本日のテーマは、「前受金」です。名前の通り、「前」もって「受」け取ったお「金」ですが、負債として扱う科目となります。
仕訳に用いる勘定科目は200以上あり、お金に関するものでも資産として扱うものと負債として扱うものがあって迷ってしまいますよね。用途も異なりますので、経理担当者の方を悩ましているのではないでしょうか。
そこで、今回は下記の点についてお話しします。
- 前受金とはどのようなものか
- なぜ負債として取り扱うのか
- 具体的なケースと仕訳例
- 間違えやすい科目との比較
是非、この記事を通して前受金という科目をマスターし、お仕事にお役立てください。
前受金とは商品等を渡す前に受け取ったお金のこと
前受金は、以下のような場合に受け取った代金等(一部or全部)を暫定的に処理する負債勘定です。貸借対照表では、流動負債に分類されます。
- 商品・製品等を授受する前
- 役務を提供する前
主目的たる事業に関係する取引の内金や手付金の受領に、この科目を使います。後述しますが、主目的たる事業でない取引でなければ、別の科目を使用しますので注意してください。
なお、業種によって科目が異なる場合があり、建設業では「未成工事受入金」を使うのが一般的です。建設業は会計処理も業界特有です。
前受金を使用するケースは、以下のようなものがあります。
- 商品や製品等の売上代金の内金・手付金
- 予約販売における予約金
- 請負・受注工事の代価の内金や手付金
- 依頼に対する着手金
注文を受けたものの、商品等を引き渡していない段階では売上には計上できません。一方で、代金等のお金を受け取りましたから、資産を増加させることが必要です。そこで、前受金で受け取ったお金について記帳します。
要するに、商品等を提供していないのに将来の代金を受け取ることになりますので、収益として計上せずに前受金を使います。
この科目を負債として扱うのはなぜでしょうか。次で解説します。
前受金が負債になる理由とは
「義務」が発生していることがポイント
前受金が負債というと、不思議に思われる方もいるでしょう。商品等の提供に関わるお金ですので、売上勘定で片付けてしまいたくなりますよね。
ですが、お金を受け取った段階では「商品等を提供する義務」が発生しただけです。実際に商品等を授受していないので、売上には計上できません。
会計上の負債とは、一般的に支払義務・返済義務のあるもののことを表します。ですから、商品等を提供する「義務」がある以上、負債なのです。
商品がキャンセルになった場合は返金が必要
前受金は、顧客が「商品等の提供が行われること」を前提にして支払ったお金です。ですので、商品等の提供がキャンセル等により不要になれば、返金しなければなりません。
ただし、契約の内容に応じて預かった金額からキャンセル料を差し引いて返金する場合もあります。
自分がお客様の立場である時には、よくよくキャンセル時の取り扱いについて確認しておきましょう。
「費用は発生主義」「売上は実現主義」
代金等を受け取ったときに、売上に計上できないのには理由があります。会計のルールで決まっているからです。
日本の会計は、「公正なる会計慣行」に従うことになっています。その中に企業会計原則というものがあり、さらに一般原則・損益計算書原則・貸借対照表原則というものがあります。
この損益計算書原則において、意訳すると下記のように規定されています。
- すべての費用と収益は、支出と収入のタイミングで計上し、その発生したタイミングに応じて正しく会計期間を割り当てて処理する(発生主義)
- 未実現収益は、基本的に当期の損益計算に計上しない(実現主義)
収益は実現したものだけを計上しなければなりませんので、売上は売上の確定時に計上します。計上するのは、商品等を引き渡したタイミングが一般的です。
前受金のシーン別・仕訳の方法を例を用いて紹介
具体的な例を基に仕訳について学んでいきましょう。今回は商品代金の一部を、お客様から内金として予め受け取るケースです。
お客様都合のキャンセルが発生し、キャンセル料金をいただく場合の仕訳についてもご紹介します。
前受金を計上するとき
【仕訳例】
お客様から、4/1に商品A(5万円)の注文を受け、その際に内金(2万円)を現金で受け取った。
【4/1の仕訳】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
現金 | 2万円 | 前受金 | 2万円 |
