少子高齢化による労働人口の減少や、多様な働き方へのニーズが高まる昨今、働き方改革の推進が注目されています。本記事では、働き方改革のロードマップからみる課題と対策について解説するとともに、4つの企業事例を紹介します。
働き方改革とは
働き方改革とは、労働環境を見直すことで働く意欲のある人が、働き方を自分で選択できる社会を作ることを目的に始まりました。その背景には、少子高齢化による労働人口の減少と生産性の低下等の問題があります。
これらの問題を解決するためには、労働人口の範囲を拡大する必要があります。つまり、女性や高齢者にかかわらず、働きたい人が働きやすい環境を整備することが大切です。そこで、多様な働き方の推進や長時間労働の解消、雇用形態による格差の解消等の取り組みを行っています。
働き方改革により実現することとは?
現在、日本の社会で働く人のライフスタイルは様々です。出産や育児に奮闘する人や介護が必要な家族を持つ人等、生活上の問題で仕事との両立に苦労している人も多くいることでしょう。
そのような様々な課題を抱える人でも働きやすい環境にするため、働き方を自分で選択できるようにするために働き方改革があります。つまり、働き方改革は働く人のニーズの多様化を実現し、労働人口の確保が実現できます。
ロードマップの作成
働き方改革による労働環境の改善を実現するために、ロードマップが作成されています。これには、働き方改革による改善が必要な課題とその対応策が9つの分野に分けられて記載されています。
ここでは9つの分野を紹介します。
・非正規雇用の処遇改善
・賃金引き上げと労働生産性向上
・長時間労働の是正
・柔軟な働き方がしやすい環境整備
・病気の治療、子育て・介護等と仕事の両立、障がい者就労の推進
・外国人材の受け入れ
・女性・若者が活躍しやすい環境整備
・雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の充実
・高齢者の就業促進
4つの課題と対策をピックアップ
先述したロードマップに記載されている9つの分野から、4つの課題をピックアップして対策について紹介します。
①長時間労働の改善
長時間労働の改善を目的に、残業時間の上限が法律で以下のように定められました。
・原則、1年で720時間以内
・時間外労働および休日労働の合計が、1か月で100時間未満
・時間外労働および休日労働の合計が、2~6か月の平均で80時間以内
・原則、1か月で45時間を超えられるのは、1年につき6か月以内
その他にも、勤務間インターバル制度導入や健康で働きやすい職場環境の整備等が推進されています。各企業で取り組まれている例としては、ノー残業デーの導入です。帰りづらいという雰囲気をなくし、反対に定時で退社することが当たり前という雰囲気を作ることができます。
この取り組みと併せて導入されるのが、残業の事前申請制です。繁忙期にはどうしても残業が必要になることもあるでしょう。そのような場合は、業務内容や残業時間を事前に申請することで計画的に終わらせるという意識も生まれ、無駄に残業時間が長くなってしまうことが減ると考えられます。
②柔軟な労働環境の整備
柔軟な労働環境の整備は、労働者が自分のライフスタイルに合わせて多様な働き方を選択するためには欠かせません。このように労働者の範囲を広げることは、人手不足の解消にも繋がります。
近年、対策としてよく取り上げられているのが、テレワークの推進です。働く場所を柔軟に選択できることは、出産や育児、介護等の生活の変化に影響を受けることなく仕事を続けられることに繋がります。また、その他にも時短勤務制度やフレックスタイム制等、働く時間を自由に調整できる制度の導入も推進されています。
③労働人口不足の改善
現在、日本で深刻な問題となっている少子高齢化。これにより、労働人口の減少も問題となっています。この問題を解決するためには、出生率の向上や労働生産性の向上、労働者の範囲拡大等が必要となります。
出生率の向上には先述したように、出産・子育てと仕事の両立がしやすい環境づくりが大切です。労働生産性の向上には、デジタル技術を利用したITシステムの導入による業務効率化を図ることも大切です。これにより、労働者はコア業務に集中できる要になると考えられます。
