営業外費用と特別損失の違いについて、何となくは理解しているけれども実務で判断に迷ってしまう方は多いのではないでしょうか。
今回の記事では、下記内容について紹介していきます。
- 2つの違いを発生頻度で理解する
- それぞれに該当する勘定科目とは
- 判断がつきにくい勘定科目の考え方
- 違いがわかりにくいパターンと見分け方
- それぞれ金額が大きくなると出てくる影響とは
本記事を参考に営業外費用と特別損失について理解を深めましょう。
営業外費用は特別損失とどう違う? 発生頻度と損益計算書の区分で理解しよう
【営業外費用とは】「普段通りに」本業以外で生じた費用のこと
営業外費用とは、会社の主たる営業活動以外で生じる費用を意味します。主たる営業活動というのは、例えば飲食店であれば料理の提供を行うことです。どの業種でも該当する言い方をすれば、会社の定款にある「目的」に記載されているかどうかで判断することができます。
この主たる営業活動以外で生じた費用が、営業外費用に該当すると覚えておきましょう。先ほどの飲食店の例で言えば、料理に使う野菜や果物の仕入は営業活動での費用です。しかし、もし借入をしている場合に支払う利息は営業活動以外の費用なので、営業外費用に該当します。
【特別損失とは】「滅多にないが」本業以外で生じた費用のこと
特別損失とは、通常ではあまり発生せずに、滅多にない一過性の損失のことです。特徴としては、下記が挙げられます。
- 日頃から継続的に発生するものではなく、臨時的に発生する損失
- 主な営業活動から発生したわけではない損失
例えば、洪水等の天災による損失は偶発的であり、定期的に発生するものではありません。よって、特別損失として計上されます。
なお、計上するためには証拠書類が必要です。もし税務調査が入った時には、特別に起きた事象によるものである証拠が示せないと、認められない可能性もあるので注意しましょう。
混同しやすい2つの費用を損益計算書の区分から把握する
費用は、損益計算書の下記4つの区分のいずれかに分類されます。
- 売上原価
- 販売費及び一般管理費
- 営業外費用 → 売上とは無関係で経常的に発生
- 特別損失 → 売上とは無関係で突発的に発生
上の2つは売上(=営業活動)に関連する費用であり、下の2つは売上とは無関係に発生する費用です。そして売上とは無関係な中でも、日頃から経常的に発生するかどうかで「営業外費用」と「特別損失」に分類されることになります。
さらに言えば、経営活動を行っていれば必ず発生するのが営業外費用です。特別損失が発生するかどうかを事前に予測することはできません。
営業外費用・特別損失|それぞれに当てはまる勘定科目一覧を紹介
【営業外費用に当てはまる主な例】
まずは営業外費用として処理する科目にはどんなものがあるか、確認していきましょう。
【勘定科目】 | 【内容】 |
---|---|
売上割引 | 売掛金について、期日よりも前に入金してもらう場合に割り引いた金額 |
売上債権売却損 | 例えばファクタリングを用いて売掛金等を割り引いたり、売却する時に発生した費用 |
支払利息 | 金融機関からの借入金にかかる利息、信用保証協会の保証料等 |
有価証券売却損 | 有価証券を売却した際に、取得金額よりも売却額が低かった場合に発生 |
有価証券評価損 | 決算時に有価証券の評価額が下がっていた場合に発生 |
社債利息 | 債権者に対して支払う利息額 |
為替差損 | 保有している海外通貨や債権を日本円に換算する時に生じた損失 |
開業費 | 新規で会社を立ち上げるまでに要した費用 |
開発費 | 新しい商品や技術を開発するために投じた費用 |
雑損失 | ここまで紹介した項目に該当しないもの |
【特別損失に当てはまる主な例】
次に、特別損失として処理を行う科目を確認していきます。
【勘定科目】 | 【内容】 |
---|---|
固定資産売却損 | 固定資産を売却した際に、帳簿価額よりも低かった時に発生した差額分 |
固定資産除却損 | 固定資産を除却した時に発生した費用 |
投資有価証券売却損 | 投資目的の有価証券を、帳簿価額よりも低い金額で売却した時に発生 |
減損損失 | 固定資産の帳簿価額を引き下げる時に発生 |
特別退職金 | 例えば早期退職を募集した場合等、所定の金額に上乗せして従業員に支払われた分 |
役員退職金 | 取締役や監査役等、役員が退職する時に支払われる退職金 |
社債償還損 | 社債の買入償還を行う際に、買入金額が帳簿価額を上回った場合に発生 |
貸倒損失 | 取引先の倒産等によって、当期中に回収不可能になった金額が甚大な場合 |
営業外費用・特別損失|仕訳の際に区別がつきにくい勘定科目
減損:固定資産の価値等が予定額よりも低下した際の会計処理
減損とは、保有している固定資産の価値が大幅に低下してしまった場合に行われる会計処理のことです。収益性の低下等の要因によって、投資金額の回収が見込めなくなってしまった場合は、帳簿金額を回収できる金額まで減額することを意味します。
減損を処理する場合は、原則、特別損失に計上されることを覚えておきましょう。
減損の対象となる資産としては、下記2つがあります。
- 固定資産 → 土地、建物、機械設備等
- 無形固定資産 → 特許権、のれん等
貸倒引当金:リスクに備えてあらかじめ計上した引当金
貸倒引当金とは、売掛金や受取手形といった売上債権に対して設定された引当金です。未回収の債権について、回収が不可能になってしまう可能性がある場合に計上します。計上することで将来的に損失になってしまう可能性を示すことができますし、投資家に対しても有形な情報として提供できるでしょう。
なお、売上債権以外の金銭債権について貸倒引当金の繰入れを行う場合は、営業外費用に計上を行います。また、取引先が倒産する等、当期中に回収が不可能になった場合は特別損失として計上します。
