ビジネスパーソンであれば誰しもが一度は耳にしたことがある損益計算書。しかし、損益計算書を正しく理解し、自社の経営に活かすことができている人は少ないのではないでしょうか。
この記事では損益計算書とはどんなものなのか、その目的と意味について説明します。また、よく比較される貸借対照表との違い、損益計算書の見方や作成方法についても詳しく解説していきます。是非最後までしっかりと読んでいただき、ビジネス力をさらにレベルアップさせてください。
損益計算書とは? 読み方や目的を簡単に解説
損益計算書(そんえきけいさんしょ)とは利益を示す財務諸表
損益計算書とは、企業の「損」と「益」、つまり「損失」と「収益」が記載された決算書類のことです。損益計算書を読むことで、企業が1年間にどれだけ稼いだかを把握することができます。
ビジネス上の会話で、「P/L(ピーエル)」という言葉を聞いたことはありませんか? この「P/L」は英語の「Profit and Loss Statement」を略したもので、日本語でいう損益計算書のことを指しています。
損益計算書の目的|収益・費用・利益の要素を把握するため
損益計算書は、「収益」「費用」「利益」の3つの要素で成り立っています。
損益計算書を読めば、企業が1年間に「どれだけお金を稼いで」「何にお金を使って」「儲けがどのぐらい出たのか」を掴むことができるようになるのです。そのため、損益計算書は企業経営に活用されたりするだけでなく、外部に公表することで企業の信頼性を得るために使われたりしています。
損益計算書の種類|報告式と勘定式
損益計算書の様式は2種類あります。「報告式」と「勘定式」です。表す内容はどちらも同じですが、「報告式」が広く使われています。具体例で見ていきましょう。
【報告式】
売上高 売上原価 | 1,600 ▲500 |
売上総利益 | 1,100 |
・・・ | ・・・ |
当期純利益 | 120 |
報告式は、損益が上から順番に並んでおり、損益の概要をつかむことができます。
【勘定式】
損益の部 | 収益の部 | ||
---|---|---|---|
商品仕入 給与 消耗品費 ・・・ | 500 200 60 ・・・ | 売上 固定資産売却益 | 1,600 200 |
当期純利益 | 120 | ||
合計 | 1,800 | 合計 | 1,800 |
勘定式は、借方と貸方が左右に並んだT字型で、損益の詳細をつかむことができます。
損益計算書で使用される勘定科目|収益と費用
損益計算書で使用される勘定科目には、以下のようなものがあります。
- 売上高
- 売上原価
- 販売費及び一般管理費
- 営業外収益・営業外費用
- 特別利益・特別損失
「収益」と「費用」の2つに分類して、以下で詳しく確認していきましょう。
損益計算書の勘定科目の例|収益
損益計算書で「収益」に区分されるのは、売上高、営業外収益、特別利益です。それぞれについて代表的な勘定科目を紹介します。
勘定科目 | 意味 | 代表的な勘定科目 |
---|---|---|
売上高 | 本業で得た売上 | ・商品売上 ・売上値引き ・売上返品等 |
営業外収益 | 本来の営業活動以外で経常的に得た収益 | ・受取利息 ・受取配当金 ・雑収入等 |
特別利益 | 臨時的な利益 | ・固定資産売却益 ・保険差益 ・前期損益修正益等 |
損益計算書の勘定科目の例|費用
損益計算書で「費用」に区分されるのは、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外費用、特別損失です。上記と同様に代表的な勘定科目を紹介します。
勘定科目 | 意味 | 代表的な勘定科目 |
---|---|---|
売上原価 | 売れた商品の仕入や製造にかかった費用 | ・期首商品棚卸高 ・当期仕入高 ・期末商品棚卸高等 |
販売費及び一般管理費 | 商品・サービス等を販売するのにかかった費用、および企業が活動するために必要な費用 | ・給料手当 ・広告宣伝費 ・交通費等 ・水道光熱費 ・通信費等 ・消耗品費 |
営業外費用 | 本来の営業活動以外で経常的に支払う費用 | ・支払利息 ・手形売却損 ・雑損失等 |
特別損失 | 臨時的な損失 | ・固定資産売却損 ・災害損失 ・前期損益修正損等 |
重要書類である「損益計算書」と「貸借対照表」の違いと関係性をおさえよう
「損益計算書」と同様、企業にとって重要な財務諸表のひとつに「貸借対照表」があります。両者の違いと関係性を以下で把握しましょう。
【違い】
損益計算書 | 貸借対照表 | |
---|---|---|
概略 | ・年間の「経営成績」 ・収益の流れ=フロー | ・決算日時点の「財政状態」 ・残高=ストック |
内容 | 年間の企業の「収益」「費用」「儲け」がわかる。 | 決算日時点の企業の「資産」「負債」「純資産」がわかる。 |
英語表記 | ・P/L(ピーエル) ・”Profit and Loss Statement”の略 | ・B/S(ビーエス) ・”Balance Sheet”の略 |
特徴 | 決算によって毎年度0円にリセット | 事業開始時からの累積値 |
