修繕費は、建物等の固定資産を修繕する費用に使用する勘定科目です。事業のために使用している資産は少なからず修理やメンテナンスが必要ですから、馴染み深いものではないでしょうか。
修繕に使用した費用はすべて修繕費として処理したくなりますが、内容によってはその費用を経費計上をせず資産計上をする場合があります。税金の計算にも影響がありますので、気を付けておきたい点です。
本記事では、修繕費についての基礎知識や資産計上する資本的支出との区別の方法、混同しやすい消耗品費との違いについてご紹介します。
是非、最後までお付き合いください。
修繕費とは?意味や混同しやすい項目との違いを解説
修繕費とは事業に関係する資産の管理・修理費用のこと
企業が事業に必要とする固定資産の修理・改良等のために支払った金額のうち、通常の維持管理や毀損した資産の原状回復に必要だと認められる金額を処理するための費用勘定です。
費用科目ですので、損益計算書の販売費及び一般管理費に表示されます。
修理・改良等をしたからといって、すべてが修繕費になるわけではありません。あくまで、通常の維持管理や修理等を目的として支払った費用が修繕費です。
税務会計上、修繕費には資本的支出と収益的支出という概念があります。
- 資本的支出:
資産の価値を高める支出です。修理等により、資産の耐用年数の延長・性能向上等の資産価値が増加する場合は、資本的支出とします。
支出した金額を資産計上し、固定資産の取得価額に加算。その後、減価償却により費用処理を行います。 - 収益的支出:
修繕費として費用処理される支出のことです。
修理等の費用が上記のどちらにあたるかという判断基準は、後述します。
修繕費の対象となる取引の具体例
修繕費の具体例は、以下のようなものです。ご参考になさってください。有形固定資産の修理・保守(定期点検・保守点検)・清掃に関係したものであると記憶しておきましょう。
- 建物関係のリフォーム・改修工事等
- 建築設備(エレベーター等)関係の修理・保守
- 机や椅子といった備品の修理
- 機械・OA機器等の修理・保守
- 事務機器・AV機器等の修理
- 車検代・メンテナンス代等の車両関係の費用
- 清掃代
具体例からもわかるように、原状維持・原状回復のために支払われた費用です。
修繕費と間違いやすいもの|消耗品費・資本的支出との違い
修繕費は「以前に購入し使用していたものの維持管理の費用」・消耗品費は「新しく消耗品等を購入した費用」
消耗品費は、消耗品や少額減価償却資産(耐用年数が1年未満のもの・取得価額が10万円または30万円未満のもの(注))に支払った費用を処理する費用勘定です。
主に短い期間で消耗する、帳簿・文房具・電池・用紙・ガソリン等の物品に用います。
取得価額の判定は、1個または1組によって行うのが一般的です。つまり、パソコンならば本体・ディスプレイ・キーボード等を含めた一式の価格で判断することになります。
修繕費との違いは、以下の通りです。
- 修繕費:既に保有している資産に修理・改良等を行った場合の支出に使用
- 消耗品費:新規で消耗品・少額減価償却資産を購入した場合の支出に使用
(注)少額減価償却資産の即時償却の特例により、一定の要件を満たせば、取得価額基準が30万円未満の備品代等を一括計上できます。
修繕費(収益的支出)は「価値を維持する費用」資本的支出は「価値を向上した資産」
前述した、修繕費の2つの概念を振り返ってみましょう。
- 資本的支出:
修理等により、資産の耐用年数の延長・性能向上等の資産価値が増加する支出です。原状(もとの状態)をゼロだと考えた場合は、ゼロからプラスの状態にするために必要とした費用だと言えます。 - 収益的支出:
単に修繕費として費用処理される支出です。原状(もとの状態)をゼロだと考えた場合は、マイナスの状態をゼロに戻すために必要とした費用だと言えます。
資本的支出が資産価値を向上させる支出であるのに対して、収益的支出は維持管理を目的とした支出であることがわかります。
資本的支出かどうかは実質の内容で判断する
