当座借越および当座貸越という言葉に、聞き馴染みがない方もいるでしょう。
当座借越および当座貸越とは、簡単に言うと、短期で利用される銀行からの借金のことです。処理をする際に気を付けるべきことがいくつかあります。
今回はの記事では、当座借越を利用する際の仕訳方法および注意事項や、当座貸越との違いについて、仕訳の具体例を交えながら詳しく説明していきます。
当座借越とは?不渡りを回避できる借金の方法をわかりやすく解説
当座借越とは、口座残高が不足した状態で、小切手を振出した場合の不渡りを回避するための手段であり、金融機関に対する借金です。
例えば売掛金の入金が遅れる等して、口座残高が不足してしまったケースでも、一定額まで金融機関が立替えてくれるので、不渡のリスクを回避することができます。
なお、当座借越を利用するためには、当座預金口座の開設時に、「当座借越の上限は〇〇円」といった当座借越契約を結ぶことが必要です。
当座借越の仕訳方法は「一勘定制」「二勘定制」の2種類ある
当座借越を利用する際の、2つの仕訳方法について解説します。
「一勘定制」「二勘定制」という方法が存在するのが特徴です。
両者にメリットやデメリットがありますので、それぞれの具体的な仕訳方法や注意事項を詳しく見ていきましょう。
一勘定制とは:使用する勘定科目が「当座勘定」ひとつ
まず一勘定制については、「当座勘定」のみで記帳を行うのが特徴です。当座預金口座への入金、および小切手を振出す際には、該当金額をそのまま当座勘定に記入するだけでよく、短時間での仕訳入力が可能でしょう。
その簡便さもあり、実務で利用される頻度が多いのは、一勘定制です。
はじめて当座借越を学ぶ際には、こちらから学習した方がわかりやすく、実務でも使いやすいかもしれませんね。実際に、実務でも多くの企業で採用されているようです。
ただ、処理が簡単な分、会計ミスを誘発しやすいので、仕組みをきちんと押さえておきましょう。
二勘定制とは:使用する勘定科目が「当座預金勘定」と「当座借越勘定」2つ
続いて、二勘定制の特徴は、文字通り2つの勘定科目で記帳することです。当座勘定だけではなく、負債科目である「当座借越勘定」という科目を使用して仕訳を行います。
ご自身の会社の試算表等を確認して、「当座借越」という科目が存在するかどうかご確認ください。「当座借越」という科目が存在する場合は、二勘定制を採用している証拠です。
なお、これら2つの勘定科目の使い分けは、当座預金残高の状況によります。残高がプラスの部分、およびマイナスの部分で2つの科目を使い分ける必要がありますので、具体例も参考にしながら、各勘定の使い分けを学んでいきましょう。
手間の少ない「一勘定制」|会計上のミスを防げる「二勘定制」
上記での説明のとおり、それぞれの仕訳手法によってメリットとデメリットが存在します。
まず、一勘定制は、事務処理が簡便で、比較的スムーズに処理できるというメリットがあります。
ただ、当座借越状況の確認をないがしろにしていると、思わぬ不渡り発生のリスクがあります。定期的な使用状況の確認も必要でしょう。
一方、一見面倒に思える二勘定制にも、「会計ミスを防げる」というメリットがあります。処理の都度、当座借越状況を確認する必要があるため手間がかかりますが、その分正確な処理が可能となります。
スムーズな日常業務実現のための一勘定制か、会計ミス防止のための二勘定制か、状況に応じて適切に使い分けましょう。
当座借越の仕訳の流れ:仕訳方法別に確認
①当座預金残高を超える代金を小切手で支払った
仕訳について、具体例を使ってご紹介します。
例1)当社の当座預金残高は100,000円である。本日、A社への買掛金支払いのために150,000円分の小切手を振出した。
仕訳方法:一勘定制
まず、一勘定制を使用した場合の仕訳については、以下のとおりです。
買掛金 150,000 /当座預金 150,000
一勘定制を採用している場合は、当座預金残高に関わらず、当座勘定で仕訳を行えば問題ありません。基本的には、当座借越の利用状況を確認せずに仕訳入力することが可能ですので、手間がかからずわかりやすいですね。
ただ、借入限度額をオーバーする可能性もありますので、限度額と比較しながら記帳をするとより良いでしょう。
なお、Aの仕訳によって、当座勘定は50,000円のマイナス残高(貸方残高)となります。
仕訳方法:二勘定制
一方、二勘定制を使用した場合の仕訳は、以下のとおりです。
買掛金 150,000 / 当座預金 100,000
/ 当座借越 50,000
二勘定制を採用している場合は、当座預金残高がプラスの部分(0までの金額)は当座勘定、マイナスの金額は当座借越勘定での処理が必要となります。
本例の場合は、当座預金残高100,000円を超えたマイナス部分(50,000円)は、当座借越勘定で処理をしています。
プラス部分とマイナス部分を確認する必要があり、手間がかかりますが、一勘定制に比べると、より正確な仕訳と言えるでしょう。
②当座借越がある状態で当座預金口座に売掛金が入金された
例1の仕訳が完了した後に、売掛金の入金を得た場合を考えてみましょう。
例2)当社は当座借越残高50,000円を有している。本日、B社への売掛金80,000円の回収として、当座預金口座へと入金を受けた。
仕訳方法:一勘定制
まず、一勘定制における仕訳は以下のとおりです。
