普通に生活していると、なかなか聞くことがない売掛金という言葉。経理初心者にとって、イメージがつきにくい方も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、下記の内容についてお伝えしていきます。
- 売掛金とは? 同じような科目との相違点は?
- 処理を行う3ステップ
- 管理する際のポイント
- 回収できないトラブルに備えてできること
本記事を参考に売掛金について正しく理解しましょう。
売掛金とは簡単に言うと将来的に金銭を受け取る権利のこと
売掛金とは、一定期間後に金銭を受領できる権利のことです。現金取引では、商品やサービスを提供する時に対価を受領できます。しかし、掛取引の場合は、取引を行う相手との信頼関係によって成り立っていると言えるでしょう。
そのため、信用取引に区分されます。不良債権にしないためにも、回収するまでの管理がとても重要です。
また、手形のように書類が受け渡しされるものでもありません。現在では幅広い業種で掛取引が行われており、経理処理上も使われることが多い科目です。
売掛金と混同しやすい勘定科目との違いを確認しよう
①【未収入金】通常の営業取引以外で生じた金銭債権
未収入金とは、本業以外での取引において、お金の徴収が完結していない場合に使う科目です。金銭債権という意味では売掛金と同じですが、売掛金は本業による代金未徴収分であるところが異なっています。
例えば、会社保有の不要な備品を売却してまだ受け取っていない代金は、本業以外で生じているものなので未収入金として処理します。
未収金と売掛金の違いについて詳しくは以下をご覧ください。
>>未収金と売掛金との違いをわかりやすく紹介|仕訳方法や内訳書について
②【買掛金】仕入代金等の未払金
買掛金とは、商品等を仕入れる際に支払いを後回しにしたものです。売掛金とは逆で、一定期間後に支払う義務が生じるので「負債」に計上されます。信用取引に区分される通り、取引先はあなたの会社を信用して支払いを先延ばしにしてくれるのです。信頼関係を崩さないよう、支払期限を守るように管理していきましょう。
買掛金について、詳しくは以下をご覧ください。
>>買掛金とはどのような勘定科目? 売掛金との違いや仕訳例も紹介
③【前受金】商品受け渡しの前に受け取った金銭
前受金とはいわゆる手付金で、商品・サービスの提供前に代金の一部を受領するものです。売掛金は計上時に商品・サービスの提供は終わっているので、その点で大きく異なっています。一部ではありますが代金を受け取っていて、かつ提供はこれからなので、徴収不能になる可能性は売掛金より低いでしょう。また、受注後に仕入れを行う場合は、支払いが少し楽になるメリットもあります。
売掛金処理の流れ3ステップ
ここまでで売掛金がどんなものであるか、理解できたのではないでしょうか。
次にこの章では、売掛金の処理方法を3つのステップに分けて紹介していきます。一度計上したら終わりではなく「消込作業」「残高確認」が必要になりますし、売掛金の処理は経営管理上とても重要です。入金されてはじめて処理が完結することを、この章で確認していきましょう。
①売上を計上する
売上計上のタイミングとして考えられるのは、下記の3通りです。
- お客様に納品書または請求書を送付したタイミング
- 販売した商品をお客様に引き渡したタイミング
- 提供するサービスが完結したタイミング
企業会計原則により、売上(収益)については実現主義が原則になっています。
この点を考慮すると、一般的には「販売した商品をお客様に引き渡したタイミング」で売上計上するのが良いでしょう。
②消込作業をする
消込作業とは、お客様に請求している未入金分の金額と、実際に入金があった金額の照合を行うことです。差額がゼロになってはじめて、消込作業が完結したと言えます。方法としては、銀行通帳またはネットバンキングの履歴と請求額との照合を行い、金額を間違えることなく振込まれているかどうかチェックしましょう。もし入金額に相違がある場合は、最終確認を行った上で、お客様に問い合わせを行います。
消込作業は二重請求を行わないためにも大切な処理なので、忘れずに行うようにしましょう。
③残高を確認する
