建設業では、工事を行う際に他社や個人の方へ仕事を依頼することが多いと思います。
その際に発生する人件費は、契約や実態に応じて「外注費」か「給与」に分類されます。
では、どういったものが外注費または給与にあたるのでしょうか。
本記事では、線引きの難しい建設業の外注費と給与についてご紹介します。
建設業には「建設業会計」に定められる独特の会計科目がある
建設業では、一般企業では使用しない「建設業会計」という独自の会計処理を行います。
これは建設業の特性によるものです。建設業では、数ヶ月で完了する一般企業取引と異なり、工事の完了まで数か月〜1年以上かかります。そのため、一般の会計とは異なる周期で会計処理を考える必要があり「建設業会計」という会計処理が採用されています。
また会計科目も建設業会計独自のものが設けられ、名称や決め方が明確に定められています。
建設業における外注費とはどんな内容の費用か?
業務を他社やいわゆる一人親方に委託した際の費用
建設業における外注費とは、自社が請け負った業務を他社や個人(いわゆる一人親方)等に依頼する場合にあたります。
外注費とする場合の業務形態としては「元請業者と下請け業者の関係」が該当します。
- 元請業者:顧客から業務を受注した会社
- 下請け業者:元請業者と契約を結び、業務依頼を受けた会社
下請け業者は、元請業者との契約に基づき業務を行いますが、顧客との間には契約は存在しません。また元請業者の従業員ではないため、業務に必要な資材・従業員の確保は下請け業者自身が行います。
外注費は工事原価に含まれる会計科目
建設業では外注費は工事原価に含まれます。
一般的に原価計算では材料費、労務費、経費の3つに分類されます。
しかし、建設業においては、業務を外注をすることが多く工事原価において外注費の占める割合も大きいため、原価の一部としてみなしているのです。
しかし「資材調達は自社で、工事のみ他社に依頼した」「人手不足で人材応援を依頼した」といった実質的に臨時雇用と変わらない場合は、労務費の中にある「労務外注費」として処理を行います。
建設業において労務費を外注費に置き換えるメリット
人材不足を解消できる
外注費を活用することで、人材不足を解消することができます。
例えば、技術的に自社では難しい業務、今の人材では自社ではどうしてもできない作業等を他社へ外注することで受注する仕事の幅を広げることができます。
ほかにも、自社の業務量を減らしたいといった際、外注を活用することでこの問題を解消することが可能です。
このように上手く外注費を活用することで人材不足を解消し、効率的に業務を行いながら、会社としてより良い成果を上げていくことができます。
従業員を本質的な作業に充てられる
他社へ外注を行うことで、従業員が自社にとってのコア業務に専念できます。
例えば、頻発する業務、毎月の作業、全体的に従業員を圧迫している業務等を外注することで従業員に時間の余裕を作ることができます。
これにより普段の業務に追われがちな従業員に時間ができ、今後の方針や戦略、業務効率化等、自社にとってより長期的に重要な業務に集中することが可能になります。
所得税を源泉徴収しなくて良い
外注費として支払う人件費は源泉徴収が不要のため、事務コストの削減にも繋がります。
通常の給与所得支払の場合は、雇用主が給与所得者に対し源泉徴収を行い国に納付したり、年末調整の際に還付額を支給したりといった事務処理が必要になります。
しかし、外注費の場合はその必要がないため、外注費の報酬を相手に支払うだけで完了となります。
ちなみに、外注先の源泉徴収については、外注費の支払いを受けた本人が、確定申告にて精算処理を行うことになります。
消費税を仕入税額控除できる
外注費は、課税仕入れとなり仕入税額控除の対象となります。そのため、消費税の納付税額を抑えることが可能です。
例えば、自社で人を雇用し給与支払をする場合は、消費税法上給与は課税の対象外となるため仕入税額控除の対象にはなりません。しかし、外注費として他社へ業務を依頼した場合は、課税仕入れとしてみなされるため仕入税額控除の対象となります。
結果、消費税申告の際に消費税額の節税に繋がります。
社会保険をかけなくて良い
外注費は雇用契約を結ばないため、社会保険料の支払いが不要のため経費削減となります。
通常雇用関係にある従業員に対しては、事業主は社会保険料の負担が必要になります。社会保険料は、従業員と事業主が折半して負担するため、金額も少なくありません。
そのため社会保険料の支払いが不要な外注費は、経費削減に繋がります。
また雇用保険についても同様で、自社の従業員であれば雇用保険の加入とその費用の一部負担する必要が事業主にはありますが、外注費では不要です。
外注費と線引きが難しい給与~判断する基準を解説
外注費を活用することで経費削減となる等利点もありますが、外注費となるか給与となるかは線引きが難しい部分があります。
外注費と給与で支払う側が行う処理も違ってくるため、正しく判断するための基準を以下でご紹介します。
