個人事業主にとって気になる消費税。
「売上1,000万円」を境に取り扱い方が変わってくることを知っている方は多いのではないでしょうか。
- 課税事業者となる判定の基準は? 提出する資料はある?
- 計算方法や税務調査について知りたい
- インボイス制度について理解したい
等の疑問について、お答えしていきます。是非この記事を参考にしていただけたら幸いです。
個人事業主でも売上1,000万円から消費税の扱いが変わる
個人事業主でも、年商1,000万円を境に、消費税の取り扱いが変わってきます。売上だけではなく、給料にも影響してくることですので、しっかり押さえておく必要があります。
この章では消費税の扱いについて、解説していきます。
免税事業者の条件
消費税の課税が行われない条件には、「基準期間(=2年前)」「特定期間(=1年前の元日〜6月末日)」の売上が関わってきます。
消費税の課税が行われない条件は以下の3つです。
- 開業初年の場合
開業初年度は過去の実績がないため、そもそもの基準期間が存在しません。よって、課税対象にはなりません。 - 「2年前」かつ「1年前の元日〜6月末日」の課税売上(※)が1000万円未満
これはどちらも満たす必要があることがポイント。片方しか満たせなかった場合は、最短で2年目から課税が行われることもあるので要注意です。
※課税売上:消費税がかかる売り上げのこと - 「2年前の売上が1000万円未満」かつ「1年前の元日〜6月末日に支払った給料が1000万円未満」
判定項目として、売上の代わりに給料で判定することも可能です。
課税事業者の条件
課税が行われるようになる条件も、同じく「2年前」「1年前の元日〜6月末日」の年商によって判定されます。
課税が行われるようになる条件は3つ。
- 「2年前」の売上が1000万円超の場合
例えば、2023年の売上が1000万円超の場合は、2025年は課税が行われることになります。 - 「1年前の元日〜6月末日」の売上が1000万円超の場合
2年前の売上が1000万円未満だったとしても、1年前の元日〜6月末日の売上が1000万円超の場合には課税が行われるので要注意。
例えば、2023年は売上が1000万円未満でも、2024年の元日〜6月末日の売上が1000万円超の場合は、2025年は課税が行われることになります。 - 「1年前の元日〜6月末日」に支払った給料が1000万円超の場合
免税事業者の判定と同様、売上の代わりに給与支払の合計額を用いることも可能。
消費税が課税されるようになるタイミングのまとめ
- 売上が1000万円超の年の2年後
- 元日〜6月末日の売上が1000万円超の年の翌年
- 元日〜6月末日に支払った給料が1000万円超の年の翌年
売上高が課税の判定に関わってくることを知っている方は多いのではないでしょうか。しかし給料も関係してくるので、今回を機に覚えておくようにしましょう。
課税事業者になるときに必要な申請
消費税課税事業者届出書(基準期間用)
売上が1,000万円超になった際に、速やかに提出を行いましょう。
提出し忘れた場合のデメリットとして、輸出事業を行っている場合等で還付金が発生したとしても、受領することができません。忘れないように、課税が行われることがわかったら速やかに提出するようにしましょう。
また「免税事業者」であっても課税事業者選択届出書を提出すれば「課税事業者」になることができますが、一度課税事業者を選択すると免税事業者の要件を満たしていても2年間は課税事業者を継続しなければなりませんので注意が必要です。
消費税課税事業者届出書(特定期間用)
元日〜6月末日の売上が1,000万円超になった場合は、速やかに提出を行いましょう。
税務署に持参するか、郵送でも提出可能。
基準期間用と同様に、提出をし忘れた場合は還付を受けられなくなってしまいます。
大きな投資や大量の仕入れを行う年等、支払う消費税が多額になる場合は要注意。
ちなみに両方とも、提出を忘れてしまっても課税が行われる対象として自動的に登録は行われます。提出しなければ課税されない訳ではありません。
消費税の計算方法
消費税の計算は「課税・非課税」「軽減税率」等、さまざまな要因によって異なります。
文中の計算式はすべて「課税取引」「消費税率10%」とした上で、項目も限定して簡略化した形で記載しておりますのでご注意ください。
一般課税
「売上として販売先からお預かりしている消費税」から「仕入や経費を支払った際の消費税」を差し引いて計算されます。
例えば売上700万円、仕入300万円、経費200万円だった場合の計算は下記の通り。(金額はすべて税抜)
なお、取引の中には非課税として処理を行わなければいけないケースも出てきます。その場合は計算に含まれないので注意が必要。
