安全分析で使用される経営指標のひとつに「固定比率」があります。
所有する固定資産の自己資本に対する割合で、会社の安全性・支払能力の判断材料です。
この記事では、固定比率の計算式や数値の目安、業界や会社の規模別の平均値をご紹介します。
また、固定比率が低い方が安全だと考えられる理由も解説していますので、是非参考にしてください。
固定比率の意味や英語表記とは? 会社の支払能力を確認する分析指標
固定比率とは純資産に占める固定資産の割合を示し、安全性分析で用いられる経営指標です。
英語では「fixed ratio」または「fixed assets ratio」と表記します。
会社が所有する固定資産のうち、どの程度を自己資本で賄えているのかがわかります。
一般的に長期間保有する可能性の高い固定資産は、返済不要の自己資本で調達できるのが理想です。
100%を超えると固定資産の購入に借入金を使っていることになり、値が低い方が安定した会社と言えます。
固定比率は、固定資産の自己資本に対する割合から求められる
固定比率を求めるために必要な2つの項目
固定比率は、会社の固定資産をどの程度自己資本で賄えているか、借入金を使用していないか等を見ることができます。
自己資本に占める固定資産の割合が固定利率となるので、値を求めるには、固定資産と自己資本が必要です。
固定資産:1年以上使われる資産を指す
固定資産の定義は、決算期から1年以内に現金化されることなく長期にわたって使われる資産です。
事務所や土地等の不動産は固定資産とイメージしやすいですが、それだけではありません。
また、固定資産は、有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産の3種類に分類され、次のようなもので構成されています。
有形固定資産 | 土地・建物・車両運搬具・設備等 |
無形固定資産 | 地上権・商標権・ソフトウェア・のれん・電話加入権等 |
投資その他の資産 | 長期保有の投資目的有価証券・出資金等 |
自己資本:返済が不要な経営資金
自己資本は純資産と呼ばれることもあり、資本金と過去に蓄積した利益等で構成されています。
資本金・資本剰余金・利益剰余金の3つに大きく分類されることが多いです。
資本金 | 設立時等に株主が出資したお金のこと 追加で資金を調達しない限りは原則一定の金額 |
資本剰余金 | すべての剰余金から利益剰余金を引いたもの 資本取引の結果生じる |
利益剰余金 | 会社が得た利益のうち社内留保分 および社内留保を積み上げたもの |
自己資本は、返済不要の経営資金ではありますが、株主が払い込んだ資本金は、配当金を支払わなければなりません。
そのため、コストはかかることを押さえておく必要があるでしょう。
株主への配当金の原資となるのは資本剰余金や利益剰余金です。
利益剰余金は過去の利益を積み重ねたものなので、調達コストがかかりません。
固定比率の計算式・求め方
固定比率は、自己資本に占める固定資産の割合で求められます。
固定比率(%) = 固定資産 ÷ 自己資本 × 100
貸借対照表の一部を抜粋した次の値を用いて具体的に計算してみましょう。
流動資産 | 90,000 | 流動負債 | 70,000 |
ー | ー | 固定負債 | 30,000 |
固定資産 | 110,000 | 自己資本 | 100,000 |
合計 | 200,000 | 合計 | 200,000 |
B/Sの値より、計算式に当てはめると次の通り固定比率は110%となります。
固定比率 = 110,000 ÷ 100,000 × 100 = 110%
比率だけを見ると、固定資産が自己資本を上回っており、安全性に問題があるように見えます。
しかし、固定負債を自己資本に含めて計算すると約85%になるので、緊急性はそこまで高くないと判断できるでしょう。後述する「固定長期適合率」を参照してください。
※固定負債とは、1年以内に返済期日が到来しない借入金のことで、社債や銀行からの融資が含まれています。
固定比率の数値からわかる2つのポイント
1.自己資本からどのくらい固定資産に使われているか
固定比率の数値からは、自己資本がどの程度、固定資産への投資に使われているかがわかります。
自己資本1,000万円の会社の固定資産が800万円であれば、固定比率は80%になり、固定資産のすべてを自己資本で賄っていると言えます。
一方で、同じく自己資本1,000万円の会社の固定資産が2,000万円も投資されている場合は、固定比率は200%です。
固定比率の理想は100%が目安です。長期間利用する可能性の高い固定資産は、借入金等を利用せず自己資本だけで調達できる方が良いでしょう。
2.会社を長い期間で見た時の安全度
固定比率の数値は、会社を長いスパンで見た時の安全度が計れます。
極端な例を挙げると、自己資本の2倍や3倍といった金額を固定資産に投資し、その不足分を短期借入金等で補っているとすると、経営が危うい状態と考えられるでしょう。
ただし、返済できる基盤がある場合や、設立時の一時的な投資の可能性もあるので、数字だけですぐに判断せず、ほかの指標も参考にすることをお勧めします。
固定比率は低い方が良いのはなぜ? 100%を目安にしよう
固定資産は、1年以上の長期にわたって使用するものです。
