労務費とは? 当てはまる経費や計算方法・仕訳例を解説

主に製造業や建設業で耳にすることの多い労務費は、人件費のひとつです。

労務の言葉の意味が、「報酬目的で行う労働」であることから、人件費と同じだと思われがちですが、範囲が少し異なります。
労務費は人件費を構成する要素のひとつに過ぎません。

この記事では、労務費とは何か、どのような場合に使われるのかを詳しく解説しています。また、計算方法や仕訳を具体例を挙げて説明していますので、是非参考にしてください。

労務費とは|混同しやすいほかの費用との違いを解説

「労務費」とは製品の生産に携わる労働的なコストのこと

材料を仕入れて製品を製造し販売する製造業等の業種では、工業簿記の考えに則り会計処理を行います。

仕入れた商品をそのまま販売する商業簿記と異なり、製造という段階が増える工業簿記では、製造原価報告書を作成しなければなりません。そのため、製品の製造原価を計算する必要があります。
労務費は製造原価のひとつで、人に関する原価です。製造原価には、ほかに材料費・経費があります。
お金を出して労働力を買ったと考えるため、資産の勘定科目です。

製品や製造に関わる人件費を指し、主に販売するための製品やサービスを造る工程のある製造業や建設業・IT企業等で発生します。

商品を仕入れてそのまま販売する形態の会社では、労務費を意識することはほとんどないでしょう。しかし、材料を仕入れて製造を行い製品を販売する会社では、労務費は原価管理や人材確保に欠かせないコストです。

作業者の雇用形態(正社員かアルバイトか)は問いませんが、直接雇用されていなければなりません。

【人件費との違い】労務費は「人件費」を構成する要素のひとつ

労務費は人件費に似ていますが、人件費とイコールではありません。
人件費を構成する要素のひとつです。

人件費を構成する要素は、労務費・販売費・一般管理費の3つです。人件費が何のために使われたのか、その目的によって分類されています。
製造に使われれば労務費、販売に使われれば販売費、総務や経理等の管理部門で使われれば一般管理費です。
まとめると次のようになります。

人件費を構成する要素

労務費製品の製造のため工場等で働く人にかかる費用
製造部門の従業員の賃金・給与
販売費製品の販売にかかる費用
営業部門の従業員の賃金・給与
一般管理費企業の管理全般にかかる費用
管理部門の従業員の賃金・給与

【外注費との違い】自社雇用は労務費・他社雇用は「外注費」

労務費は、製品の製造に関わる人件費のうち、自社で雇用している従業員にかかる費用のみを指します。
同じ作業をしていても、他社で雇用しているスタッフにかかる費用は外注費です。

費用の支払先を意識すると、区別がしやすくなるでしょう。
給与として支給しているのか、会社間の契約で支払っている費用なのかが違います。

労務費には消費税が発生しません。一方、外注費は消費税の課税取引です。

違いをまとめると次のようになります。

労務費外注費
スタッフの雇用形態自社雇用他社雇用
費用の支払先スタッフ本人スタッフを雇用する会社
消費税非課税課税

労務費に当てはまる5つの項目(経費)

労務費はその種類によって5つに分類できます。

■賃金
製造部門で働くスタッフの給与が賃金に分類されます。
月給制の正社員や契約社員のみが対象で、パートやアルバイトの給与は含まれません。

製造に関わる従業員の給与と、時間外労働・休日出勤等の割増賃金が該当します。
派遣社員を雇う費用を労務費とすることもありますが、税金面で優遇されることもあるため外注費として扱われることが多いです。

材料を切ったり加工したりしない現場監督や、製造部門の事務スタッフの給与も対象です。自社スタッフが機械のメンテナンスを行っていれば、そのスタッフの給与も賃金になります。メンテナンスを外部に依頼している場合は、外注費のため対象外です。

■雑給
製造部門で働くパートやアルバイトの給与は雑給に分類されます。
経理処理上、正社員の給与とは別に管理するため、時給制のスタッフのみが対象で正社員等の給与は含まれません。割増料金も雑給に含まれます。
製造部門の事務やパートの給与も雑給です。製造部門以外のスタッフにかかる費用は含まれません。