次の簡易課税は、非課税取引を考慮しなくて良いのがメリットです。
簡易課税
簡易課税は、年商5,000万円以下の場合に選択できます。
計算には「みなし仕入率」を使いますが、業種ごとにあらかじめ決められている数値を用いることが特徴。
- 卸売業:90%
- 小売業:80%
- 農業や漁業等:70%
- 飲食店等:60%
- その他サービス業:50%
- 不動産:40%
例えば小売業を行っていて売上が800万円(税抜)だった場合は、下記のように計算されます。
=売上800×税率0.1ー売上800×税率0.1×みなし仕入率0.8=16万円
ただし簡易課税を選択した場合は、消費税の還付が受けられなくなるデメリットもありますので覚えておきましょう。
個人事業主で売上1,000万円以下でも税務調査の可能性があるケース
帳簿操作で1,000万円以下にしている
本来は1,000万円超の年商であるにもかかわらず、数値を操作して1,000万円以下で申告を行ったと仮定しましょう。消費税の課税対象となることを避けるために帳簿操作を行ったのではないかと疑われ、税務調査に入られる可能性も。
税務署は同業他社等、さまざまなデータを保有しています。同業他社と比較してあまりにも売上が低い場合はもちろん、仕入金額等との整合性が取れているかどうか分析されるかもしれません。
またあなたの売上先(取引先)との数値が合っているかどうかも、税務署は確認することが可能です。
数字を操作することはせずに正確な申告を行うことが、何より大切になってくるでしょう。
連続して売上を1,000万円ギリギリにしている
消費税の課税対象となる売上1,000万円。
このラインをギリギリ超えない申告が続いてしまっている場合は、課税が行われることを避けるために「意図的に行っているのでは?」と疑われてしまうかもしれません。その結果、税務調査に入られる可能性があるでしょう。
もちろん何の操作も行っておらず、1,000万円を上回らない場合は堂々と調査を受ければ良いので安心してください。
なお、税務調査で指摘された場合は、追加で支払うことになるのは消費税だけではありません。売上が変わると、当然所得も変わってしまいます。その結果、所得税も追加で納めなければならない可能性も出てくるでしょう。
その他にも追徴課税が課される可能性もあるので、さらにペナルティが増えてしまう恐れがあります。
そもそも申告していない
「申告していなければ存在がバレないため、税務調査に入られはしないだろう」と思っている人は危険です。
あなた自身は無申告でも、取引先のデータから税務署があなたの存在を知っている可能性は十分に考えられるでしょう。
また申告を行っていないことを誰かに伝えていた場合は、巡りめぐって密告されるかもしれません。
税務調査に入られた際は、その年だけではなく過去に遡って指摘を受ける可能性が高いです。申告は必ず行うようにしましょう。
個人事業主の売上が1,000万円以下でも要注意、インボイス制度について
2023年10月1日から、インボイス制度の導入がスタートしました。
これまでは売上が1,000万円未満のため消費税の支払いが不要だった人も、納める義務が発生してしまう可能性が出てくるので注意が必要でしょう。
ここからはインボイス制度の開始で何が変わるのか?個人事業主が抑えるべき点について、解説していきます。
売上1,000万円以下の個人事業主でも課税事業者になる可能性あり
インボイス制度が開始されると、仕入や経費を支払った際の消費税の控除を行うためには「インボイス」が必要になります。言い換えると、今まで請求書等を保管しておけば大丈夫でしたが「インボイス」のない取引は仕入や経費等として認められなくなってしまうのがポイントです。
これらの点は、仕入先等がインボイスの発行ができれば問題ありません。
一番重要なのは、現在の売上先との取引。
もしインボイスを発行できない場合は、売上先は仕入税額控除の取引として処理ができなくなってしまいます。それが理由で取引してもらえなくなる可能性も。
つまり、売上減少に繋がってしまうかもしれません。
継続して取引を行うための条件として、インボイスの発行を依頼されることが出てくるでしょう。しかしインボイスの発行は課税事業者でなければ行えないのが難点です。
適格請求書発行事業者の登録が必要
上記の通り、取引を継続してもらうためにインボイス発行をせざるを得ない状況になってしまうことも考えられます。
その場合は「適格請求書発行事業者」の登録申請を、2023年3月31日までに行わなければいけません。なお、期限内に提出を行えば「消費税課税事業者届出書」の提出は不要となります。
もし期限を過ぎてしまうと、10月1日からのスタートに間に合いません。翌年にならないと発行できなくなってしまうので注意しましょう。
