固定長期適合率は、会社の経営状況が安定しているかどうかを判断するための指標です。
固定資産の購入費用に、自己資本と固定負債がどの程度使用されているかの割合を示します。
この記事では、安全性の評価に用いられる固定長期適合率について、求め方や目安・改善方法を詳しく解説します。
業種ごとの目安となる平均値も紹介していますので、同業他社との比較に役立ててください。
固定長期適合率とは|意味や英語表記をわかりやすく解説
固定長期適合率とは、自己資本と固定負債の合計と固定資産との割合です。
英語では、「fixed long term conformity rate」と表記します。
固定資産は、会社が営業活動を行い収益を生み出すために大切な存在です。
その固定資産の購入費用が、安定した資金で賄えているかどうかがわかります。
固定資産の購入は、自己資本だけで賄えるのが理想ですが、借入金を使用する企業も少なくありません。
その借入金が長期借入金や社債等の固定負債であれば、会社の経営状況は比較的安全だと判断できるでしょう。
固定長期適合率の求め方|必要な項目と計算方法を数値を用いて解説
【固定長期適合率を求めるために必要な3つの項目】
固定長期適合率は、会社が固定資産を購入するのに自己資本と固定負債をどの程度使用しているかを示す指標です。
割合を求めるには、固定資産・自己資本・固定負債の3つの項目が必要です。
それぞれどのような値なのかを具体例を挙げてご紹介しましょう。
固定資産:1年以上使われる資産のこと
会社の資産は、固定資産・流動資産・繰延資産に分類されます。
1年以上にわたって保有・使用する資産が固定資産です。
資産の種類はいくつかあり、流動資産は売掛金のように1年以内に現金化できる資産を指します。
繰延資産は、創立費・開業費・株式交付費・社債発行費・開発費の5つを指し、支出した効果が1年以上にわたる資産のことです。
固定資産には、有形・無形固定資産と投資その他の資産の3種類があります。
有形固定資産は、土地や建物、車両運搬具や機械設備等のことです。
無形固定資産は、のれんや特許権・ソフトウェア等形のない資産を指します。
投資その他の資産は、投資目的の有価証券や長期預金がイメージしやすいでしょう。
自己資本:純資産から新株予約権と非支配株主持分を除いた金額
自己資本は一般的に貸借対照表の純資産と同じと考えても差し支えありません。
実際、固定長期適合率を求める際、貸借対照表の純資産の部の金額で計算している企業もあります。
厳密には、純資産から新株予約券と非支配株主持分を除いた金額が自己資本です。
返済の必要がない金額で、株主が出資した資本金や資本剰余金、会社の利益の蓄積である利益剰余金等が含まれます。
自己資本が多い企業は、安定した事業活動を行っていると判断され、会社の信用度に繋がります。経営状態が安定し利益を上げていれば、自己資本は増えていくからです。
固定負債:返済期限が1年以上先にある負債のこと
固定負債とは、支払期限が1年以内にないため、返済までに余裕のある負債のことです。
固定負債に含まれる勘定科目には、次のようなものがあります。
社債 | 資金調達のために発行する有価証券 発行時に返済期限や利息を決定する 一般的に返済期限は1年以上先に設定するが、その後返済期限が1年以内になれば流動負債となる |
長期借入金 | 金融機関等から調達する借入金で返済期限が1年を超えるもの 純資産の5%以上の金額であれば個人や法人から借りた額も含まれる |
預り保証金 | 取引や契約の担保となる保証金 契約終了後に原則返還するものなので、負債として扱う |
一方、決算日から1年以内に返済期限がある負債は、流動負債と呼びます。
買掛金や支払手形・短期借入金は流動負債です。
【固定長期適合率の計算式】数値を用いた例題から解説
固定長期適合率の計算式は次の通りです。
固定長期適合率(%) = 固定資産 ÷ (自己資本 + 固定負債)× 100
貸借対照表の一部を抜粋した次の値を用いて具体的に計算してみましょう。
■例1:固定資産 80万円・固定負債 30万円・自己資本 50万円の場合
計算式に当てはめると次の通り固定比率は100%となります。
固定長期適合率 = 800,000 ÷ (300,000 + 500,000) × 100 = 100%
■例2:固定資産 80万円・固定負債 20万円・自己資本 44万円の場合
計算式に当てはめると次の通り固定比率は125%となります。
固定長期適合率 = 800,000 ÷ (200,000 + 440,000) × 100 = 125%
固定資産の購入が自己資本と固定負債だけで賄えず、短期借入金等を利用していることが考えられ、安全性に関して注意が必要です。
固定長期適合率の評価|業種別平均値からわかる目安
一般的な固定長期適合率の理想値
固定長期適合率は100%が基準となります。
