述する「期首棚卸高を当期の売上原価に組み込む仕訳」と「期末棚卸資産を当期の売上原価から差し引くための仕訳」で期末に保有している在庫分を資産勘定に振替えられるのです。
棚卸資産の種類に応じて、商品ならば商品の勘定科目・製品ならば製品の勘定科目・原材料ならば原材料の勘定科目となります。
損益計算書:「売上原価」の項目
売上原価の内訳が表示された損益計算書であれば、売上原価項目の中に期首商品(製品)棚卸高・期末商品(製品)棚卸高が表示されます。内訳がないものならば、売上原価の中にその内容が含まれています。
内訳付きの損益計算書に表示される期末棚卸高は、当期の受け入れ金額から売上原価をマイナスした帳簿上の金額のことです。
なお、期首材料棚卸高・期首仕掛品棚卸高等は、製造原価報告書に表示される項目となります。
期末棚卸高を実際の価値に合わせて評価する方法
帳簿棚卸数量と実地棚卸数量の差額は「棚卸減耗損」を計上する
期中の商品等の在庫管理は、商品有高帳等の帳簿上で行います。そして、その記録の正確性を確認するために、定期的に実地棚卸により実地棚卸数量を調べ、帳簿棚卸数量と照合します。
本来であれば、両者は一致するものです。しかし、下記のような理由により帳簿棚卸数量より実地棚卸数量が少ない場合があります。この減少分が棚卸減耗です。
- 数量の数え間違い
- データ入力の間違い
- 商品の盗難・紛失
- 劣化による減耗 等
棚卸減耗があった場合は、決算時に期末商品の評価として、これを費用とみなして期末商品棚卸高から控除します。棚卸減耗損は、この処理で用いられる勘定科目です。棚卸減耗損は売上原価に加算します。
時価が原価を下回っている場合は「商品評価損」を計上する
商品は、取得原価で評価するのが原則です。
しかし、損傷・変色等の物理的な要因による価値の減少(品質・機能の低下)や経済的な要因による価値の減少(競合他社の新商品の発売・流行遅れ等)等により、期末商品の時価が取得原価を下回ることがあります。その場合は、棚卸資産の評価基準に従って、期末に商品の価値の再評価を行わなければなりません。
期末時点の商品の時価が取得原価より低い場合は、取得原価と時価との差額を商品評価損として費用計上し、売上原価に加算します。
商品の時価が原価よりも高い場合は、処理を必要としません。
期首棚卸高・期末棚卸高の振替えや、決算整理仕訳を見てみよう
期首または決算時:前期の在庫の振替えを行った
資産勘定として計上している期首棚卸高の残高は、商品が売れれば当期の売上原価となります。よって、資産勘定を売上原価に組み込む仕訳を行います。
例)前期末から繰越した商品(50万円)を、当期の売上原価に振替えた。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
期首棚卸高 | 50万円 | 商品 | 50万円 |
商品棚卸の仕訳方法は様々なものがあり、以下のような仕訳をすることもあります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
仕入 | 50万円 | 繰越商品 | 50万円 |
決算時:当期の在庫の振替えと損失の計上を行った
帳簿上の期末棚卸資産を当期の売上原価から差し引き、棚卸減耗・商品評価損があればそれらも差し引きます。
例)決算にあたって、棚卸によって決定された商品の期末在庫(80万円)を計上した。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
商品 | 80万円 | 期末棚卸高 | 80万円 |
例)棚卸減耗損(1万円)と商品評価損(2万円)があることがわかった。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
棚卸減耗損 | 1万円 | 商品 | 3万円 |
商品評価損 | 2万円 |
棚卸減耗が反映された実地棚卸の数量で期末棚卸高を計算した後で、棚卸減耗損を計上すると損失の二重計上となりますので留意しましょう。
期首棚卸高・期末棚卸高の課税区分|消費税の扱い方とは
消費税法上、期首棚卸高・期末棚卸高は不課税取引として消費税の課税対象外です。課税してしまうと、消費税の計算を正しく行うことができません。
【免税事業者が課税事業者になった場合】
期首商品棚卸高:仕入税額控除の対象
※消費税を仕入税額控除するには、明細書の作成や保存等の一定の要件を満たす必要があります。
【課税事業者が免税事業者になった場合】
期末商品棚卸高:仕入高の仕入税額控除の対象から除外
会計システムの導入で業務の効率化ができる!
企業は利益を生み出せなければ、経営を継続・拡大していくことはできません。ですから、担当者には売上原価や利益の算出に必要な仕入高・期首棚卸高・期末棚卸高を迅速に算出することが求められるでしょう。
とはいえ、商品有高帳や補助簿の作成には少なからず時間がかかります。ならば、その業務に充てる時間をほかの業務に充てている時間から捻出しなければなりません。そこで活用を検討したいのが会計システムです。日々の定型業務を効率化し、業務時間を短縮することができます。
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まとめ
企業会計では費用収益対応の原則という考え方があります。当期の収益と関係のある費用だけが当期の費用として計上でき、当期の費用として計上できなかった費用は資産として計上しなければなりません。
資産として計上した前期の繰越商品を当期の売上原価に加えるときに使用する勘定科目が期首商品棚卸高であり、期末の繰越商品を売上原価から取り除くときに使用する勘定科目が期末商品棚卸高です。
両者の計算は、企業の評価方法によって異なりますので留意しましょう。