登録方法は2通り。
- 紙の申請書に記入し、税務署に提出
- インターネット(e-Tax)により提出
クラウド会計ソフトには必要事項を入力すると申請書が完成するものもある(無料・登録の必要なし)ので、活用するのも良いでしょう。
個人事業主の免税事業者への影響
「購入する立場」「販売する立場」の両方で影響が出てきます。
- 購入する立場
仕入先や経費を支払う取引先が免税事業者の場合は、インボイスの発行が不可能。その結果、今までは仕入や経費として税額控除できていたものができなくなってしまう恐れがあります。支払う税金を増やさないためにも、インボイスの発行が可能な新しい取引先を探す必要が出てくるでしょう。 - 販売する立場
購入者が一般消費者の場合は、インボイスを必要としないので特に影響はないでしょう。しかし取引先が企業の場合は、先方に税金面でのデメリットが生じるので、インボイスの発行を求められるかもしれません。それは課税事業者にならなければいけないことを意味するので、どうするのが最善の策なのか考える必要が出てきます。
【受領側】インボイス制度で変わる点
書類に記載される項目が3項目増える
今まで使用している請求書等の記載項目に加えて、以下の3つが新しく増えます。
- 登録番号
登録申請を行うと、税務署から登録番号(T+13桁の数字)が通知されます。 - 適用税率
8%と10%に分けて、それぞれの合計金額(税抜または税込)を記載します。 - 消費税等の金額
8%と10%に分けて、それぞれ消費税額を明記します。
②、③について既に記載されている場合は、実質的には①の登録番号のみが増える形になるでしょう。
税額計算方法が一部変更される
インボイス制度の導入により、税額の計算方法について大きく2つの変更が生じます。
- 端数の処理方法
今までは商品ごとに消費税の端数処理が行われていました。しかしインボイス制度の導入後は、インボイスごとに各税率で行うことになります。 - 「積み上げ計算方式」も可能に
今までは「1年間全体での売上」に対する消費税を算出して、税額を計算する「割り戻し計算」のみが使われていました。しかしインボイス制度においては、インボイスごとの消費税を積み上げていく「積み上げ方式」での計算も認められることに。
免税事業者と課税事業者と書類が違うため経理処理が煩雑になる
計算方法に変更があるだけでも、処理に慣れるまでに時間を要してしまうはず。
さらには既存の取引先が免税事業者と課税事業者のどちらに該当するか、確認しなくてはいけないでしょう。また発行する書類もそれぞれ異なるので、管理方法の変更も必要になってくるかもしれません
取引先によっては、今までは税額控除できていたものが使えなくなる可能性も出てきますし、経理処理が煩雑になることは想像に難くありません。
インボイスを発行していないことで考えられるリスク(免税事業者)
免税事業者は仕事が減る可能性がある
取引先はあなたがインボイスの発行ができないと、税金の支払いでデメリットを被ってしまいます。最悪の場合は取引の停止を求められる可能性が出てくるでしょう。
数年に一度しかない取引先であれば問題ないかもしれませんが、金額の大きな取引先であれば、今後の経営に多大な影響を及ぼしてしまうかもしれません。
インボイスを発行した場合のメリットとデメリットを比較し、決断に迫られる可能性も事前に考慮しておきましょう。
取引金額から消費税分が減額される可能性がある
取引を停止されない場合でも、もしかしたら消費税分を差し引いた金額での取引をお願いされるかもしれません。
例えば今まで11万円(税込)で受注していた案件があるとして、それを10万円(税込)として取引を行うイメージです。
取引がなくなるよりはマシですが、積もり積もれば相当な金額になってしまうでしょう。今から新規取引先を増やすためのアクションを起こしていく必要があるかもしれません。
申告の負担等が増える
取引先が課税または免税事業者かによって、取り扱う資料も異なってきます。
また仕入税額控除として使用できるかも判断が必要になってくる等、自力で申告を行う場合はかなりの負担増になることを覚悟しておく必要があるでしょう。
インボイス制度に対応したシステムの導入を今から検討しておくのも良いかもしれません。
まとめ
今回の記事では、個人事業主の消費税にまつわる話題を取り上げてきました。
- 売上1,000万円を境に消費税の取り扱いが変わってくる。
- 「課税事業者の判定方法」「消費税額の計算方法」は2つある。
- インボイス制度による変更点と、免税事業者でいることのリスク
これからは売上に関係なく、消費税について対応を余儀なくされるはずです。
今からできる対応策を考えていくようにしましょう。