【関係性】
「損益計算書」と「貸借対照表」。両者の様式は異なりますが、お互いに関係を持っています。以下の図をご覧ください。
このことから「貸借対照表の利益剰余金」と「損益計算書の純利益」が加算されて、「翌年の貸借対照表の利益剰余金」に反映されていることがわかるかと思います。
損益計算書と貸借対照表は繋がっており、両者を併せて見ることによって企業の経営状態を正しく把握することができるようになるのです。
損益計算書の見方|5つの利益からわかる経営状況
ここからは、損益計算書に記載される5つの利益について説明していきます。5つの利益とは、「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」のことです。
売上総利益:会社全体の利益
売上総利益(粗利)は、「売上高」から「売上原価」を引いた金額のことです。
損益計算書では1番上に記され、会社全体の利益を示しています。
ここで注意していただきたいことは、売上高から差し引くのは「原価」ではなく「売上原価」だということです。両者の違いも合わせて押さえておきましょう。
- 原価:商品の仕入れや製造にかかった費用
- 売上原価:売れた商品の仕入れや製造にかかった費用
営業利益:会社が本業で得た利益
営業利益は、「売上総利益」から「販売費」と「一般管理費」を引いた金額のことです。
損益計算書では2番目に記載され、会社が本業で得た利益を表しています。
販売費と一般管理費については以下の通りです。
項目 | 内容 | 具体例 |
---|---|---|
販売費 | 商品・サービス等を販売するのにかかった費用 | 営業部門の人件費、広告宣伝費、営業部門の交通費等 |
一般管理費 | 企業が活動するために必要な費用 | 間接部門の人件費、水道光熱費、通信費等 |
経常利益:会社が通常の業務で得た利益
経常利益は、「営業利益」から「営業外収益」を足して、「営業外費用」を引いた金額のことです。損益計算書では3番目に記載され、会社が通常の業務で得た利益を意味しています。
ちなみに「経常」という言葉の意味は、「常に一定の状態で変わらないこと」です。したがって、一時的な利益や損失は経常利益には含まれません。一方で、一時的な利益ではなく「経常」である場合は、本業以外の事業で得た収益や損失であっても、経常利益に含まれます。
経常利益についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>経常利益とはなにか? 初心者も簡単にわかる利益の違いや計算を解説
税引前当期純利益:税金を支払う前の利益
税引前当期純利益は、「経常利益」に「特別利益」を足して、「特別損失」を引いた金額のことです。損益計算書では4番目に記載され、税金を支払う前の利益を表しています。
特別利益と特別損失については、以下の表で確認しておきましょう。
項目 | 内容 | 具体例 |
---|---|---|
特別利益 | 臨時的な利益 | 土地や建物等、固定資産の売却で得た利益等 |
特別損失 | 臨時的な損失 | 自然災害や盗難による損失、役員の退職金等 |
当期純利益:会社の最終的な利益
当期純利益は、「税引前当期純利益」から「法人税や住民税、事業税」等の税金を引いた金額のことです。損益計算書では5番目に記され、会社の最終的な利益を指しています。当期利益、税引き後利益、最終利益と呼ばれることもありますが、意味は同じです。
当期純利益についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>当期純利益とは? 計算式やその他利益の求め方等わかりやすく解説
損益計算書を正しく読むためのポイント
損益計算書は、企業の収益性や成長性、今後改善すべき点等様々なことを読み取ることができる決算書類です。しかし、見るべきポイントや押さえておくべきポイントを外してしまうと、正しく自社の経営に活かすことができなくなってしまいます。ここでは、損益計算書を正しく読み取るためのポイントを3つ紹介しましょう。
①損益分岐点売上高を理解すること
損益分岐点とは、「売上高の金額」と「費用の金額」が等しくなり「利益が0」になる売上高の金額のことです。したがって、損益分岐点を見れば以下のことがわかります。
- 売上高が損益分岐点を超えている → 黒字状態
- 売上高が損益分岐点まで届いていない → 赤字状態
また、損益分岐点売上高は次の式で求めることができます。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ ( 限界利益 ÷ 売上高)
- 固定費:人件費、地代家賃、リース料、光熱費等
- 限界利益:売上高から売上高に応じた費用(変動費)を引いたもの。
②5つの利益がプラスになっているか確認すること
5つの利益とは先述した、「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」のことです。
まずはこれらすべての利益が、プラスなのかマイナスなのか確認しましょう。もちろんこのすべての利益がプラスになっていれば、企業の経営状態は盤石だと言えるでしょう。