100%以下であれば、安定した資金で固定資産を購入していることになり、健全な財務状況と言えます。そのため固定長期適合率の理想は、100%を下回ることでしょう。
100%を超える場合は、固定資産の購入に短期借入金が利用されていると判断できます。
125%までは要注意、150%で危険と判断されることが多いです。
短期借入金を、固定資産の購入に充てているとしたら注意が必要です。
一般的に短期借入金の方が長期借入金よりも利息が低く銀行審査に通りやすいメリットもありますが、1回の返済金額は大きくすぐに返済期日が到来します。
また、返済のために新たに借入れを行うといったリスクも伴います。
固定長期適合率は、100%を超えないような経営努力が必要です。
業種別の固定長期適合率の平均割合
下表は、業種別の固定長期適合率の平均です。
固定長期適合率は業種によってばらつきがありますが、いずれの平均も100%を下回っており経営状況が健全であると判断できます。
土地や建物を多く所有する不動産業・物品賃貸業や宿泊業・飲食サービス業は、ほかの業種に比べると割合が高くなる傾向がありますが、長期的な支払能力に問題はないでしょう。
機械設備の多い建設業の割合が低いのは、規模の大きな工事を行うための建設業の許可を取得するには、財産的基礎等が必要なことが影響していると推察されます。
業種 | 固定長期適合率 |
---|---|
建設業 | 47.02% |
製造業 | 60.27% |
情報通信業 | 46.17% |
運輸業・郵便業 | 73.99% |
卸売業 | 51.89% |
小売業 | 66.77% |
不動産業・物品賃貸業 | 82.89% |
学術研究、専門・技術サービス業 | 73.51% |
宿泊業・飲食サービス業 | 82.64% |
生活関連サービス業・娯楽業 | 74.60% |
サービス業(他に分類されないもの) | 55.42% |
出典元:経済産業省の中小企業実態基本調査より2020年度分を抜粋し、純資産=自己資本として計算し作成しています。
固定長期適合率の数値|低い方が良い理由と例外
固定長期適合率は、固定資産の購入費を自己資本と固定負債でどの程度賄えているかを示す指標です。
自己資本だけで固定資産を購入できれば理想ですが、設備投資に社債や長期借入金等の固定負債を利用するのは珍しいことではありません。
固定負債を利用して固定資産の購入ができていれば、すぐに資金繰りが苦しくなることもないでしょう。
固定長期適合率が100%より低いほど、計画的に調達している資金で設備投資を行えていると判断でき、安全性が高いと言えます。
ただし、事業を開始したばかりや固定資産の購入直後は、一時的に利益も低くなり固定長期適合率の数値が高くなる傾向があります。
固定資産の額は減価償却で減っていくので、長期的な視点で判断することも必要です。
設備投資は、会社の成長を見据えた対策です。決算書の値だけに注目せず、企業戦略や投資基準も参照し、安全性の判断は総合的に行いましょう。
固定長期適合率が固定比率と異なる点(違い)|評価する対象
固定長期適合率と似ている指標に固定比率があります。
固定長期適合率が固定資産の購入に自己資本と固定負債をどの程度使用しているかの割合を示すのに対し、固定比率は自己資本だけでどの程度賄えているかを見る指標です。
固定長期適合率(%) = 固定資産 ÷ (自己資本 + 固定負債)× 100
固定比率(%) = 固定資産 ÷ 自己資本 × 100
両者は100%以下であることが目安です。
固定長期適合率は分母に固定負債が加わる分、固定比率より緩い見方をしており、一般的に固定長期適合率より固定比率の方が高くなります。
固定比率が100%を超えるよりも、固定長期適合率が100%を上回っている場合の方が危険と言えるでしょう。設備投資に流動負債が利用されていることになり、資金の運用方法が間違っていると判断されるからです。
固定長期適合率の適正化|計算式の分子と分母の増減で調整
業務に不必要な遊休資産の見直しをする
遊休資産を見直し不要な固定資産を減らすことで計算式の分子が減り、固定長期適合率は下がります。
事業の廃止や休止により、現在使用していない固定資産を遊休資産と呼びます。
今後また使用する可能性があれば手放す必要はありませんが、使用見込みがない場合は売却や除却も視野に入れましょう。
また、使用頻度が極端に少ない固定資産は、資産計上不要なレンタルやリースに切り替える方法もあります。
固定資産は、保有しているだけでメンテナンス費や固定資産税等が必要です。
業務に不必要な固定資産がないか、この機会に確認してみましょう。
内部留保を増やす・増資する
自己資本を増やせば、計算式の分母が増え、結果として固定長期適合率を減らすことができます。
自己資本を増やすには、利益を生み出し内部留保を蓄積する方法や新たに株式を発行または出資金を増やす方法があります。
