現代においてビジネス形態は多岐にわたっています。
それに伴って企業の価値を見極めることも困難になってきています。
この記事では、企業価値と呼ばれる指標の意味や、その評価方法、数値をどう見るか等について解説していきます。
「企業価値」とは「企業の持つ価値をお金に換算した評価額」を表す指標
どのような価値をあらわす指標であっても、比較検討するためには定量的である必要があります。
企業価値においても、まずそれが企業の経済的価値を数字で示したものであることを理解しておく必要があります。
具体的には、以下のような内容を含みます。
- その企業の事業(本業)が生み出す価値
- その企業が有する非事業用資産の価値(投資有価証券、遊休資産等)
- バランスシートにはあらわれないような無形資産の価値(ブランド、人材、知的財産等)
上記の通り、企業価値とは「企業の値段」とも言うべきものです。
したがって、例えばこの企業価値をもとに、その企業への投資判断や、M&Aの検討等が行われることもあります。
企業価値と似ている4つの考え方との違いを解説
1.「事業価値」とは何が異なるのか
企業価値以外にも企業の価値をあらわす言葉が存在するため、混同しないように注意が必要です。
ここでは、企業価値との違いを認識しておくべき4つの用語について説明します。
ひとつめは、事業価値です。
事業価値とは、その企業の事業が生み出す価値を指します。
逆に言うと、その企業が持っている価値ではあるものの、事業から生み出された価値でないものは含まれません。
したがって、事業価値を計算式であらわすと以下の通りになります。
事業価値=企業価値-非事業価値(資産)
2.「株主価値」とは何が異なるのか
2つめは、株主価値です。
株主価値とは、その企業の価値のうち、株主に帰属する価値のことです。
企業は一般的に買掛金や借入金等の負債を持っており、これらの負債は債権者に帰属します。
したがって、企業価値のうち株主の持ち分となるのは、債権者の権利分(負債)を除いたものになります。
これを式で示すと以下のようになります。
株主価値=企業価値-負債価値
3.「時価総額」(株式価値)とは何が異なるのか
3つめは、時価総額です。
時価総額とは、その企業が発行する株式の株価(時価)の総額を意味します。
つまり、株式価値とも言えるでしょう。
企業価値は、この時価総額に有利子負債を加えたものです。
したがって、下記のような式で表現できます。
時価総額=企業価値-有利子負債
4.EV(Enterprise Value)とは何が異なるのか
4つめは、EV(Enterprise Value)です。
Enterprise Valueをそのまま訳すと「企業価値」になってしまうため、特に間違いやすい言葉ですが、その企業を購入する場合の正味の価格といった意味です。
計算式であらわすと以下になります。
EV=企業価値-現金および現金同等物
つまり、企業を購入するとその企業が持っているキャッシュも購入者のものになるため、最終的にはそのキャッシュの分だけ安く買ったことと同じことになります。
企業価値の計算・評価方法は主に3つに分類される
①コストアプローチ
企業価値を求めるための計算方法には、主に3つのアプローチがあります。
ひとつめは、コストアプローチです。
コストアプローチとは、バランスシート上の純資産を基準にして企業価値を計算する方法になります。
バランスシートをもとにして計算できるため、例えば価値の算定が難しい中小企業にも適用しやすく、中小企業のM&Aで使われることも多い方法です。
コストアプローチの具体的手法は3つあります。
- 簿価純資産価額法
簿価純資産価額法とは、バランスシート上の純資産額をそのまま企業価値とする手法のことです。
この手法のメリットとしては、計算が容易であることや、誰が評価しても同じ結果になるため客観性に優れている点が挙げられるでしょう。
一方、デメリットとしては、バランスシート上の金額(帳簿価額)と時価が乖離しているケースでは正確性に難点があります。 - 時価純資産価額法
時価純資産価額法は、バランスシート上の資産と負債を時価で評価し、その差額を純資産とする評価方法です。
つまり、簿価純資産価額法のデメリットに対処した方法と言えるでしょう。
その代わり、簿価純資産価額法のメリットだった計算の簡易性はどうしても損なわれてしまいます。 - のれん・知的財産を加えた評価方法
バランスシートだけを基準とする算定方法は簡易的でわかりやすい反面、それだけでは実態を十分反映できない場合があります。
そこで、バランスシートに含まれない「のれん」や「知的財産」といった無形の資産も加える評価方法もあります。
②マーケットアプローチ
2つめは、マーケットアプローチです。
マーケットアプローチとは、市場取引等の外部要因を反映した評価手法です。
M&Aが行われる時の判断基準とされます。
マーケットアプローチには以下の3つがあります。
- 類似企業比準法
類似企業比準法は、非上場企業の評価に使われます。
非上場企業の株式には市場価格がないため、類似した上場企業等の時価総額に係数を乗じて計算する手法です。 - 類似業種比準法
類似業種比準法は、株式を相続する時によく使用される評価方法です。
似ている業種から選んだ企業の財務データを使用します。 - 市場株価法
