「後入先出法」は簿記の勉強で出てきたから知っている、という方も多いのではないでしょうか。または、既に廃止されているので知らない、という方もいるでしょう。
今回の記事では、後入先出法の計算方法や廃止の理由、メリットやデメリットについてわかりやすく解説します。是非参考にしてください。
後入先出法とは?読み方やほかの計算方法との違いを解説

後入先出法(あといれさきだしほう)とは:新しい商品を先に出庫する方法
後入先出法は「あといれさきだしほう」と読み、LIFO(Last In First Out)とも呼ばれる、棚卸資産を評価する際の方法のひとつです。後から仕入れた商品から先に販売(出庫)していくと仮定して、商品の払出単価や期末棚卸資産の価額を算定することを指します。
つまり、在庫の中から先に新しい商品を出庫するので、在庫として残った最も古い商品とその仕入額が期末棚卸資産の対象となるのです。
後入先出法と先入先出法の違い:出庫の順番
後入先出法と先入先出法(さきいれさきだしほう)の違いは、出庫の順番にあります。先入先出法は、先に仕入れた商品から先に販売(出庫)していく方法です。つまり在庫として残るのは、最も新しい商品となります。
一般的なモノの流れとしては、古いものから出庫していくことの方が多いでしょう。特に消費期限のある食品等においては、最新のものから先に出庫するという流れは非現実的です。そのため、先入先出法の方が、実際のモノの流れに沿った方法と言えます。
後入先出法を用いた計算方法を例を用いて解説
後入先出法を用いた計算方法について、具体的な例を用いて解説します。
(例)当期(決算日は9月30日)の商品Aの入庫・出庫の状況が以下の場合における、期末棚卸資産の価額を計算しなさい。
10月1日:在庫なし 11月15日:商品Aを50個仕入(@100円) 1月10日:商品Aを30個仕入(@200円) 4月12日:商品Aを40個販売 7月20日:商品Aを40個仕入(@500円) 9月8日:商品Aを30個販売 |
(解説)上記の流れは商品有高帳で次のように示すことができます。
日付 | 取引 | 入庫 | 出庫 | 残高 |
---|---|---|---|---|
11/15 | 仕入 | 50個×100円 | 50個×100円 | |
1/10 | 仕入 | 30個×200円 | 50個×100円30個×200円 | |
4/12 | 売上 | 30個×200円10個×100円 | 40個×100円 | |
7/20 | 仕入 | 40個×500円 | 40個×100円40個×500円 | |
9/8 | 売上 | 30個×500円 | 40個×100円10個×500円 |
上記のように、後から仕入れをした商品から先に出庫した結果、11月15日の仕入れのうち40個(@100円)と7月20日の仕入れのうち10個(@500円)が在庫として残りました。
したがって、商品Aの期末棚卸資産は「4,000円(11/15仕入)+5,000円(7/20仕入)=9,000円」となります。
後入先出法のメリット・デメリット

後入先出法のメリット:市場価格に左右されない
後入先出法のメリットは、インフレが起こった際も市場価格に利益が左右されないことです。
インフレとは、物価が継続的に上昇していくことを指します。物価が上昇すると、最新の仕入れよりも、先に安く仕入れておいた在庫の方が、売上原価が少なくなるのでより大きな利益を生み出すことになります。
そこで、インフレによる利益をできるだけ排除する方法が後入先出法です。最新のものから使っていけば、費用と収益の価格水準が変わらないので、適切な利益を計上することができます。その結果、市場価格に左右されない損益計算が可能になるのです。
また、古い(安い)ものから払い出すよりも、利益を少なく計上できるので、節税に有利と言えます。
後入先出法のデメリット:評価額が時価と離れやすい
後入先出法のデメリットは、期末棚卸資産が古い価額で算出されることによって、貸借対照表の評価額が時価と離れやすいことです。実際のモノの流れとは一致していない評価方法と言えるでしょう。
例えば、商品Aの古い価格が1,000円で、最新の価格が5,000円の場合は、古い価格を用いると時価から4,000円も離れることになります。そのため、資産評価が正当性に欠ける結果となるのです。
投資家や金融機関等が決算書を評価する際に支障が出ることも考えられます。
後入先出法を採用していた商品の例
ここでは、後入先出法が取り入れられていた商品の例について見ていきましょう。
まず、コンビニにおいて、最新の商品を前面に陳列する方法で、コンビニ用語で「後入れ先出し」と呼ばれています。鮮度が気になる生鮮品や消費期限の短い商品を、あえて新しい商品から先に出すことで、常に新鮮なものを販売している店舗としてイメージアップの効果があるのです。
また、コンビニ以外の生鮮食品を扱う店舗においても「白物四品」と呼ばれる、食パン・生卵・牛乳・豆腐の4つは「後入れ先出し」の方法で陳列することもあります。
次に、金属業界や化学業界において、海外市況に影響されやすい棚卸資産に対して取り入れられていたケースです。例えば、鉄鉱石や石油等が当てはまります。長期的に保管しておいても腐ることはないので、新しいものから払い出したとしても問題ないからです。
ほかにも、代表的なものとして砂利や、消費期限のないアイスクリーム等があります。
【後入先出法が廃止に】いつから?理由を解説!