流動資産と異なり、すぐに現金化できるものではないため、返済期限のない自己資本で調達するのが安全な経営と言えます。
固定比率は会社の安全性がわかることから、会社の支払能力を分析することも可能です。
短期的な借入金等を使用して、固定資産に投資すれば固定比率は100%を超え、会社の支払能力を疑われることになります。
会社の安全性という観点だけで考えると低い方が良い固定比率ですが、100%を目安に調整するのが良いと考えられています。
それは、固定比率が低ければ、会社が設備投資に力を入れていないと見なされる可能性があるからです。
100%に近ければ、設備投資に力を入れていて、会社の成長が期待できると判断されます。
固定比率の高い業界とは? 業種別と規模別の平均
業界別の固定比率平均
固定比率は100%に近づくことが理想です。
しかし、業界によって水準にばらつきがあるので、他社と比べる際は、同じ業界の会社と比べることが大切です。業界別の固定比率平均を見ていきましょう。
運輸業や不動産業・宿泊業等は、抱える固定資産が多く、固定比率は100%を大きく上回っています。
固定資産の購入費として固定負債を利用している可能性もあるため、固定長期適合率も掲載しておきました。参考までに比較してみてください。
業種 | 固定比率 | 固定長期適合率 |
---|---|---|
建設業 | 70.33% | 47.02% |
製造業 | 93.50% | 60.27% |
情報通信業 | 65.25% | 46.17% |
運輸業・郵便業 | 156.04% | 73.99% |
卸売業 | 81.68% | 51.89% |
小売業 | 137.71% | 66.77% |
不動産業・物品賃貸業 | 210.19% | 82.89% |
学術研究、専門・技術サービス業 | 110.89% | 73.51% |
宿泊業・飲食サービス業 | 451.97% | 82.64% |
生活関連サービス業・娯楽業 | 162.86% | 74.60% |
サービス業(他に分類されないもの) | 92.95% | 55.42% |
出典元:経済産業省の中小企業実態基本調査より2020年度分を抜粋し、純資産=自己資本として計算し作成しています。
規模別の固定比率平均
固定比率の平均値は会社の規模によっても異なります。
同じ業種でも、会社の規模により大きな差があることがわかります。
資本金が1,000万円から10億円までの製造業における固定比率は、100%に近く100%を下回っているため安全性が高いと言えるでしょう。
ただし、固定比率の値だけで会社の安全性を判断するのではなく、ほかの指標も照らし合わせて判断するようにしてください。
資本金 | 固定比率 | |
---|---|---|
製造業 | 非製造業 | |
1,000万円未満 | 174.2% | 309.3% |
1,000万円~1億円 | 96.0% | 128.7% |
1億円~10億円 | 89.2% | 108.5% |
10億円以上 | 109.9% | 159.2% |
出典元:財務省「固定比率」を元に作成
固定比率が高いほど要改善! 具体的な対策方法を紹介
1.不要な固定資産を減らす
固定比率は、固定資産 ÷ 自己資本 × 100(%)です。
固定比率が高く改善が必要だと考えるのであれば、比率を下げるには分子を減らすか分母を増やすしかありません。
そこで分子を減らす、つまり固定資産を減らすのが固定比率を下げる対策のひとつです。
会社の固定資産の中で、不要なものがあれば売却や除却を行うことで、固定資産を減らすことができます。
ただし、現在使用していないから不要に見えているだけで、実は会社にとっては大切な固定資産かもしれないので注意が必要です。
また、土地等の固定資産は簡単に売却できないので、固定資産を適切に管理し、計画的に売却・除却を行うようにしましょう。
また、購入したばかりの固定資産があれば、固定比率が高くなります。
その場合は、使い続けることで減価償却され、固定比率が下がることもあるでしょう。
2.儲けを出して自己資本を増やす
固定比率の計算式より比率を下げるために分母を増やす、つまり自己資本を増やすのが固定比率を下げる対策の2つ目になります。
自己資本を増やす方法は、
- 増資を行う
- 配当金を減らす
- 儲けを出す
の3つが考えられるでしょう。
増資を行うというのは、新たに株式を発行または出資金を増やし、資本金や資本準備金を増やすことです。
配当を行うと利益剰余金の減少に繋がるため、配当金を減らすことで自己資本がキープされます。配当金を減らしたりなくしたりすることで残った利益剰余金は、内部留保と呼ばれる蓄えです。有事の際にも役立ちます。
また、純粋に利益を上げれば、その分利益剰余金も増え自己資本が充実します。企業活動で儲けを上げる努力が必要です。
固定比率と一緒に用いられる安全性の4つの分析指標
①固定長期適合率
前述した通り、固定資産が自己資本を上回っている場合は、固定長期適合率の値が注目されます。
固定長期適合率は次の式で計算される値で、自己資本に固定負債を加えた金額と固定資産との割合です。
固定長期適合率(%) = 固定資産 ÷ (自己資本 + 固定負債) × 100