外注費と給与・主な判断基準は5つある
外注費と給与は「業務を行う人にお金を支払う」という点では同じように思えます。
しかし作業内容や実態からどちらにあたるかを判断する基準が5つあります。
この判断基準を抑えることで外注費か給与か判別できるので以下で詳しくご紹介していきます。
1.報酬を支払う対象は時間か作業内容か
まず、外注費は「作業内容に対して」報酬が支払われます。
例えば給与の場合は、日給、時給と働く就業時間が決まっていてその時間に対して報酬が支払われますが、外注費は時間的縛りがなく外注先自身が就業時間を決定できます。
また、外注費は業務を請け負う際に結ぶ「請負契約」に基づき、その作業内容、成果物の価値に対して報酬が支払われます。
このように時間的拘束を受けず、作業内容に対して報酬が支払われるものが「外注費」となり、時間的縛りがある場合は「給与」と判断することが可能です。
2.ほかの人が業務の代替を務めることができるか
外注費には「業務の代替性」があります。
そのため自分以外にも、その業務の代わりを務めることが可能であれば外注費となります。
逆に代替できない業務を行っている、1社に対して専属して外注業務を請け負っているといった要素が認められると、会社と従業員のような強い関係性があると判断されるため給与とみなされる可能性があります。
このようにほかの人に代替可能な業務を行っている場合は外注費、代替が難しい業務を行っている場合は給与と判断することができます。
3.発注者による指揮監督がなされるか
指揮監督についても外注費には特徴があります。
外注費では基本的に、発注者から指揮監督を受けません。
外注費は請負契約のもと業務を行うことになりますが、業務の進め方、手順等は請負側で自由に決定できることになっています。逆に、従業員のように発注者から指示、監督、管理を受けて業務を進める場合は雇用関係があるとみなされるため給与と判断されます。
このように指揮監督を自ら決定して業務を行う場合は外注費、そうでない場合は給与と判断できます。
4. 誰が業務上必要な用具類を用意するのか
外注費の場合は、業務で必要な道具、材料は自分で用意をします。
一方、雇用契約のある従業員は会社から道具、材料を支給されます。
基本的に外注先は、成果物を完成させるために必要な材料、用具等に加え、人員は自ら確保し、請負契約に基づき成果物を完成させる必要があります。
このように、外注依頼を受け業務上に必要なものを自身で用意する場合は外注費、会社側から提供を受ける場合は給与と判断することができます。
5.引き渡し前に不可抗力による破損や滅失が生じた場合の報酬について
完成品の引き渡しを行う前に、例えば水害や地震といった天災の不可抗力が起きたとします。その結果、完成品が部分的に破損、または消滅してしまったと仮定しましょう。
請負契約では、一般的には納品が完了している場合のみ報酬を受け取ることができます。一方、雇用契約の場合は、労働力を提供した段階で報酬を請求できるのです。
よって、引き渡し前でも労働の対価として報酬を請求できる場合は外注費、請求できない場合は給与として判断することができます。
より細かい判断に役立つ東京国税局のチェックリスト
外注費と給与の判断については上記でご紹介した点が主なものになりますが、東京国税局ではより細かい判断基準として「給与所得及び事業所得の判定検討表」というチェックシートを提示しています。
上記チェックリストはインターネット上に公開がありませんが、下記のようなサイトで閲覧可能です。どうしても判断に迷う場合は、国が提示しているチェックリストも参考にすると良いでしょう。
TAINSメールニュース No.437 2019.11.14 発行(社)日税連税法データベース
これらの判断基準を「総合的に」判断される
ここまでに紹介した下記の基準に加えて
- 報酬を支払う対象は何か
- 業務の代替性はあるか
- 業務上の指揮監督は誰か
- 業務上の必要な用具を手配するのは誰か
- その他、従業員と同様とみなされる性質はあるか
就労形態、業種業態、契約内容、実態等…総合的、客観的にみて給与にあたるか否かが判断されます。
会社によって様々な事情がありますが、あとから給与を外注費にしたいということは困難です。業務を依頼する場合は「外注費」「給与」という区別も考慮した上で業務内容を検討できるとよいでしょう。
建設業では「一人親方」への外注費が税務署にチェックされやすい
建設業では、個人事業のいわゆる一人親方へ業務を外注することも多いと思いますが、この「一人親方への外注費」について、税務署からチェックされる点が多くあります。
例えば、報酬の計算方法が時間給である、交通費や材料費の提供を外注先にしているといった場合は給与とみなされる可能性があります。
また請け負っている仕事が特定の1社のみの外注費だけといった場合は「専属外注」とみなされ、給与となってしまう可能性もあります。
税務署に外注費を給与と認定されたらどうなるのか?