役員退職金:企業の取締役が退職した際の慰労金
役員退職金とは、企業の取締役や監査役等の役員が退職する際の慰労金を意味します。従業員に支払われる退職金と区別するため、別途定められた科目です。
役員の退職は、毎年行われるような継続性のあることではありません。滅多にあることではなく、比較的金額も大きくなる役員退職金は、特別損失として計上しましょう。もしこれが原因で最終利益が赤字になったとしても、本業とは関係のないところに理由があることがすぐに判断できるからです。
損害賠償金:他者に与えてしまった損害の補填金
損害賠償金とは、業務上の事故やトラブルによって、誰かに損害を与えてしまった場合に支払われるお金のことです。示談金や慰謝料、お見舞い金等が該当します。
こうしたケースも頻繁にあるわけではないので、特別損失として計上されることを覚えておきましょう。
なお、もし事故やトラブルが当事者の故意や重過失に基づいてしまう場合は、会計処理を行うことができません。なぜなら、費用を負担するのは会社ではなく当事者本人だからです。
営業外費用・特別損失|違いがわかりにくいパターンと見分け方
前章で営業外費用と特別損失に該当する主な科目例を紹介しました。しかし、例えば「貸倒損失」のように、発生した理由によって計上する場所が変わってくる場合が生じます。
この章では貸倒れについての3つのパターンを含めた、全部で5つの覚えておくべきパターンを紹介するので、今回を機に押さえておきましょう。
売掛金や手形の貸倒損失が生じたパターン
売掛金や手形といった本業によって生じた債権が回収できない場合は、販売費及び一般管理費で処理を行います。
本業とは関係ない資産が回収できなくなったパターン
本業とは関係のない資産、例えば取引先に貸付けていたお金(貸付金)等を回収することが難しく貸倒となってしまった場合は、営業外費用として処理します。
ひとつ前のパターンと対にして、「本業の貸倒は販管費」「本業以外の貸倒は営業外費用」と覚えておきましょう。
いつもより金額が大きい貸倒が発生したパターン
一般的な取引金額とは大きくかけ離れたような、規模の大きい貸倒が発生した場合は、特別損失として処理を行います。
ここまで貸倒について3つのパターンを紹介してきました。どのパターンで処理を行っても、最終的な利益額に変わりはありません。
しかし、金融機関が企業の与信調査を行う場合は、税引前利益ではなく営業利益を用いることがあります。こうした場合は、本来は特別損失として処理をするべきところを販売費及び一般管理費で処理することで、与信に大きな影響が出てしまうでしょう。
パターンを把握し、間違いのない処理を行っていくことが重要です。
銀行業を営む企業が支払利息を支払うパターン
先述の通り、支払利息は一般的な企業では「営業外費用」として会計処理を行います。しかし、銀行業を本業として営む企業においては、営業活動を行うための費用として認識されるでしょう。よって、銀行業を営む企業では、支払利息は販売費及び一般管理費に計上します。
このように例え同じ科目だとしても、業種が異なると違った処理を行わなければいけません。自社の本業とかかわる費用であるかどうか、判断基準として考えてみるのも良いでしょう。
固定資産を除却して少額の損失が出たパターン
固定資産を除却した場合は、一般的には特別損失として計上することが多いでしょう。
しかし、損失額が小さい場合や、経常的に発生する場合においては、営業外費用として計上することも可能です。
ここまで5つのパターンを紹介してきましたが、判断ポイントは以下2つです。
- 本業に関連する費用であるかどうか
関連するのであれば「販売費及び一般管理費」、しなければ「営業外費用または特別損失」 - 通常の取引と比較した金額の大小
金額が大きければ「特別損失」、小さければ「営業外費用または販売費及び一般管理費」
営業外費用・特別損失|多くなると企業にどんな影響があるのか
ここまで営業外費用と特別損失について、どちらで処理を行うべきかの判断基準等について紹介してきました。
最後にそれぞれの金額が大きくなってしまった場合は、企業にどのような影響を及ぼす可能性があるか確認していきましょう。
営業外費用は、多くなると融資の審査に不利になりやすい
金融機関が融資を行う際に重視しているのは、営業利益と経常利益です。営業外費用が増えると、経常利益は減ります。よって、融資の審査時に不利になってしまう可能性があるでしょう。
本来は特別損失として処理するべきものが含まれていないか、しっかり確認することが重要です。
特別損失は、多くなっても融資の審査に影響しにくい
次に特別損失ですが、金額が多くなっても融資の審査には影響しにくいでしょう。同様に取引先等からの信用を失ってしまう要因にもなりにくいです。理由としては、特別損失は経常的に発生するものではなく、あくまで例外的な費用だからです。例え当期発生してしまっても、来期も同様のことが起きる可能性は極めて低いでしょう。
融資において重要なのは、営業利益と経常利益をプラスにすることです。特別損失が大きくなって当期利益がマイナスだとしても、融資に不利でなることは少ないでしょう。
まとめ
今回の記事では、営業外費用と特別損失の見分け方や該当科目等についてお伝えしてきました。
- 営業外費用は通常通りに本業によって生じた費用を指し、特別損失は臨時的に発生する本業以外の費用のこと。
- 同じ勘定科目でも本業が何かによって処理方法が変わるため、自社の主たる営業活動が何であるのかをしっかり認識しておくことが大切。
- 特別損失が大きくても融資の審査に悪い影響を及ぼすことはないが、営業外費用が多いと経常利益も減るため、審査に不利になりやすい。
しっかりと抑えておきましょう。