■従業員賞与手当
従業員に支給される賞与と各種手当です。製造に関わる従業員が対象です。

賞与は、年3回以下の支給で金額が予め決まっていない手当を指します。災害見舞金や結婚祝い金等は臨時で支払われるものの、従業員賞与手当には含まれません。

手当には、家族手当や通勤手当・扶養手当等があります。通勤費を支給している場合は、通勤費も従業員賞与手当に含みます。
残業手当は賃金・雑給に含まれるため、従業員賞与手当としては計上しません。

■退職給付費用
退職に備えて計上された費用です。製造に関わる従業員のみ対象で、製造に従事しない従業員の退職金分は含まれないので注意してください。

■法定福利費
製造に関わる従業員の健康保険料、雇用保険料等の社会保険料のうち、会社負担分です。雇用保険や労災保険等の労働保険料も法定福利費に含まれます。

労務費は製品との関連度によって2種類に分けられる

①直接労務費|直接工の直接作業賃金

製品の製造に関わる従業員のことを工員と言い、直接工と間接工に分類できます。

直接工材料を切る・組み立てる等、製品の製造に直接関わる人
間接工機械の修繕や製品の運搬をする等、製品の製造に直接関わらない人

直接工は、製品の製造以外にも、修繕や運搬等間接的な作業を行うこともあるでしょう。
そこで、直接工の作業のうち、製品の製造作業を直接作業・それ以外を間接作業と区別しています。

直接工の直接作業にかかる賃金が直接労務費です。製造にいくらかかったのか、直接的に把握できる費用とも言えます。

②間接労務費|直接工の直接作業賃金以外の労務費

間接労務費とは、労務費のうち直接労務費以外はすべて該当します。
製造に直接関わってはいないものの、製造に必要な費用です。

次のような費用が該当します。

  • 直接工の作業のうち修繕や運搬等の間接作業費
  • 直接工が停電等の原因により作業を行えなかった遊休時間や待機時間
  • 間接工に関わる費用
  • 製造部門で働く現場監督や事務員にかかる費用

製造にかかった費用のうち、直接的に把握できないものとも言えます。

イメージをまとめると次の通りです。

工員直接工直接作業直接労務費
間接作業間接労務費
間接工間接工の作業

労務費を求める計算式は? 建設業における算出方法も紹介

直接労務費の場合|賃率と作業時間を乗じる

直接労務費は、直接工の作業1時間あたりの賃金(賃率)に実際の作業時間を掛けて計算します。賃率は、直接工の賃金を総作業時間で割った金額です。

まずは、賃率を求めます。

賃率 = 直接工の賃金 ÷ 直接工の総作業時間

仮に、直接工の賃金が20万円で、総作業時間が100時間だとすると、賃率は『200,000 ÷ 100』で2,000円です。

直接労務費 = 賃率 × 製品製造に実際にかかった時間

先に求めた賃率を使用し、ある製品を製造するのに80時間かかったとすると、直接労務費は『2,000円 × 80時間』で16万円です。

直接労務費を正確に求めるためには、製品を製造するのにかかった時間を記録しておく必要があります。

間接労務費の場合|対象項目を加算していく

間接労務費は、直接工の間接作業分や間接工の賃金等、対象となる費用を加算して求められます。

前述した賃金20万円の直接工で考えると、直接労務費が16万円だったので、この直接工の間接作業分は4万円です。
間接工の賃金はすべて間接労務費です。

賞与や退職給付費用の加算額は、期首に予定したその年の支払額・繰入額を12か月で割った金額です。手当や法定福利費はその月の支払額を計上します。

また、労務費全体から直接労務費を引いても算出可能です。

間接労務費 = 労務費総額 – 直接労務費

建設業の場合|積算や見積りに用いられる直接労務費の計算式

先にご紹介した通り、直接労務費は実際にかかった作業時間と賃率で求めます。
しかし、建設業が積算や見積りで使用する直接労務式の計算式は、次のように少し複雑です。

直接労務費= 所要人数 (設計作業量 × 該当作業の歩掛) × 労務単価(基本日額+割増賃金)