労働者の範囲拡大のためには、多様な働き方を推進できる環境づくりはもちろん、障がい者等の希望や能力を活かした就労支援の推進や、外国人材の受け入れ、高齢者の就業促進等も必要となるでしょう。
④非正規と正社員の格差改善
非正規と正社員の格差改善のために、2020年4月から大企業に、2021年4月からは中小企業にも「同一労働同一賃金制度」が適用されました。この制度により、非正規雇用者が仕事の内容で適切な評価を受けられることは、賃金上昇やモチベーションアップに繋がり、労働生産性の向上にも繋がると期待できます。
また、非正規と正社員にかかわらず仕事の内容や能力により評価を行うことで、優秀な人材の確保や定着がしやすくなると考えられます。この制度に則った経営を推進するためにも企業は、自社において雇用形態による不合理な待遇差がないか確認を行いましょう。
不合理な待遇差は、主に以下の4つが挙げられます。
・基本給
・賞与(ボーナス)
・福利厚生施設
・通勤手当
これらの待遇に差がないか見直しをしましょう。
【4つの事例】企業が実践する働き方改革
ロードマップからみた課題と対策について解説しましたが、ここからは実際に企業で取り組まれている事例を長時間労働の改善、テレワークの推進、多様な働き方、格差改善の4つに分けて紹介します。
①SCSK株式会社:削減した残業代を還元
こちらの企業では、平均残業時間を前年度より20%削減し、有給休暇をすべて取得するという目的のもと、削減した残業代を還元するという取り組みを行っています。削減した分の残業代をインセンティブとして支払われることから、社員のモチベーションアップや生産性の向上にも繋がったということです。
https://www.scsk.jp/
②T-Solutions株式会社:起業当初からテレワークを推進
こちらの企業では、事業の立ち上げ当初からテレワークの推進を行っていました。また、場所やルールに縛られない働き方を推進しており、勤務は基本月曜から土曜日ですがそのうち3~5日が出勤日で週休2日以上という体制をとっています。
就業時間についても、基本は午前9時から午後5時半ですが、周りに迷惑が掛からない範囲であればある程度自由な働き方を推奨しています。午前中に出社して午後は在宅勤務や、1日4時間の短時間勤務により、育児の都合に合わせることも可能としています。
https://t-sol.biz/
③株式会社I・M・S:子育て社員の継続就業
こちらの企業では、創業時から女性社員が多いという特徴があり、子育て中の方やシングルマザーの方もいました。そのため、柔軟な働き方を可能とするために個々にヒアリングを行い勤務時間を決定する取り組みをしていました。
現在では、子育てや介護によるフルタイム勤務が難しい社員を支援できるよう、給与その他の待遇はフルタイム勤務の社員と変わらずに、30分単位で2時間まで出勤時間を遅らせたり、退勤時間を早めたりできる勤務体系を取り入れています。
https://ims-hirosaki.com/
④株式会社佐藤工機:成果報酬型給与体系
こちらの企業では、同一労働同一賃金制度を元に、年功序列の給与制度から成果報酬型の給与体系に見直しを行いました。また、雇用形態による通勤手当や特別休暇等の不合理な待遇差を廃止し、雇用形態にかかわらず同一支給とする取り組みをはじめています。
部品加工メーカーであるこちらの企業では、成果報酬型の給与体系に移行するために、職能別力量比較マップを独自に制作し、評価に取り入れています。この資料により、個々の技術力を客観的に評価することが可能となり、社員の仕事に対するモチベーションにも繋がっているということです。
https://www.satokoki.co.jp/
まとめ:働き方改革の実践でより良い環境を整備しよう
本記事では、働き方改革のロードマップからみる課題と対策について解説するとともに、4つの企業事例を紹介しました。現在、自社が抱えている課題や対策を明確にするためにもロードマップの活用は役立つことでしょう。それにより、明らかになった課題について解消できるよう、他社の事例を参考にしながら取り組んでいきましょう。