市場株価法とは、上場企業のみで使われる手法で、株価をもとに企業価値を算定します。
③インカムアプローチ
3つめは、インカムアプローチです。
インカムアプローチは、将来にわたって見込まれる収益やキャッシュフローを予測して企業価値を算定する方法です。
今後の成長が期待できるベンチャー企業で特に使われます。
以下の3つの具体的手法があります。
- DCF法
DCF法は、Discounted Cash Flowの略で、将来キャッシュフローを現在価値に割り引く方法です。
インカムアプローチの中では最もよく使われます。 - 収益還元法
収益還元法は、将来見込まれる収益予測を現在価値に割り引く手法です。 - 配当還元法
配当還元法は、将来の配当予測をもとに企業価値を求める方法です。
企業価値の数値の見方|正確に評価するためのポイント
5つの要因から企業の実情を把握する
企業価値を形成する要因として、以下の5つが挙げられます。
- 一般的要因
一般的要因とは、マクロの視点で見た場合に影響を与える要因です。
例えば、法律の改正や国際情勢の変化等が挙げられます。 - 業界要因
業界要因とは、業界の変化や競合他社の動向等を指します。 - 企業要因
企業要因とは、その企業の内部要因を意味します。 - 株主要因
株主要因とは、株主構成の変化や株式の発行状況等に関わる要因のことです。 - 目的要因
目的要因とは、企業価値を算出しようとしているその目的によって影響される要因です。
ひとつの視点からの評価で判断しない(複数評価)
企業価値には複数の形成要因があるため、ひとつの視点から評価しただけでは十分とは言えません。
また、企業価値はそれを使う人の立場によって捉え方が異なってきます。
したがって、公正な評価をするためには、複数の視点で評価を行う必要があるでしょう。
企業価値が向上するとどんなメリットがあるのか
高い企業価値はM&Aの価格交渉時に有利に働く
企業価値が高いと、M&A交渉で企業を売却する場合に有利になります。
企業価値に見合った高額条件を売却先に提示しやすくなるためです。
その他、例えば敵対的買収のリスクを考えても、自社の企業価値が高いということは買収側にとって購入のハードルが高くなるため、リスク軽減に繋がります。
信頼度が上昇し資金調達がしやすくなる
企業価値が高いということは、それだけ財務基盤や収益が安定していると判断されるため、その企業への信頼度も高くなります。
その結果、資金調達がしやすくなるというメリットがあります。
例えば、金融機関は融資を検討する際、その企業の将来性等を基準に融資可否を判断するため、企業価値が高いと融資を受けやすくなると言えるでしょう。
その他、社債発行や増資等によって、市場から直接資金を調達するケースを考えても、企業価値が高いほど調達はしやすいと考えられます。
相関関係にある株価の上昇が期待できる
企業価値の高さは投資家にとっても魅力的であるため、株価の上昇につながります。
企業価値が高い優良企業は収益が安定していたり、配当政策がしっかりしていることが期待でき、将来にわたって株価上昇(キャピタルゲイン)や配当金(インカムゲイン)が見込まれるためです。
そして、株価の上昇は時価総額の増加を意味するため、さらに企業価値が高まるという好循環に繋がっていきます。
企業価値最大化に向けて企業ができる取り組み方
企業価値を向上させるには以下のような方法があります。
・収益力を高める
収益力を高めることは、企業価値を高めるためにまず必要な施策です。
そのためには、魅力的な商品の開発やシェア拡大によって売上を増やしたり、徹底した生産管理やアウトソーシング等によってコストを削減していく必要があります。
高い収益力が、何よりも企業の安定成長に繋がります。
・財務基盤の強化
財務内容を強化することも重要です。
例えば、借入金を返済することで負債を減らしたり、売掛金の回収サイクルを早めることによって資金効率を改善することが考えられます。
その他、在庫の適正化をはかったり、不要な固定資産を処分したりして、投資効率を高めることも企業価値の向上に繋がります。
・エンゲージメントの向上
エンゲージメントとは、従業員の企業に対する貢献意欲が高いことを意味します。
エンゲージメントが高い企業は、従業員のモチベーションも高く、人材流出も少ないことが見込まれることから、生産性や成長性が期待できると言えるでしょう。
エンゲージメントを向上させるには、企業のビジョンを明確に示したり、公平な人事評価制度を作ったりすることで、従業員のモチベーションを高く維持するような施策が必要と考えられます。
従業員のような人的財産はバランスシートにはあらわれませんが、企業価値には含まれますので重要になってきます。
まとめ
企業価値は定量的な指標ではありますが、表面的な理解だけでその数字を使おうとすると認識を誤る可能性があります。
特に企業価値には将来の予測が含まれていることもあるため、その内容を深く理解した上で用いることが必要です。
逆に、深く理解できれば、企業価値という指標は多くの人にとって有益な情報となります。
例えば経営者にとっては企業価値を高めることを目標にすることもできますし、債権者や投資家にとってはその企業を理解するために最も重要なデータのひとつと言っていいでしょう。