受け取った現金は資産として計上します(資産増加:借方)。商品を授受していない段階で売上勘定を使用できませんので、前受金を用います。負債の増加は貸方ですので、前受金は貸方です。
売上に計上するとき
【仕訳例】
お客様に5/20に商品Aを引き渡し、残りの代金3万円を現金で受け取った。商品の提供が完了したため、売上を計上した。
【5/20の仕訳】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
前受金 | 2万円 | 売上 | 5万円 |
現金 | 3万円 |
商品を提供したので商品代金を売上に計上し、前受金を取り崩します(負債減少:借方)。
先述の通り、キャンセルされた場合は前受金を返金します。そこに、キャンセル料が発生する場合はどうなるのでしょうか。
前受金からキャンセル料をもらうとき
【仕訳例】
5/1にお客様から商品Aのキャンセルのお申し出があった。商品代金の10%にあたる5千円をキャンセル料として内金から差し引いて、返金した。
【5/1の仕訳】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
前受金 | 2万円 | 現金 | 1万5千円 |
雑収入 | 5千円 |
商品等の提供義務がなくなったので、前受金を取り崩します(負債減少:借方)。内金2万円から、キャンセル料にあたる5千円を差し引き、残りをお客様に返金します。
どういう時に前受金として処理するのか・ケースを見てみよう
この科目は、主目的たる事業に関係する取引において、予め受領した代金等に使用します。商品製品といった有形のものに限らず、無形のサービス等の役務も対象です。
業種ごとに、どのようなケースがあるのか見ていきましょう。
1.小売店で起こりうる前受金処理のケース
- 在庫切れ時に、代金を受領してから商品買付けをする際の注文代金
- 新商品予約販売時の予約金
2.飲食店で起こりうる前受金処理のケース
- 店舗貸切パーティの予約時に受け取る手付金
- ケータリングサービスを依頼する際に受け取る手付金
- 法人向け弁当販売をする際の回数券の代金
3.サービス業で起こりうる前受金処理のケース
- コーヒーチケット等の回数券を販売している場合は、そのチケットの代金
- 講演会等を実施する際、その開催前に受け取る代金
予約販売や受注販売に限らず、業種によって多様な前受金の取り扱いがあることがわかりますね。このように色々な業種で使用される前受金ですが、使用する際は考慮すべき点があります。
前受金でいいのか迷ったら損益への影響を考える
企業ごとに、3か月・四半期・半年・1年等の一定の期間で期間損益を計算することでしょう。ですが、前受金を売上として計上できるのは商品を引き渡したタイミングです。
売上として振り替えて損益に計上するタイミングがずれれば、期間損益の数字が正しいものになりません。商品等の授受と、それに伴う売上計上・前受金の取り崩しは速やかに行えるよう管理が必要です。
【前受金の注意】期末までに前受金残高をゼロにする
前受金は、商品等の引き渡しが完了すれば売上として振替えます。
それを円滑に進めるためには、商品等の手配状況や先方への提供状況等について確認しておくことが重要です。でなければ、商品等の提供後も売上へ振替えることを失念し、貸借対照表にこの科目の残高が残り続けてしまいかねません。
できれば決算時には、残高が0円になるのが望ましいです。
もし期末に残高が残ってしまうなら、売上が期ズレとならないよう取引内容と商品の提供状況に留意しましょう。
加えて、代金等を受け取ってから1年を超えて商品を引き渡したり、サービスの提供が完了したりする場合は、流動負債ではなく固定負債として計上する必要があります。
前受金と混同しやすい勘定科目にも注意しよう
【前受収益】継続して発生する収益に用いる
継続して発生する収益に対してお金を受領した場合に使用する科目です。前受金は単発的ですが、前受収益は継続的だと考えていただくと理解がしやすいと思います。
前受収益は、一定の契約に従って継続して役務の提供を行う場合に、未だに提供していない役務に対して支払いを受けた対価を指します。家賃や利息等が代表的です。
【仕訳例】
一か月6万円で賃貸物件を貸し付けている。4月に借主から翌月以降の半年分の家賃として、現金で36万円を受領した。
【4月の仕訳】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