該当作業の歩掛とは、作業に掛かる手間を数値で表したものです。多くの企業では国土交通省が公開している公共建築工事標準単価積算基準を参考に設定しています。

参考:国土交通省(公共建築工事標準単価積算基準)

仕訳時の勘定科目は「労務費」|よくある例題から解説

例1. 工場の作業員の賃金を支払った

製造部門に所属する作業員の賃金を支払った時の仕訳を考えてみましょう。

ある直接工の賃金20万円を、普通預金から支払いました。
そのうち、直接労務費は16万円、間接労務費は4万とします。

作業員の賃金は労務費勘定を使用し、仕訳は次の通りです。

借方貸方
労務費200,000普通預金200,000

労務費は資産の勘定科目として計上されます。

例2. 労務費を消費した

例1で資産に計上した労務費20万円(直接労務費は16万円・間接労務費は4万)を消費した場合の仕訳を考えます。

直接労務費は、製品の製造にいくらかかったのか、直接的に把握できる費用です。
製品が完成しているかは不明なので、一度、仕掛品勘定に振替えます。

一方、間接労務費は、製品の製造にいくらかかったのか、直接的に把握できない費用です。仕掛品勘定は使用できません。間接労務費を消費した場合に振替える勘定科目は、製造間接費です。

仕訳は次のようになります。

借方貸方
仕掛品160,000労務費200,000
製造間接費40,000

仕掛品勘定・製造間接費勘定は資産の勘定科目です。

労災保険料を求めるための「労務費率」とは

雇用主は労働者を1日・1人でも雇っていれば、労働保険に加入しなければなりません。
労働保険は、労災保険と雇用保険を総称した名称です。

このうち、労災保険は労働者のけがや病気等に備える保険で、次の式で求められる保険料は全額事業主が負担します。

労災保険料 = 賃金総額 × 労災保険率

労災保険率は、事業の種類で決められています。
賃金総額は、原則としてすべての労働者に支払う賃金の総額です。
請負契約の場合は、元請がすべての労働者の労災保険料を計算し、納付しなければなりません。

ひとつの事業において1次請負・2次請負と数次の請負になることが多い建設業の場合は、賃金総額を求めるのが困難なため、特例を利用して次の式で賃金総額を求めることが認められています。

賃金総額 = 請負金額 × 労務費率

労務費率は事業の種類によって異なり、厚生労働省のサイトで公開されています。

出典:厚生労働省(労務費率表

労務費を会計処理する際の注意点

建設業における扱い

建設業で労務費は、工事を行う職人の人件費を指します。
積算において「労務費」は、工事に直接関わる直接工の給与のことで、直接労務費 = 労務費として扱われています。
一方、間接労務費は、経費(間接工事費)です。

経費は、現場以外の本社等でかかる費用も含まれているため、作業時間や直接労務費等なんらかの基準を基に正しく配賦する必要があります。

複数の製品製造・サービスに着手しているケース

製造業では、ひとつの製品だけを生産する企業より複数のラインで多種類を生産する企業が増えています。
そのため、直接工の中には複数の製品を製造している人もいるでしょう。

また、コンサルティング業では同時期に複数プロジェクトに携わる人も少なくありません。

原価は、個々の製品やサービス・プロジェクト単位で算出するものです。
ひとつの製品の製造にかかる時間・ひとつの作業にかかる時間を正確に把握することが求められます。

特にコンサルティング業やIT業では、原価の多くを労務費が占めるため、工数を正確に把握することが大切です。
ツールを利用する等、工数管理が簡単に行えるような仕組みを整えておきましょう。

まとめ

労務費とは何か、どのような場合に使われるのかを説明しました。
労務費は直接労務費と間接労務費に分類され、どちらも資産の勘定科目になります。

直接工の直接作業にかかる賃金が直接労務費と呼ばれ、労務費全体から直接労務費を除いた金額が間接労務費です。

労務費を消費すると、直接労務費は仕掛品に、間接労務費は製造間接費に振替えられます。
直接労務費の算出方法は少し複雑ですが、正確に把握するには直接工の直接作業時間を記録する習慣をつけておくと良いでしょう。

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