固定負債は、支払期限が1年以上先に指定されている長期間で借入れたお金です。
すべての投資を自己資本で賄える企業はそう多くはありません。
企業が先行投資や設備投資で社債の発行や銀行からの長期融資を受けることはよくあります。
計画的に実施された借入れによる固定負債が、固定資産の購入に使われているのであれば、企業の安全性にそれほど不安を感じなくても良いでしょう。
固定長期適合率の値が100%以下であれば、比較的安全と判断できます。
固定長期適合率についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
② 自己資本比率
安全性分析における重要な指標に「自己資本比率」があります。
次の式で求められる値で、総資本における自己資本の割合です。
自己資本比率(%) = 自己資本 ÷ 総資本 × 100
総資本は、自己資本だけでなく他人資本を含むすべての資本を指しています。
返済義務のない資本をどれだけ保有しているかがわかり、会社の長期的な安定性がわかる指標です。
一般的には純資産が多いほど安定していると見なされるので、高ければ高いほど安全な会社と言えます。
自己資本比率は30%以上であることが望ましいです。
自己資本比率についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>自己資本比率とは? 計算式や高すぎる場合のデメリットを解説!
③流動比率
流動比率は会社の短期的な安全性を示す指標で、会社がすぐに現金化できる資産をどのくらい保有しているかがわかります。
固定資産と異なり、1年以内に現金化が予定されている流動資産と、1年以内に返済義務のある流動負債を用いて次の式で計算されます。
流動比率(%) = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
流動資産には、現預金や受取手形・売掛金といった当座資産や棚卸資産・仮払金等があります。
流動負債は、未払金や買掛金・支払手形等です。
流動比率が200%以上あれば理想ですが、一般的には180%程度で安全な会社と定義されます。150%でも問題ない水準です。
一方で、100%を下回っていると、流動資産より流動負債が多く手元に資金がないため、倒産危機も考えられるでしょう。
流動比率についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>流動比率の指標とは? 目安や計算方法・高すぎる場合のリスクを解説
④当座比率
当座比率は、流動比率に少し似ており、短期的な安全性を示す指標として流動比率を補足する役割があります。
当座比率は、棚卸資産を含めない当座資産と流動負債のバランスにより求められ、次の式で計算可能です。
当座比率(%) = 当座資産 ÷ 流動負債 × 100
当座資産は、流動資産から棚卸資産を除いたものなので、次の式に置き換えられます。
当座比率(%) = (流動資産 – 棚卸資産) ÷ 流動負債 × 100
棚卸資産を除く理由は、在庫がいつ現金化できるか、わからない点にあります。
売れなければ、当然現金にはなりません。
在庫のまま保有し、不良在庫となる可能性もあります。
当座比率が150%以上あれば、資金繰りに余裕のある優秀な会社と判断可能です。
当座比率についてさらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。
>>当座比率とは? 計算式の覚え方や目安までわかりやすく紹介
固定比率のような指標は、会計システムの活用ですばやく確認できる
固定比率のような指標は、機会があるごとにチェックしておきたい指標ではありますが、都度貸借対照表を計算するのは難しい場合もあるでしょう。
会計システムを導入していれば、固定比率を含め安全性を分析する重要な指標や必要なデータが素早く取り出せ、経営に活かすことができます。
分析に力を入れているシステムは多いので、システムを利用し利益を生み出せれば自己資本が増え、固定比率を下げることも可能です。
また、導入に掛かるイニシャルコストの回収にも役立つでしょう。
「oneplat」との連携で固定比率の削減を実現
「oneplat」は企業が受け取る納品書や請求書をデータ化できるシステムです。
会計システムや販売管理システムとの連携も可能で、取り込んだデータが自動的に反映されます。
そのため、納品書や請求書の発行時にかかる紙の費用や発送費用といった固定費の削減に繋がります。さらに、担当者の負担が減り、ミスを大幅に削減することができるでしょう。
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まとめ:固定比率を見直そう
自己資本に占める固定資産の割合を示す固定比率について説明してきました。
固定比率は、貸借対照表の固定資産と自己資本の金額がわかれば、簡単に求められます。
低いほど安全性が高いと言えますが、低すぎると投資に力を入れていないと判断される可能性もあります。
ほかの指標も参考にしながら、固定比率を理想的な100%近くに推移できるよう、固定資産の投資額を検討していくと良いでしょう。
また、この機会に会計システムを導入し、多角的な視点で分析を行ってみてはいかがでしょうか。