当座預金 80,000 / 売掛金 80,000
一勘定制の場合は、当座勘定を使って仕訳をするのみです。ひとつの勘定科目しか使わないので、売掛金の金額と当座勘定の金額は当然一致します。
気をつけておきたいのは、当座預金口座への入金額と当座勘定に記入する金額が一致しないことです。(当座預金口座への入金額はマイナス部分を除いた30,000円のみ)
是非、後述の二勘定制のケースと比較してみてください。
また、本仕訳によって、当座勘定の残高は30,000円のプラス残高(借方残高)となります。
仕訳方法:二勘定制
二勘定制の場合は、事前に当座借越の使用状況に目を通した上での処理が必要となります。仕訳は以下のとおりです。
当座預金 30,000 / 売掛金 80,000
/当座借越 50,000
売掛金の回収額80,000円のうち、50,000円分は当座借越残高へと充当されます。
そして、残りの30,000円が当座預金口座へとに振込まれることになります。
口座入金額と仕訳金額が一致する二勘定制は、多少手間はかかりますが、会計上のミスを防ぎやすいでしょう。
③当座借越がある場合の決算整理仕訳をする
当座借越を残したまま期末を迎えた場合は、決算整理仕訳が必要となります。具体的には、該当残高を「短期借入金」へと振替えます。
上記例1の場合は、以下のとおりの仕訳が必要です。
- 一勘定制:当座預金 50,000 / 短期借入金 50,000
- 二勘定制:当座借越 50,000 / 短期借入金 50,000
一勘定制の場合は、当座が貸方残高になる違和感を解消し、財務諸表に負債科目(短期借入金)で表示するため、二勘定制の場合は一時的に使用する科目である当座借越勘定を振替えるためと認識しておきましょう。
※短期借入金とは「1年以内に返済する借入金」です。
④【翌期首】当座借越を再振替仕訳する
期末に決算整理仕訳を行った場合は、期首に再振替仕訳が必要になります。決算整理仕訳で登場した短期借入金は、財務諸表に表示するための科目であり、期中処理においては、当座勘定および当座借越勘定で会計記帳をしていく必要があるためです。
上記、例1の決算整理仕訳を例に、期首に記帳すべき再振替仕訳を見ていきます。
一勘定制を採用している場合の仕訳
再振替仕訳:短期借入金 50,000 / 当座預金 50,000
二勘定制を採用している場合の仕訳
再振替仕訳:短期借入金 50,000 / 当座借越 50,000
以上、仕訳処理の流れについてご紹介しました。
仕訳方法による違い、期末と期首の調整仕訳についても、漏れなくチェックしておきましょう。
当座借越の仕訳・不渡りに関する注意点
当座借越契約を結んだだけでは仕訳が発生しない
当座借越に関して、仕訳(帳簿への記帳)が発生するのは、買掛金決済のための小切手の振出しや、売掛金の入金によって当座預金口座および当座借越残高に動きがあった時です。
当座借越契約を結んだだけでは仕訳が発生しませんのでご留意ください。
限度額を超えたら不渡りが発生
当座借越契約を結ぶ際には、「当座借越の上限は〇〇円」という限度額を設定することとなります。この限度額内であれば、自動的に融資が実行されますが、限度額を超えた場合は、当然資金不足で不渡りとなります。
金額を確認することなく、むやみに処理を進めることなく、きちんと当座借越限度額と現在の利用状況を比較確認するようにしましょう。特に一勘定制の場合は、何も考えずに、当座勘定を使って仕訳処理をしがちですので、気付かないうちに不渡りを起こしてしまうリスクに気をつけましょう。
当座借越と混同しやすい勘定科目を紹介
当座貸越:金融機関側の呼び方が違うだけ
「当座貸越という言葉を聞いたんだけど、当座借越と何が違うんだろう…」という疑問を持たれている方のためにご説明します。
ここまで説明をしてきた「当座借越」とは、企業が銀行からお金を借りる(融資を受ける)時に使う言葉です。(企業→銀行)
一方、「当座貸越」とは、銀行が企業に対してお金を貸す(融資する)時に使う言葉です。(銀行→企業)
主体となる側が企業か銀行かによって言葉を使い分けているだけで、行われる処理に違いはありません。
借入金:当座借入金は「短期借入金」に分類される
当座借越について、期末に残高が残っている場合は「短期借入金」へと振替えを行い、財務諸表に表示することを説明しました。
「当座借越」という言葉だけを聞くと、会計に詳しくない人からすると、イメージが湧きづらいかもしれません。
ただ、当座借越も借用証書による借入金と同様、短期的に利用される融資、すなわち企業にとっての借金であることに変わりありません。
期中に使用する勘定科目名は「当座借越」ですが、財務諸表表示上の分類は「短期借入金」であることを、日頃の会計処理においても意識しておきましょう。
当座借越と当座貸越の違いや仕訳の流れを押さえよう
以上、当座借越および当座貸越について解説しました。
当座借越とは、不渡りを回避することができる短期的な借金のことを言います。仕訳処理をする時のポイントは、一勘定制と二勘定制という2つの方法があることです。
実務上よく利用されるのは、一勘定制ですが、二勘定制を利用することで、思わぬ会計ミスを防げることでしょう。
期首期末の振替処理も含め、きちんと処理を理解し、万が一の不渡りへのリスクに備えておきましょう。