純粋に利益を上げれば、その分利益剰余金も増え自己資本が充実しますが、短期間ですぐに結果が出るものではありません。中長期的な計画を立て儲けを上げる努力をすることで、徐々に成果が見えてくるでしょう。
増資は自己資本を増やすには有効な方法ですが、資本金や資本準備金が増えることで法人住民税に影響が出る場合もあります。
増資の判断は慎重に行いましょう。
長期借入金の増額・新たに借入れる
計算式の分母である固定負債を増やすことでも、固定長期適合率は減少可能です。
方法としては、社債または長期借入金が挙げられます。
社債は月々の返済がなく、利率や償還期間を決められるので、固定資産が生み出す利益で返済できるよう調整して発行すると良いでしょう。
長期借入金の増額や新たな借入れを金融機関に相談するのもひとつの方法です。
また、短期借入金を長期借入金に借換えられれば、固定負債を増やせます。
長期借入金は審査が厳しく、短期借入金に比べると利率が高いのが一般的です。
無理なく返済できるかをよく検討し、資金計画に組み入れていきましょう。
固定長期適合率のほかにもある|会社の安全性がわかる3つの分析指標
①流動比率
流動比率は、流動負債に占める流動資産の割合です。
短期的な会社の安全性を判断するための指標で、短期の支払能力を確認できます。
流動負債は、流動資産で賄うのが基本です。
流動負債とは1年以内に支払期限がある未払金や買掛金・支払手形等のことで、流動資産は1年以内に現金化可能な資産を指します。
流動比率は高い数値ほどよく、180%あれば安全性に関して優秀と判断できるでしょう。
150%でも問題のない水準ですが、100%を下回るとすぐに現金化できる資産がないため、支払能力がないと疑われるレベルです。
流動比率についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>流動比率の指標とは? 目安や計算方法・高すぎる場合のリスクを解説
②当座比率
当座比率は、流動負債に対する当座資産の割合です。
当座比率で確認できるのも、短期的な会社の安全性・短期の支払能力です。
当座資産は、流動資産同様に1年以内に現金化できる資産ですが、流動資産から棚卸資産を除いたものになります。具体的には、現預金や受取手形・売掛金等です。
当座比率が100%を下回ると、流動負債の方が当座資産より多いことになり、ややリスクがあると考えられます。
100%を超えていても受取手形・売掛金が現金化できないリスクはあるので、150%程度あれば安心できるでしょう。
当座比率についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>当座比率とは? 計算式の覚え方や目安までわかりやすく紹介
③自己資本比率
自己資本比率は、総資本における自己資本の割合です。
会社の全資金のうち、返済の必要がない資金がどのくらいあるかを示す指標です。
財務の安全性を分析するための重要な指標で、少なくとも30%以上は確保しておいた方が良いと考えられています。
総資本とは、自己資本と他人資本を合わせたものです。他人資本は貸借対照表の負債の部の金額、自己資本は純資産の金額とすれば、自己資本が他人資本より多ければ自己資本比率は50%以上になります。
返済が必要な借入金よりも、返済不要の資金が多ければ安全と判断できるでしょう。
そのため、50%あれば良好な状態と言えます。
自己資本比率についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>自己資本比率とは? 計算式や高すぎる場合のデメリットを解説!
会計システムの導入で、固定長期適合率等の指標の活用を速やかに行える
固定長期適合率やほかの安全性を評価する分析指標は、貸借対照表の値から簡単に計算し求めることが可能です。
しかし、頻繁にチェックするのは手間のかかる作業で、関係者の負担も大きくなります。
このような指標はできるだけリアルタイムでチェックし、経営に活かせるようにしておくことが不可欠です。
分析指標を素早くチェックできる会計システムを導入すれば、様々な分析指標を速やかに活用し、経営戦略を成功に導くことができるでしょう。
会計システムと「oneplat」の連携で請求書受け取り関連の経理処理を効率化可能
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浮いた時間を業務改善に費やせば、会社のさらなる成長も期待できるでしょう。
まとめ
固定長期適合率がどのような指標か、求め方や目安・適正化の手段を紹介してきました。
固定長期適合率は、固定資産の購入費用を自己資本と固定負債でどの程度賄えているかがわかる指標で、100%より低いほど健全な財務状況と言えます。
割合が高ければ低くするために中長期的な計画が必要です。
この機会に会計システムを導入し、分析結果をリアルタイムで経営戦略に反映できる環境を整えてみてはいかがでしょう。