現金 | 36万円 | 前受収益 | 36万円 |
継続して賃貸物件を貸付けている。翌月になり、一か月が経過した。
【5月の仕訳】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
前受収益 | 6万円 | 賃貸収入 | 6万円 |
継続して賃貸物件を貸付けている。翌月になり、また一か月が経過した。
【6月の仕訳】
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
前受収益 | 6万円 | 賃貸収入 | 6万円 |
時間が経過するごとに、収益となっているのがわかりますね。
【仮受金】お金を受け取った目的が確定できない
取引の内容や金額が未確定なお金を受領した時に、それらが確定するまで暫定的に使用する仮勘定です。内容が判明・金額が確定次第、正しい科目に振替えます。
言ってしまえば、お金を受け取ったものの、その内容がわからないお金に使用する科目です。取引先等から、詳細のわからない送金や振込があった場合等に使用されます。
こちらの科目も、後日にお金や役務等を提供する義務が発生するので負債です。
【売掛金】先に商品を渡してお金は受け取っていない
通常の営業取引により発生した掛(ツケ)を処理する科目です。商品や製品の販売、請負加工・サービス業の役務の提供等に対して使用されます。
商品の代金を受け取ることができる権利(債権)を表しますので、資産勘定です。負債ではありません。
営業外取引には、この科目を使用しないことに注意してください。
【預り金】第三者のお金を預かっている状態
役員・従業員・取引先等から、後日その相手に返金するか、その相手に代わって第三者に支払いをするために暫定的に預かった金銭のうち、短期的に返還されるものです。
預かった金銭は後日支払う必要がある債務なので、負債です。
以下のようなものを、預り金として処理します。
- 給料から源泉徴収した源泉所得税・住民税
- 顧問料から源泉徴収した源泉所得税
- 給料支払時に天引きした社会保険料(従業員負担分)
- 財形貯蓄
- 預かり保証金(短期の営業保証金や入札保証金)
あくまで預かっているだけで、返金するか別の誰かに支払うお金です。
前受金が貸借対照表で分類される流動負債とは
流動負債とは1年以内に支払期限がくる負債
流動負債とは、貸借対照表における区分表示のひとつ。会社の負債のうち、1年以内に支払期限が来るものを指します。
以下を満たせば流動項目。満たさなければ固定項目になります。
- 正常営業循環基準(営業循環基準):
主目的たる営業取引で生じた資産・負債か - 1年基準(ワン・イヤー・ルール):
主目的以外の取引で生じた資産・負債が1年以内に現金化または支払いとなるか
どのような基準で区分するか、わかっていただけたと思います。もう少し、流動固定分類について説明します。
負債は流動負債と固定負債に区分される
負債は、前述の基準によって2つに分けられます。
- 流動負債:1年以内に支払うもの
- 固定負債:1年を超えた時期に支払うもの
資産を含めて流動・固定の分類をするのは、短期的なものと長期的なものを分けて把握する必要があるからです。つまりは、企業の「短期支払い能力」を判断するためにわけています。
流動項目、ひいては流動比率がどれくらいあるかというのはステークホルダーの関心事です。
流動負債の前受金以外の勘定科目
- 支払手形
- 買掛金
- 短期借入金
- 預り金
- 仮受金
- 未払金
- 前受金
- 引当金
- 未払費用
- 前受収益 等
企業によって使用する科目が異なると思いますが、主要どころは以上のものです。
前受金が負債になる理由と仕訳方法まとめ
前受金は、お客様から商品等の提供を受けることを前提に受け取ったお金(内金・手付金等)に使う科目です。
手付金等を受け取るということは、企業はお客様に対して「商品等を引き渡す義務」を負うということになります。ですから、「義務」が発生している以上は、その科目は負債です。
仕訳は、基本的に「前受金のシーン別・仕訳の方法を例を用いて紹介」で案内したとおりに行います。まず、資産の増加と負債の増加を計上し、後日負債を取り崩して売上を計上しましょう。
収益は実現したものだけを計上しなければなりませんので、売上を計上するタイミングは商品等を引き渡したタイミングが一般的です。