経営者にとって、企業が成長しているか衰退しているかどうかは大きな関心事ではないでしょうか。その判断の尺度として、売上高成長率という指標があります。
売上高成長率は、企業の売上がどの程度成長しているかを示す経営指標です。この数値や平均値からは、現在の企業の成長率に加えて、将来の成長率の展望を分析することができます。
本記事では、売上高成長率とはどのようなものかやその計算方法、数値による評価、併せて分析に使用したい指標についてご紹介します。是非、最後までお読みいただき、業務にお役立てください。
売上高成長率とは|指標の意味・英語表記をわかりやすく紹介
簡単に言ってしまえば、企業の売上高の伸び率です。売上高伸び率・売上高増加率とも言います。英語表記では、Sales Growth Rateです。言葉の通り、当期の売上高が前期の売上高に比べて、どの程度上昇しているのかを表す指標となります。
企業の成長性を表す最もベーシックな指標です。成長を数値化することで、企業の成長性・規模の拡大ペースの認識・同業他社との比較が可能となります。
この数値がプラスであれば、売上高が増加して企業が成長していると考えられる状況です。また、前年よりもこの数値が高ければ高いほど、売上高の上昇幅が大きいと言えます。反対に、この数値がマイナスであれば、売上高が減少しており企業が衰退している状況です。
単年の数値だけではなく、複数年の数値の変動に注目して継続して成長をしているかを確かめることが重要だとされています。なぜなら、変動を見ることで毎年安定した成長を続けていて今後も成長が望めるかどうかや、毎年売上高が伸びているものの成長が鈍化している局面にあるのかどうか、売上高の増減が一過性のものか・構造的なものなのか等が読み取れるからです。
また、この成長率が高くとも、市場の成長率・物価の上昇率に対して劣っている場合は注意しましょう。実質的な売上高が減少していると考えられます。
加えて、あまりにも高すぎる成長率は継続が難しく、後々成長率が下がる傾向です。
売上高成長率の計算式|例題を用いて計算方法を解説
売上高成長率=当期と前期の比較から求められる
売上高成長率は、以下の計算式で算出します。
売上高成長率(%)=(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100
比較する対象期間は、必ず揃えておきましょう。そうでなければ比較になりません。
成長率は、四半期単位や月単位で計算することもあります。そのような場合でも、対象期間を揃えます。例えば、当期の第一四半期の売上高と比較するのは前期の第一四半期の売上高です。当月の売上高と比較するのは前年同月の売上高となります。
この数値は企業規模が比較的小さければ上昇させやすい傾向にある一方で、企業規模が拡大するにつれて数値を上昇させるのが難しくなる傾向にあります。
例題を交えて計算方法と、規模によって成長率を伸ばす難しさがあることについて解説しましょう。
例題から売上高成長率の求め方を理解しよう
例)当期売上高:105億円・前期売上高:100億円とした場合。
(105億円-100億円)÷100億円×100=5%
例)当期売上高:55億円・前期売上高:50億円とした場合。
(55億円-50億円)÷50億円×100=10%
双方とも前期に比べて売上高が5億円増えているものの、成長率には差が生じているのがわかっていただけると思います。成長率は企業規模に影響を受けます。企業規模が小さければ数値が上がりやすいですが、企業規模が大きくなればなるほど数値を上昇させるのが難しいのが特徴です。また、業種によって数値に差があることも覚えておきましょう。
売上高成長率の見方|数値は高い方がいいのか
成長性を表す指標ですので、基本的には数値が高いのは好ましいことです。売上高が伸びる要因があったということになります。
ただし、成長率は景気の影響も受けるものです。好況期には高くなりやすく、不況期には低くなりやすい傾向にあり、時には数値がマイナスになることもあるでしょう。
景気の影響を受けやすい業界ならば、景気動向を無視した成長率の比較は意味を持たない可能性があります。業界により景気変動の影響は大小様々ですので、異業種間の比較ならなおさらその可能性が高いでしょう。
比較・評価する際には、企業規模や売上の増減が一過性のものか・構造的なものかなのかも踏まえる必要があります。