後入先出法の廃止時期と廃止になった経緯
後入先出法は「棚卸資産の評価に関する会計基準」の改正によって、2010年4月1日以降に開始する事業年度から廃止となりました。
廃止になった経緯は、企業会計基準委員会と国際会計基準審議会における、会計基準の国際的なコンバージェンスを目的とした共同プロジェクトで「後入先出法」がその対象となったからです。
コンバージェンスとは、各国の会計基準をひとつに収束させることを意味します。その後、共同プロジェクトが加速化していく状況を受けて、企業会計基準委員会による検討・審議の結果、後入先出法は廃止に至ったのです。
後入先出法の廃止理由をわかりやすく解説
ここからは、後入先出法が廃止に至った4つの理由について、わかりやすく解説します。
①採用企業が少ないから
後入先出法は採用している企業が少なく、減少し続けている状況にあり、廃止以前に採用していた上場企業の数も、僅か48社となっていました。
そのため、廃止による影響を受ける企業は限定的であり、大多数の企業には影響しないことが理由のひとつとして挙げられます。
②貸借対照表の棚卸資産と実際の差があるから
貸借対照表の棚卸資産と実際の価格の間で大きな差が生じる可能性があることも廃止の理由となります。古い価格のまま繰り越された棚卸資産と、現時点の価格で再度調達すると仮定した場合の適正な価格とでは、大幅に乖離してしまうこともあり得るのです。
また、国際会計基準(IFRS)では、損益計算書よりも貸借対照表の方が重視されています。
③正しい利益を表示できないから
棚卸資産の期末における在庫数が期首の在庫数を下回る場合は、過去から繰り越された古い価格が売上原価として当期の損益に計上されることになります。
そのため、損益計算に大きな影響を与えることになり、正しい利益を表示できない恐れがあることが廃止理由のひとつとして挙げられます。
④国際会計基準に合わせるため
後入先出法は実際の棚卸資産の流れと一致しないことから、国際会計基準において棚卸資産の評価方法として認められていません(2003年の改正により)。
そのため、前述したように国際的なコンバージェンスを目的として、後入先出法は認めないという国際会計基準に合わせることが廃止理由のひとつと言えます。
現状で採用可能な棚卸資産の評価(在庫管理)の方法は?

方法1:先入先出法
先入先出法は、先に仕入れた商品から順次出庫していく方法です。
そのため、実際のモノの流れと一致しやすいというメリットがあります。期末に残された在庫は最新のものであるため、棚卸資産は時価に近くなるので、貸借対照表への信頼性が高まることも利点と言えるでしょう。
ただし、期末の在庫数によっては、デメリットが生じる場合もあります。期末における在庫数が最後の仕入数を下回れば、最後の仕入価格のみで棚卸資産を算出できるので計算が簡単になります。
しかし、期末在庫数が最後の仕入数を上回る場合は、仕入価格をさかのぼって調べる必要があり、計算も煩雑になってしまうのです。
方法2:移動平均法
移動平均法とは、仕入れがある度に平均単価を計算する方法です。
この方法を用いれば、出庫数とその時点の平均単価を把握できるので、その時点においての売上原価を正確に把握できます。
正確な売上原価を常に把握することが可能になれば、適切な販売戦略にも繋がるでしょう。特に仕入単価の変動が激しい業種においては、その時点で売上原価がどれくらいかかっているのかを把握することが重要です。
しかし、計算を行う回数が多く事務処理が煩雑な上に、在庫の種類が多い場合は、さらに担当者の負担が大きくなるというデメリットがあります。
方法3:総平均法
総平均法とは、一定期間の仕入れをまとめて平均単価を計算する方法です。
移動平均法のように仕入れの度に平均単価を求める必要がないので、計算が少なくなる点かメリットと言えます。
その反面、総平均法では、その期間の最後の仕入れの後に平均単価が確定するので、特定の時点においての正確な売上原価を把握することはできません。
方法4:個別法
個別法とは、期末に残っている商品のそれぞれの仕入単価を合計して在庫金額を計算する方法です。
個別法を用いると、在庫商品のそれぞれの仕入単価が反映されるので、棚卸資産の価額と仕入れの金額が一致します。また、実際のモノの動きとも一致しているので、費用と収益が対応していることもメリットです。
ただし、個別で仕入れから出庫までを把握する必要があるので、管理が大変というデメリットがあります。そのため、ひとつの商品を大量に仕入れる場合等は、個別法を用いることは難しいでしょう。
例えば、宝石や不動産、美術品等、商品の単価が高くて個別性のある商品が個別法に向いていると言えます。
方法5:売価還元法
売価還元法とは、値入率等の類似性がある棚卸資産をグループ化して、その期末の売価合計額に原価率を乗じて在庫金額を計算する方法です。この方法は、多種多様な商品を扱う小売業を中心に採用されています。
グループの在庫をまとめたり、原価率を使ったりするので、計算が簡易的になるというメリットがあります。また商品ごとの仕入単価を把握する必要もありません。
デメリットは、グループに分けることが難しい点です。自社でグループ分けのルールを決める必要があり、基準もないので、グループ分けを誤ると適切な在庫金額を算出できないことが考えられます。
方法6:最終仕入原価法
最終仕入原価法とは、会計期間の最後の仕入価格を用いて在庫金額を計算する方法です。
法人税法において、棚卸資産の評価方法の届出を行わない場合は、この方法を適用しなければなりません。そのため中小企業において多く採用されている評価方法です。
最終仕入原価法は、最後の仕入単価を把握すれば良いので、簡単な計算によって棚卸資産を評価することができます。
ただし、期末の在庫数が最後の仕入数より多い場合は、すべての在庫が最後の仕入れではないにもかかわらず最後の仕入単価を用いることになるので、棚卸資産は実際の価格とは異なってしまいます。
後入先出法の廃止理由・メリットデメリットまとめ
今回の記事では、後入先出法の計算方法や廃止理由、現在採用できる別の評価方法について解説しました。
後入先出法は既に廃止になっているので、ほかの評価方法を選ぶ必要がありますが、どの方法を選択するかを判断することは容易ではないでしょう。
そのため、それぞれのメリットとデメリットを十分に理解して、自社に適した在庫管理を行うことが大切です。