会計担当者であれば関わりの深い棚卸。今回はネガティブな処理である「棚卸減耗損」について解説します。棚卸減耗損はできれば行いたくない会計処理ですが、原因を知らなければ予防することも不可能です。
棚卸減耗損が発生する原因と、各原因ごとの対処法を把握して企業全体で防止に努めましょう。
棚卸減耗損は「在庫と帳簿の数字が合わないとき」に行う会計処理
棚卸減耗損とは「現場の在庫数が帳簿上の在庫数よりも不足している時に行う会計処理」です。棚卸は倉庫や売り場等の商品をカウントして、データとして入力したり、帳簿に記述したりします。しかし、決算前の棚卸時に「現在庫が不足している」というケースにおいて、棚卸減耗損として計上します。
なぜ必要なの?
棚卸減耗損を行わない場合は、正確な在庫状況を把握できません。そのため、ひとつひとつは大したことがない金額でも、各部署や現場で蓄積されると決算時には大きな金額になっている可能性があります。その場合は「なんでこんなに大きな金額が足りないんだろう」とトラブルになります。
規模が大きい場合や、蓄積された場合には会社の経営状態にまで支障をきたすことも考えられます。そのため、大きなトラブルを防止するために、決算整理仕訳で棚卸減耗損として処理することが大切です。
処理を行わないとどうなる?
先述した通り、決算整理仕訳で棚卸減耗損処理を行わない場合は、正確な金額がわかりません。具体的な在庫数や金額がわからないまま、もしくは誤った在庫数のまま受発注を進めると、過不足が生じて余計なコストがかかることになります。
棚卸減耗損とともに行う処理に「商品評価損」がある
棚卸減耗損と深く関わりがある会計処理が商品評価損です。商品評価損は時間が経過した商品や、在庫過多の商品の価値が低下した時に行う会計処理です。
「商品の在庫は確かにある。しかし、仕入時の商品価値より商品価値が低下している場合」に、時価と原価の差額を商品評価損として処理します。
また、商品評価損が起こる要因として、シーズンによって売れ行きが異なる商品や、流行によって需要が大幅に変化するものを仕入れたことが挙げられます。特に衣料品等で多く発生します。
また、商品評価損は「商品の価値が下がったとき」のみ処理を行います。価値が高まった際には必要ありません。
棚卸減耗損の計算方法を解説
ここでは棚卸減耗損の処理方法を解説します。具体的な数値を例に挙げるため、実践で活用できるようになります。
「棚卸減耗損=原価×(帳簿棚卸数量-実地棚卸数量)」で算出する
計算式は「棚卸減耗損=原価×(帳簿棚卸数量-実地棚卸数量)」ですが、具体的な金額を入れて理解を深めましょう。
例:りんごの期末時点における状態
商品1個の原価:90円
帳簿棚卸数量:100個
実地棚卸数量:96個
この場合の棚卸減耗損は「90×(100-96)=360」となります。計算自体は難しくありませんが、原価で計算するところを時価にする間違いが頻出しているため注意が必要です。
棚卸減耗損を引き起こす原因は3つ
ここからは、棚卸減耗損を起こす3つの原因を見ていきましょう。棚卸減耗損が起こる原因としては「商品に問題が発生した」「カウントミス」「商品管理によるトラブル」が考えられます。
①商品の破損や紛失
もっとも多い要因が、商品の破損や紛失です。商品を雑に扱って「穴が開いた」というケースや、「倉庫を施錠していなくて盗難にあった」というケースが多く見られます。特に食品や衣料品は少しの状態不良で商品として扱えなくなるため、問題視されることが多い傾向にあります。
また、過剰在庫の場合も商品の価値が下がり、商品評価損に影響するため在庫の適正量にもあわせて注視しましょう。
②棚卸時のカウントミス
棚卸を人力で行っている場合は、ヒューマンエラーによってトラブルが発生します。例えば「スーパーで商品の棚卸をする際、売り場の商品を社員とパートが手作業でカウントしている」というケースでは、カウントミスが発生する確率が非常に高くなります。
最近は棚卸もシステム導入を行い、効率化している企業が増加していますが、まだまだ人力で作業する企業が多くあります。その場合は、カウントミスを予防することは極めて難しいでしょう。
③商品の管理方法が不適切
紛失や盗難に繋がる要因ですが、商品の管理方法も一因になります。商品が屋外で管理されていたり、誰でも手に取れる状態だと、盗難にあったり、気候によっては破損したり劣化して商品として扱えない状態になります。
そのため、商品の在庫把握だけでなく管理方法も適切に行う必要があります。
棚卸減耗損の対処法は3つ
棚卸減耗損処理を行わないためには、在庫の不足を予防することが大切です。ここでは、棚卸減耗損を防ぐために日々できる対処法を紹介します。
「商品の管理方法」「カウントミスの防止」「システム活用で正確に管理」によって、防止できるでしょう。
①商品の盗難予防や扱い方を見直す
在庫の過不足でもっとも多い要因が、紛失や盗難です。そのため、常に在庫に過不足が生じている場合は、在庫の管理環境から見直しましょう。
商品を施錠無しで管理している場合は、監視システムの導入や入退出の管理を行います。残念ながら、盗難は社内の人間が引き起こす可能性もあるため「不正を行えない環境づくり」を徹底しましょう。
②棚卸でミスを起こさない
管理状態を見直したあとは、棚卸の正確さに注意を向けていきます。
人力で実地棚卸をする場合は、手順やルールを可視化して共有しましょう。棚卸は誰でもできる作業のため「数えておいて」と簡単に指示することが多くなりますが、数える商品の把握をしていなかったり、数え方に個人差があるとミスを起こしやすくなります。
そのため、複数人で棚卸をする際はマニュアルを用意して、作業の段取りを統一しましょう。統一することで、ほかの人のミスに気付けたり業務の効率化を目指せます。
システムの導入が効果的
棚卸の精度を高めたり、作業時間を短縮する場合には在庫管理システムが効果的です。バーコードやQRコード、RFID等の活用や、ハンディターミナルを利用した方法が代表的です。特にハンディターミナルを使うと、商品バーコードを読み取り数量を入力し、パソコンに転送するだけのため時間を短縮できます。
近年では多くのシステム開発企業から、棚卸をはじめとした在庫管理に役立つシステムが販売されています。導入の可否は抜きにして、一度情報収集することもおすすめです。
③在庫の管理やデータ管理を見直す
棚卸のカウント方法だけでなく、在庫を管理する方法も見直しましょう。例えば、紙ベースで管理している場合は、改ざんや紛失の可能性が高まります。しかし、Excelやクラウドシステムで在庫データを管理すると、改善や紛失する可能性は低くなります。
このように、棚卸減耗損の防止には、様々な視点からトラブル防止に努めることが大切です。
まとめ:棚卸減耗損を出さないように在庫管理に努めよう
今回は棚卸減耗損について、起こりうる原因や対処法を紹介しました。棚卸減耗損は商品が不足している場合に必要な処理で、行わない場合は経営状態や戦略面で支障を来す可能性があります。
そのため、マニュアルの統一やシステムの導入で「在庫の過不足ゼロ状態」を実現する必要があります。人力の場合はどれだけ注意してもミスが起こります。しかし、システムを導入することでミスを最低限にできます。
棚卸で課題を抱える企業は、是非システムでの在庫管理を検討してみましょう。