数値が高いのは好ましいことですが、成長率が21%以上とあまりに高すぎる状況は危険です。収益性には問題がなく順調に見えても、組織や事業の管理体制上に問題が生じる恐れがあります。具体的には、業務が逼迫して従業員の残業が急増したり、顧客情報の管理にトラブルが発生したりすることが考えられるでしょう。
成長率ごとの、予想される企業の状況について次で解説します。
売上高成長率の評価|5段階に分けられる適正水準から見る目安
成長率は企業の業種や事業規模によって差があるものですので、明確な目安や平均値というものがありません。あくまで参考程度になさってください。
【6%以上20%以下】超優良水準
非常に優良な水準だと言えます。この水準を維持していくことができれば、企業は継続的に成長します。現在の販売戦略等を意欲的に続けていけば、より売上成長が望める可能性が高い状況です。
この状況下では、商品やサービスの質を低下させないために、組織や経営管理面の体制強化を進めていくのがよいでしょう。成長を鈍化させないような施策も重要とされます。
【0%以上5%以下】安全水準
安全だと言える水準です。この水準を維持していくことができれば、企業経営は安定します。成長の前期・後期に見られることの多い状況です。
何か対策を打たずとも堅調に成長している状態ですので、リスクを低減させることが望ましいとされています。
しかし、売上増加を狙える立ち位置です。新しい経営戦略・販売戦略等を展開すれば、超優良水準に到達できる可能性があります。成長後期で成長率が鈍化した結果として安全水準になったのであれば、企業が衰退しないように新たな施策を打ち出す必要があるでしょう。
【-1%以上-10%以下】準危険水準
少し危ない水準となります。成長がストップしてしまい、企業が衰退している可能性があると言える状況です。この状態が長引けば、企業業績は下降する一方となります。ですから、売上高が落ちた原因を精査し、新しい売上を創出する施策が必要です。
この水準では、コストカットによって利益を確保することも重要となります。
【-11%以上-20%以下】【+21%以上】危険水準
業績が低迷し、成長が完全にストップしている危険な状況です。赤字経営に転落しているか経営状況が厳しくなっている可能性が高いと言えます。
この水準にまで売上が減少しているならば、早急にコストカットを実施し、経営の黒字化のために可能なことに最優先で取り組む必要があります。
黒字化ができたのであれば、続いて新しい売上を創出する施策を実施し、売上の早期回復を実現することが重要です。
【-21%以下】超危険水準
倒産が現実味を帯びる非常に危険な水準です。資金繰りが厳しく、現金等がショートしかねない状況だと言えます。企業を立て直すには、構造的な問題を取り除く抜本的な対策が必要です。
倒産を回避するために、早急に不採算事業等の売却や閉鎖、人員整理、ビジネスモデルや収益構造の見直し等の対策が必要でしょう。
売上高成長率が低下・マイナスになる原因|具体的なケースを紹介
企業外で起きた「外的要因」があるケース
政治・経済・社会・技術の変化という外的要因により、成長率が鈍化することがあります。
このような変化は一企業では対処しようがなく、自社にとって不利益な変化が発生すれば、たちまち売上高成長率が下降する危険があるでしょう。具体的には、以下のようなケースです。
- 不景気による業績悪化
例)景気悪化により生活娯楽関連サービスの需要が減少した - 生活様式の変化によるニーズの減少
例)在宅ワークの普及によりスーツ需要が減少した - 他社による競合
例)類似品や代替品が登場した
自社よりも安価な商品等が登場した
外的要因は、消費者の動向が要因となっていることが多いと言えます。また、外的要因は対策をしていても、そう簡単に防げるものではありません。ですから、最悪の状況を想定して、被害・不利益を最小化するような施策を思案しておくことが重要です。
企業内で起きた「内的要因」があるケース
自社内で発生している成長率鈍化の要因は、以下のようなケースです。
- 経営資源が枯渇している
例)人手不足・生産が追いつかない等 - プロダクトライフサイクルが飽和期・衰退期に入っている
例)商品等の需要が低下し、商品等が寿命を迎えている
新規顧客の減少・既存顧客のリピート率低下や離脱等 - 売上を伸ばす施策を実施していない