特に注目してほしいのは「経常利益」です。最終的な「当期純利益」がプラスであったとしても、経常利益がマイナスになっている場合は、企業が通常の企業活動をしていても利益を生み出せていないことを意味しています。
当期純利益がプラスになっている理由としては、土地や建物等の固定資産の売却で得た「特別利益」によるものだと考えるのが妥当です。特別利益はあくまでも臨時的かつ一時的ものであるため、特別利益をあてにした経営はリスクが高くなってしまいます。
③損益計算書から収益性を分析すること
損益計算書を正しく解釈するには、収益性の分析が有効です。以下の3つの指標を使って、企業の収益性を分析しましょう。
売上高総利益率
売上高総利益率は、売上高に対して売上総利益がどのぐらいの割合を占めているのかを、表しています。企業が優良かどうかがわかり、以下の式で求めることができます。
売上高総利益率 = 売上総利益 ÷ 売上高 × 100
おさらいとなりますが、売上総利益は売上高から売上原価を引いたものです。つまり、売上原価を低く抑えれば抑えるほど、売上総利益率は高くなります。
売上総利益率が高いということは、商品やサービスに付加価値をつけられる優良な企業だと判断することができるのです。
売上高営業利益率
売上高営業利益率は、売上高に対して営業利益がどのくらいの割合を占めているのかを、表しています。本業の収益力がわかり、以下の式で求められます。
売上高営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高 × 100
売上高営業利益比率が高いほど、本業で稼ぐ力がある収益力のある企業だと判断することができます。
売上高経常利益率
売上高経常利益率は、売上高に対して経常利益がどのくらいの割合を占めているのかを、表しています。本業だけでなく通常の企業活動からの収益力がわかり、以下の式で求められます。
売上高経常利益率 = 経常利益 ÷ 売上高 × 100
売上高経常利益率が高ければ、本業以外の財務活動等による営業外収益も見込め、多角的に経営が順調であることが推測されます。
損益計算書の作成方法|確定申告時に必要
最後に損益計算書の作成方法について解説していきます。企業は確定申告のときに、損益計算書を作成しなければなりません。
一般的には、様々なメリットを受けられることから「青色申告決算書」を作成することが多いでしょう。申告書類はどこで手に入るのか、どのように記載するのか、外部に頼んで作成してもらえるのか、損益計算書はいつまで保管しなければならないのか。以下で詳しく見ていきましょう。
エクセルのテンプレート・会計ソフト・税理士等に依頼
損益計算書の作成方法ですが、大きく3つの方法があります。
ひとつ目は、エクセルのテンプレートを利用するやり方です。損益計算書の作成は、細かな数字を扱ったり、金額の間違いができないため非常に骨の折れる作業となります。会社を立ち上げたばかりの状態でまだ会計ソフトの導入ができていない場合や、小規模の企業の場合であれば、エクセルのテンプレートを利用すると良いでしょう。
基本的なフォーマットが既にでき上がっているので、入力の手間を省くことができ、なおかつ無料で損益計算書を作成することが可能となります。
2つ目は、会計ソフトを使うやり方です。簡単な入力と直観的な操作をするだけで、勘定科目の自動判別、自動仕訳、財務レポートの作成等ができてしまいます。
有料にはなりますが、エクセルのテンプレートを使うよりも効率的に損益計算書の作成が可能です。
3つ目は、税理士に依頼する方法です。税理士に依頼することのメリットは、何より直接会ってあれこれと相談できることです。対面で話すことで、こちらの細かいニュアンスや要望を伝えることができたり、わからないことについてもすぐに教えてもらえたりするので、安心して作成をお願いすることができるでしょう。
損益計算書は法律で保管期間が定められている
損益計算書は決算関係書類であり、法律で保管期間が定められています。税法での規定では、以下のとおり保存しなくてはいけません。
- 法人:その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間
- 個人事業主の青色申告:7年間
- 個人事業主の白色申告:5年間
また電子帳簿保存法により、一定の条件を満たした場合は、損益計算書を紙ではなく電子データで保存することも認められています。
まとめ
損益計算書は、企業の年間の「収益」「費用」「利益」を表す財務諸表です。
5つの利益である「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」の意味や違い、計算での求め方はパッと出てきますか?
もちろん、そうしたことを知っていることは意味のあることです。しかし、それ以上に重要なことは、損益計算書を読み解いて、企業がどこで収益を上げているのか、強みは何なのか、改善すべき点はどこなのかを突き止め、企業経営に活かせるようになることだと覚えておきましょう。