残高の確認は、月末や月初等、タイミングを決めて行うのがオススメです。もしくは、場合によっては数か月に1回といったペースでも良いかもしれません。
行うべきことは、売掛金残高一覧表を準備し、未入金や金額の間違いがないかを確認していきます。売掛金全体で行うのではなく、お客様ごとに行うと確認しやすくなるでしょう。
もし数字があわない場合は、下記内容を検討してみます。
- 売上の計上漏れはないか
- 請求金額を間違えていないか
- 消込作業を間違えていないか
- 振込手数料を加味しているか
最終的にこちら側にミスがないことが確認できたら、お客様に問い合わせを行ってみましょう。
売掛金のケース別仕訳例
売上を計上するときの仕訳例
今回のケースでは、200,000円の商品が売れたケースで考えましょう。
売上を計上する時に現預金での購入ではなかった場合は、下記のように仕訳を行います。
なお、計上するタイミングは「商品を引き渡した時である」設定です。
【借方】 | 【貸方】 | ||
---|---|---|---|
売掛金 | 200,000円 | 売上 | 200,000円 |
ほかにケースとして考えられるのは、お客様がクレジットカード支払いをした場合ではないでしょうか。手数料(会社負担)を3%と仮定すると、仕訳は下記のように行います。
【借方】 | 【貸方】 | ||
---|---|---|---|
売掛金(クレジット) | 194,000円 | 売上 | 200,000円 |
カード手数料 | 6,000円 |
売掛金を回収したときの仕訳例
無事に入金があったら、消込作業を行います。
今回のケースでは、振込によって指定した銀行口座に200,000円が振込まれたと仮定しましょう。
仕訳は下記の通りです。
【借方】 | 【貸方】 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 200,000円 | 売掛金 | 200,000円 |
ちなみに、振込手数料を負担する場合は手数料(500円と仮定)を差し引いた金額が入金されるので、下記仕訳になります。
【借方】 | 【貸方】 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 199,500円 | 売掛金 | 200,000円 |
支払手数料 | 500円 |
また、クレジットカード決済の入金があった場合の仕訳は下記の通りです。
【借方】 | 【貸方】 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 194,000円 | 売掛金 | 194,000円 |
回収不能が確定した(貸倒れした)ときの仕訳例
売掛金の場合は、お客様が「忘れていた」「急に支払いが困難になった」等の理由によって徴収不能になる可能性もあります。起こって欲しくないケースですが、仕訳は下記の通りです。
【貸倒引当金の設定がある場合】
【借方】 | 【貸方】 | ||
---|---|---|---|
貸倒引当金 | 200,000円 | 売掛金 | 200,000円 |
【貸倒引当金の設定がない場合】
【借方】 | 【貸方】 | ||
---|---|---|---|
貸倒損失 | 200,000円 | 売掛金 | 200,000円 |
なお、貸倒損失が認められるのは、下記に該当するケースのみです。
- 法的な整理手続等によって、金銭債権が消滅している
- 金銭債権の全額が徴収不可能となってしまった
- 一定期間取引が停止された後、支払いがされなかった
返品処理をするときの仕訳例
商品に不備がある場合等、返品されるケースも出てくるかもしれません。
もし入金前に返品(30,000円と仮定)があった場合は、仕訳は下記の通りです。
【借方】 | 【貸方】 | ||
---|---|---|---|
売上 | 30,000円 | 売掛金 | 30,000円 |
また、入金後に何かしらの事情で返品があった場合は、売上を減額する処理を行います。返金を現金で行ったと仮定した場合は、仕訳は下記の通りです。
【借方】 | 【貸方】 | ||
---|---|---|---|