例)積極的な営業活動をしていない
新商品の開発・商品改善の未実施等
売上高成長率を分析する際のポイント
外的要因にはフレームワークの活用が有効
政治(Politics)・経済(Economy)・社会(Society)・技術(Technology)といった外的要因を分析する方法として、この頭文字を取ってPEST分析というものがあります。
政治・経済・社会・技術の変化によって生じた不利益を最小化させるためにも、業界における自社の立ち位置や強み・弱みを理解しておくためにも役立つ手法です。
PEST分析についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>PEST分析の目的・やり方を解説|ITや飲食など様々な業界で有用
売上高成長率のみでは正確に分析できない
売上高成長率という指標だけでは、正確な分析は行えません。
売上高成長率は、企業規模が比較的小さければ数値が高くなりやすい傾向にある一方で、企業規模が大きくなるにつれて数値を伸ばすのが難しくなる傾向にあります。数値の多寡だけではなく、複数年の数値の変動から継続して成長しているかを確認したり、同規模他社と比較したりすることが重要です。
また、売上高が増加しても最終的に利益が増えなければ意味がありませんし、売上高が伸びた原因が一過性のものであったり、外部要因の影響が大きかったりする可能性もあります。ですから、利益の伸び率・PEST分析・キャッシュフロー等と合わせて分析していきましょう。
分析に有用な指標を、次でご紹介します。
売上高成長率を活かすその他5つの分析指標
①売上総利益率
収益性分析の指標のひとつで、売上高に占める売上総利益の割合です。要するに、企業が売上高に対してどの程度の利益を得ているかを表します。同業他社との仕入や製造等の競争力を比較することが可能です。
売上総利益率(%)=売上総利益÷売上高×100
売上総利益とは、売上から原価を引いた利益で、大まかな企業の収益を示すものです。粗利益または粗利とも呼ばれます。
②売上高経常利益率
収益性分析の指標のひとつで、売上高に占める経常利益の割合です。売上総利益率とは分子が異なります。この数値が高い場合は、通常の経営活動における企業の収益力が高いと考えることが可能です。また、利益幅が大きいとも言えます。
売上高経常利益率(%)=経常利益÷売上高×100
経常利益は、企業が継続的に行う営業活動と営業外活動との成果です。売上から原価・販管費及び一般管理費・営業外損益を差し引いたものとなります。
③経常利益成長率
当期の経常利益が前期の経常利益に比べ、どの程度成長したかを示す指標です。実質利益の伸びだと言えるでしょう。この数値がプラスである場合は、企業の収益力が上昇している状態だと判断できます。
経常利益成長率(%)=(当期経常利益−前期経常利益)÷前期経常利益×100
④当期純利益成長率
当期純利益が前期の純利益に比べ、どの程度成長したかを示す指標です。経常利益成長率とは分子が異なります。
特別損益の影響を受けるため、経常利益伸び率と併せて比較しましょう。特別損益の額が過大な場合は、企業の実力を反映できておらず指標としては不適です。
当期純利益成長率(%)=(当期純利益−前期純利益)÷前期純利益×100
当期純利益は、企業のすべての活動の結果で最終利益です。経常利益に特別損益を加味し、法人税・住民税・事業税を控除し、法人税等調整額を加減して算出します。
⑤売上高当期純利益率
収益性分析の指標のひとつで、売上高に占める当期純利益の割合です。売上総利益率とは分子が異なります。企業のすべての活動に対する収益力です。
特別損益の影響を受けるため、売上高純利益率や売上高経常利益率と併せて比較しましょう。
売上高当期純利益率(%)=当期純利益÷売上高×100
まとめ
売上高成長率は、企業の成長を把握する上で重要な経営指標です。この数値や推移をチェックすることで、自社が成長局面にあるのか成長が鈍化し対応が必要な局面にあるのかどうか等がわかります。将来の成長率の見通しの分析も可能です。
企業存続のためには、超優良水準や安定水準を目標として外的要因・内的要因のそれぞれにフォーカスし、他の経営指標やPEST分析も併用しながら分析を行って施策を講じ、成長を続けていくことが重要です。
是非、本記事の内容をマスターし、経営活動にお役立てください。