実在庫と棚卸在庫の数が異なる際に行う「棚卸差異」の会計処理ですが、できればなくしたい処理ですよね。
本記事では、棚卸差異の概要から起こりうる原因や対処法について解説します。棚卸差異を放置すると、会社の信用に関わる事態になりかねません。早めに対処して健全な経営に結びつけましょう。
そもそも棚卸差異ってどんなもの?
まずは棚卸差異について理解を深めましょう。棚卸差異の基本的な情報から、発生すると起こる問題までを解説します。
帳簿上の在庫と実在庫に差が生じていること
棚卸差異は企業が棚卸を行った時に「実在庫」「帳簿上の在庫」において差が生じている状態を指します。
棚卸差異が起こることで、決算時には帳簿在庫を実在庫に合わせることとなります。実在庫が帳簿上の数よりも少ない時(棚卸差損)は「棚卸減耗損」として仕訳します。反対に実在庫が帳簿上の数を上回っている時(棚卸差益)は、「繰越商品」として仕訳します。
棚卸差異が発生することで、会計処理としては面倒な作業が増えます。さらに、企業としては正確な在庫がわからず、過剰発注になる可能性もあります。その結果、無駄なコストがかかる等、企業にとってマイナスの効果をもたらします。
棚卸差異が起こる原因は5つ
ここでは棚卸差異が発生する原因を紹介します。原因としては以下の5つが挙げられます。
①仕入先のミス
②紛失・盗難
③カウントミス
④入力ミス
⑤商品の出し入れによるタイムラグ
①仕入先のミス
ひとつめは、仕入先がミスをしているケースです。例えば、消耗品を仕入れた場合に「5ケース」発注していたにもかかわらず、仕入先が6ケース持ってきていた場合に差異が発生します。
入荷した時に検品を実施すればミスに気が付きますが、検品をしない場合は棚卸までわからない状態です。一度の入荷ミスであれば被害は少ない状態ですが、何度も繰り返すことで在庫と帳簿の状態がだんだん複雑になり、取り返しのつかない状態になる可能性があります。
そのため、商品の入荷時は必ず検品の実施が大切です。
②紛失や盗難
2つ目は商品の紛失や盗難です。小さな部品やよく出し入れする商品等は紛失しやすい特徴があります。また、倉庫のセキュリティが低い場合は盗難にあう可能性も考えられます。
紛失しやすい商品は保管状態の見直しをしたり、盗難に合わないように施錠や監視体制を強化することが大切です。
③棚卸におけるカウントミス
商品の仕入れ状況に問題がなくとも、棚卸実施の際に差異が生じる可能性もあります。中でも、商品のカウントミスは最たるものでしょう。
棚卸を人力で行う場合は、どうしても数え間違いが起こります。どれだけやり方を工夫していても、担当者の疲労度や能力等でミスが起こる確率はゼロにはなりません。
④帳簿への入力ミス
棚卸でカウントした数量を帳簿に入力する際にもミスが発生します。紙の帳簿に記入するときやデータとして入力するとき、どちらもミスが発生する可能性があります。
実在庫があっていても、最後に記入する際にミスが起こっては意味がありません。そのため、帳簿への記入や入力の際にもミスを防止する必要があります。
⑤タイムラグ
特に小売店の場合は、実在庫と帳簿上の在庫にタイムラグによる差異が発生することが多いでしょう。
例えば、小売店の場合はお店が営業中に棚卸をしてしまい、数えた後に商品が売れてしまうことがあります。この場合は、棚卸差異が発生する原因となります。
小売店の場合は閉店後や休業日に棚卸を実施することが好ましいですが、人員や営業形態の問題ですべての企業が正確に棚卸を実施することは難しいです。このような場合はシステムを導入して、タイムラグが発生しても正確な数を把握できるシステムが適しています。
棚卸差異を防止!3つの方法を紹介
ここでは、棚卸差異を防止する3つの方法を紹介します。明日からすぐに使える方法から、事前準備が必要ですが長期的に見ると大きな効果が期待できる方法まで様々です。
①倉庫内の整理整頓
すぐに取りかかれる方法が、倉庫内の整理整頓です。倉庫で在庫を管理している企業の場合は「どこになんの商品があるかわからない」というケースが多くあります。
また「たぶん〇〇さんなら知っているだろう」と商品位置を把握している人が限定されているケースもあるでしょう。この場合は、棚卸の時に商品を探しながら作業するため非効率的です。さらに作業が属人化してしまう点も懸念事項です。
そのため、倉庫内を整理整頓して「どの商品がどこにあるか」をすぐに確認できる構造を作りましょう。整理整頓を実施することで、在庫の適正量も把握できるようになります。
②検品の徹底
入荷時に検品をしていない企業は、検品の徹底から始めましょう。入荷時に数が異なっているとわかれば、未然に棚卸差異の発生を防止できます。
「検品ぐらいで何が変わるのか」と感じることもあるでしょう。しかし、検品を正確に実施することで、棚卸差異の防止だけでなく商品の不良品や破損を発見できます。
③システム導入によるデータの管理
近年は棚卸にシステムを導入する企業が増加しています。棚卸だけでなく在庫状況をリアルタイムで確認できる「在庫管理システム」がおすすめです。
在庫管理システムを導入すると、ハンディターミナルを使って商品の管理を行うため、カウントや商品名の記入等で人的ミスを減らせます。また、カウントした商品をシステム上でリアルタイムで確認できるため、タイムラグの発生も防止できます。
システム導入のメリットは?
ここでは、企業が棚卸業務にシステムを導入するメリットを2つ紹介します。システムの導入は「在庫数の正確な把握」「コストの削減」に効果的です。
①在庫管理を正確に実施できる
ひとつ目のメリットは、在庫数を正確に把握できる点です。人力で棚卸する場合は一人ひとりの数え方が異なっていたり、能力によってミスが発生します。また、カウント後の入力でもタイプミスが発生する可能性があります。
しかし、システムを導入すれば自動でカウントできるため人的ミスの発生を防止できます。さらに、商品の入出庫もデータに反映されるため、最初から最後までミスを減らしたまま進めることが可能です。
②在庫管理にかかわる人件費を削減できる
在庫管理システムの導入は、人件費の削減にも効果的です。初期費用やランニングコストは必要ですが、長期的に見るとこれまで棚卸のために必要だった残業代や臨時雇用で必要だった人件費を削減できます。
正確なだけでなく、経費の中でも大きな割合を占める人件費を削減できるメリットは非常に大きなポイントです。
まとめ:棚卸差異の発生はシステム導入で改善できる
今回は棚卸差異の起こる原因や対処法について紹介しました。棚卸差異が発生すると棚卸の再実施や会計処理で負担が増加します。そのため、そもそも差異が発生しない状態を保つことが求められます。
棚卸差異を防止するためには、棚卸環境の見直しや業務そのものの見直し、またシステムの導入が最適です。自社の規模や環境に適した方法を採用して、棚卸差異の防止に努めましょう。