修繕費とするか資本的支出とするかどうかは、実際の内容によって判断します。工事の内容が価値を向上させるものなら資本的支出として資産計上し、価値を維持するためのものなら収益的支出として経費計上します。
工事費は費用名目であり、勘定科目ではありません
工事費というような勘定科目は存在していません。請求書に「○○の工事代として」と記載されていても、それは費用の名目です。
工事費として計上できない以上、工事の内容によって修繕費とするのか資本的支出とするのかの判断が必要となります。
では、具体的にどのような点に気を付けて区別判断をすればよいのでしょうか。次で、説明します。
修繕費と資本的支出を判断するポイント
原則として資本的支出となるもの
修繕費として計上できるかどうかの判定は、名目ではなく実際の内容によって行います。資産価値を向上させる、言い換えれば原状(もとの状態)からプラスの状態にしたものは資本的支出だと考えます。
具体的には、以下のような工事が修繕費のうち資本的支出にあたるものです。
- 建物への避難用階段の取付け(物理的な追加にかかった金額)
- 用途変更をするための模様替え等(改造・改装に直接かかった金額)
- 機械の部品をより品質・性能の良いものに取り替えたときの元の部品との差額
ただし、次の条件に当てはまる場合は、資本的支出であっても修繕費として経費計上することが可能です。
資本的支出であっても修繕費とする場合
価値を向上させる支出であっても、経費計上の際に修繕費にできるのは次のような場合です。
- ひとつの修理・改良等の金額が、20万円未満
- 修理・改良等がおよそ3年以内のサイクルで行われている
資本的支出・修繕費のどちらであるかが明らかではない場合
支出が資本的支出・修繕費のどちらであるかが明らかではない場合は、以下の基準で区分します。
- 「費用が60万円未満」または「費用が固定資産の前期末の取得価額のおよそ10%相当額以下」であれば修繕費とします。
- (毎年継続して同様の処理をすることを前提として)費用の30%相当額と固定資産の前期末の取得価額の10%相当額のどちらか少ない金額を修繕費として計上し、残額を資本的支出として資産計上します。
具体的なケースから修繕費と資本的支出を分別してみよう
ケース①塗装工事
外壁の塗装は、定期的に必要な工事です。建物関係のリフォーム・改修工事等でありメンテナンス代ですので、基本的に修繕費として処理をします。
しかし、塗装のグレードを高品質・高性能なものに変更すれば、建物の価値を増大させるものと判断され、資本的支出として扱わなければなりません。
塗装工事の内容や目的によっては、修繕費として認められませんので留意しましょう。
ケース②壁紙の張り替え
マンション経営をしている業者等が、入居者の退去にあたって壁紙を従前の物と同じ壁紙に張り替える費用は、修繕費として経費計上するのが一般的です。
壁紙の張り替えは、通常の維持管理や原状を回復するために行われたものであり、その費用は修繕費とするのが相当だと考えられます。
ただし、高品質・高性能な壁紙に変更する場合には、資本的支出とするのが妥当でしょう。
ケース③バリアフリー化
建物をバリアフリー化する際は、工事の内容や目的を吟味して修繕費とするか資本的支出にするかを考えなければなりません。
基本的に価値の向上や用途変更の費用なら資本的支出とし、通常の維持管理等なら修繕費とします。
廊下に手すりを取り付けたり、エレベーターを設置したり、ドアを手動から自動ドアにしたり、出入口をオートロック化したりするような工事は建物の機能を向上させる工事と考えられ、資本的支出となるでしょう。
ケース④ソフトウェアのアップデート
ソフトウェアは、法改正に対応していなければ機能を果たすことにはなりません。ですから、法改正によるソフトウェアやプログラムのアップデート費用は修繕費として扱います。
法改正への対応以外で、拡張機能を追加したようなケースは修繕費とはなりません。資本的支出となりますので注意しましょう。
修繕費の仕訳例|資本的支出と混同しやすい取引を解説
自動車の車検代を支払った
車検費用を現金で支払った。
- 修理費用:50,000円
- 車検代行費:20,000円
- 重量税:15,000円
- 印紙代:1,200円