売上 | 30,000円 | 現金 | 30,000円 |
買掛金と相殺するときの仕訳例
もし商品・サービスの販売先が仕入先でもある場合は、仕入時に買掛金が発生しているのではないでしょうか。相談して了承を得ることができれば、売掛金を買掛金と相殺して処理をすることも可能です。
例えば70,000円分の仕入代と相殺する場合は、仕訳は下記の通りです。
残り130,000円は現金で代金を受け取ったと仮定します。
【借方】 | 【貸方】 | ||
---|---|---|---|
買掛金 | 70,000円 | 売掛金 | 130,000円 |
現金 | 60,000円 |
売掛金管理のポイント
顧客情報を社内で統一し共有する
取引先の倒産等、止むを得ない状況で徴収できない場合は仕方ありませんが、それ以外の理由ではなるべく避けるべきです。まずは、社内で管理している顧客情報にバラツキが出ないよう、統一した内容で共有しましょう。
よくあるケースとして、下記が挙げられます。
- 入力ミスによって、同じ会社なのに複数で登録されている
- 部署ごとに管理しており、登録名が異なっている
こうした状況を避けるため、社内で統一した顧客情報を使用することが望ましいでしょう。また、各取引先に番号を付与することで、入力によるミスを防ぐことができるかもしれません。
顧客ごとの締め日をきちんと管理する(売掛金元帳の活用)
取引先ごとの売掛金を管理するために作成されるのが、売掛金元帳です。取引が行われる度に記入されるので、「いつ売掛金が発生したか」「いつ入金があったか」を確認するのに使われます。
金額についてはもちろん、締め日についても記載しておくことで、約定通りに入金されているかの確認を行うこともできるでしょう。大切な売上をしっかり回収するためにも、売掛金元帳で管理を徹底していくことが重要です。
なお、会計ソフトを利用することで、売掛金元帳は簡単に作成できます。取引先ごとに確認もできるので、是非活用してみましょう。
また、エクセルで管理することも可能です。手作業で行うので手間はかかってしまいますが、自社で活用しやすいようにカスタマイズできるでしょう。
売掛金の回収トラブルに備えてできること
黒字倒産のリスクを理解する
黒字倒産とは、会計上は利益が出ている(=黒字)であるにもかかわらず、資金不足で倒産してしまうことを意味します。商品・サービスの販売時に売上として計上していますが、入金がなければ黒字倒産のリスクが高まってしまうでしょう。なぜなら、入金の有る無しに関係なく、取引先への支払いは毎月行わなければいけないからです。
支払いの滞りは信用を失墜させるだけでなく、金融機関からの借入可否にも影響を及ぼす可能性があります。
売掛金の管理を徹底して行い、確実に入金してもらえるように会社として動くことは、経営上とても重要なのです。
売上債権回転率や売上債権回転期間を把握しておく
資金不足に陥らないために、下記2つの項目を把握しておくことも重要です。
- 売上債権回転率
売上高と売上債権(売掛金、受取手形等)の比率を表しており、「売上高÷売上債権」で計算されます。数値が高いほど入金までのスピードが速いことを表しているので、経営に良い影響を及ぼすでしょう。
- 売上債権回転期間
商品・サービスを販売してから入金されるまでの期間を表しており、日数で表す場合は、「売上債権÷(売上高÷365日)」で計算されます。日数が短いほど早く入金されていることを表しているので、経営に良い影響を及ぼすでしょう。
売掛金の回収について詳しくは以下をご覧ください。
>>売掛金の回収方法とは?回収するための対策も解説
まとめ
今回の記事では、売掛金についてお伝えしてきました。
- お客様との信頼関係に基づき、後日入金いただくことを約束して商品・サービスを販売する際に使う科目のこと
- 「売上時」「入金時」それぞれで会計処理を行わなければいけない
- 滞りなく入金してもらえるように、社内で統一した顧客情報の管理(請求額・入金予定日・入金額)を行うことが大切である
- 黒字倒産のリスクを軽減させるためにも、売掛金の管理は経営上とても重要である
特に仕訳作業に関しては、経理業務上で必ず必要になる部分ですので、しっかり理解しておきましょう。