外注費とすることで経費削減となりますが、税務調査が入り指摘が入った場合は、追徴課税が発生する可能性があります。
もし外注費で処理したものが給与と判断された場合どうなるのか以下で詳しくご説明します。
給与に対する源泉所得税の支払いが発生
外注費が給与と認定されてしまった場合、源泉所得税の支払いが必要となります。
そもそも給与として従業員に支払いをする場合は、源泉徴収を行い国に納付しなければいけません。そのため、外注費が給与と認定されてしまった場合は、国への源泉所得税の支払いが発生します。
外注費であれば源泉徴収不要のため、会社としては源泉徴収しているはずもありません。そのため結果的に、外注費を給与と認定された場合は、会社は源泉徴収を怠ったものとしてみなされてしまいます。
仕入消費税控除についての否認
外注費が給与と認定されてしまった場合、納付する消費税額にも影響が出ます。
そもそも納付する消費税額は「預かった消費税」と「支払った消費税」の差額で算出します。例えば「預かった消費税が5,000円」「支払った消費税が4,000円」であれば差額の1,000円を消費税として納付することになります。
外注費は課税仕入れとなり仕入れ税額控除対象(=支払った消費税)となりますが、これが否認された場合は「支払った消費税」が減ることとなるため、結果として本来納付すべき消費税が不足していたことになります。
延滞税や加算税といった追徴課税が発生
外注費が給与認定された場合は、源泉税所得税や消費税の国への納付が不足していることになるため、追徴課税の納付が必要となります。
加えて、本来支払う必要のない延滞税、過少申告加算税等の支払義務も生じる可能性があります。延滞税は納付期限が過ぎてしまった場合に納付期限の翌日から納付した日までに対して発生します。
一方、過少申告加算税とは、税務調査前に自ら間違いに気づき修正申告を行った場合は不要となります。
建設業における外注費を給与と判断されないためにできること
経費削減と思い外注費としても、税務調査で給与とみなされ追徴課税等が発生してしまってはかえって面倒なことになります。
以下では、外注費を給与と判断されないために注意すべき3点をご紹介します。
請負契約書を取り交わす
外注費とする相手先とは、請負契約書を取り交わしをするようにしましょう。
請負契約においては「依頼を受けた仕事を完成させたこと」に対して報酬が発生します。
従業員に支払うような時間給であったり、結ぶ契約も雇用契約やそれに準ずる契約を取り交わしていた場合は、給与と認定されてしまいます。
外注費は、請負先の会社から時間的拘束を受けず、作業や成果物に対して報酬が支払われるものです。外注先との契約書面の内容をよく確認し、取り交わすことに注意しましょう。
用具類だけでなく社会保険等の負担も外注する個人負担とする
外注費の場合は、必要な用具類は外注先自身で用意してもらいます。これに加え、社会保険や交通費等の諸費用も外注先自身で負担するようにしましょう。
外注先の社会保険や交通費、福利厚生関係等、諸経費を発注先が負担してしまうと、従業員と同様に扱っているとみなされてしまい、税務署から外注費ではなく給与だと認定を受けてしまう可能性があります。
保険等の諸経費は、外注先自身で負担するよう注意しましょう。
外注する相手が事業主であることを確認
外注費とする場合は、相手が事業主であるかも押えておきましょう。
外注費では請負契約や業務委託契約を結びますが、これを結べるのは事業主、個人の場合は個人事業主に対してとなります。
また外注費は、給与と異なり社会保険等も不要のため金銭的負担が少なくなります。そのため、実態としては従業員と同様に扱っているが、形式上は請負契約を結んでいるという偽装請負となってしまっている問題もあります。
外注費とするからには、その相手先は事業主でありかつ、従業員とは異なる取扱いをするという実態を守るようにしましょう。
【まとめ】建設業の外注費の基本を押さえよう
外注費と判断するにあたって大切なポイントは、以下の通りです。
- 報酬は作業内容に対して発生する
- 業務の代替性がある
- 業務上の指揮監督が外注先にある
- 業務上の必要な用具、保険等は外注先が手配する
- 請負契約書を取り交わしている
建設業の場合は、外注費とすることで節税やコスト削減に繋がる部分も多いですが、税務調査で給与にあたると判断された場合は、追徴課税等の納付が必要となります。
誤った処理とならないよう、当記事を参考にしながら外注費を上手に活用してもらえたら幸いです。