- 自賠責保険料:20,000円
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
修繕費 | 50,000円 | 現金 | 106,200円 |
支払手数料 | 20,000円 | ||
租税公課 | 16,200円 | ||
支払保険料 | 20,000円 |
自動車重量税・印紙税(不課税)は租税公課の科目を、自賠責保険料(非課税)は支払保険料の科目を使用するのが一般的です。
台風によって壊れた屋根の修理を行った
台風により破損した屋根の修理(原状回復)をし、工事代金を普通口座から支払った。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
修繕費 | 800,000円 | 普通預金 | 800,000円 |
台風によって壊れた屋根の修理をした(修繕引当金を設定していた場合)
台風により破損した屋根の修理(原状回復)をし、工事代金を普通口座から支払った。修繕引当金(500,000円)を設定していたため、それを取り崩した。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
修繕費 | 300,000円 | 普通預金 | 800,000円 |
修繕引当金 | 500,000円 |
修繕引当金を設定している場合は優先してそれを取り崩し、残額を修繕費として計上します。
【補足】
修繕引当金:
有形固定資産の修繕のために準備しておく引当金のうち、1年以内に使用される見込みの負債勘定のことを言います。
当期に実施すべき修繕を次期以降に実施する場合は、その原因が当期に発生しているため、修繕を実施する次期以降に費用計上すると正しい期間損益計算ができません。よって、決算整理事項として、次期以降の修繕にかかる費用を見積って当期の費用として計上します(修繕引当金の設定)。
大規模な修繕には、特別修繕引当金を計上するのが一般的です。
判断に困る勘定科目の取り扱いは会計システムのサポートで効率アップ
勘定科目は非常に多くの数があり、その用途も異なります。慣れないうちはどの勘定科目を使用すればいいのかの判断に時間がかかってしまうでしょう。
そんな時は、会計システムのサポートデスクを活用してみてはいかがでしょうか。会計システムの多くは、サポートデスクやQ&Aが設置されています。貴方が疑問に思うことは、ほかの方も疑問に思って問い合わせている可能性があり、サポートセンターにはその情報が蓄積されていることが少なくありません。
また、会計システムは法改正への対応や健康保険料率等の変更のお知らせといったフォローアップもあります。仕訳に連動して、現金出納帳や総勘定元帳、試算表等の作成もしやすいのも特徴です。口座情報と連動して、入力を楽にする機能があるものもあります。
システムを上手く取り入れられれば、業務効率を改善できるでしょう。
請求書受け取り業務はoneplatと会計システムを連携すると自動化できる
今回ご紹介するのは、「oneplat」の「納品書・請求書クラウドサービス」です。
取引先を登録することで、取引先から納品書・請求書をデータで受け取ることができます。また、取引先から受領した電子請求書は、会計システムと連携して自動取込みが可能で、仕訳が不要です。
業務の効率化・自動化・ペーパーレス化において非常に有用な手段となっています。経理業務に必要な時間・負担を低減できますし、自動化によりヒューマンエラーを防ぐことが可能です。
このサービスは電子帳簿保存法やインボイス制度にも対応。安心して、ご利用していただけます。
是非、oneplatを活用して経理担当者の業務効率を向上させませんか。
まとめ
修理等にかかる費用は、必ずしもすべてを修繕費にできるわけではありません。消耗品費として扱うものや、資産として計上し減価償却するものも含まれています。
ですから、「修繕費と消耗品費のそれぞれの定義」や「修繕費と資本的支出との違いと区別方法」を理解し、適切に分けて計上しなければなりません。
事業をする上で、修理等の工事は不可欠なものですので、正しい理解と会計処理をすることが求められます。